ご褒美からのご褒美の時間
◆ 魔神殿・女性テイマー用大浴場 ◆
嫌なことがあっても、悲しいことがあっても、お風呂に入ると大体がどうでもよくなる。だからもっと人類はお風呂に入るべきなんだよ。例えこれまで出ていた宝箱に、もしかしたら二重底の奴があったのかもしれないけれど! お風呂に入れば、忘れる……はずなんだぁ……!!!
「ア゛~~~…………」
「ウ゛ァ゛~~~~…………」
「どんどん、お姉ちゃん達はショックから暫く立ち直れないから、私が洗ってあげますねっ!」
「大きくて洗い甲斐が御座いますね~」
『くぅ~ん……くぅ~ん……(お水がいっぱいだよ? どうするの? 不安だよ?)』
いけない、どん太が不安そうにしている……。お風呂は怖くない、嫌なものじゃないよって教えてあげないと……。いやでも、っくぅ……。二重底ショックが、計り知れない……!!!
「……どん太! お風呂は温かくて気持ちいいから! お風呂から上がったら、美味しいご飯もいっぱい食べれるからね! ちょっと大人しくしてなっ!」
『わうっ!? わふっ! (わ、わかった!)』
否ッ!! このままではお風呂と一体化してお風呂人間になってしまう! 立ち上がれ私、これまでもあったであろう二重底の宝箱は既にデータの海の底よ!! 今まで妙に中身が少なかった宝箱とか、二重底のやつあったんだろうなあ!! うわああああああ!!!!
「……しっかし、大型のテイミングモンスター用に大浴場があったとは知らなかったなあ~」
「オリビエさんが作ってくれたバスタオル、ちょっと高かったですねっ」
「これを身に着けねば入れぬ掟です故、致し方有りませぬ。しかししゃわー……? を浴びたり、浴槽に入ればよく洗わずとも忽ちキレイに浄化されるとは、流石魔法の湯に御座いますね」
「ん~、本当ねぇ~……。じゃあ、まずは軽くお湯で全体を洗ってあげようね~」
「は~いっ!」
お風呂に入る、シャワーを浴びるモーションでキレイになるのは、多分ゲームのシステムの都合なんだろうなあ……! NPCさん達には『魔法の湯』として認識されて誤魔化されてるみたいだけどね! そこは細かく気にしちゃだめなところなのよ! このバスタオルだって、絶対外れないし下から覗き込んでも『プレイエリアの外です』って絶対見えない仕様になってるし、なんなら悪質行為で注意されたり警告されたりもするらしいから注意してねって大浴場の入り口に書いてあったわ。
んで、どん太みたいなテイミングモンスター系はシャワーを浴びたり、浴槽にどぼーんと入るだけじゃキレイにならないし、満足もしないシステムなのね。こっちはちょっと細かい。特にどん太みたいなもふもふ系だと、時間経過と共に毛艶が悪くなったり、最悪体調悪化とかするから、最低でも一ヶ月に一回は入った方がいいって教官NPCの調教師サディーナちゃんに言われました! どん太みたいな毛の長いもふもふ用のブラシも買いましたぁ! 千代ちゃんのお古(売却承諾済み)を売ったお金で十分過ぎるぐらい足りましたよ。
「はいこれ、アルスちゃん特製の洗浄薬剤。なんか効果が良くて、たっかーーいやつ。いっぱい使お!」
「あ……。わ、わっちも、やりたいです……!」
「んっ! 一緒にやろう! はいっ!」
「うぇへへ……! あ、ありがとう、ございます……」
「どんど~ん、顎の下~! あ、結構汚れてますね~~いっぱい食べるから~」
『わうぅぅ~~~……? きゃぅ……?』
「…………」
「な、なんですかっ!? 此方はきっちり、キレイにしておりますっ!!」
「後で千代ちゃんも洗ってあげようか? 人用のやつも買ったんだけど。毛艶が良くなるって」
「ええ!? 此方は自分で、出来ますが……?!」
「まあまあ、遠慮せず」
「えっ、では、その、遠慮なく……?」
よし、後で千代ちゃんの髪も洗ってあげよう。スキンシップってやつよ、リアちゃんもそのまま流れで洗ってやるんだあ。ついでにつくねちゃんも――――出来れば、にしておこう。
『わぶふっわふっ!! (くすぐった~い!! あっはは!!)』
「こらこら、暴れるんじゃないの」
「お腹の下、やっぱり汚れるポイント、ですね……リアルと、一緒だ~……」
「あれ、つくねちゃんもしかして、リアルで犬飼ってる?」
「秋田犬を飼って、ました。去年、死んじゃって……あ、で、でも、気にしないでください! あの子は、ふふっ……! 特に病気もなく21歳まで生きてて、最期の日もお散歩に行っていっぱいご飯を食べて、すっごく元気に旅立っていったお爺ちゃんだったんですよ! あ……えっと、あの……すみません……一人で盛り上がっちゃって……」
「ううん、全然! 凄いねえ、かなり長生きで元気だったんだ~! つくねちゃん達に愛されて幸せで、長生き出来たんだろうねえ~」
「そう、だといいなっ……ふふっ……!」
洗うの慣れてるなー上手だなーって思ってたら、つくねちゃんは秋田犬を飼ってたんだ~。しかもつくねちゃんより年上だったとは、かなり長生きしてるし、21歳でお散歩もしてご飯もモリモリ食べるって、元気過ぎるでしょ……。それが長生きの秘訣だったのかもしれないねえ。
「テイマー、やろうかなって思ったんですけど……。面倒見きれないと思って、可哀想だから、やめたんです」
「あ~……ログアウト中は完全に放置になっちゃうもんね。リアルよりこっちの方が接続時間長く取れるか、交代で面倒見れるようなパートナーが居ないと厳しいよね~。どん太、前足ちょっとあ~げて」
『わうっ!! (はい、どうぞっ! あらってくださいっ!)』
「…………いつの間にか洗われてニッコニコになってるじゃんどん太」
『わふぅぅぅ~~~♡ (気持ちいい~~~)』
「お顔まわりはこの小さいブラシですか~?」
「あ……初めてなら、わっちが、洗いましょ、っか……?」
「不安なので見たいです!! おねがいしますっ!」
「お~どうやって洗うのか見よう~」
どん太め、美少女達に囲まれて洗われて幸せな奴め……。まあどん太からすれば私達みたいなちっちゃくてお肉の少ない軽い奴じゃダメダメで、モッチリーヌちゃんみたいなふわっふわで大きい女の子じゃないと駄目なんだろうけどね。逆に人間のほうが(恋愛対象として)好き~~なんてなったら怖いし。あ、顔の周りってそうやって洗うんだ……。つくねちゃんが居ない時は私がちゃんと洗ってあげないと。いや、リアちゃん辺りが覚えてるからいいかな……?? いやいや、なんでも最近リアちゃん~千代ちゃん~おにーちゃん~~って頼りすぎね、私。
「どん太君が洗われてる~……」
「でっかあ~~……!!」
『ガウッ!!』
「あ~ごめんごめん、余所見してごめんね~」
「お風呂中に浮気しちゃ駄目よ。自分の子を大切にする時間なんだから」
「そうですね、すみませ~ん……」
他のプレイヤーさん達も大変そうだなあ~……。しっかしこれ、今は人数がいるから洗うのも分担して出来るけど、どん太とペア時代に『くちゃい!』って言われてたら大変だったな~……。まずはどん太を洗える場所を探して、そこでじゃぶじゃぶ洗ってあげなきゃ――――あ、サディーナちゃんもアルスちゃんも居ないから、ブラシもシャンプーもないわ。しかもこんな大浴場無いだろうし、絶対川とかで水洗いしかなかったな。魔神殿、あってよかった……。
そういえば私の前に使えてたアニメイト・ミックスフェティッシュって制圧系スキルの括りになってるのが後で判明したけど、メルティス側のプレイヤーにも制圧系スキル持ちっているのかな? 例えば聖女・聖人みたいなクラスで聖域展開みたいなスキルとか? 下手したら女神殿が建てられて魔神殿みたいなのが向こうも用意されるーとかありそうだよね。それが未だに無いってことは、メルティスって本当に何もしない女神なのかな……。何かはしてると思うんだけどねえ……。
「――――こんな感じで。じゃあ、反対も洗っちゃいま――――あ、ブルブルしますよこれ」
『わうぅぅぅ!!! (ん~~~!! 気持ちいいっっ!!!!)』
おわああああああどん太ぁあああ!!! いきなりブルブルするなーーー!! お前のデカさでブルブルやったら、広域スプラッシュショットみたいな威力になるやろがぁ!!!!
「わーーーー!?」
「あらまあ凄いブルブル」
『ワウゥゥーーーン!?』
「きゃーーー釣られてうちの子もブルブルするーーー!!!」
「あらあら、あらあらあらあら……」
「どん太~~!! もうちょっと我慢しなさいよ~!!」
「我慢できないからブルブルしちゃうんですよね……うへへぇ……またお風呂に入らないと……」
「……ど~んどぉ~ん??」
『くぅ~ん…… (ご、ごめんなさ~い、でも、だって~~……)』
「したくなっちゃうのは仕方ないか~……リアちゃんも、許してあげて~……」
「ふふっ、此方は正面でしたのでっ!」
「あ、千代ちゃん被ってない! ズルい!」
まったくも~……。ま、どん太は大きいワンコだししょうがないっか! 我慢できないのは我慢できないのよ――――あれ……。どん太って、ワンコだっけ……? ま、いいっか……反対側も洗って終わったら拭いてあげて、乾かしてご褒美タイムにしてあげよう。
ん……? あれでもどん太ってばお風呂気に入ったからこれもご褒美なのでは? ご褒美タイムからご褒美タイムになるだけなのでは……!? ん~~~……。まあ、いっか!!!
◆ 魔神殿・ギルドルーム【ロビー】 ◆
いやあ~甘く見ていましたよ、洗うのは大事だから自分でやらなきゃだけど乾かすのは『ふわふわ特急券』とか『バッチリセット特急券』とか色んな種類の、破ると魔術が発動するチケットがあるんだもん……。ふわふわとバッチリセット特急券を使ったらあっという間に乾いて、どん太のもふもふが切り整えられて、足裏の毛とか爪までキレイになってたよ。便利過ぎるでしょこのチケット自販機……。ありがとう、神運営、神機能。
「ん~~~♡ この時間に、こんな豪華なの、食べて良いんですかっ!?」
「此方は幸せに御座います……。此方は幸せに御座います……」
『(*´ω`*)』
『わっふっ♡ わっふっ♡ (ごっはん♡ ごっはん♡)』
さてさて、お風呂から上がってきてバビロニクスに帰る前に……。バビロニクスには他のギルメンさん達が居るだろうからこっちでこっそり食べちゃうことにした【◆ランダムフルコースお食事券】、【◆ランダムギガ盛りお食事券】での食事。使い方はさっきの特急券と一緒で、これをピリッと破くと目の前(もしくは近くの台になるもの、最悪床)のテーブルにミニチュアのドラゴンがポータルから出現して、籠に料理を入れて持ってきてくれるんですね! 一生懸命引っ張って持ってくる様子がとても可愛らしかった……。
ちなみにどん太と千代ちゃんのギガ盛りの方は異空間から特大のクローシュで中身が隠された大皿が登場して、異空間のポータルの向こうからメカメカしいアームが現れて『パンッパカパーーーン』ってサウンドと共にクローシュを開けてくれる演出付きだった。しかも最後には手を振って『Good bye :D』ってログまで残していくし。遊び心全開よ……。
「あ、野菜いらないです」
『Σ(´∀`;)』
「えーっとリアちゃんのはメインが、ダイヤダイルのふわふわ焼き、蒸し野菜詰め……野菜の部分全部おにーちゃんに押し付けてるし!?」
「リンネさんのメインが、とろとろもっちりエビチリグラタンで、わっちのが10種の肉と野菜煮込み、フリオニールさんが、海鮮特大包み焼きですね……。コースだから他のも含めて、量が……凄いですけど……」
「余ったら此方が食べます」
「…………だそうです!」
それぞれランダムのフルコースだったけど、リアちゃんはワニが食べたいってダイヤダイル、おにーちゃんは海鮮特大包み焼きがいいって、他の2つは私とつくねちゃんが食べることにして、千代ちゃんとどん太は――――
「千代ちゃん達は、サベージボアの丸焼きメシ……それ、中にタレの染みたご飯入ってるんでしょ? 重量ヤバくない……?! 置かれた時にテーブルがミシって言った気がしたんだけど!?」
うーん、デカい……。イノシシ系なのかな、食べるのに適さない部位を全部取り出したり切り落としたりして、取り出した空洞にこれでもかってぐらいお米が詰め込まれてる……。何百人前なのよあれ、いやー絶対美味しいやつだけど、普通絶対食べきれないからね、アレ。食を我慢とかなんだとか言ってたのに全力で目をつぶってるご飯よこれ。
「…………いただきまーす!! はい、どん太殿はまずはこれですね!」
『わうわう~~~♡』
「無視したーーー!? しかも、よ、よ、妖刀を包丁代わりに使ってるーーー!?」
「気にしたら負けです! いただきまーす!!」
「リアちゃんは野菜本当に全部おにーちゃんに押し付けてるしー!?」
『(*´ω`*)』
「リンネ殿、細かいことは気にせず!」
「凄い、なんだろう、色々と誤魔化されてるような気がする……!」
私のパーティ、これで良いのかな……。良いか……。んで、これを食べきったらステータスとかスキルとか手に入るのかなーって、そう思ってたんですけどね? 特に何も記載がなかったのよね。一応テキストには『・なにかいいことがあるかも!』っては書いてあったんだけど、あ、ギガ盛りの方もね。シークレットレアリティなんだから、何かしらはあるよね……? ね?
――――それにしてもこれ、食べ切れるかなあ…………。駄目だったら本当に、どん太と千代ちゃんに食べてもらおう。じゃ、いただきま~す……。
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