旅行へ

◆ 魔神殿・ギルドルーム【201号室】 ◆


 ――――ねーさんとローラちゃんが消えた。


『リンネへ。ローラにあたしが見た世界、海の広さを教えてやりたくって、あたしもローラの見た空からの世界を知りたくってさ、旅に出ることにしたんだ。リンネに貰った第二の人生、勝手だけどあたし達の好きなように生きてみたい。別にリンネのことが嫌いとか、そんなんじゃないんだよ! リンネと一緒に居ると楽しいよ、でもね? あたし達には目まぐるし過ぎるし、楽し過ぎる。あたしはね、ローラと二人っきりで……のんびり旅がしてみたくなったんだ。元よりその場の勢いで蘇ったんだ、あたしだって勢い任せに旅に出たって……許しくれるだろう? また会うこともあるかもしれない、その時はお互いに旅の思い出話を語ろうじゃないさ』


『あのぉ……メイド服、置いていきます……。いきなりで、ごめんなさいぃ……! でもリンネさん達の顔を見たら、決意が揺らぎそうで、ごめんなさいごめんなさいぃ……! 私、朱璃ちゃんと一緒に、ゆっくり旅がしたくなっちゃって、えっと……。また、会ったら仲良くしてください……!』


 事の発端は『トルネーダの使役状態が解除され、離脱してしまいました』『ローレライの使役状態が解除され、離脱してしまいました』っていきなり過ぎるメッセージが流れたことが原因だった。何が起きてるのか確かめに201号室に向かったら、ローラちゃんに着せたハレンチメイド服とねーさんに渡したバイキンアックス、ギガントアックス、そしてこの置き手紙があったというわけ。どこから出ていったのかと思ったら、201号室の窓から飛び立っていったみたい。


「…………好感度不足かなぁ」


 ゲームのシステム的に考えると、好感度不足だったのかもしれない。確かにねーさんとローラちゃんは親睦を深める暇もなく戦闘! 戦闘! ダンジョン! 探索! 戦闘! みたいな流れだったもんねぇ……。泥酔状態で離脱したのが初期症状で、二人っきりにしてくっつけて放置したのが決め手になったのかも。

 でも、本当に嫌いになっちゃったら武器もメイド服も残さないし、それにわざわざ置き手紙なんてしないだろうし、二人共多分……『私より大事な相手が出来たから』が原因なのかな。このゲームを続けてればきっとどこかでまた会えるだろうし、その時はしっかりと二人と仲良くなれるようにゆっくり時間を取ってお話したいね……。


『くぅ~ん…… (どこかに行っちゃったの?)』

「行っちゃった。旅がしたいってさ、どん太もモッチリーヌちゃんと結婚したら、私から離れちゃう?』

『わんっっ!! (それはないよ! ご主人様と一緒だよっ!)』

「そっか、そっかそっか。いい子だね~お前は……じゃ、戻ろうっか」

『わんっ! (また会えると良いね!!)』

「そうね。また会える日を楽しみにしてようね」


 はぁ~~~……。このゲーム開始してから、初めての明確に『やらかした事件』じゃない? 今までは紙一重で上手く行ってただけだったってのが、ヒシヒシと思い知らされるなぁ~……。


『魔神バビロンより【大事なお手紙♡】が届きました』

『【大事なお手紙♡】を入手しました』

「――ちょっとどん太待っててね……」

『わう? わんっ! (うぅん? あっ!! バビロン様の匂い!)』


 ちょっと永久保存確定のアイテムが届きました。読みます。読ませて下さい。


【大事なお手紙♡】(取引ロック済み)

『使役したアンデッドに逃げられちゃったカワイソウなイカレ女へ♡ この手紙が届いたってことは、使役したアンデッドに逃げられちゃったのね~? 使役したアンデッドに逃げられる原因はいくつかあるのよ~♡


・大前提として知性のあるユニークアンデッドであること

・コミュニケーション不足による好感度不足

・酷い扱いを受けたことによる好感度減少

・好感度が高い場合でも、主人よりも優先したい何かが見つかった場合

・他者と親密な関係以上になった場合で特定条件を満たした時


 酷い扱いをし続けると、最悪離反して裏切る可能性もあるの。気をつけなくっちゃダメよ~? この失敗を教訓にして、次からは大事な大事なアンデッドに逃げられないように気をつけなさ~い! でも、甘やかし過ぎちゃダ・メ・よ? アメとムチが大事なの、ふふっ♡』


 あ~~……本当だったらもっと最初の頃に届くはずだったお手紙だったのかも。これはユニークアンデッドに逃げられた場合に自動で届く、バビロンちゃんからの優しいお説教のお手紙っぽいね……。ん~~~ああぁぁ~~~~…………さっきは『そっか、行っちゃったか~』ぐらいにしか感じてなかったのに、急に辛くなってきた。


「どん太ぁ……」

『わうぅ……? きゅぅん……? (どうしたの? 泣かないで?)』

「これからはもっと大事にしてあげるからねぇ……!」

『くぅ~ん……? (いつも大事にしてくれてるよ……?)』

『201号室をプライベートエリア状態にしました』


 どん太、お前は本当にいい子だねぇ……! ちょっと、そのもふもふを貸しな……っ!! 少し、泣くから。




◆ 魔神殿・ギルドルーム【ロビー】 ◆




 どん太のもふもふは温かかった。そしてねーさんとローラちゃんが離脱してしまったことでアンロックされたステータスが増えた。その名もズバリ【好感度】……読んで字の如く、従者ないし死体安置所のアンデッドとの好感度がどの程度なのかを知ることが出来るステータスが表示されるようになった。ちなみにどん太達との好感度なんだけども……。


【好感度】

・どん太:【最高に親密】貴方のことが大好きで、何よりも優先します

・オーレリア:【最高に親密】貴方のことを実の家族のように愛しています

・フリオニール:【非常に親密】貴方と居る時が一番楽しいです

・姫千代:【非常に親密】貴方のことが大好きで、貴方と居ることを出来る限り優先します

・ドレイク:【非常に不愉快】貴方を何度でも殺したい程に憎んでいます


 こんな感じだった。確かにどん太はご飯より私を優先してくれるし……合ってるのかな。そしたらどうしよう、リアちゃん私のこと愛してるって! 私も愛してるよリアちゃん……!! おにーちゃんも千代ちゃんも、非常に親密だったから良かった。もうちょっと親密になれるようなイベントをこなせると最高に親密まで行くのかな。まあ、この好感度の項目に頼らずに仲良くなれるようにするのが、本当は一番いいんだろうね。

 あ、炎龍女帝ドレイクはこれ復活させたら絶対ヤバいわ。間違いなくぶっ殺しに来るやつだわ。ここから仲良くなれたら凄いな……。いやー子供を殺して装備にして、お肉は夜に焼肉パーティで使うんだよ? 絶対無理だわ。この死体どうしよ、アニメイト・フェティッシュを使おうにも『ユニークアンデッドには使用できません』って出ちゃったんだよね……。んーーー……。

 そうだ!! バビロンちゃんに奉納しよっ!! バビロンちゃんに奉納すると喜ばれるのは【食べ物・装備・素材・強いモンスターの死体・その他】って祭壇のヘルプに書かれてたし、奉納しちゃおう!


「――あら? どうかしましたの?」

「んーーちょっと……。ねーさんとローラちゃんがね、旅に出るって居なくなっちゃって――――」


 あ、ペルちゃん帰ってきてた。レーナちゃんも帰って来たらねーさん達の件を含めて事情を説明して、ドレイクをバビロンちゃんに奉納しに行こう。

 それにしてもアニメイト・フェティッシュでユニークアンデッドは対象に選べないの、ショックだなぁ~……。ドレイクは名前があるネームドモンスターだからダメってこと? どん太は元々レアモンスターなだけだからアニメイト・フェティッシュの対象に選べたのかな? リアちゃんとおにーちゃんと千代ちゃんはユニークアンデッドだから選べない……。あー、もしかしたらクエストが用意されてるタイプのアンデッドはダメなのかな!? リアちゃんもおにーちゃんも千代ちゃんも、元々クエストで復活させたタイプだもんね! その点、ねーさんとローラちゃんは……あ~、最悪そもそも復活しなかったか、地下で堕天使との戦闘で死亡か消滅する可能性もあったのか。

 ん~……。思い出したらなんかまた悲しくなってきた。私って意外と引き摺るタイプで、しかも執着するタイプだったらしいね……。自分のこともちゃんとわかってないのに、ねーさん達のことを理解してた気になってたの、酷く滑稽だなぁ……。絶対に再会して、今度はいっぱいお話するんだ……!

 

「――ただいま。まだみんな、揃ってない?」

「あらおかえりなさい! まだ何人か揃っていませんわ! そうそう、ちょっとお話したいことがあって!」

「おかえりなさいレーナちゃん。さっき戦って納棺したドレイクの件なんですけど――」


 おっと、レーナちゃんも帰ってきた。丁度いいからこのまま事情を説明して、ドレイクを奉納しに行っちゃおう!




◆ 15分後…… ◆




「――すまん、仕事で遅れたぜ」

「おかえりぃ~。待ってたよぉ~」

「おかえりなさいっ!」

「やっと帰って来よったかハゲェ!」

「おう!」

「おかえりッス!」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいー」

「おかえりなさいまし!」

「んっ、おかー」


 ペルちゃんとレーナちゃんにねーさんのこととか、諸々の事情を話して炎龍女帝ドレイクを奉納して戻ってきたら、丁度ハッゲさんが帰ってきたところだった。ハッゲさん、お昼の間にちょっと何かするだけのお仕事みたいなんだけど……。本当、お仕事は何やってるんだろう。日曜日でも関係ないって、なんだか特殊なお仕事なんだろうなぁ。


「ほな、パーティ分けはどうするんや?」

「私でパーティ5人埋まっちゃうんですよねぇ」

「待って待って~。作戦決めようよ作戦~。そこからパーティ分けよう~」

「エリスちゃんもそれに賛成で~す」

「おう、ステラヴェルチェ襲撃作戦だな。決めていこうぜ」


 おっとっと、作戦会議! そうだよね、何の作戦もなしに王宮に突っ込んだら『それ、情報収集した意味無くない?』ってなっちゃうもんね。まず、カシュパは十中八九王宮の二階フロアに居る。そして護衛の兵士が数人、出入りしてる商人や貴族が王宮の一階フロア奥で優雅に過ごしてるはず。どうするのが良いだろうね?


「はいっ! 私が王宮を燃やし尽くしますので、カシュパが出てきたら皆で袋叩きにしましょうっ!」

『Σ(´∀`;)』

「一番頭の良さそうな子から、脳筋オブ脳筋みたいな作戦が出てきたねぇ~……」

「リアちゃん……」

「だめですかっ!?」

「それはちょっとヤバいッス!」

「外からバカスカ撃って、万が一にも魔術が効かねえバリアとか張ってたらどうする? 無駄撃ちだぜ」

「反射される可能性もありますね。魔術対策は事前に取りやすいですから」

「此方も、それはあまりにも……!」

「可能性はゼロではないよねぇ~」

「そこまで偵察していないので、なんとも……」

「では、突破力に優れた人員で二階のカシュパを襲撃。広範囲の殲滅能力に長けたリアちゃんが一階フロアの四方八方に魔術を放ち、わたくしが雑魚散らしをしては? わたくしは魔術が効きませんし」


 なるほど、リアちゃんが一階を燃やしてる間にアイギス中のペルちゃんがその中を駆け巡って応援を潰す、と。


「ほな、ワイはカシュパの首を落とすパーティがええな」

「此方もレイジ殿と共に参りまする」

「エリスちゃんは二階まで上がったら、全域ギリギリに届きそうなところで支援に回ろうっか~?」

「面倒なバフやバリアがあれば剥がしに行ったほうがいいでしょう。私はカシュパ側に」

「蛇だっけ~毒あるんだよね~? 僕は毒に耐性あるし、いい勝負出来そうじゃな~い??」

「俺も火属性なら効かねえ。セルフバーニングがあるぜ」

「ああ、カード当ててたねぇ~」

「んっ、様子見で階段に陣取る。魔神銃マシンガンで足止めする」

「じゃあ砲撃支援に回るッス!」

『(`・ω・´)!』

『わんっ!! (一緒に守ろっ!!)』

『ヾ(*´∀`*)ノ』


 あれ、なんだか班分けがサクサク進行してる……? おにーちゃんとどん太がレーナちゃん、赫さん、エリスさんのガード役に。レーナちゃん、ペルちゃん、ハッゲさんが火の海の中で雑魚の相手をすると。


「私、魔術を撃ち終わったらお姉ちゃんと一緒に、カシュパを殺しに行きますっ!」

「殺意が高え……」

「とんでもない殺意よこれは」

「滅茶苦茶張り切ってるね……」

「ん~。じゃあ、私の従者を分けてパーティ編成にしたほうがいいかもしれないですね」

「え、出来るんだ?」

「どん太、おにーちゃん、私の指揮から外れるけど大丈夫? レーナちゃん達を守ってほしいの」

『(`・ω・´)b』

『わんっ!! わぅぅん!! (初めてのお使いだぁ! 任せてね!)』

「大丈夫みたいです。万が一に死んじゃった場合でも、死体安置所に入るはずなんで……」


 それじゃあ班分けは……【私、リアちゃん、千代ちゃん、レイジさん、お昼寝さん、ミッチェルさん】、【ペルちゃん、レーナちゃん、ハッゲさん、エリスさん、赫さん、どん太、おにーちゃん】。今回は6人と7人の――――


「ぁ……すびばぜ……わ、っち……も、行きた……」

「あ!!! つくねさん!! 行きましょう!!!」

「ひぃぇぇええ……!? いき、行きます、行き……よ、よろし……っ……く!!」


 つくねさん! どん太に埋もれてたから見えなかった! 黒髪のショートボブに黒い服でどん太に抱きついてるから、一体化してて見えなかったよ! ごめんなさい!

 つくねさんは私のパーティに入って、どっちも7人パーティだね。どん太と分断されるの初だけど、火力でガッチリ固めるにはこれが一番だよね。向こうはどん太とおにーちゃんを信じて任せよう!


「それじゃ、ギルドポータル開くよ~。パーティは組んだかな~? そっちのリーダーは? どう、漏れ無い~?」

「わたくしがパーティリーダーですわ! 7人、どんちゃんとフリオニールさんも入ってますわ!」

『わんっ!!』

『ヾ(*´∀`*)ノ』

「よーし、大丈夫そうだねぇ~。こっちも7人、大丈夫だっ! いくよ~」

「あ!! できるだけ住人のNPCは殺さないで下さい! 出来れば!」

「あ、そうだったね~。皆それだけ注意してね~? あ、でもメルティス教会の神官は殺して良いよ~」

「っしゃあ、行くで行くでー! 楽しみやなぁ!」

「これから他国に攻め込みに行くのに、ピクニックみたいにはしゃいじゃって~もう~」

「おう、ピクニックみたいなもんだろ。夜は肉だから、魚と野菜メインで弁当作っておいたぞ」

「ほんまにピクニックに行く気のハゲおるやんけ!!」


 それじゃあ、行ってみようっか! ステラヴェルチェまで小旅行よ! ピクニックしに行くぞーっ!!

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