ログイン8日目 ~来訪者~◆ 自室 ◆

 真弓が雑誌だかテレビだかなんだか忘れたけど、取材があって学校に来なかった。そう、真弓が来なかったので学校のことなんてほとんど何も覚えてない。真弓が居ないと学校はつまらない。覚えてるのは授業の内容と、メルティスオンラインをやってるクラスメイトの話ぐらい。一応、クラスの雰囲気としては……ギクシャクしてた6人組は落ち着いてて、PvPに興味がある4人と興味のない2人で分かれてそれぞれイベントをプレイするーとか言ってたぐらいかな。後覚えてない。どうでもいい。


『バイタルチェックスキャン開始……問題ありません』

『東京都の明日の天気は雨が予想されます。降水確率は午前午後共に100%、強く降る見込みです。お出かけの際は突風や濡れた足元に注意してください』

『ダイブ前チェックリストにすべて問題がないと回答を頂きました。バーチャルダイブシステムを起動します』

『バーチャルダイブシステム起動……ゆっくりと、目を閉じてください』

『バーチャルシンクロ開始……完了』

『ようこそ、仮想現実空間へ。バビロンオンラインのプレイがリクエストされました』

『バビロンオンラインへアクセス中……リンク完了』


 真弓が来なかったし、クレープ屋は昨日より人が多くてしかも品切れとか言ってて買えなかったし、明日には整理券でも配り始めるんじゃない? あのクレープって食べ物そんなに美味しいの? 食べたかったのに……。


『帰還確認。マスターの、代理、です。グリムヒルデが、今日のログイン、ボーナスを。お届けします』

『バビロンちゃん(……の、代理のグリムヒルデちゃん)からの! デイリーログインボーナス7日目【ランダムアバターチケット】』

『団体戦、代表登録確認。バビロニクス、魔神殿まで、お越しください』


 今日はグリムヒルデちゃんだった。話したのは何回かしかないけど、自動人形オートマタだからって感情がないわけではなくって、話している時にわからないことがあったら小首をかしげる動作をしたり、両人差し指で口の端をくいくいっと上げて『笑顔、練習中……です。採点を』とか聞いてくるし、実はかなり可愛い。


「おかえりなさいっ! お姉ちゃん、お客さん来てますよっ!」

『わんっ!! (おかえり! お客さんいるよ!)』

「ただいま~……。あれ、千代ちゃんは?」

「そのお客さんと一戦するために修練場に行きました!」


 おやおや、帰ってきて早々にお客さんだって? 千代ちゃんはお客さんと一戦って、出会って目が合ったら即抜刀みたいな……。戦闘狂かって……。戦闘狂かも。それで? お客さんってどちら様ーーー……。


『(*´ω`*)ノ』

「おにーちゃんもただいま~……。あっ、お客さんって」

『お邪魔しております』

『突然、失礼。謝罪』

『おう!! 来てるぜ! 今日は紹介したい奴等が居てなあ!』

『グスタフ、挨拶ぐらいできないのか? こんばんは、マスターリーダー。突然の訪問申し訳ない』


 あーーーおにーちゃんの! 昨日はありがとうございました。とっても充実した時間を過ごすことが出来ました。本当に、感謝の言葉もございません。またどうぞよろしくお願いします。

 では、これを初対面の人が混ざっている場合に変換してみよう!


「あ……ど、も……。は、はじめまし、て……の人も……」


 はい、出てしまいました、人見知りです!! 人見知りフィルターがオンになりました! ふざけてるんじゃないんだよ、あのね、本気でこうなっちゃうの。頭でわかってるのに、口から出てこないの。ごめんなさい本当許して……。


『やぁ~だぁ~! 超キュートじゃ~んマスターリーダー? ねえねえクーガーもそう思うでしょぉぉ??』

『だな。お前の100倍可愛い。初めまして、元ルテオラ聖騎士団副団長のクーガー・ウルティマイトだ。よろしく、マスターリーダー!』

『サリーちゃんでぇ~~っす♡ あ? 握手はだぁ~め♡ サリーちゃんお触り厳禁で~っす』


 この人達が、真・氷の宮殿の突入前に死んじゃった蠍のサリーと、蟹のクーガーかあ~~~!!! クーガーさん、副団長!? いやうん、爽やかマッチョイケメンですね……。茶髪のウルフヘアが格好いいですね……? と言うか、でっかいなこの人!!? 2メートル近くない!?

 それで、サリーちゃんは150センチ多分ないね、これは。ヒール付きのグリーブを履いてレーナちゃんより結構高いぐらいってことは、身長150センチギリギリない。でもこの赤黒い全身鎧の上からでもわかる。サリーちゃんはちっちゃいけど、かなりでっかい……!! で!! バビロンちゃんよりも強烈にサディスティックな表情で、濃い桃色の髪に赤いアイシャドー、赤い瞳! 間違いなく、この人は――――いい性格をしている!!!


『サリーには気をつけろ。鎧の至る所に暗器が仕込まれている。握手をしたら手に無数の毒針、10秒後にはあの世行きなんてこともザラだ!』

『やぁ~だも~~♡ サリーちゃんそんなこわぁ~いことしませぇ~~~ん♡』

『超猛毒。無色透明無味無臭』

『そうそう~毒は水の性質に近ければ近いほど優秀なのよ~~…………あ゛っ』

『今回、サリーとクーガー、今は居ませんがもう一人がステラヴェルチェ開放戦の功績を認められ、ランダムに抽選した結果……魔神兵として再び生を受けました。こうしてまた再会出来たのはマスターリーダーのおかげです。団長補佐カヨコが一同を代表して、心よりお礼申し上げます』


 わっ……! カヨコさんの最後の一言に合わせて、全員シャキッとして最敬礼するの、ずるいずるい。格好いいもんそれ。普段やりたい放題してる人たちが急に揃って最敬礼するの、ギャップがありすぎる。なんだろう……。嬉しいなっ。で…………? これ、どう返せばいいの…………?


『――――それでぇ? ねえねえねえねえ、あの猫耳の彼女ぉ~……サリーちゃんなでなでしたいんだけど~……あ、鎧脱ぐから、脱ぐからぁ!!』

「あ、えっと、吸ったりしなければ、どうぞ……っ」

『え? 吸うってなぁに~~?? 初対面で女の子の匂いを吸うってことぉ~~?? それすっごい変態じゃなぁ~~い!?』


 ――――その変態が、うちのギルドに結構いました。ごめんなさい、サリーさん……。ごめんね、リアちゃん……。


『全く、今の雰囲気が台無しではありませんか……。まあ、良いでしょう』


 本当だよ。急に崩れたね~。まあ私の様子を見かねて、サリーちゃんがフランクに切り込んできてくれたのかな……? サリーちゃん、実はねっっっっとりした口調のサディスティック毒物女王様じゃなくて、ねっとり口調のサディスティック気遣いも出来る可愛い子大好き猫ちゃんなでなでしたい毒物女王様だったんですね。あ、鎧……脱いでる脱いでる。え。そのバカでかい針みたいなのどこから、え、その三日月みたいな刃の短剣は、どっからそんなにポーション瓶出てくるの?


『わう……? わう……!? (どこから出てくるの!? いっぱい出てくるよ!?)』

「そうだね、どこから、出てくるんだろうね……」

『女の子のヒ・ミ・ツ♡』


 いやいや、いやいやいやいやいや、凄い量の暗器が仕込まれてるんですねえ!?


『ほらなっ! すっげーだろ、メッチャ仕込まれてるぜ!』

『それを仕込むためのモンを縫ったのはテメエだろうが!』

『こう見えて実は、サリーのほうは料理が得意で、クーガーは裁縫が得意なのですよ。ですが、どちらも……可愛く仕上がりすぎるのが、少し困ったところです』

『だってぇ~お料理は見た目も可愛い方がいいでしょぉ~~???』

『ピンクのシチューはもうやめてくれ……美味いが、見た目がヤバい……』

「「ピンクのシチュー」」

『中の衣類が破けてたままよりは、ちゃんと縫い合わせて可愛い刺繍があったほうがほっこりするだろうが、心が!』

『(;´∀`)』

『なんだぁその反応!? 団長あれ嫌だったのかぁ!?』

『_| ̄|○ il||li』

「滅茶苦茶嫌そうな……でも可愛い刺繍は気になるかも……」


 いやぁ~賑やかになったなぁ~……。ああ、リアちゃんがサリーちゃんになでなでされて、どこからか取り出したブラシで髪を弄られてる……。うーん、気持ちよさそうね。あのまま寝ちゃうんじゃないかな、もしかしたら。


『んふっ……♡ か~わいっ……♡』

「あ、いい……。いい……っ」

『わふぅ~~……』

『ワンコちゃんも後でおっきいブラシでやったげる~……あ、い~い? マスターリーダー?』

「大丈夫ですよ。でも嫌がるようだったらやめてあげてください、ね」

『ありがとぉ~~♡ あ……。リラックスすると、ごろごろ言っちゃうんだぁ~~……かぁぁわいぃ~~……♡ あっちの部屋のちびっこい子達に、お洋服とか作ってあげたらぁ~?』

『あ!? ち、ちびっこ!? ちょ、ちょい、見せて――――ウォ――――』

『いかん、あまりの可愛さにやられてクーガーが倒れる』

『馬鹿テメエ、生き返ってすぐに死ぬ気か!? ちっとは心の準備をしてから開けや!!!』

『! 目的人物、発見』

「んっ……? わたし? こんばんは?」


 あ、レーナちゃんがログインして来た。お騒がせしてま~す……。


「レーナちゃんこんばんは~。昨日はごめんなさい、熱中してて気が付きませんでした……1時間ぐらいしか経ってないつもりだったんですけど……」

「こんば~。大丈夫、凄く参考になった。私達も負けられないから、火が点いた…………で、えっと?」

『魔砲、装飾閲覧希望』

「あっ。そういえばデザイン変えてた。同職?」

『同職。魔弾射手』

「同じだ~~あっちで、話そ?」

『ッ!!』

『行ってらっしゃいな、スージー。お話がしてみたかったのでしょう?』

『感謝ッ!』

「いこいこ~」


 お~~。スージーちゃんとレーナちゃんって、完全に同職なんだ。特殊な転職方法で就いたからプレイヤーに同職が居なかったけど、NPCなら同職居る可能性あるかー。あ……。私も居たな、ドゲルとか言うネクロマンサーの面汚し……。


「――ただいま、戻りました」

『戻りました』


 あ! 千代ちゃんが戻ってきた――――千代ちゃんと同じ服の子がいる! いや違う、逆だわ! 千代ちゃんがこの人の服を着てるんだったね! と、言うことは!


「…………カムイさんっ!」

『正解です。カムイは、カムイと申します。よしなに』

「リンネです。よろしくおねがいしますっ」


 なんだろう、服のおかげで初対面感が微妙になかったからすんなり人見知りフィルターを突破した! そして、うん……。予想してたけど……。カムイさんも、良い太ももをなさってますね……っ!!! でも千代ちゃんとは対照的に銀髪なんだね。ショートヘアなのも反対だね。いや、んっっ!? 千代ちゃんより、でっか……! え、私よりでかいね……!? 結構ギュッと、締めてるはずだよね……!?


『驚きました。ルテオラとはまるで別世界、食べ物が美味しく、通行人みちゆくひとは活気に溢れ、見たこともない遊具が沢山御座いました。それに食べ物が美味しく、様々な服装の方々が闊歩していて驚きの連続で御座います。後は、食べ物が美味しゅう御座いました』


 ――――しまった、腹ペコ勢だ!!!!!


『しかし、如何しましょうか。マスターのマスターですから、どうお呼びすれば宜しゅう御座いますか?』

『グランドマスターと呼ぶのは?』

『(*´ω`*)b』

『では、グランドマスターと。今後ともよしなに、グランドマスター』

「え、私? マスター? マスターって……」

『(´ε`;)』

『マスターフリオニール。カムイを拾ってくださった、ご主人様に御座います』


 そういえばカードのテキストに、奴隷時代とか書いてたような……! そっか、カムイさんが小さい時におにーちゃんが買ったか、助けたか、何かしてあげたのね! うんうん、だから私がマスターのマスターだからグランドマスターってことなのね! なるほどね!


『ちなみに、齢は24に御座います』

「同郷ではない妖狐でした。しかし、聞いたことがあります……。あの里では、強い妖力を持って生まれた妖狐とあれば……」

『そうです。カムイは銀髪の忌み子で母殺し、高い妖力を受け継いで生まれました。とあって村の生贄として山の神に捧げられましたところ、妖狐狩りなる賊に襲われて奴隷として商品にされ、その賊の違法な商売を撲滅するべく派遣されたマスターの騎士団に救助され、そのまま騎士団に入れて頂きました』

『それについて勘違いのないよう。母殺しと言うのは、カムイを生んだ母親が自らの妖力と生命の全てを子に与えてしまったため、母親が死んでしまったということです。カムイの父親からすれば、カムイは母殺しの忌み子だったのでしょうね』

「酷い…………」

『14までは生贄用として生かされておりました。カムイの故郷にて山の神と呼ばれていた魔物は、年に数度ほど濃い妖力を持った妖狐の娘を喰らう、悍ましい魔猪で御座いまして。ある日、マスターが今日は猪鍋だと言って狩って来てしまったので、今は居ませぬが……』

『なお、その魔猪は私が念入りに燃やしました。人食い魔猪に強い怨念が籠もっていたので』

「そうなんだ……。おにーちゃんに拾われてからは、どうだった? 楽しかった?」

『騎士団で過ごす毎日は夢のようでした。ですが、今のほうがもっと楽しいですね。ご飯も美味しいですし。過ぎた過去の話よりも、これから食べるご飯の話のほうが有意義で御座います』


 ――――これだけ重い話をしておいてなお、カムイさんの食欲が止まらないんですけど? どうしよう、違う里の妖狐だって千代ちゃんは言うけど、私の中で『妖狐=腹ペコ勢』って公式が完成しつつあるよ?


『わうわうわうわう~~~♡』

『お腹が良いのぉ~~~? あ、毛絡まってる。クーガー? 鋏~。鋏取ってぇ~??』

『…………ぉお』

『駄目だ、クーガーはちびっこちゃん達を見て死にかけだ。俺が触っても大丈夫な鋏はどれだ?』

『それだ。そのピンクの持ち手の鋏だ。サリーはいっつもそれを他の奴にも使ってるから間違いねえ』

『よく見てるじゃなぁ~~い♡ あ、マスターリーダー?? リアちゃんおねむになっちゃったのよ~~♡ ちびちゃん達のお部屋で寝かせてて良いかしらぁ~~??』

「え、こんな短時間で……!? 多分、大丈夫……かな? 後で起きると思うんで」

『ありがと~♡ くぅがぁ~~~??? いーつまで寝てるのかしらぁ~? 邪魔よ~?? えいっ♡』

『ア゛ッ゛!?』

『それっ♡』

『ゴッッッ……!?』

「あっ」

『おいおいおいおいおい……』

『い、いってえ……アレは絶対いてえぞ……』


 …………サリーちゃん、平気な顔でクーガーさんのクーガーさんを思いっきり蹴ったんだけど……。しかもどかすのに胴も蹴ってるし。鎧の胴部分がベコって凹んで戻らなくなるレベルで……。いやあれ、うわぁ悶絶してる……。絶対痛いって……。


「……あ。バビロンちゃんのところに行かなきゃ!」

「此方がお供しましょう。どん太殿は、撫でられ待ちですし、リア殿は眠っておられますし。おばけ殿は、この光景を見ていたいでしょう?」

『m(_ _)m』

「見てたいのね。わかった、行ってくるね。どん太行ってくるよ~。じゃあ千代ちゃん、行こっか!」

『わう? わうっ!! (どこか行くの? 待ってていいなら待ってるね!)』

「ええ! ではカムイ、またいずれ」

『また稽古を付けてください。それと、美味しい料理のお店も教えてくださいね、千代様』

「え、ええ! もちろんですとも」


 ん……。千代ちゃんからは呼び捨てで、カムイちゃんからは様付けなのね。それより、この二人が入ったお店、食材がマッハで尽きそうだなあ。さ~て、思わぬ来客に驚いたけど……。まずはバビロンちゃんに挨拶にいかないと! 特殊イベを見に、いくぞーーーっ!!!

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