夜に紛れて

◆ ステラヴェルチェ王都・新月の夜・上空 ◆


 さてさて、リアちゃんと一緒に上空へ飛び立ったわけなんですけども、まず王都全体が驚くほどに暗い。月明かりも星明かりも無い、曇った新月の夜ってこんなに暗いんだ。私達が住む東京は夜でも電気のおかげでビッカビカに明るいからいくら空が暗くても関係ないけど、こうしてロウソクの光りすらない状態だと闇に包まれて普通なら何も見えないんだねぇ……。


「リアちゃん、見える?」

「見えます。夜目が効くほうでしたが、ここまで良くはなかったような……。地上のどん太さん達の様子も見えます」

「住人アンデッド達はレベルが低いからかな、どん太を発見出来てないのが大半だね。近くに行けば流石に気がつくみたいだけど」

「好都合ですね……。でもカシュパの居るであろう王宮だけは明るいですから、あの辺りを飛行する時だけは注意しないと」

「あっちはおにーちゃんを信じて待とう……。ほら、住人アンデッド達もおにーちゃんが無機物だからかわからないけど、真隣を歩いても反応してないよ」

「困惑してる様子で歩いてますね、おにーちゃん……」

「あれならなんとか潜入できるかも。よし、じゃあどん太達に指示を出してくるから、リアちゃんは独自で情報を手に入れてきて。絶対に、無茶しちゃ駄目だからね!」

「はいっ! お姉ちゃんも、気をつけて!」


 こっちからは見え放題だし、これを利用して情報を集めていこう。とりあえず既に手に入ってる情報は『王都全体に光がなく暗い』『王宮だけ明るい』『どん太達はアンデッドに反応される』『おにーちゃんだけはアンデッドに完全に反応されない』ってところだね。もう恐らくこの時点でカシュパは王宮だろうって思うんだけど、確定じゃない。今回はバビロンちゃんのアドバイスだったり指示だったりお願いとかの無い、完全に私独断の行動だから、破壊して良いもの、巻き込んで良いもの、使って良いものはしっかりリサーチしておかないと。


『レーナちゃん、パーティチャット届いてますか?』

『届いてる。どっちに行けば良い?』

『どん太にその道を右に曲がらせて下さい。アンデッドの少ない道になってます』

『わかった。そっち、全然見えない』

『見えてたら作戦破綻ですからね……。カシュパに見つかって何か行動を早められたり、隠れられたりしたら困りますし』

『王都外周の壁が見えてきた。メルティス教会のアンデッドNPCが居る』

『殺しちゃってくださ~い』

『んっ』


 この国にも聖メルティス教会のNPCはやっぱり居るんだ。でも、アンデッドになってるところを見るにカシュパからは重要・保護しなきゃいけないとは思われてない、と。アンデッドになっても不都合じゃないから放置してるわけだろうし、もしかしてカシュパは内政に関して殆ど放棄してる……? たしか聖メルティス教会の本殿があるのはルナリエット聖王国のはずだから、そこに万が一この事態が発覚したとしても問題ですらない、もしくはまさかのそこまで考えが至っていない、とか? まさかね。

 

『フリオニールが【シールドバッシュ】を発動、ステラヴェルチェ王宮兵・ガーダン(Lv,65)に1,441ダメージを与えました。スタンしました』


 あれ!? おにーちゃん交戦してるんだけど!? 大丈夫か!?


『フリオニールが【フルパワースマッシュ】を発動、ステラヴェルチェ王宮兵・ガーダン(Lv,65)に19,945ダメージを与えました。スタンから回復しました。気絶しました』

『フリオニールが【処刑】を発動、ステラヴェルチェ王宮兵・ガーダン(Lv,65)の首を刎ねました。経験値 1 獲得』

『(おにーちゃん大丈夫!?)』

『(`・ω・)b』


 そういえば最初の頃、どん太がプレイヤーをキルした時に念話みたいなのを使って呼び戻したのを思い出したから強く念じて言いたいことをおにーちゃんに飛ばすイメージでやってみたけど、出来たわ! でもこれMPごそっと減る代わりに会話が出来るのね。割合でMPが減るみたいだから、これ多用すると私、死ぬなぁ!? まあとりあえず大丈夫…………大丈夫らしい。本当に大丈夫かな……。それより、いつのまにフルパワースマッシュなんて覚えたのよおにーちゃん? もしかしてバビロンちゃんに粉砕された後ぐらいから、全力で攻撃する練習とかこっそりなさってた? してたのかも……。


『おにーちゃんが交戦した。とりあえず勝って、死体は茂みに隠したっぽい』

『他のに、バレてない?』

『バレて、なさそう。特に動きはないみたい』

『アクティブステルス。目撃者を消せばステルス続行。昔から常識』

『ええぇ…………』

『千代ちゃんが教会のやつ全部斬った。つよい~~』

『強いよねぇ……あ、その先をまっすぐ行けば東門にぶつかるはずです』

『お~け~』


 どん太達の方が大穴に到着するのが早いって思ってたけど、おにーちゃんの潜入の方が早かったか~……。一応、おにーちゃんはいつでも納棺して戻せるようにだけ準備はしておこう。どれ、おにーちゃんはどこまで~…………あれ? 止まってる。もしかして空気を読んで待機してる? 偉いぞおにーちゃん……!


『ねえ、こっちに来る時に大穴見なかったの? ターラッシュから西に進めば、位置関係的に見れる、よね?』

『直進したら流砂エリアが酷くて……。王都の真東は避けて、南にやや迂回して南門から入ったんです』

『な~る。じゃあ、掘ってる方向が流砂が酷い、ってこと?』

『…………確かに!』

『だよね。危ない予感』


 レーナちゃんに言われて気が付いたけど、確かに掘ってる方向に流砂エリアがある……。流砂って、地下に空間があってそこに砂が流れ続けてるから出来る現象のはず。ということは、採掘エリアは砂が落ちてくるような地下空間が…………?


『大蛇が居た空間じゃないですか?!』

『確かに。だとすると、大蛇が生まれた根源、力の根源はそこ?』

『かも、しれないですね……』

『東門、出た。大穴どっち?』

『そのまま直進方向です。流砂はここからでは判別出来ないので……』

『どんちゃん、流れる砂覚えてるって。大丈夫そう』

『あいつ賢くなったなぁ~……』

『えらい、あ~……それっぽいの、見えてきた』

『じゃあ大穴に到着したらそっちはお願いします。王宮の方、行ってきます!』

『気をつけて~』

 

 大穴の方はレーナちゃん達が無事到着できそうだから、私はおにーちゃんが居る王宮の方に行ってみよう。


「深淵よ、我が道となれ。アビスウォーカー」

『【アビスウォーカー】状態になりました。フリオニールの影にワープします』




◆ ステラヴェルチェ王宮・1階 ◆




『聞こえる?』

『(`・ω・)b』


 お、大丈夫そうだわ。対象の影に入ってれば、声が聞こえるみたいだね。外の景色も影の中から見える……。おにーちゃん、丁度良い感じに通路の脇に立ってインテリアのふりをしてたのね。フリオニールが家具のフリヲスール、なんてね。あああああああ……ローラちゃん感染ったなぁ…………!!! しかもこれを聞いたら『え、さっむぅ……』とか言ってくるんだろうなぁあの子!!!


『よし、じゃあ慎重に進んでこう。まず知りたいのはカシュパの居場所、後はリアちゃんの姉2人の場所、この宮殿の戦力、構造も出来れば覚えたいね』

『(`・ω・´)』


 とりあえずここは、宮殿の正面から入ってすぐの右に進んだ通路っぽい。さっき倒したのは、入り口に居た見張りの兵士だったのかな。それにしても正面突破とは……。あ~、反撃が1発もなかったところを見るに、奇襲したのかな。大胆だなぁ……?


『m9(^Д^)』


 その指差しエモーション、なんかムカつくねぇ!? もうちょっとマシなのがあったろうに、わざわざそれを選んでくる辺りこの人ほんっと、なんか愉快っていうか剽軽な人だなぁ……。で、そっちには何があるんですかね? ん、話し声が聞こえる……?


『(σ・∀・)σ』


 この部屋ね。じゃあちょっとおにーちゃんの影への潜伏から出て、影を広げて部屋の中に入ってみましょうか。あれ……? 私、意外に潜伏スキルが優秀だな……?


「――カシュパお兄様は、この国をどうするつもりなのかしら」

「どうするも何も、見ての通りよ。破壊、破壊、破壊、破壊。逆らう者は死刑。意見したら死刑。気に入らなければ死刑。老いていれば死刑。皆死ぬのよ」

「私、死にたくない……!」

「いずれ、私達の力が必要なくなれば殺されるわ。それに、儀式が失敗したのは私達のせいだと思われている。もし別の方法を見つけ出したら、終わりよ」

「あの子が逃げ出さなければ、こんなことにならなかったのに!!! あれが居れば、まだあれに殺させることが出来たかもしれないのに! 愚弟!!! 愚かなディティリッヒのせいで、逃げられた……!!」

「あの子が私達の代わりに選ばれていたら、それこそ私達は不要。優しいあの子の人質として使われて、儀式が成功したら全員殺されて終わりよ。どうにもならなかったのよ、あの時カシュパがあの大穴の再採掘現場に行くことを誰も止められなかった時点で……あれは薄々感づいていたでしょうに、見て見ぬふりをしたんだわ。きっとそう」


 ああ、これがリアちゃんの姉2人か。このやつれ具合からして、この調子でずーっと2人で傷の舐め合いみたいな会話をしてるのかな。王族って感じの威厳も感じないし、髪もぼっさぼさで、服も粗末で、可哀想って印象を受けるけど~~…………。今聞いた会話からわかっちゃった、わかっちゃったよ。こいつら、リアちゃんに全部責任を擦り付けて自分たちは悪くないって考えるタイプね。

 今すぐここで殺してやろうかと思ったけど、こいつらが死んだってわかったらカシュパが大穴の採掘を急加速させかねない感じだね。まだ儀式に足りないものがあるんじゃないかって思ってるのと、大穴になにかあるんじゃないかっていうのが現状だと半々ぐらいかな?

 それにしても、儀式の方法とかどうやって見つけ出したんだろ? ん、あの2人の座ってるところにあるあの紙、もしかしてリアちゃんにズタズタにされた書物を一部復元したやつじゃない? おら、お前らどっかいけ! どうにか外に注意を向けられないかなぁ~……。カーススピアを外に撃ってみるか。


『NP1を消費しました』

 

 ――――パリンッ!!!


「何の音……?」

「ゾンビ達が此処まで……?」


 よーし、外でなんかよくわからないけど何か割れた! 立ち上がった、外を見た! 今だッ! 影から出て、書物げーーーっと!!!


『【復元された復活の儀式の書(不完全)】を入手しました』

『フリオニールの影にワープしました』

『よし、次に行こう』

『Σ(´∀`;)』


 完璧じゃん。私のスニーキング能力たっけぇ……! 才能あるかもしれない。どれ、じゃあ次は反対側に向かって――――おっと、誰か来る……ッ!


『(-_-)』


 よしよし、おにーちゃんナイス待機。影の中から見た感じでも、これはおにーちゃん完全にインテリアですね。よっぽど注意して見ないと『こんなのあったっけ……』ぐらいで通り過ぎるもんね。しかもお誂え向きに、似たような鎧のインテリアがちょいちょいあるのが助かるわー!


「シリカ、メリア! ターラッシュで出回っていた宝石のネックレスを手に入れた。今度こそ本物だ、これで成功させろ!!!」

「カシュパお兄様、まだ、マナが……」

「2人分もあるんだ、それに足りないなら命を削れ! それともここで今すぐその命、終わらせてやろうか?」

「ひっ……! や、やります……!」

「今、向かいますから……」


 コイツがカシュパかぁ!!! 薄紫の髪、紫色の瞳、陰気そうなローブ、蛇をかたどった杖を右手に、左手には蛇が巻き付いてるみたいな痣!!! こいつだ、ここをこんなにした元凶! 今ここでぶっ殺すかぁ!? いや、仮にもここまで国を滅茶苦茶に出来る程の力はある奴だし、ここに居る戦力はおにーちゃんと私、それかねーさんかローラちゃんのどっちかを召喚できるだけ。リアちゃんを呼べば一応来るかもだけど、時間が掛かる。冷静になれ、冷静に機会を待とう…………。


 ――――いいや、待てないね!!! 眼の前を通った、こいつを喰らえ!!!!


『NP1を消費しました』

「んっ……? げほっげほ……! なんだ、埃っぽいな……! くそ、砂埃が王宮にまで入ったか? ッチ……!」

『生命を喰らう大蛇・カシュパ(Lv,130)にゾンビパウダーは効果がありませんでした。既に不死属性、もしくは死霊系種族です』


 は? 不死属性? こいつ不死属性なの? もしくは死霊系種族ね? それにレベル130もあんの? ほーーーー…………。これは、一番デッカイ情報が得られましたねぇ~……。でも攻撃されたのにも気が付かずにスタスタ歩いて行くとは、レベルに対して色々追いついてない感じですかぁ~~? んで? 儀式は、二階でやるのね。おっけー、カシュパは王宮……大穴で大きな動きがなければ、こっちに攻め込めば良さそうだわ。


『よし、帰ろう。今なら誰もいないし、ちょっと納棺されてくれる? その方が早いから』

『(`・ω・)b』

『ありがと。んじゃちょっと我慢しててね』

『フリオニールを【死体安置所・3】に納棺しました』

『オーレリアの影にワープします』


 スムーズな撤退、ヨシッ! リアちゃんが近くにいるのをマップで確認したから、こっちに飛んじゃった。流石にマップ外に居るどん太達には無理だったからね。いやぁ楽に出られてよか


「あ……。この感覚は、居ますね? お姉ちゃん!」

『よよよ、どうしてバレたんですか……!?』

「あ、本当に居た! 実はそろそろ来るんじゃないかって、さっきから言ってたんです! 本当に居たー!」


 っくぅ!!? リアちゃんにやられた!! このままほうきの後ろにひょいっと出てきて、抱きついて脅かそうと思ったのに!? あわよくばスキンシップを取ろうと思ったのに……。リアちゃん、肌がもっちもっちだから、ついつい触りたくなるのよね。


「もう王宮内部は良いんですか?」

『ちょっと待ってね、どん太のチームに確認取ってみる』

「はいっ!」

『レーナちゃん、そっちはどんな状況ですか?』

『最悪。大穴を掘ってるのはみんなゾンビ。ちょっとレベルが高いっぽい奴ばっかりだった、もう帰るとこ』

『ギルドハウスに転送出来ますか? こっちも戻ります』

『お~け~』

『【アビスウォーカー】状態を解除します』

「よっとっとリアちゃん、ギルドポータルで戻ろっか」

「あ、全員撤退なんですね。わかりましたっ!」


 触れなかったのは残念だけど、相乗りは出来たからヨシ! どれ、じゃあギルドハウスに帰って情報共有をしようっか。こっちは有益な情報がわんさか手に入ったぞっ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る