多様な夜の過ごし方

◆ 魔神殿・食堂 ◆


「いいかぁい!? よーく見てなぁ!?」

「ん~~ん~~見てる見てるぅ……!」


 ――――カランカラン……。


「あっははははははは!!! 転がったぁ~~!!!」

「いっひぃぃぃいいぃぃ!!! すっごぉぉい!!! んぐっっ……ぐっ……!! ぷはぁぁぁあああぁぁああ!!!」

 

 ああ、もうねーさんとローラちゃんは、駄目だ……。なんせ箸を転がして笑ってるよ、何も凄くないし、何も面白くないよ……。ねーさんって起こした時に言ってたけど最後の記憶が酒を飲んでた記憶だったはずなんだよね。ああ、ねーさんがどうして死んだのかっていうか、もしかしたらこの人誰かにサクッと殺られたんじゃないかなぁ……。お酒を、飲んでた時に……。


「はぁ~~~楽しい、楽しいねぇ~」

「だのぢぃぃぃ!!!!」


 ローラちゃんもこの、酒癖の悪さ……! 不死属性だろうがボス属性だろうが伝説の海賊船長だろうが伝説の魔女だろうが、お酒は効くのよ……。効くんだから効く、だって状態異常じゃなくてプラス面のバフ効果の方に入ってるんだもん、【泥酔】の文字が……。まあそうだね。もう夜だもんね、こうやってお酒を飲んで楽しく過ごすってのもあるかぁ……。


「…………ぐぁぁぁ……すぅぅ~~~……」

「ああぁぁああぁぁ船長が寝たぁ!! 落ちたぁ~~!! 船長が先に船降りたぁ~~~!! 船長が先に下船なんて、解せん!!! あっはははははははははは!!!!!」


 あ、やば。


「さっむ」

「あれ? レーナちゃんが凍らない……!?」

「え、これ、凍るの……? 空気は、凍りそうだけど」


 ええ、レーナちゃん凍らなかった……!? もしかして、どこか装備とか変えました!? 周囲にプレイヤーが誰も居ないから、本当に今の効果があったか判別に困る……。いやでも寒気がするし、多分発動はしてるのかな?


「あっはははは!! あっ! あ~…………すぅ~~……ぴぃ~…………」

「叫ぶだけ叫んで寝たし……。嘘でしょ……」

『トルネーダが行動不能になりました。死体安置所・5に自動納棺されました』

『ローレライが行動不能になりました。死体安置所・6に自動納棺されました』

「どん太とリアちゃんは寝ても納棺されないのに……。ああ、この状態から起きても行動不能だから、駄目なのかぁ……」

「実質死亡扱い……?」

「かも、です……」


 二人共、飲むだけ飲んで騒ぎに騒ぎまくった挙げ句、泥酔からの行動不能で死体安置所に自動納棺されちゃったんだけど……。これ、実質死亡扱いみたいなもんかぁ……。これから砂漠に行こうと思ったのに、どーしたもんかなぁ……。


「夜の砂漠、危ない?」

「ん~……。住民がアンデッド化して徘徊してるんです。でも下手に殺したくないっていうか……」

「住民が? なにそれこわい。でも野良アンデッド、使役出来ない?」

「私が起こしたアンデッドじゃないんで、駄目みたいです。強い怨念が原動力みたいですね」

「んん~……。事情がわからないから、殺しにくい。砂漠、やめる?」

「どうしましょ。とりあえず他の子を回収しながらステラヴェルチェの現状をお話しましょうか」

「んっ!」


 とりあえずどん太達を拾いに行きながら、レーナちゃんにさっき見たステラヴェルチェの状態を説明しよう。まずは同じく食堂にいる千代ちゃんからかな。とりあえず何がどうしてどうなっているのか、要点だけ説明すれば大体わかるような話だし、移動中に喋っておこう。


「――――で、カシュパが恐らく、大蛇の力を不完全な状態で復活させたんじゃないかって」

「ん~……。蛇ってことは、毒耐性必要? 毒は耐性ない、どうしよう」

「あ、やっぱり装備変えたんですか?」

「そういえばちょうど居なかったね。買ったの、自由と責任っていう頭装備。白と黒の羽がついた帽子、見た目はダサい」

「自由と責任……わ、見せて貰って良いんですか?」

「オークションの時、皆見れたし……大丈夫」


 そう! 話してる最中に気になってたものの一つ、レーナちゃんがなんでさっき凍らなかったのか問題についての回答! なるほど、この頭装備のおかげで一部の状態異常が効かないようになってるんですかぁ……!



【★沈黙を破る・自由と責任+10】(最上級・レジェンダリー・頭装備・空きスロットなし【●】)

・強化値が+5以上の時、スタン・混乱を無効化する

・強化値が+7以上の時、追加で気絶・麻痺・睡眠を無効化する

・強化値が+10以上の時、行動不能系の状態異常を全て無効化する

・行動不能系以外の状態異常の効果時間と効果量が2倍になる

・ダメージカット率0%+5%

・【おしゃべりほら貝カード】沈黙状態にならない

・【装備保護チケット適用】プレイヤー名【07XB785Y】

 ――誰もお前を止めはしない、だが行動に責任はつきものだ

 強化可能・装備登録者【07XB785Y】・重量0.05kg



 なーるほど、これがさっき凍結を無効化したのはこれの効果なんですねぇ! 凍結、石化、気絶、スタン、睡眠、麻痺……他にもとにかく行動不能になる状態異常は全部無効! ただしそれ以外は2倍の時間で2倍の量効いちゃう、ペナルティも重い装備なんですね~。でも後衛のレーナちゃんには、実質ほぼメリットしかないのでは? そもそもこれ以外の状態異常を食らうような場面ってレーナちゃんが危ないような場面だし、ほぼほぼメリットしか無いような気がする。辺り一面毒フィールド! とかだと厳しいだろうけど。


「これ高そうですねぇ~……」

「頭装備は優秀なの多い。状態異常より火力上がるの優先って人が一般的」

「あ~そうなんですか。じゃあ、1000万ぐらいですか? これ」

「おしい。1700万」

「全然惜しくないですねぇ!?」

「ふふっ……」


 ひょえー1700万か~……あれ、でもそう考えるとあの時のミスティック装備安かったのでは? あ~でも、普通は左手に盾を持つのが当たり前だから素手になっちゃマズいか~。両手装備の人は当然使えないし、それにもし外したくなったら1000万シルバー消費は重い。殆ど外さないって人じゃないとアレは相当な覚悟で装備しないといけないか。妥当かなぁ。


「強化はオークションそっちのけでやってた。最初は+5だった」

「えっ……。よく、+10になりましたね……!?」

「成功率上昇チケットと、強化失敗時保護チケット、結構無くなった。最後に装備保護チケットも使って、PKされても絶対取られないようにした」

「うわ、うわぁ……! もう4000万とか5000万とかしそうですね……」

「それで買えたら、安いかも」

「ひぇえええ……!!!」


 どうしよう、+10でこれならバビロンちゃんのドレスが+15なのって相当にその、アレじゃないのこれ……!? 絶対ヤバいよね、口が裂けても装備性能は言わないようにしよう……。+15とか言ったら大変な妬み僻みの嵐になってしまう!


「リンネ殿~……。いつまで此方のお腹をぽんぽこしているのですかぁ~……」

「ちーちゃんが、立ち上がれるまで?」


 ところで千代ちゃんを最初に拾うって言ったけど、実はまだ千代ちゃんを拾えてません! なんせ千代ちゃん食べ過ぎてお腹がぱんぱん! レーナちゃんと私で千代ちゃん挟むように座って、2人揃って千代ちゃんのお腹をぽんぽこぽんぽこ叩きながら千代ちゃんの復活を待っていたのでした。


「ん~……。このぽんぽこ具合、狐じゃなくて狸ですねぇ」

「んなぁ~!? その呼ばれ方だけは絶対に嫌で御座います! かくなる上は、ふぬぬぬぬっっ!!!!」

「え、お腹が一気に凹んでく……!」

「すご、あ。人魂しっぽが出てきた……」

「増えてるよ、人魂しっぽが2本になってるよ千代ちゃん!?」

「今、燃やしておりますので……!!!」

「あ~~……燃焼系、燃焼系……」

「妖狐式~……昔の広告映像再現系、流行ってるよね」

「流行ってますよね~シュールで耳に残る系はつい見ちゃうっていうか……」

「結局なんの広告か覚えてないのが欠点」

「それですねぇ……」

「んぅぅぅぅ…………!!! こんっっっ!!!」

「あ、燃やし尽くした」


 千代ちゃんが妖狐式強制燃焼をしてくれたので、ぽんぽこ千代ちゃんからスリムな千代ちゃんに戻りました! いやぁ妖狐すげぇ……。リアルで食べ過ぎた時に誰でもこれが使えたら、この世から太った人居なくなりそうですわ。


「はぁ……はぁ……! これを、すると、汗が……酷くて……」

「わ、お風呂行くべき」

「お風呂に駆け込んできて千代ちゃん! その後合流しよう?! 待ってるから!」

「も、申し訳御座いませぬ……行ってまいりまする」


 ただ凄い汗の量!? 砂漠で走り回ってる時でさえ汗一つかいてなかったのに、これは物凄い燃焼するんだね、本当に……。しかもかなり辛そうだったし、やっぱりこれが出来たとしてもやろうとする人少ないかも……!?


『わんっっ!! (来ちゃった!)』

「出発ですか? 砂漠は今、恐らく極寒の状態だと思いますけど……」

「あら、どん太にリアちゃん! 来ちゃったか、千代ちゃんが汗びっしょりだからお風呂に行ったの。あと、ねーさんとローラちゃんが酔っ払って動けなくなって納棺された……」

「ええ……ずっと飲んでたんですか、もしかして……。飲み過ぎですよ……」

『わうぅぅ~……(お酒の臭い苦手だよ~)』


 どん太とリアちゃんの方から来ちゃった。この2人がねーさん達の酒盛りの話を知ってるってことは、本当にだいぶ前からずーーーーっとお酒飲んでたってことだね……。いくら魔神殿を建てた功績だから無料で良いとは言え、飲み過ぎだよ!


「おんやぁ? さっきの豪快に飲み食いしてた美人2人は、寝たかねぇ?」

「ひっ……」

「あ、クックさん! こんばんは。寝てしまったのでそれぞれ寝床に連れて行かれました!」

「お酒が余りに余ってたからねぇ、助かった助かった、まだまだあって新しい物の置き場に困ってるからねぇ、また飲んで食って騒いで欲しいよぉ」


 こ、この人がクックさん……!? クックっていうか、くとぅるくとぅるしい見た目をしてらっしゃるんですけどどどどどどどどど…………!!!!???? レーナちゃんが『ひっ……』って言ったっきり動かなくなっちゃったんですけど……!? 行動不能の状態異常は、無効じゃないんですかぁ!!


「それじゃあ、これは下げちゃうねぇ? 今度はお友達も連れて来て、皆で飲み食いして騒いで欲しいなぁ~。またねぇ~……」

「は、はひっ……」

「クックさんは、胃袋の支配者っていう異名をお持ちなんだそうですよ!」

「きゅ、旧支配者ではないのね? 旧支配者のほうじゃないね?」

「え? た、多分? えっと、胃袋の支配者なので……今の支配者さんですね!」

「…………ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるう、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐん」

「それいじょういけない」

「呼んだぁ~?」

「よよ、よよよ、よよ、呼んでないでで、で、です!!! しゅびばしぇ……!!!」

「ひっ……」

「気をつけてねぇ~?」

「気をつけまひゅ!!!!」


 や、やっぱりあのクックさん、絶対くとぅるくとぅるなお方だよ……!? き、気をつけよう、注意しよう、不用意な発言はしないように……!!!


「い、今の詠唱はなんですか……?」

「リアちゃん。今のはね、知らなくて良いの。忘れてね……」

「は、はいっ」

『わん……! (怖かったね……!)』

「…………ちょっと今夜、寝れるか心配。夜更かしの可能性」

「私もちょっと……!」


 今日はちょっと、寝る時に思い出して上手く寝付けないかもしれないね……? 運営さん、どうして急にこっち側の要素をぶっこんで来てるんですかぁ……!? 構えてない時に来られるのが、一番効くんですからね!?


『((((;゜Д゜))))』

「うあああああ!!!?」

『○   | ̄|_』


 うわああああああ!!! おにーちゃん急にガタガタしてびっくりさせるなぁああああああ!!!!!!!! びっくりして頭叩いちゃったごめん! あ!! 頭飛んでっちゃったよ!!


「ただいま戻り――へぶっ!?」

『Σ(´∀`;)』

「お、のれぇ……!」

「違う、違うの千代ちゃん! それは私が悪いの! おにーちゃんを斬らないであげてーー!?」


 千代ちゃん!? 戻ってきて千代ちゃんに飛んでった頭が当たった!? どうしてこう、こうもまあ続くのよ! 色々と!! ごめんね千代ちゃ~~~ん!!!!! おにーちゃんもごめーん!!!




◆ ステラヴェルチェ・ギルドハウス(無断借用) ◆




 はい……。とりあえず、落ち着きました所で……。

 悲報、ねーさんとローラちゃんが自動復活するまで、残り8時間。どうしても強制復活させたい時はNP全支払いで反魂の儀式をやればいいんだけど、生き返ってちょっと落ち着いて、久しぶりに気持ちよく飲んで飲んで飲みまくったんだから、今日はそっとしておいてあげよう。でも毎回これだと困っちゃうから、次からはほどほどにして欲しいけどね!


「確かに寒い。外のが、徘徊してる住人アンデッド?」

「そうですね……。でも、若い男女のアンデッドが居ません。恐らく、利用価値が高い者は最低限生かされているのかも……」

「攻め込むとそれらを人質、盾に使われるでしょう。この手の輩はまず間違いなく」

「リアちゃん怒らないで聞いて欲しいの。全員は助けられないかもしれないし、巻き込むかもしれない。でも確実に元凶を始末しないと……」

「大丈夫です。私もカシュパも腐っても王族、王族の責任は王族が取ります……」

『わんっ!! (僕らがついてるよ!)』

「ありがとうございます、どん太さんっ」

「今日はメンバーが揃いきらないから、偵察だけにしよう? まずは王都の外側から、王宮に向けて情報を集めてみない? ここから東にある崩れた大穴の中とか、見てみないと」

「そう、ですね。情報が欲しいです。この短期間で、何がどれだけ変わってしまったのか、何が起きているのか……」


 さて、今回はねーさんとローラちゃんがダウン中だし、ギルドメンバーも揃ってないから情報収集タイムにすることに。いざ王宮! って直で行って、まさかのカシュパ不在で空振りってのが一番困るから、カシュパが居る場所を割り出すって狙いもある。本当に大穴に人が連れて行かれてるのかも知りたいしね。


「どう動く?」

「住人NPCのアンデッドは出来れば無視したい、聖メルティス教会関係のNPCとかそのアンデッドが居たら殺処分、まさかのカシュパを発見したら即撃滅、これでどうですか?」

「んんっ……。流石にカシュパが居たら、ローラちゃんとねーちゃん、起こして?」

「そうします……」

「今日は新月、しかも曇っていますから、私は上空に飛んでも夜闇に紛れて発見されないと思います」

「じゃあ私も飛ぼうかな。どん太、レーナちゃん、千代さんは私が向かう方向の指示を飛ばします。おにーちゃんは、インテリア作戦でどうにか王宮方面に潜入出来ない?」

『Σ(´∀`;)!?』

「出来ればやってみて。潜入出来たら、アビスウォーカーでおにーちゃんの影に飛んで、私が直接内部の状況を見てみるから。おにーちゃんが潜入するまで時間が掛かるだろうから、それまでどん太達の移動を済ませちゃおう」

『(´・ω・)b』

「ええ、そのように」

「おーけー。異論ない~」

『わんっ (わかった!)』

「リアちゃん、くれぐれも単身突入しないように。もし行ったら、すぐ納棺するからね?」

「は、はい……。大丈夫です、それはしないようにしますっ」


 よし、じゃあそれぞれ行動開始しよう。ステラヴェルチェの新月の夜、普通なら暗くてよく見えないけど、私達はアンデッド軍団! 暗い所も結構見える補正が――――多分、掛かってる、と思うんだよね? 結構視界良好な感じがあるし? じゃあ王都と大穴、出来れば王宮内部の調査! 開始しましょう!!! 


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