どったんばったん大騒ぎ

◆ ターラッシュ近郊 ◆


 戻ってきた、始まりの街ターラッシュに! 魔神殿からここまで来るのにあっという間だったけど、それまでに色々と事件がありすぎた。

 まず魔神殿を出た途端にPKに襲われ、とりあえずどん太先生に殲滅して貰って大儲け。その後もどん太ファンにスクショを一枚だけ撮らせて欲しいとか、どん太にお顔を肉球でぎゅむっとして欲しいとか、とにかくファンに囲まれて大変だった。付き合ったお礼にアバターのガチャチケ (なんと1枚300円もする課金アイテム)を5枚も貰ってしまった。良いのかなぁ……。

 そしてローレイを出た時に魔界門番長ケルベロスちゃんと魔界門番犬オルくん&トロスくんと邂逅。その瞬間どん太とオル&トロスくんが遊びたくて遊びたくてしょうがないっていう様子だったので、ケルベロスちゃんと私の『遊んでいいよ』の一言を放った瞬間にかけっこ遊びを開始、周囲のモンスターをばっこばっこふっ飛ばしながらローレイ周辺を一周して戻ってきたけど勝ち負けが疑惑の判定。厳正な審査の結果、両者引き分けと言う結果になった。まあ両者とも楽しかったそうなので、勝ち負けはどっちでも良かったらしい。


 それにしてもどん太、お前人気者過ぎない……?


 それはターラッシュに到着してからも一緒で、到着して街の中に出現するなり初心者さんにわーわーきゃーきゃー騒がれる騒がれる。ケルベロスちゃん、今度からは街の外に転送しておくれ……。そんな初心者集団を黙らせたのがローラちゃんで、凶悪な状態異常【精神衝撃】を受ける狂想曲ラプソディを演奏し始め、MPが0になったプレイヤーが次々と気絶してしまったのでその隙を脱出することとなった。ちなみにターラッシュのガードNPCと異端審問官のNPCが追いかけて来たけど、トルネーダさんがブーメランアックスで一掃してた。気持ちいい。正直あの時は勢いでねーちゃんなんて呼んだけど、ねーさんだよね、ねーさん。姐さん!


「リンネちゃんと一緒に居ると飽きることがなさそうだわぁ~」

「毎度毎度これじゃ疲れますよ……」

『わうっ! (さっきいっぱい走ったからお腹減った!)』

「どん太は自業自得でしょ。って言いたいけど、流石にどこかでご飯にしようか~」

『わんっっ!!!! (やった~~~!!!!)』

「まだ後よ、近くにプレイヤー居るかもだから」

『わんっっっ!!!!! (わかった!!!)』


 それでターラッシュの街から出てきて暫く西へ西へ。どん太がお腹減ってもまだ近くにプレイヤーが居るかもしれないからね、暫くは進むことだけを考えて移動しよう。


「……あの金色ぴかぴか、なんですかぁ~?」

「あ~……」

「おお、金色のアイツっていうんだっけ? また復活したんだよ~アレ。暫く見なかったんだけどね~」


 と、思って移動してたら、見つけましたよ……。金色のアイツを……。前に偶然倒したゴールデンスライム。相変わらず目にも止まらぬスピードで動いとりますねぇ。AGIの数値が4桁とかになってそうだわ。


「倒しても良いんですかぁ……?」

「良いけど、硬いし速いし、捕まえられないよ~?」

「じゃあ~……。嘆きの歌を此処に歌おう、想い砕く槌となれ、死を穿つ槍となれ、愛も恋も引き裂く刃となれ、悲歌慷慨ディストラクション

『ローレライが悲歌慷慨ディストラクションを歌い始めました』

「ピッ――」

『Weak!!! 金色のアイツ(Lv,????)が合計30の全属性ダメージを受け、死亡しました。経験値 1 獲得』

『MVPはローレライです。おめでとうございます』

『MVP報酬は【★★★緋緋色金ヒヒイロカネ】です! おめでとうございます!』

『【★★★緋緋色金ヒヒイロカネ】を獲得しました! おめでとうございます!』


 え、あ。倒した……。そうなんだよね、金色のアイツのHPって実は20しかなくって、ダメージ1族だから20回当てないと死なないんだけど……死んだね? しかも前に私が倒した時のMVP報酬は【りんご】だったのに、今度はヒヒイロカネだぁ!? 素材アイテムの、アルティメットレアリティのインゴットじゃん!!! ヒョエーーーーーーーーー!!!!! しかも2個!!


「倒しましたぁ~~……っふ、よわ……」

「うっそぉ……………」


 そうか、なるほど……。ローラちゃん攻撃は歌で攻撃速度は音速なのね……。金色のアイツが音速で逃げられない限り、ローラちゃんの攻撃は絶対命中するわけだ。しかもこの短時間で30ヒットも当たり判定あるのこれ? やっばぁ……。継続ダメージだから、これってまだ入るんだよね、ダメージ……さつりくしゃーちも殺せるのでは?


「あ~……。どん太さぁん、もふもふさせてくださぁ~い」

『わうっ! (いいよ!)』

「はわ~~~…………」


 そしてローラちゃん、演奏後はとにかくダウンする。やっぱり嘆きと怒り悲しみの歌を歌うもんだから本人にも反動があるらしく、その直後に癒やしを求めてどん太に抱きついてもふもふするという一連の流れが染み付きつつある……! どん太もまんざらでもないらしく、ローラちゃんがどん太の背中にしがみついてモフってる時なんて、どん太の背中から黒い羽が生えてるみたいに見えてちょっと面白い。そしてリアちゃんに次ぐ『どん太さん勢』である……。すごい、違和感……!


「それにしても、あたしは海賊なんだけどねぇ。砂漠に行くなんて考えたことがなかったよ」

「砂の海って言いますから。海みたいなものですよ、砂漠も」

「確かに砂の海ですなぁ~」

「…………いけない、今ちょっと納得しかけたよ!」

「砂の海っすなぁ~……ふっ……」

『エリスが【凍結】しました』

「あ、此方は今ちょっと寒気が……」


 嘘でしょ……? 嘘でしょ…………?!


「――――」

「ローラちゃん……!?」

「あ~~~~~…………ごめんなさぁい、ふっ……ふふっ……」

「そんな、全く面白くないジョークで、笑ってるのかいあんた……しかも自分で言っておいて!?」

「どうしよ……ふふふ……止まらな……ふふっ……」

「あたしもちょっと、寒気がして来たよ」

「ごめんなさい、私も、ちょっと……!」

『わうぅぅ~~……』

『(; ・`д・´)』


 それよりエリスさんが凍結しちゃったから、これなんとかしよう?! どうすれば解除されるの、これ!? いやそれにしても、ローラちゃんのジョーク……さっむ……! 笑える要素も、ダジャレ要素もほぼ皆無だったんだけど!? さっむ!!!




◆ ステラヴェルチェ砂漠 ◆

 



 ――――あっつ~~~~~…………。


「いきますよ~どん太さん! スプラッシュショット!」

『オーレリアが【スプラッシュショット】を発動しました』

『わうぅぅぅ~~~!!! わふっ……わふっ……(暑いよぉ~~……お水、お水……)』


 リアちゃんのほうきで、水が幾らでも供給出来るのが救いだわ……。あの時作ったほうき、うみのどーくつダンジョンの攻略のみならず、この砂漠での貴重な水資源の無限供給源になってくれるの本当に偉い。偉すぎる……。あっちではブリザードクラッカーが主な攻撃手段だったから使わなかったけど、こっちではこのスプラッシュショットの方が大いに役に立つわぁ……。


「やきとりぃ……」

「そうそうならないよ、安心してさっきのジョークでも言ってな……」

「…………むりぃ~」

「なんで今度はダメなんだい、本当にあんたは……」

「此方は寒暖差に慣れておりますので! 平気に御座います」

「その暑苦しい黒セーラーでよく平気とか言えるよねぇ! 私、信じられないんだけど!」

「リンネ殿の方が信じられないほど暑そうなのですが……」


 この中で、確かに……私が一番暑そうだな……? どん太も黒いもふもふが暑そうだし、リアちゃんとかも黒い魔女服が暑そうなんだけど、千代ちゃんとかも黒セーラーが死ぬほど暑そうだし……。

 え……? 今、冷静に思ったんだけど私達、砂漠に来る格好じゃなくない……? 舐めすぎじゃない、砂漠……? 本当にこれ、大丈夫……!?


『わんわん、わうぅぅ!! (我慢できない! 走ったほうが良いよ、風が涼しいよ、きっと!)』

「どん太、信じられないほどお馬鹿な結論に至ったねお前……!?」

「この砂漠で、走ろうってのかい……!? あたしは、無理だよ!?」

「さっきの凍結、もう一回やって欲しいぐらいだよ~~……」

「ぁ…………つ…………」

「もうローラは暑すぎて伸びちまってるよ……」

「ローラさん! 元気を出してくださ~い! それ!!」

『オーレリアが【スプラッシュショット】を発動しました』

「ひゃぁ~~~~つめたぁぁ~~~…………」


 ああ、もうダメだ、どん太が走る体勢になってる……。どん太の背中に乗せる人だけでも決めよう……。とりあえずエリスさん、トルネーダさんは乗せよう。リアちゃんは暑いの一言すら出てこないんだけど……大丈夫なの? ああ、ああああ!! そうか、リアちゃん元々こっちの出身だから、慣れてるのかぁ……。

 ちなみにおにーちゃんはもう、鎧が熱くなりすぎてスリップダメージで死にかけたから納棺してある。あの人鎧の形をした新手のストーブみたいな状態になってたもん。居るだけでこっちまでダメージ受けそうだったわ。

 

「ローラちゃん、飛べる?」

「飛べますぅ~……頑張りますぅ~……」

「リアちゃん、ローラちゃんに定期的に水かけてあげて……」

「ん~~。ローラさんも納棺なさったほうが……」

「やだやだぁ~……あれにあんまり入りたくない~~……」

「…………だ、そうなんです」

「確かに、死んでしまった時にアレに入ると全く無音で、怖いんですよね……わかりました、私に任せて下さいっ!」

「やったぁ~……」


 ローラちゃんとリアちゃんは自力で飛んでもらおう。ローラちゃんは、納棺されるのがトラウマらしい。こんなに後の時代になってもローラちゃんの魂が呼び戻せたってことは、あの霊廟の中でずーっと静かに眠ってたはずなんだよね。だから納棺されるの、あんまり好きじゃないみたい。結果的に駄々っ子みたいになっちゃったけど、トラウマなものは仕方ないからね。無理強いは出来ないよ。

 

「私はどん太の上で飛翔状態になれば、多分軽いと思うから。どん太、私のことを引っ張ってってね。千代ちゃんは、私がおんぶしようっか?」

『わんっ!!! (わかった!)』

「お気になさらず、此方は走りまする」

「え、うそ、一番元気じゃん……」

「まだまだ、暑い内に入りませんよっ!」


 千代ちゃん嘘でしょ……? これで、暑くないって……? 頭を熱でやられてない……!? 妖狐は暑いのも寒いのも平気だし、この程度はどうってことないって……こと!?


「今しれっと飛ぶとか」

「あ、エリスさんはどん太に乗って下さいね。私は飛べるので」

「飛ぶ……? 飛ぶ……!?」

「飛翔っ!」

『【飛翔】状態になりました』

「翼生えた!? え本当に、え、飛べる? 飛ぶの!?」


 よし、エリスさんに対して細かい説明は省くとして……。後は私がどん太にふわっと乗ってれば重くならないでしょ。どん太、エリスさんにトルネーダさんに私を乗せてもこの砂漠を走りきれるのでしょうか……! どん太くんの挑戦です!


「しゅっぱーつ!」

「説明……説明が欲しいよ……!? うそ、いくの!? ええええ~~~~」

「あ~~~……風が涼しい……いややっぱり暑いねぇ……」

『わうぅぅ~~~!! (走ったほうが気持ちいい~~! 最高!)』

「わっと、わぁっと……結構揺れるっ……!」

「内股に力を込めて、ぎゅっとしがみつくとよいです! 馬に乗るのと大差ありませぬ!」

「こ、こう……こう? あ、なんとなく……ありがとう千代ちゃん!!」

「いえ! リア殿、この方角に進めば、ステラヴェルチェに着くのですね?」

「そうです~! 上空からだと、もう遠くに見えてます!」

「あ~~~……見える~~~……」


 どん太、走った方が元気になったな……。飛翔状態で乗ると重力が軽くなっちゃって、どん太から振り落とされそうになるけど、千代ちゃんに言われたアドバイスどおりにしっかり内股に力を入れてどん太をぎゅっと挟むと、ちょっとは乗りやすくなったかも。いいね……。リアちゃんもローラちゃんも、飛んでる方が元気になってる気がする。エリスさんは~~~……。細かい説明は、いっか! 放棄! 詮索なしのギルドですので! 都合の良い解釈ですけど!


『わっう、わうぅ~~~!! (じゃ~~~~んぷ!!!)』


 え? どん太、うそ? ちょっと砂が積もって高くなったところからジャンプするのは良いけど、向こうが見えないのに考えなしに飛んだら、お前っっ!!!???


『わう? わうぅ? (飛んでる? 飛んでる!)』

「ふんぎゃろぉぉおぉぉおお!!!!」

「ああ……。まさかの流砂ってやつだね、これは……」

「あ~~~……飲み込まれると、出れないやつ~~……」

『わう? (りゅーさ?)』

「お゛は゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」


 着地地点が流砂じゃないのお馬鹿ぁ!!! このまま着地はマズい、なんとしてもどん太を引っ張り上げねば、離してなるものかぁ……!! どん太にしがみついて、なんとか飛翔スキルで丸ごと滑空させ、ねば! ねーさんも私がどん太を離さないように手伝ってくれてる、ありがとう! もうどん太のお馬鹿! エリスさんが乗ってるんだぞぉ!!!


「空中タレどん太さん……どんタレ……っふ……ふふ……」

「やめてローラちゃん!!!! お願い手伝ってぇえ!!!!!」

「ふふふ……手伝、ふふ……!」

「ローラ!! それのどこにも笑う要素がないんだよぉ!!」

「此方は少し涼しくなって、大変よろしゅうございます……」

『エリスが凍結しました』


 あああああ!! ジョーク判定になったぁああ!!! エリスさん、砂漠でも凍結したぁ!! ローラちゃん暫くその、全く面白くないジョーク禁止!! 禁止ね!?


『きゅぅ~ん……』

「ぜぇ……ぜぇ……!! ふぅ…………!! どん太、考えなしにジャンプ禁止!」

『くぅ~ん……(はぁい……ごめんなさぁ~い)』

「ローラちゃんは思いついてもジョークを口に出さないように!」

「はぁ~い…………っふ……」

「日没前に到達しないと! 夜は極寒ですよ!」

「そうだった、急がないと! それじゃエリスさんが溶けてないけど、行くよ!」


 いけない、日没前にステラヴェルチェに到着しておかないと……。この砂漠では強制1チャンネルに移動で、フィールド上だと変更出来ないからステラヴェルチェの王都に辿り着かないとならないのよ! この後日没を迎えると極寒のフィールドに変わるから、急がないと!


『わうん……? (涼しくなってきたかも?)』

「日が沈むと、この砂漠は骨まで凍ると言われるほど寒いんです! 急がないと!」

「なるほどね、熱しやすく冷めやすいわけだ。それにしたって差がありすぎるね、日没前で既に寒気を感じるなんてね」

「……それってローラちゃんのジョークが原因なんじゃなくって?」

「「「「…………」」」」


 どうしよう、日没前に寒くなってきたこの現象……。自然現象なのかローラちゃんのスキルの方なのかわかんないんだけど。とりあえず急ぐ、急ぐしかないね……!!


『エリスの【凍結】が解除されました』

「あわわわわわ……。寒い……」

「どっち、だろうねぇ……」

「此方はローラ殿の方だと思いまする」

「えええ……うち、寒くないからぁ……あ、うちかぁ……!」

「ローラちゃん、日没後は絶対禁止ね!? 絶対よ!」

「はぁぁぁ~い」


 やっぱりローラちゃんのスキルが原因じゃん!!! もう、絶対禁止! 夜に凍ったらそのまま全滅コースよ、無理無理!

 それにしても、火属性無効なのに暑いのは無効にならないの、絶対不具合だって! これ、運営に要望出した方がいいかなぁ!? それともダメージにならない程度の暑さは感じるようになってるってこと? 無駄に凝ってる、無駄に凝ってるなぁメルティスオンラインは!!! んもう!!

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