Memory of Luteola. part3
◆ 氷の宮殿・二階 ◆
「グー、たくさんあばれた!! たくさん、たおした!!! ほめて、ほめて、ごしゅじ――――」
『グスタフが巨人グーを撃破しました』
「なんだってこいつァ味方を殺し始めたんだァ?」
「こちらの魔術師殿の術ですわ。強力な魅了の効果を感じましたもの」
「あ……え~っと~~……」
「ここをほぼ無傷で突破出来た。それで十分だろう? リーダー、急ぐぞ」
「この先が謁見の間だ、激しい戦闘になる! 各員、装備の状態をチェックしろ! リンネさん達も、この先は危険だ……付いてきてくれるのはありがたいが、この先……命の保証はどこにもない。もし――」
「覚悟の上です!」
「……! そうか、なら……これ以上は言わないさ」
『進行停止中……。バフ・デバフによる効果も停止します。中間フェイズに到達しました。進行状態を保存します』
『以降、やりなおした場合、この地点から再開出来ます』
ここで中間なんだ。また周囲の時間がピタッと止まった……一応制限時間が5分って制限はあるのね。この時間で装備とかアイテムとかのチェックをしておいてねってことなんだろうね。装備は誰も破損したりとか問題なさそうだし、この時間はちょっとおにーちゃん達と話をする時間にしようかな。
「皆、大丈夫? 怪我してない? おにーちゃんも大丈夫?」
『(*´ω`*)b』
『大丈夫さ、あの時とはまるで違うね。本当はね、ここで……グスタフとスージーが死んでしまったんだ』
え……。そうなんだ……。今回は、生きてるけど……。本当はそうだったんだ……。やっぱり思い出すと、辛いよね……。
「私は何も問題ないですっ! マナも全然使ってないです」
「此方も特には。それにしても、巨人ですか……。アレは大昔に滅んだはず、それともその大昔の時代で御座いますか? ここは」
「グスタフさんが頭をかち割ったこの死体、見てください! これ、聖痕じゃないですか?」
『再生体、とでも言うのかな。霊廟に安置されていた遺体を復活させて、聖痕を焼き付ける。もしくは再生体から力を引き抜き、取り込む。英霊継承法なんて大層な名前を付けられていたけど、やってることは外道そのものさ』
「聖痕ですか……。では、大規模な蘇生の術を用いて、そして操り人形にしていたと。しかし、効力を感じませぬ」
「お姉ちゃんの投げキッス一発で破壊しちゃったみたいですねっ!」
「え、マジで……?」
「破壊力抜群の投げキッスに御座いますか! 此方も見ておきたかった!」
「私はバッチリ見ました! ウインクまでしてバッチリ決めてました!」
「リリリ、リアちゃん!? 何もそこまでバラさなくても……!」
おのれリアちゃん……! 何もバラすことないじゃないの!? どうしてそんなに嬉しそうに悪い笑顔を浮かべてるのかなぁ~?! ええい、それよりもこの巨人グーとかいう奴の死体よ! もうこの世に居ないはずの滅んだ巨人族って、もしかしてだけど……。これってねーさんを生き返らせた方法とほぼ同じ方法で復活させた巨人ってこと? だとしたらあの時、ねーさんを生き返らせた奴とは別に居たもう一人って、ねーさんにこの聖痕を刻んで操り人形にするつもりだったってこと……? そう考えると、私が自由意志のアンデッドとして復活させたのってかなりいいことをしたのでは? まあ自由過ぎて今は出ていっちゃったわけなんだけど……。メルティス側の傀儡になるよりは全然良い結果よ。
「もう!! それより準備は!? いいの!?」
「此方は構いませんよ! そうですか、そうですか……ふふふ……」
「大丈夫ですよ~! えっへへへ……」
『Σ(´∀`;)b』
『大丈夫だ、この先の謁見の間……覚悟しておいて欲しい』
覚悟、かあ……。わかった、おにーちゃんが見て欲しいのはきっとここからなんだろうし、しっかり目に焼き付けるよ。何がおきたのか、何を見て欲しいのか。
『進行を再開します……3……2……1……』
「準備は良いか! 突撃するぞ!」
再開と同時に、フリオニールさんが謁見の間の扉を蹴破った。ここが相手の最終防衛ラインなのかな、きっとここには大勢の僧兵が待ち構えて――――
「――――コル、ダ…………?」
「……来たか、十分成長したコレの収穫が今ちょうど終わったところだ。この絞りカスにはもう用は無い。全く、どこに隠れていたと思えば、お前がコレを匿っていたとは、しかしよくぞコレを大事にしていてくれた。感謝するぞフリオニール、やはりお前は余の忠実な犬だ」
「マテオ様、これで必要なものは全て……。王座の間へ向かいましょう」
「準備は整っております」
「では、さらばだフリオニール。ほれ、まだコレは少し息があるようだぞ? 最期に何か話でもしてから余の元へ来るが良い……ハッハッハッハ…………グレーターテレポーテーション」
『氷の11世、及びその配下が転移しました』
――――どうしよう、吐きそうなぐらい、私今……どうしようもないぐらい怒ってる……。
「コルダ……? コルダ、コルダ……!!!!」
「フリオ、ニール……。ごめんな、さい……罠、だったの……。私……誘き出す……ため……」
「カヨコ!! カヨコ、どうにか出来ないか、何か、何でも良い、治療出来ないか!!」
「…………人造人間、だったのですか。核を抜かれていますから、もはや、どうにも……」
「嘘だ、いや、違う……! カヨコ、すまない……!!!」
「いえ……」
「聞いて……フリオ、ニール……。わたし、は……過去の、ルテオラを救った、忘れ去られた、英雄……コルダ・ルテオラの…………模造品、だったのよ…………」
◆ ◆ ◆
過去、ルテオラは絶氷の怪物と呼ばれる恐ろしいモンスターが出現し、国の存続を危ぶまれる程に被害を受けていた。その絶氷の怪物と呼ばれる恐ろしいモンスターを討伐したのが、純白の黒姫コルダ・ルテオラと言う女傑であった。
純白の長い髪に黒いドレスを纏い、聖剣術と魔剣術を同時に操る相反した姿に【純白の黒姫】という矛盾した二つ名が付いた彼女は、絶氷の怪物との激戦の末に見事討伐に成功したが、相反した力を限界以上に振るい続けたことが原因で命を落としてしまった。
人々は彼女を英雄と称えたが、聖メルティス教会としては『魔剣を操る者を英雄と認めるべからず』と、彼女の死後に『悪魔と契約していた偽りの力』『魔神を崇拝していた異端者』などと悪評を流し、そして歴史に彼女の名が残らないように厳重にその存在を隠蔽した。時代の流れとともに次第に人々はコルダ王女の存在を忘れ……。そして、コルダ・ルテオラは忘れ去られし英雄として、その名を闇に葬られた……。
◆ ◆ ◆
「聖核は、マテオに……取られ……ゲホッ……」
「コルダ、もう喋らなくて良い……! 俺が、必ず……!」
「効かない、わ……。あなたの、力は、聖なる力……。マテオには、効かない、のよ……」
「…………なら、なまくらでも盾であろうとも、二度と喋れないようになるまで叩き潰してやるさ」
「今の、マテオは……。あなたより、ずっと、強い……。だから、受け取って欲しいの……私の、魔核を、アイツが絞りカスと言って、捨てた、コルダ・ルテオラのもう一つの力……」
「待ちなさいコルダ、それを引き抜いたら貴方は、本当に……!」
「いいの、カヨコさん……。どの道、聖核を、抜かれたから…………。私は、もう、体が、崩れて……。ボロボロに、なるだけ、だから……。ね……? お願い、フリオニール……」
こんなのって、ないよ……。これじゃ、こんなのじゃあんまりだよ……!
「嫌だ、逝かないでくれ、嫌だ……コルダ……!」
「作り物の、私でも……。まだ、愛してくれるの……ね……」
「コルダはコルダだ、作られた命でも、天使だろうとも悪魔だろうとも、愛してる……愛してるんだ」
「嬉しい……やっと、最期に、愛してるって……うっふふ……。私も、愛してるの……。だから――――私に、呪われてね……ずっと……消えない傷に、なって……貴方の……愛して――――」
『コルダ・ルテオラが絶命しました』
『★★★反逆の聖騎士フリオニール(Lv,180)がコルダの魔核を受け入れ、呪われました』
「あ……っ……! ああああ…………!!! あああぁぁああああ…………!! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『★★★反逆の聖騎士フリオニール(Lv,180)が★★★復讐の魔戦士フリオニール(Lv,????)になりました』
こんなの酷すぎる……。どうして、なんで……。許せない…………!!! あ……! でも、私なら、アンデッド化させて、そうすれば今のおにーちゃんと……!
『それは、いけないよ』
「どうして!」
『あのコルダはね、あのフリオニールが愛したコルダなんだ。おしゃべりフリオニールの愛した女なんだよ。俺はね、おしゃべりはやめたんだ』
「…………そんなの、だって……」
『いいんだよ、我が主。あなたは優しすぎる。大丈夫さ、もう俺は、受け入れたんだ』
…………ずるいじゃん。そういうの、ずるいと思う。
「…………行くぞ。あいつは、必ず……!! ルテオラを、解放する……!」
「ああ……」
「…………殺っちまおうぜ」
「この戦いが終わったら、皆で葬儀を上げましょう……。楽しかった時の思い出を、語って……それで……」
「確殺、前進」
さよなら、コルダ王女……。貴方の仇は必ず……。
『君の呪いは、解けてしまったよ。だから――――さよなら、コルダ』
『フリオニールが【★想いを伝える紙片】を魂に焚べ、焼き払いました。片割れも焼失しました』
「お姉ちゃん……」
「リンネ殿……?」
「大丈夫、私達も行こう」
『レッツ――――o(・∀・)○――――ゴー!!』
「おばけ殿、空気というものを読んだことは御座いますか?」
『Σ(´∀`;)』
「ある意味、読んでると思うよ。大丈夫、行こう!」
ずるいよ……。伝えるだけ伝えて満足して、またおしゃべりやめちゃうんだ。ずるい……。でも、そうだね。もうおしゃべりフリオニールじゃないんだもんね。じゃあ、行こうか……おにーちゃん。
◆ 氷の宮殿・玉座の間 ◆
「――――今更来ても、もう遅い。見よ、これぞ神に通ずる力、新たなる肉体。怠慢なるメルティスに代わり、余が新たな神となってこの世を支配するのだ。フリオニールよ、お前程の強き力を持つ男ならば……そうだな、飼ってやってもよい。あんな作り物よりも、もっと佳い女をいくらでも与えてやろう」
「ふざけるな……!!! 貴様はここで滅ぼす、俺が、この手で、必ず!!!」
これが……天使食らいの儀式を済ませた、マテオ・ルテオラの、新しい肉体……。今まで戦ってきた奴らと、格が違う。そんな、プレッシャー……。何もかもが桁違い過ぎる、それに――――私の中に生まれる殺意のレベルが、違いすぎる……!!! こんなに邪悪なクソ野郎で、しかも天使みたいな羽にヘイローまで……絶対殺す、絶対倒す……!!!
「まさか、余と戦う気か? 正気か? 敵うはずがなかろう。身の程を――――ぐべっ……!?」
『フリオニールが【フリスビー】を発動、クリティカル! 聖龍神マテオ(Lv,????)の顔面に直撃しました』
『m9(^Д^)』
――――やった。やりやがりましたよ、この男……。いい音したなぁ~……『こ~んっ☆』だってさ! さっきまで堂々としてた奴が、鳩が豆鉄砲食らったみたいにきょとーんとしてやんの!!
「――――…………っふ、ふ……! あ~あ! そうかい、そうかよ! 全く、こっちが真剣にキレてる時に、どうしようもねえぐらい良いセンスだぜ、赤いにーちゃんよ!」
『(*´ω`*)b』
「おいトカゲ天使野郎!!! 身の程が~? なんだって~~?? 顔面に盾ぶん投げられてんのに気が付かねえ奴が、さっき神だとかなんだとか抜かしてやがったなぁ~~~!!!」
『★フリオニールが【プロヴォーク】を発動し、聖龍神マテオ(Lv,????)が【憤怒】状態になりました』
『m9(^Д^)9m』
『フリオニールが【プロヴォーク】を発動し、聖龍神マテオ(Lv,????)が【激昂】状態になりました』
「ゴミがァ……!! 余の顔に、傷をつけよってェ……!!!! 死に晒せェエエエエ!!!」
『聖龍神マテオ(Lv,????)が【アナイアレーションブレス】を発動しました!』
――――火!!!
「炎の衣で包み給う! エレメンタルバリア!!」
『パーティ全員が【火属性攻撃耐性】状態になりました』
『フリオニールが【ハイパーガード】を発動、【アナイアレーションブレス】を完全にガードしました!!』
「何ィ……!?」
「間抜」
『スージーが【ラピッドファイア】を発動、聖龍神マテオ(Lv,????)に微小ダメージを与えました』
「超硬」
「阻め、ボーンシールド!!」
『パーティ全員が【ボーンシールド】状態になりました』
「マテオ様をお守りせよ!!!」
「雑魚は俺様達が相手してやらぁ!! 行け、ぶっ飛ばしてこい!!」
「行け、リーダー!」
「此方も加勢しまする!!」
「援護しますっ!!! お姉ちゃん、おにーちゃんを、お願いしますっ!!」
「わかった!! みんな、気をつけて!!」
全く、タイミングも何もあったもんじゃないよ、おにーちゃん! でもこっちにさっきまで張り詰めてた負のオーラが、木端微塵に吹き飛んだ! 向こうも色々と狂ったみたいだし、攻め込むチャンスが生まれた!! 行こう、相手が何者であっても、絶対に倒して見せる! それに私も、あいつに一発ガツンとお見舞いしてやらないと、気が済まない!!!
――――覚悟しろよ、トカゲ天使野郎…………!!!
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