うみのどーくつダンジョン・12 ~新世界~

◆ うみのどーくつダンジョン・1階層 マリアンヌ視点 ◆


 海の洞窟ダンジョンと聞いた時は正直、そんな場所にこの様な服装で行って大丈夫なのだろうかと心配だった。しかしリンネやリア様、姫千代さんや兵長殿の様子からするに大丈夫なのだろうと。ここからは兵長殿の後ろにビッタリとくっついて来てくれと言われて少し待機していたら、周囲が突然洞窟の中から海の中に変わったので大変に驚いてしまった。そして息ができないのではないかとあわあわしていると、誰もその様な素振りはしていない。もしやと思い口を開けば呼吸が出来る……摩訶不思議な場所だ。これが、普段リンネ達がしている冒険なのだろう。


「おにーちゃん、どん太に守護かけてくれる?」

『(*´ω`*)b』

『わんっ!!! (走る! 走る!)』

「あ、た、食べるんだ」

「うんうん、食べるよ~」


 守護、走る、食べる……。よくわからない単語が飛び交う中、周囲にモンスターが集まってきているのに気がついた。生きたモンスターを直に見るのは初めてで、正直少し怖い――だが、応戦せねばと思っている内に、それは起きた。


「散れ」


 一瞬の煌めき。舞い散る華のような、剣閃。それが剣閃だということに気がついたのは、姫千代さんがいつの間にか右手に握っていた剣を見たからだ。これは確か、刀という剣だったか……。美しい剣だと聞いていたが、これを美しいなどという言葉で片付けた連中は愚かで語彙力の乏しい能無しだ。なんと妖しく、なんと艷やかで、思わずその光景に恍惚と興奮から溜め息が出るほど。あまりの迫力に鳥肌が立ち、震える。しかしこれら一連の流れを言い表すには、少々長々と言葉を飾りすぎているな。なんと言えばいいか。

 ――――ああ、そうか……なるほど、どうやら我も能無しらしい。抜刀、剣閃、納刀……これらの所作の全てを圧縮して、最後には『美しい』という言葉しか出なくなるのだ。我の言葉で表すところの……芸術というものだ。

 む……? なんだか少し、体の調子が良くなったというか、軽くなったというか……不思議な感覚がした。なんだろうか?


「おお? 範囲攻撃も覚えたんだ!」

「ええ、使い所がなかったもので……。乱華、無双緋影に変わる斬撃を飛ばす、舞のようなものです」

「ええ! それ、通常攻撃みたいなもの?」

「そうですね。雑魚散らしには丁度よいかと」

「鮮やかで綺麗な雑魚散らしだな~……。あ! 来たよ、黒か~」

「黒、黒ですね……」


 どうやらリンネにはこの芸術はそこまで驚くようなものではないらしい。はたまたこれを理解していないのか……。いや、前者なのだろうな……。しかし来たとは? 黒とは、何の――――なんだ、あれは……!! 黒い、悍ましい何かが、どん太君を追いかけて来ている!!!


『わうわう~~!! (やっつけて~!!)』

「はいはい。行くよ~……穿て!! カーススピア!!」


 ッ!? い、一撃、一撃……!? あの巨大な漆黒の巨大魚が、一撃で!? それも軽々と、何だ今のドス黒い槍は、魔術!? 魔術か! どれだけの威力があれば、あの巨大魚を一撃で屠るほどの……!! く、うっ……!? なんだ、体が熱い、力が……湧き上がるような、力が……!


「お~。基礎ダメージが上がってもダメージ1族にはやっぱり1ダメージだけど、スリップダメージの基礎ダメージも上がってるから一撃なのか~!」

「へ、え……。そこにも、効くんだ……」

「ん、後一匹殺ればレベル30行きそうだね~マリちゃん」

「へ? え……?」

「よし、どん太! もっかい!」

『わんわんっ!! (わかった!!)』

「次は逆に黒いのだと良いですねっ!」

「損した気になるよね~黒じゃないと」

「た、確かに……。回数重ねると、赤、出やすいんでしたっけ……?」

「恐らく? 推測の域は出ないけどね~」


 レ、ベル……? ああ、そうだ、リンネには我等に力を与えるような能力があると言っていた。その段階のようなものが、数値のようなもので見えているのか? レベル30というのが、その数値の一区切りなのだろう。恐らく、そうだ。それにしても、何もしていないのに強くなって……良いのだろうか……?


「つみれ、あ、あんまり、大きくならないでね……。ちっちゃくて、可愛くて、強くなるんだよ……」

『ぴゃぅぅ~~!!』

「ん、でも、大きくなりたかったら、なってもいいから……。どんなつみれでも、育ててあげるからね、んひ……っ」

『ぴゃうぅ~~!!!』


 あの白い可愛らしい、ドラゴンなのだったか……。あの子も成長しているのか……? 行く行くゆくゆくは、巨大龍のようになってしまうのだろうか。あのままの大きさで居てくれたら、どれだけ可愛らしいことか……。


「来た! 黒! 良かった~」

『わんわんわんっ!! (よろしく~~!!)』

「穿て!! カーススピア!!」


 く、うっ!? ま、まただ、凄い力だ、体が弾けるかと思った。あの巨大な、黒と呼ばれるモンスターを軽々と……。やはりリンネは、次期神か何かなのではないだろうか……。


「マ~リちゃんっ!! 進化のお時間がやって参りました!」

「し、進化……?」

「マリちゃんは実は、というかわかってると思うけども不死者です! 一度死んで、私が生命を与えてバビロンちゃんが肉体を与えました! で、マリちゃんは今、不死者の中でも大変に下級の存在なんです。悲しいことに!」

「か、下級……」


 いや、下級とは……。これだけの力、恐らく常人を遥かに超えている。これでも下級とは……ああ、姫千代さんや、リア様も……もしや、元不死者で……。いや、現在もそうなのか、まさか……。死者に生命を与える能力、高位の神官ですら相応の準備と代償を必要とするはず。それがこの軽さで言われると、なんとも格の違いというものを感じるな……。


「んー……。マイスターと、クリエイターと、マグナティストかあ~……。マイスターは魔界技師の系統で、クリエイターはもう戦わずに生産一辺倒、マグナティストは魔界技師の技術と芸術の融合な特殊な奴なんだけど……。聞いた感じどれが良い?」


 すまない、よくわからない……。だが、我も今の強大な力を見て思ったことがある。我も……。少しだけでも良いから、その力に近づいてみたいな。生産一辺倒なもの以外なら、どちらでも良いと思う。だがここは、敢えてリンネを信じてみようか……。


「リンネが選んでくれるなら、どれでも構わない」

「ん、そうかあ~そう来たか~……。クリエイターは何となくマグナティストの下位な感じがするんだよねえ~……。マイスターは魔界技師が含まれてるんだろうから、これはマグナティストで良いんじゃないかな? よし、マグナティスト!!」


 なるほど、それがリンネの選択なら、信じてみよう。魔界技師の技術と芸術の融合か……。リンネに求められているのが何か、少しわかってきたな。う……!? また、体の中から爆発するような、力が……!? ふ、ふう……。鎮まった……。力を与える能力とは聞いていたが、これほどとは。しかしこの力をいくら与えられても、姫千代さんのようなあの美しい・・・領域には微塵も届く気がしないな。きっと、血の滲むような……それどころではない程の努力と修練の結果に辿り着いた領域なのだろう。我も我なりに、その領域に足を踏み入れてみたいものだ……。


「つみれ、進化した……? 大きく……ならないね……?」

『ぴゃう~? ぴゅいぃ~~!!』

「ん、つみれはそのままでもいいよ。可愛いね」

『ぴゃ……ぴゃふっ』

「わ。電撃のブレスだ、くしゃみで出てきちゃったんだ、ふふふ……」

『ぴゃう~~』


 なんだあれは、可愛すぎるだろう……。くしゃみで小さなブレスが暴発するとは、愛くるしいな……。


「来た!!! 赤!!!!」

「あ、赤だぁ……!!」

「来ましたね、来ましたよ! おにーちゃん、来ました!!」

『( ー`дー´)!』


 ん? 赤……? 赤とはいったい――――


『ギュアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


 な、な、な、な、なん、なん、なんだ、なんだあれは!? お、悍ましい紅蓮の閃光が、どん太君はアレを受けても無事なのか!? どれだけ頑丈なんだ彼は!? 平気な表情で……。我も、そうだ! シールドユニットを起動しよう、1分に1度しか使えないが、効果は剥がれるまで永続だ。確か直接の攻撃に類するものを受けなければ剥がれない、だったか……? ああ! どん太君もこれを身に纏っているのか!? なるほど、あの赤い巨大魚対策をしてあったということか!


『ギュアアアアアア』

『( °ω°)っ︵ ●』

『ァ――――』

「凄い! 開いた口のど真ん中に盾が入った! 攻撃がキャンセルされたねえ!」

「はぁああああああ!!!!」


 なんだ!? 紫色の、稲妻――――!


「いつ見ても凄いスピードですねーちよちよっ!」

「ね~。もう目で追うのが精一杯だよ~」

『(*´ω`*)』

「お、凄い……。一撃で倒した……。こんなにあっさり」


 今の稲妻も姫千代さんか! 彼女は、雷神の化身か生まれ変わりか何かなのか……!? それにあの赤い巨大魚を一撃――――ううっ!!??


「う、ぁ……!?」

「おお、経験値866万とちょい! 一気に上がったね~マリちゃん! 後7ぐらい上がったらもう45でまた進化だ~!」

『ぴゅぁぁ~~……』

「つみれも、もう、またすぐだね……。魔晶石、足りるかな……」

「あ、あるよ~」

「あ、ありがとう……! 足りなかったら、言うね……?」

「うんうん~言って~。必要そうなのいっぱい持ってきたから~。マリちゃんは一通り強くなってから、ちょいちょい戦闘訓練とかで慣らして行こうか~」

「あ、ああ……?」


 これは、全員力を得ているはず、はずなのに、あの白いドラゴンちゃん……つみれちゃん以外誰も反応しないということは、もはやこれでは満足するほどの力は得られないということ、なのか……!?


「この階はおしまいだね~。さ、宝箱回収して次行こう~」

「木、木、銀……ショボカスですね……」

「ショボカスだねえ~……」

『くぅ~ん…… (食べ物、ない?)』

「ないかも~。あったらいいね!」

「…………どうして、此方の顔も見るのですか?」

「え? だって、ねえ?」

「ねーっ!」

『ネー(*´・ω・)(・ω・`*)ネー』

『わう~』

「く、っくぅ……。今はお腹は減っておりませぬ!!」

「あ、マリちゃん! 千代ちゃんはすぐお腹ペコペコで動けなくなる大食いチャンピオンでね、千代ちゃんが死んじゃった大体の原因はなんと、腹ペコなんです!」

「え、ええ……」


 こ、こんなにも美しい剣閃を放つ剣豪が、生前餓死……!? なんとも、人は……わからないものだな……。まあ我も、生前気に入らないメルティスの神罰代行だのなんだのを語っていた聖職者共々を巻き込んでの盛大な爆死であるから、割りと言いづらい死因ではあるが……。メルティスの信徒を殺した者など、受け入れてくれるのだろうか……。


「そういえば、ちよちよを起こす時にメルティスが邪魔してきたって本当ですかっ?」

「そう! そうなんだよ! 千代ちゃんを起こす時にあのクソ女神……。メルティスとか言うゴミが邪魔しようとして来て……。ムカつくムカつくムカつくムカつく……! チュートリアルから天使を送り込んでくる邪神が、あの時の天使みたいにぶん殴ってやる……!」


 …………あ。大丈夫みたいだな。うん。むしろメルティスを信仰なんかしようもんだったら、この場でさっきの巨大魚の餌にされそうだ。よかった、我は反女神で……。天使像に爆薬満載にして大教会もろとも全部ふっ飛ばした話、今度しようかな……。


「つ、次、行こ……? あ、敵……っらあああああ!!!」

『ぴゅい~~♡』

「か、格好良い……? そう? えっへへ……♡」

「あ! そうだね、よ~し次、行ってみよ~~!!」


 …………あちらの、つくねというご友人も、怒らせないほうが良さそうだな。あの大斧を片手でとは、いやはや本当に……。人とはわからない、ものだな……。


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