興奮の夜はまだ続く

◆ ローレイ・魔神殿 ◆


「人が、いっぱい居る……」

「皆魔神様を崇拝しに来てるんだよ。ほら、奉納とかしてる人いるでしょ」

「視線を感じる……見られている気がする」

「気のせい気のせい。気のせいじゃなかったとしても次第に慣れるから」

「早くマグナ殿に会いたい……」

「もうすぐだから、もうちょっと我慢して?」


 マリちゃん、外に出るという行為が絶望的に苦手過ぎる……。この子は間違いない、生粋の引きこもりだ。そして身の回りの世話は誰かに任せっきりで、自分のことは二の次にして芸術作品を作ることに没頭するタイプの人だ……。なんだろう、勝手に親近感を感じるね……?


「――探しましたわリンネさん!! 待てど暮らせど出て来ないと思ったら、どうしてこちらに居ますの!?」

「…………リンネは、いいところの貴族のお嬢様と、親しい仲なのか? に、苦手なタイプだ……」

「こらこら。私の親友のペルちゃんへの一言目が苦手なタイプは失礼でしょうが」

「だ、だって、納期を迫ってくる……」

「…………あ~~~」


 ペルちゃんがフレンドの位置情報機能で私を探しに来てたらしい。そしてマリちゃん、なるほどペルちゃんみたいな貴族のお嬢様が苦手ですかそうですか……。納期、納期を迫ってくるのね……。過去に居たんだろうね『いつになったら貴方の芸術とやらは完成するのかしら!? こっちは決して安くない多額のお金を支払っているのですけれど!? パーティでは貴方の作品を見たいと言って楽しみにしている方々が大勢居ますのよ!? わかっていらして!?』みたいなお嬢様が。そうだね、ペルちゃんは初見がそんな感じのお嬢様に見えるもんねえ……。


「ペルちゃんは納期を迫ってきたり騒いだりするお嬢様じゃないよ。それに実は一般市民、冒険者なんだよ」

「…………ほ、本当かい?」

「リンネさん!? そのどよ~んとしたお方はどちら様ですの!? また女の子を引っ掛けて来ましたの!?」

「ち、ちが、別にそうじゃないんだよ!? ただその、見捨てられなくて拾ってきたっていうか、なんていうか……」

「やっぱり引っ掛けて来てるんじゃありませんの! もう、わたくしを放ってどこに行ったかと思えば、新しい女の子と異国に出かけるなんて!」

「…………夫婦みたいだな」

「「夫婦ではないかな! (ありませんわ!)」」

「…………あ、そう、かい。ひ、きひ、ふふ……!」


 あ、笑った。ちょっとオリジナリティ強めの笑い方。でもやっとどんよりした困り顔と、あの時キラッと目が輝いた以外の顔が見られたかも。やっぱり笑うと元気と活力が出るからね、笑ってたほうがいいよ。


「まあまあ、ペルちゃん。話はギルドに帰ってからでも……」

「いーまーはーなーしーたーいー!!!! です、わぁ!!!」

「珍しく地団駄を踏んで駄々っ子モードだ……。わかったわかった、じゃあ本当にすぐだから。すぐに終わらせるから、ちょっとここでマリちゃんと一緒に待ってて?」

「むぅぅ~~~!!! 5分!!!」

「納期を迫ってくるタイプだ……」

「納期迫ってきたねえ~……。よし、じゃあ5分で戻るから!」


 ペルちゃんも納期を迫ってくるタイプだったか……。よし、じゃあ納期に間に合うようにサッサと行動しよう。こういう時はね、適任が居るのよ。


『ギルドポータルを開きました。バビロニクスのギルドルームへ転送します』

「よいっしょぉ!! おにーちゃーーん!!!」

『(*´ω`*)?』

「ちょい、面倒を見て欲しい子が居るんだけど、暇? 大丈夫?」

『!(*´ω`*)b』

「お~良かった。じゃ、ちょっと話は向こうで」

「……リンネちゃ~ん、僕も話が聞きたい、なぁ~……」

「5分! 5分待ってお昼寝さん!」

「5分、5分ねぇ~……わっくわっく……」


 こういう時はおにーちゃんよ! 問題児集団と名高い騎士団の面倒を見てきたその統率パワー、マリちゃんの付き添いという形で発揮しておくれ!


『ギルドポータルを開きました。ローレイのギルドルームへ転送します』

「んっとね、ちょーっと暗くてプライドがポッキリ折れて凹み中の自分の容姿にも自信がない、ただし磨いてみたら綺麗な子だった女の子が居るから、用事が済んだらこのギルドハウスに案内してあげて欲しいんだけど……。かなり没頭するタイプの子だから、ぶっ倒れたり無理をする前にご飯なり風呂なりに連れて行って上げて欲しいんだけど、大丈夫?」

『Σ(´∀`;)……』

「無理そう?」

『d(*´ω`*)b』

「オッケーかあ! おにーちゃんにしか頼めないだろうから、助かった~」

『!(*´ω`*)!』


 よし、とりあえず歩きながら事情は説明したけど、大丈夫。おにーちゃんなら大丈夫なはず。きっと上手くやってくれるに違いない……!


「ペルちゃ~~ん。いい子にしてた~?」

「いい子に! して! ますぅ!!!! 失礼です、わねえ!!!」

「……その、真っ赤な騎士殿、は……?」

「紹介します! 私の従者にして魔神兵の兵長をしております、フリオニールさんです! おにーちゃんって呼んであげてね~」

『(*´∀`*)ノ』

「魔神、様の……。兵長……。凄く、え、偉い方じゃないか……。リンネは一体、何者なんだい……? あ、あ……マリ、アンヌ……だ……です。よろしくお願いします」

「ちなみにおにーちゃんは喋れないから、このぽやっと出てくる表情でしかコミュニケーションが取れないんだ。この人がほんの少しの間マリちゃんのお世話をしてくれるから、ガッツリ頼ってね」

『(`・ω・´)b』

「…………なるほど。それが、任せてということか。あ、ですね……」


 よしよーし。これでおにーちゃんとの顔合わせは済んだね。後は、インパクトが強いメンバーだから、徐々に慣らしていこう……。じゃあ次はマグナさんの所に行こうかな。


「じゃあ、次はマグナさんのところに――」

「5分! ごーふーんーーー!!! 5分ですわ! 5分経ったもんっ!!!」


 ペルちゃん、たまーーーーにこの駄々っ子スイッチが入っちゃうんだよねえ。こうなったら欲求を満たしてあげない限りはずーっとこのままなのよ。しかたあるまい。


「……おにーちゃん、ペルちゃんが駄々っ子スイッチが入っちゃってね? もうお話がしたくてしたくてしょうがないの」

『(;´∀`)』

「マグナさん、わかる?」

『(*´ω`*)b』

「マリちゃんがね、銃に興味があるみたいなの。マグナさんに話をして、出来れば弟子入りして色々見せて貰いたいんだけど、うーん……。頼めるかなあ?」

『(`・ω・´)b』

「おねがい! 本当にごめんね、今度なにかお詫びするから!」

『( ー`дー´)b』

「じゃ、じゃあ、あ……。では、あの、よろしくたのむ……たのみます、お願いします……」

『(*´ω`*)』

「よろしくね! じゃあ、お願いね! わ~~ペルちゃんわかった、わかったって! バビロニクス行こうね! ね!」

「んんん~~~っっ!!」


 おにーちゃん、マリちゃんの押し付けみたいになってごめんね!! いい子にしてるんだよマリちゃん! 問題を起こすんじゃないぞおにーちゃん! いやおにーちゃんは大丈夫か……。わーわーペルちゃん、今行くから! 腕掴んで引っ張ってぶんぶんしないの! 子供じゃないんだからも~~!! 


『ギルドポータルを開きました。バビロニクスのギルドルームへ転送します』

「ほら行こ! 行くよペルちゃん! おにーちゃんごめんねーー!! マリちゃんも、頑張ってね!」

『(*´ω`*)ノシ』

「あ、ああ……。リンネも、大変だな……。納期は、怖いからな……」


 ちゃっかりマリちゃん、ペルちゃんのことを納期って呼んだね!? これから一緒に遊びに行くときに苦手意識を持たないと良いけど……。




◆ ◆ ◆




「――――で、地獄パーティを三階までクリアして帰ってきて、真覚醒を済ませたらレベル100になったって感じですね~」

「ですわっっ!!!」

「地獄パーティかあ~~~…………。え、僕も出てるかなあ? 聞いた感じが既にもう倒せなさそうの化身みたいな連中なんだけど」

「そうだ、ペルちゃん。ペネトレイトアーマーでアレ防げるんじゃないの? ローレライの」

「へう? ああ! ローレライはディストラクションさえどうにかなれば、状態異常はペネトレイトで防げますもの、確かにこの鎧で完封できそうですわね!」

「……ペネトレイトアーマー!?」

「なんじゃそりゃ、オイオイ、ヤベえなその鎧」

「ほんまか!? ペルっちゃんのつこうとる、あのペネやろ? それが使えるんけ、その鎧でえ!?」

「あ、そうなんです。多分複数同じ効果の装備が出てたので、そこまでレアじゃないのかもしれないです」


 それから、ギルドに戻ったらお昼寝さん、ハッゲさん、レイジさんが情報を聞きたいとスタンバイしていたので洗いざらい全てお話しました。あ、職性能はナイショ。シークレットに関してもナイショナイショ。真覚醒の証は喋ったけどね。


「ふ、複数!? 激レアちゃうんか、っちゅうことは、普及することを見込まれてるっちゅうことよなあ……」

「なーるほど……。もしローレライ、朱璃、列車三両に勝てれば、僕たちも晴れてレベル100になれるってことか~……」

「まずはよ、見に行こうぜ。とりあえずレーナを起こすか。明日は会社休みでいいだろ」

「え、そんな気軽に……」

「社長が言うんだから良いだろ? おし、ちょい電話してくるわ」

「しゃ、社長!? ハッゲおま、しゃちょ……!? ほんまか!?」

「あ、じゃあ僕ら見に行ってくるよ~うみのど~くつ。エリスと、あ~つくねちゃんもオンラインだ。うぅ~いちゃんと夜家高菜さんもいるねえ~。コナーくんもいるな~」


 …………き、聞かなかったことにしておこう。とりあえず、お昼寝さんは動けそうな人に声を掛けてうみのどーくつダンジョンに様子を見に行くみたい。


「うぅ~いちゃん、つくねちゃん、夜家高菜さん、僕、ハゲ、レーナちゃん、エリス、レイジかな~。コナー君はどうしても明日早く起きたいから寝るって~」

「残念やなあ~。もし行けたらほんまおもろかったんやけどなあ~」

「お、レーナも来たぜ。もうまっすぐにうみのどーくつの方を見に行ってるみたいだな……っと、WIS個人チャットが入った。あるってよ!! 赤黒い奴がよ!!」

「おおーーーーーあるんだーーーー!!!!」

「ほんまかー! ほな、ワイらも行かんとアカンな!!」


 おおーーあったみたい!! じゃあ、ペネトレイトアーマーと防弾チョッキ、後で同じ装備が出たら返してもらうってことで貸したら良いんじゃないかな?


「どうします、リンネさん。貸しますの?」

「同じ装備出たら返してもらえばいいんじゃな~い? ないとキツイでしょ」

「そうですわね。じゃあ、ペネトレイトアーマーを2点、防弾チョッキを1点、同様の装備が出たら返してもらうということで」

「おう! サンキュー!!! お昼寝、レイジ、後は……」

「いや、僕よりつくねちゃんか、夜家さんかうぅ~いちゃんかな~。僕は黄金障壁盾でゴリ押し出来るところまでゴリ押しするから、防御手段が確定で存在しない人たちに渡して手数稼ごうよ~」

「レーナは開幕即ぶっぱで撃ち落としだな」


 いいねいいね、この情報を得て後発隊が挑戦しに行く感じ。上手く行くと良いな~~!!


「とりあえずまず現地行こう。全員ないと入れないのか、真・氷の宮殿みたいに入れるフラグある人がいれば良いのか、まずはそこからだね。他のメンバーも現地集合にしたから、行こうか」

「アイテムはー……まともに使えへんのやったな。フェニおま持っとる奴おるか?」

「俺が持ってるぜ。5個な」

「2個でええわ! ほな持っとるなら補填されるっちゅうから、貸してもらえへんか?」

「いいぜ。売ってもいいけどな」

「や~~金あらへん!」

「じゃじゃ~ん。エリスちゃん登場で~~す…………あれ? なんでその微妙な目を向けるのかな~?」

「エリス~。現地って個チャ送ってるの見た~~?」

「…………エリスちゃん、見てませんでした~」

「エリスも余計なアイテム置いてきや!」

「ん、そうしま~す」

「じゃあ、行ってくるね~~。本当に、いつもいつも情報ありがとう~。僕も新発見があったら、すぐ教えるよ~~」

「は~い。頑張ってきてください!」

「ふれ~ふれ~ですわ~~!!」

「行ってきまぁ~す」

「ほな!」

「おう、行ってくるぜ!」


 あ~……。みんな行っちゃった。えーっと、リアちゃんと千代ちゃんとどん太は、寝てる状態のアイコン付いてる……。え、本当にペルちゃんと二人っきりじゃん!


「…………二人っきりに、なれましたわねえ」

「え、ちょ、近いっ!?」

「…………見せ合いっこ、する……でしょう?」

「え、な、なにを……見せるの、かなあ~~……?」


 ペ、ペルちゃん……!? このゲームでは、そういうの出来ないと思うよ……!?


「ステータス! ステータスですわ! 見たい見たい! 見たーーーい!! わたくしも見せたい! ね、良いでしょう? ダメ? ダメですの?」


 あ、ステータス……。はいはい、良いですよ。見せてあげましょうねえ、ステータスぐらい!


「ん、いいよ~…………あ、じゃあそこの個室をルームロックして使おうよ」

「いいですわね! ささ、行きましょ!」


 ペルちゃんのステータスか~。真覚醒、ペルちゃんもルートが2つとかあったのかな? その辺りの話も聞かせてもらお~っと。さてさて、じゃあペルちゃんのステータス……見せてもらおうか!!!


 

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