天使狩り・4 ~禁じられた……~

◆ 禁じられた楽園・霊廟 ◆


『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が蘇りました』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が暴走しました』

『ドゲルゴースト(Lv,70)が【アンデッド憑依】を発動、完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が復活しました』


 ドゲルが熾天使の心臓をナタリアに捧げるムービーが入った後、機械仕掛けの人魚と全身サイボーグのドゲルが同時に起動した。


『縺ゥ縺?°縲√∩縺ェ縺輔s縺ォ縺偵ど……か、みなさ……にげ……

『これが、これが僕の力だァァアアア!!!!』

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)がエクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)を支配しました』


 機械仕掛けの人魚、ナタリアのメッセージは文字化けして読めない。読めないけど……ああ、ダブったような音声で、内容がちょっと聞き取れてしまった……。暴走したというログに反して動きは鈍く、まるで動きたくないと抵抗しているかのような……機械的には暴走してる判定だろう。なんせまだナタリアの意志が少しだけ残っているんだから。抵抗の理由は、そういうことだ。

 全身サイボーグのドゲルは、ナタリアが起動したことに歓喜し、狂ったように笑い続けている。ナタリアにほんの僅かだけ意識が残っていることに気がついていない様子で――――そしてここでようやく、ポータルから出られない状態が解除されて、動けるようになった!


「ナタリア! あれが僕たちを邪魔する敵だ! 一緒に殺そう!!」

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が戦闘モードに切り替わりました』

『――――シャサツ、シマス』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が【ガンハザード】の構えを取りました』

「あれはマズいですわ……!?」


 動けるようになった途端、ドゲルがこちらへ殺意剥き出しでナタリアに攻撃命令を出した。暴走状態から戦闘モードに切り替わった途端、ナタリアの動きがスムーズなものに変わってしまった。そして体中に取り付けられた武装、武装、武装……! 両腕に重機関銃、両肩からバズーカー砲、腰からミサイルポッドが展開して、こっちを狙ってる! このままじゃ、ペルちゃん以外蜂の巣にされる!!


「どん太にアイギスを掛けたら!?」

『わんっっ!! (僕が盾になるよ!!!)』

「アイギス!!!」

『どん太が【ペネトレイト・3】状態になりました』

『――ハッシャ』


 ――――本来はどうやって避けるのよ、この銃弾の嵐!!!!!


『どん太が【ダブルヘビーエンジェルダスト】を無効化しました』

『わぅぅぅううう~~~!!! (あれは無理な奴だったよ!?)』

『どん太が【ダブルエンジェリックバズーカー】を受け【ペネトレイト・1】状態になりました』

「どん太、金剛で耐えな!!!」

『わんっっっ!!! (やってみる!!!)』

『どん太が【金剛】を発動、頭部から背部を金剛化させました』

『どん太の【ペネトレイト】状態が解除されました』

『どん太の【ボーンシールド】が解除されました』

『Weak!!! どん太に【エンジェリックミサイル】が直撃し、24,400ダメージを受けました! どん太が【重篤な出血】状態になりました』

『ギャゥゥゥウウン!!!!』


 うわ、うわうわ……! やっぱりミサイルの直撃はペネ剥がれるし、ボーンシールドも一回しか耐えられないか!! しかもどん太の不死・悪魔属性に対して4倍ダメージが入ってる! エンジェリックミサイルは不死・闇・悪魔に特効じゃん! こっちの相性最悪だ、これは……。このダメージを最後にする覚悟で行かないと、どん太が耐えられない!


「よくやったどん太! ペルちゃん!!!」

「アイギス!!!!」

『ペルセウスが【ペネトレイト・10】状態になりました』

「ナタリアに触れさせるか!!」

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア発生装置】を起動しました』

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア・30,000】になりました』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が【バリア・30,000】になりました』

『(´;ω;)』

『フリオニールが【エナジーライト】を発動し、どん太が2,500回復しました。【重篤な出血】が解除され、【出血】状態になりました』


 うっそ~バリア発生装置とかあるんですかぁ……?! そのバリアの数字って、その数字の分だけダメージを無効化するとか、そういうアレ?! そんなの卑怯じゃない?! あ、ダメージ関係なしに10発無効化する人居たわ……。こっちと、どっこいどっこいじゃん……。

 え? おにーちゃん回復スキル持ちだったの?! そのエナジーライトって攻撃スキルじゃなくて、回復スキルなの?! 効果量はちょっとアレだけど、どん太の重篤な出血が止まったのは大きい。出来ればもう一回発動して欲しいけど、その慌てっぷりを見ればわかるよ……。連続では使えないのね……。どん太、可哀想だけどもうちょっと頑張って耐えてて。


「短期決戦。押し負けたら、死ぬ」

『07XB785Yが覚醒スキル【シューティングレクイエム】の発動スタンバイになりました!!!』

「おにーちゃん! どん太達を守って!」

『(`・ω・)b』

「起動ワードは……これを……これで!!! 聳え立て、ストーンウォール!!!」

『オーレリアが【ストーンウォール】を発動しました。周囲に石の壁が複数生成されました』


 おお!? リアちゃんが新しい魔術を編み出した!? ああ、これはギルドの魔術師チームのお姉さま達が訓練場で使ってた【サンドシールド】の強化版かな! 下級中級ぐらいの魔術だと、魔法陣がリアちゃんの魔力に耐えきれずに崩壊するから防御魔術は絶望的かと思ってたけど、更に上位のを発動出来るようになったんだね?! 起動ワードのパターン解析とかしてるみたいなんだけど、私には魔法陣の文字も何もパターンもさっぱりわからないよ!! 何はともあれ、これで遮蔽物が出来た。どん太が狙い撃ちにされて死ぬことだけは避けられる……はず。

 レーナちゃん先輩の覚醒スキルは、すぐに発動出来ないのね。発動スタンバイが30秒、これが終わると発動するのか……。30秒、短いようで長い……!


『シャサツ……シャサツ……』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が【ガンハザード】の構えを取りました』


 その馬鹿みたいに撃ちまくるスキル、発動間隔短すぎるでしょ……。ペルちゃんが走って到達するより、だいぶ早いんですけど……。どん太は、どん太は……動けないか。あの負傷でよく耐えたよ……。


『フリオニールが【エナジーライト】を発動し、どん太が2,500回復しました。【出血】が解除されました』

『くぅぅん…………』

『(´;ω;`)』

「どん太、そこで見てな。私達がアレをギッタンギッタンにしてやるから」

「どん太さん……」 


 …………あれ? そういえば千代ちゃん、どこ行った……?


「――――おのれぇえええええええええ!!!!!!!」

『姫千代が【妖狐化】しました』

『姫千代が【水月】を発動し、【ダブルエンジェリックバズーカ】を回避しました』


 う……わ。ブチギレてる。黒い狐のお面を被って、妖狐の黒い耳と人魂で作られた尻尾が生えてる……。あれは、あれは絶対ヤバいよ……。千代ちゃんはいつも本気で相手するって言ってたけど、あの時の千代ちゃんは本気ではあったけども、本気の本気・・・・・じゃなかったんだなぁ……!


「ナ、ナタリアに近づくな!!!」

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【スラグショットガン】を発射しました』

「効くか、小童こわっぱがぁ!!!!!」

『Miss……。姫千代が銃弾を弾きました』


 いや、銃弾を刀で弾くってのは見たことある、あるけど企画物ね? 散弾を実戦で弾くは知らない、散弾を弾くって何?! 人間業じゃないよそれ?! 人間じゃないわこの人、妖狐だったわ!


「無双緋影……」

『姫千代のHPが50%減少し、【無双緋影】状態になりました』

「バ、バリアを!!! 最大出力!!!」

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア強化装置】を起動しました』

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)の【バリア・30,000】が一時的に強化され、【バリア・200,000】になりました』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が【バリア・30,000】が一時的に強化され、【バリア・200,000】になりました』


 ああ、抜いた……。血を見ないと鞘に収まらない妖刀……。緋影御前を抜いちゃったよぉ……。もうだめだ、オシマイだぁ……。


「――――あら、簡単に近付けましたわねぇ!!!」

「ッ!!! だ、だが! この無敵のバリアは、破られない!!!」


 ペルちゃんから目を逸らしたのも悪かったね。ああ、完全にどっちも射程圏内。バリアが一時的に強化された? 無敵? 200k程度のバリアで? その2人を、甘く見すぎだよドゲル君。


「滅鬼斬ッッ!!!」

『姫千代が【滅鬼斬】を発動、完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア・64,000】になりました』

「その程度の粗末なバリアで!! わたくしのハルパーが止められるかしら!!?」

『ペルセウスが覚醒スキル【プリンセスクライシス】を発動、エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)の【バリア】状態が解除され、228,400ダメージを与えました』

『ガガガ――――ソンショウ、ケイビ……』

「だぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」

『姫千代が【一刀断鉄】を発動、完成体・マイスタードゲル(Lv,100)の【バリア】状態が解除され、114,100ダメージを与えました。左腕を切断しました』

「あ、ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!! バ、バリア……!!!」

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア発生装置】を起動しました』

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【バリア・30,000】になりました』

『エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)が【バリア・30,000】になりました』


 ほおら。本気の2人にはそんなバリア、紙切れ同然よ。今更30kを貼り直しても……。


「あ、アンデッド達よ!!! 起きろ・・・!!! 塵と消えよ・・・・・、死霊爆発ッッッ!!!!!」


 ――――ちょっと待って、コイツ何してくれてんの? うわ、うわうわ!! そうだここはカタコンベ、死体なんて幾らでもある!! この周囲の壁とか、柱とか、それに使われてるのが全部爆発するって、こと!? 冗談じゃないんですけど!?


『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が【アンデッド作成】に失敗しました。【死霊爆発】の使用に失敗しました』


 …………? え? 失敗? 失敗とかあるのそれ? ああ、もしかして……。その機械の体じゃ、使えないんじゃないの? 死霊術。そうだよねぇ? 私はバビロンちゃんから授かったこの死の欲動があるけど、今あなた持ってませんよねぇ? 死霊術には触媒みたいなのが必要なんじゃないのかなぁ~? だってアニメイト・フェティッシュもこの左手の黒い呪いの手に依存してるスキルだし、死霊術は死の欲動を介して発動しているような感覚があるもん。そうかそうか、持ってないかぁ~! 失敗しちゃったかぁ~!


「取るに足らぬ……! そこでこのからくりがバラされるのを見ておけ!!!」

『姫千代が【百花乱舞】を発動、完成体・マイスタードゲル(Lv,100)の【バリア】状態が解除され、154,600ダメージを与えました。右腕を切断しました。左足を切断しました。右足を切断しました』

「ぐあぁあああああああああああああ!!!!!!!!」


 あーあ! もうだるまだよ、だるま! 全身サイボーグだし、別に血が出てるわけじゃないし。機械の体がバラされただけで大げさなのよ悲鳴が。さて? そんじゃあどん太を血まみれにした屑鉄を鉄くずに変えてやりましょうかねぇ?!


「覚醒スキルを使って損傷軽微~? かったいですわねぇ~! レーナさん!!!」

「あ、もういい? じゃ、終わりにしよ」

『07XB785Yが覚醒スキル【シューティングレクイエム】を発動しました!』


 もちろん、私じゃなくてレーナちゃん先輩がなっっっ!!!


「ばーん」

『07XB785Yが【魔弾属性変更・火】を発動し、【スナイピングショット】】を発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)の【バリア】状態が解除され、58,200ダメージを与えました』

『07XB785Yが【クイックドローショット】を連続して発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)に537,700ダメージを与えました』

『ギ――――ガァ――――ガ…………』

「やめろ、やめてくれ……ナタリア、ナタリア……!!」


 さっきまでこっちを殺す気満々だったくせに、いざ自分達が死ぬ時はやめてくれ? 虫が良すぎる。


『07XB785Yが【クイックドローショット】を連続して発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)に合計559,100ダメージを与えました』

『ソンショ――――ジュウダ――――イ』

『07XB785Yが【クイックドローショット】を連続して発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)に合計629,100ダメージを与えました』

『ソン――ショ――――』

「やめてくれぇえええええええ!!!!!!!」


 硬すぎ……。HP200万超えそうじゃん……。でもHPバーが見えたし、そろそろ終わりかな。全く、まっさつしゃーち何体分よ。いやアレと比べるのは違うか……あれは特殊過ぎる。グレートホエール号2体分ぐらい? いや~素材が良いんでしょうかね? 素材が。


『07XB785Yが【クイックドローショット】を連続して発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)に合計575,500ダメージを与えました』

『――――…………――――…………』


 HPバー、もうほぼ残ってないな。終わりかな。


「終わり」

『07XB785Yが【デッドエンドショット】を連続して発動、Weak!!! クリティカル! エクス・マキナ・ナタリア(Lv,105)に145,100ダメージを与え、鉄くずにしました。経験値 9,999,999 獲得』

『ペルセウスがレベル81に上昇しました。お祝いしましょう!』

『07XB785Yがレベル81に上昇しました。お祝いしましょう!』

『どん太がレベル47に上昇しました』

『オーレリアがレベル37に上昇しました』

『フリオニールがレベル18に上昇しました』

『姫千代がレベル9に上昇しました』


 あーーーーしまった!!! 姫千代さんが緋影御前持ってるから経験値ごっそり減ってるーーーー!!!!


「あ!!! 千代ちゃん、その妖刀仕舞って!!! 経験値減る!!!」

「え……? まだ血を見ておりませぬので……。しかたありませぬ……えいっ」

『姫千代が【妖狐化】を解除し、自傷ダメージ! 20ダメージを受けました。【無双緋影】を解除しました』

「自分の血でも構いませぬので」

「あ、うーん……。痛そう……ごめん……」


 ん~~~エクス・マキナ・ナタリアの経験値が勿体なかったよりも、千代ちゃんが自分の足をちょこっと切って血を出して緋影御前を納刀したほうが痛い……っ! あれ絶対痛そう、スパッとした切り傷って本当痛いんだよね……。あ~……千代ちゃんの美脚がぁ……!


「ナタリアぁぁぁ……! あぁぁぁぁぁあぁぁ……!!! 許さない、お前達を、許さない……!!」

「あ、そうだ」


 そうだ。腹いせに、こいつのナタリア寝取ってやろうっと! タナトスになってから、従属させられるアンデッドが6体に増えたのだ! だから出来る! こいつを私のアンデッドに変えることがぁ!!!

 確かにあの時、機械として起きる前にちょっと抵抗してた時よ、ナタリアの意志をすこーーーしだけ感じた! まだほんの僅かでも魂が残ってるはず! これからお前に、死霊術師としての格の違いってやつを見せてやろうじゃあないの!


「おら、起きろ!」

『人魚姫・ナタリアをアンデッドとして復活させました』

『人魚姫・ナタリアゴースト(Lv,1)が貴方の従者になりました』


 ほおら、起きたぁ! どうだ見たかドゲル!!! これが、バビロンちゃんから直々に貰った死霊術師の触媒パワーよ! 格が違うんだよ、格が!!


『あ……。私……! ああ、ドゲルッ!!! ごめんなさい、貴方を独りにしてしまったから、こんなにも貴方は……!」

「ああ、あああああ……!! ナタリア、ナタリア……! どうして、お前も、いや貴方も、死霊術師なのか!!!」

「え、あ、うん……」

「ドゲル、嬉しい……! また貴方とこうして、死して尚話すことが出来て……!」

「僕もだよ、ナタリア……! 君の、君の声が聞けただけでも僕は、胸が張り裂けそうだ……!」

「お前も霊体にしてやろうか?」

「あ、ああ! もう肉体など、惜しくない……」

『完成体・マイスタードゲル(Lv,100)が生命活動機能を停止……。機能停止しました』

「起きろ~……」

『マイスタードゲルをアンデッドとして復活させました』

『マイスタードゲルゴースト(Lv,1)が貴方の従者になりました』

「ああ、ドゲルッッ!!!」

「ナタリアッッッ!!!!」


 あれ? なんか、なんかちょっと思ってた展開と違うな……。いえーい、ドゲル君見てるーーー??? みたいな展開にしてやろうと思ったのに、何勝手にラブロマンス始めてんの?


「あら……。なんだか、いい雰囲気になってしまいましたわね……?」

「…………ふ~ん」

「此方は些か……いえ、なんでも……」

「私、閉鎖空間だと魔術が使いづらいです……。あまりお役に立てませんでした……」

「リアちゃん、壁、偉い。どんちゃん助かった」

『(*´ω`*)』

『くぅ~ん……(リアちゃん、ありがとう~……)』


 どん太はボロボロ。おにーちゃんはどん太達の守護をよく遂行してくれた。リアちゃんはナイス遮蔽物魔術、これがなかったら正直どん太が蜂の巣になってた。ペルちゃん、全体的に大活躍……! アイギスなかったら初手崩壊よ。 レーナちゃん先輩……。なんですかあの覚醒スキルの威力。MP回復ポーションがぶ飲みしながら撃って撃って撃ちまくってましたね……。間違いなくうちの破壊神です……。


「そういえばリンネ殿、千代ちゃん・・・と呼んでくれましたね?!」

「あ、嫌だった……? いつの間にか……ごめんなさい」

「いえ! 此方はリンネ殿と距離が近くなったようで、嬉しゅう御座います! これからも是非、千代ちゃんと! ちーちゃんでも構いませぬ!!!」

「ちーーー…………千代ちゃん」

「はいっ!!」


 千代ちゃんは、本気の本気が見れたね。どん太がやられたのを見てあんなに怒り狂えるの、まだ付き合いも短いのにここまで怒れるの、根っこはとっても優しい人なんだなぁって。そしてとっても怖い人でもあるね……。私も怒らせないようにしよう。


「ドゲル……」

「ナタリア……」


 んでこいつらはいつまで抱き合ってラブロマンスしてんだ。私の思ってた展開と違うんだよ、イライラするなぁ……!?


「んで、あんたらはなんでこんなことになったわけ?」


 第一、なんでこいつは機械兵が作れたり天使を誘き出したり死霊術が使えたり、多才なわけ?!


「僕から、話そう……」


 おう、聞かせてみな。あ、ムービー入る……これは……。




◆ ◆ ◆




 マイスタードゲル。飛空都市メルティナで彼の名を知らぬ者は居ない。

 飛空都市メルティナを作り出した原初のマイスター達の家系、その末裔。超科学と魔導力学を組み合わせた超文明を築き上げたマイスター達の子孫にして、天才。彼は機械に生命を与える力を持っていた。

 彼は次々に機械生命体を作り出した。初めは犬や猫、鳥などの動物を。そしてそれが次第に技術が発達して人間を作り出せるようになるには、さほど時間が掛からなかった。

 機械人間達は人間達の為によく働いた。だが次第に機械人間達は感情を持つようになり、自らの人権を訴えるようになった。そしてそれは遂に暴力事件へと発展し、鎮圧のために機械人間を射殺した瞬間から――人間と機械人間の戦争が起きた。

 結果から言うと、人間が圧勝した。数の差がありすぎたのだ。機械人間は屈強で強靭だったが、人間の数で押す力には敵わなかった。そして当然、機械人間を作り出したマイスタードゲルはメルティナの重罪人として捕まり、彼はマイスターの称号を剥奪され、メルティナを追放されることとなった……。


「ねえ、大丈夫?」


 ――――メルティナを追放され、海へ投げ出されて尚、ドゲルは生きていた。


「君、は……?」

「セイレーンなんて呼ばれてるわ。大好きな歌を歌ってたら、あなたが落ちてきたからキャッチしちゃった」


 彼女はセイレーン。その歌は何もかもを魅了する――伝説にはそう記されてる。運良くドゲルはセイレーンに助けられ、そして陸へと送られ命を救われた。

 その後、セイレーンにお礼を言って別れてドゲルは海の教会へと辿り着いた。何も聞かれず、温かい食事を差し出され、温かい布団で眠り……ドゲルはその夜、子供のように泣いた。


「――あなた、私の歌を聞きに来るのが本当に好きね」

「別に、そんなんじゃないさ。ただ、気になって……」

「素直じゃないの」


 それから……。ドゲルは教会で修道士として働き始めた。そして度々セイレーンに会いに行き、彼女の歌に耳を傾けた。メルティナにはなかった美しい歌に、心を惹かれていた。ナタリアに出会うまでは。


「あら? 誰か流れ着いてるわよ」

「何っ!?」


 セイレーンが海岸に流れ着いた人魚姫、ナタリアを見つけた。それがドゲルとナタリアの出会いだった。怪我をしていたナタリアの傷を癒やす為にまだ下手っぴな回復の魔術を何度も行使したり、彼女の為に食事を運んだり、ナタリアも次第にドゲルへ心を開くようになり、2人の関係は一気に縮まっていった。


「…………つまんないの」


 セイレーンは嫉妬した。自分の歌を聞きに来るドゲルが、別の女にべったりと……。その時に初めて彼女も気がついた。ああ、自分はドゲルのことが好きだったんだと。だから嫉妬しているのだと。その瞬間から――――ナタリアが、邪魔者にしか見えなくなってしまった。


「大変よ、魔物達が海の王国を襲っているの!」

「そんな、どうして……! 私、行かなくては!」

「ダメだナタリア、まだ傷が――――」


 魔物を狂わせたのは、セイレーンの歌声だった。セイレーンの歌声に狂った魔物達がナタリアの国を襲い、ナタリアはまんまと誘き出された。そしてドゲルが次に見たナタリアの姿は――――無惨な姿で浜辺に打ち上がった、虫の息のナタリアだった。


「――貴方を置いて逝くことを、どうか許して……」


 ナタリアを失ったドゲルは狂ってしまった。ナタリアの肉体を修復するためにカタコンベを実験室に改造し、ナタリアの腐敗を止める為の装置や機械の体との融合を試し、ナタリアを生き返らせようとした。セイレーンから授かった時を遡る装置も使ったが偽物で、あれやこれやと試すも、どれも上手く行くことはなく……。ナタリアが生き返ることは、遂に無かった。


「――人間で駄目なら、天使を使えばいいじゃない」

「天使…………? そんなものが、いるものか」

「いるわ。教会は天界に近い場所、そこに死霊悪霊が集まれば、きっと天使がこれを始末に現れる」

「しかし、仮に居たとして、どうやって……」

「魔神様は死者を蘇らせることができるそうよ……。魔神様に助けを乞えば、施しを頂けるかもしれない」


 心の弱ったドゲルに、セイレーンの言葉は甘美な猛毒だった。もう打つ手がないなら、どんな方法でも構わない……。ドゲルは遂に、禁術に手を伸ばし――――。




◆ ◆ ◆




「ああ、でもこうやって私達は巡り会えた!」

「感謝している。もう、これ以上の幸せはない!」


 セイレーンが可哀想過ぎる。当て馬過ぎる。ドゲルにナタリアを諦めて欲しくって、自分を見てほしくて、きっとナタリアが海の国へ単身で向かった時もマッチポンプだとは言え、自分を頼ってほしいって思ってたはず。こいつは、見向きもしなかったのか。セイレーンを……。だから助けなかったのかな……セイレーンは。


「あ、そう……良かったね」

「ええ、本当に良かった……」

「君は、君は僕とナタリアを巡り合わせてくれた、まさに君は! 恋のキューピッドだ!!!」

「あっ……マズいですわ……」

「うん……? どうかした……?」

「レーナさん、リ、リンネお姉ちゃんが……」


 あ゛……?


「あ……。ヤバ……」

「ヤバいですわ……」

『わ、わうぅぅぅ……! (言っちゃいけないこと言った! 言った!)』

「此方も、アレはマズいと思いまする……」

『(; ・`ω・´)』


 いや、落ち着け。聞き間違いだったかもしれない。私としたことが。とりあえず、落ち着こう? もう一回、なんて言ったか聞いてみよう?


「ごめん。今よく聞いてなかった。今、なんて、言った?」


 言ってみな? もう一回。なんて言ったか。


「え、えっと……。まさに貴方は、私と……」

「僕を巡り合わせてくれた……」

「「恋の……キューピッド……?」」




 ――――ブチ殺すッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!




「あの世で永遠にやってろぉおおおおおお!!!!!! 塵と消えよ、死霊爆発ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」




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