華胥の夢、全員集合! 前編

◆ 自宅 ◆


「――――次のニュースです。京都府では昨晩から降り続いていた大雨が止み、大規模な河川の氾濫こそあったものの、死者行方不明者の報告はありませんでした。しかし避難時に転倒したなどの軽傷を負った怪我人や、避難所で体調を崩した人がいるなどの報告が相次ぎ、依然として災害対応に追われている状態が続いています。なお、一部地域で中規模範囲に発生した停電は今は復旧したとされており――――」


 レーナちゃん先輩の方で降ってた大雨がやっと上がったらしい。こんなに大規模な災害が発生してるっていうのに死者行方不明者、それに重傷者が今現在確認されていないっていうのと、怪我をした人も転んだ程度で済んでるあたり災害対応能力の高さを感じるし、停電がこんなに早く復旧するのも技術の発達を感じさせられる。昔のニュースとか見ると、河川氾濫で何十人何百人の死者とか結構あったみたいだし、今の時代って凄いなぁって思う。2000年に入ってから数十年間の前半は異常気象、極端気候との戦いだったみたいだし、その辺りのノウハウが活かされてるんだろうなぁ~……。あ、今日のお米はちゃんと炊けてる、美味しい。私の炊飯技術も上がってきたな…………。

 ん? スマホに通知が……。メルティスオンライン……あれ? そういえばなんでスマホにメルティスオンラインの通知が届くんだろ? もしかして、同期してる? ええ? いつやったんだっけ?! でも同期してるわ間違いなく! だからレーナちゃん先輩からメッセージが届いたのかぁ!

 あーそうだ。あの時は確かにダイブシステムと同期してたわそう言えば……。スマホと同期させて連絡先をダイブシステムに追加したんだったわ。万が一ダイブシステムを利用中にバイタル異常を検知して救急車を自動で呼んだ時、事前に設定した相手に緊急事態を知らせるメッセージを発信してくれるサービスを利用してたわ。そうそう、真弓に連絡が行くようにしたんだったね。すっかり忘れてた。その時に同期したんだね。


『家、大丈夫だった。電気も復旧したから、ログインしたよ』


 レーナちゃん無事だった~良かった~! なるほど、こうやってログアウト中でもメッセージを受けることが出来るのね、便利なサービスだわ。じゃあレーナちゃん先輩も帰ってきたことだし、ニュースも見終わったし、後はくだらないバラエティ番組しかないから消して……。行きましょうかぁ、バビロンオンライン!! もう私あのゲームにメルティス要素ないし、バビロンオンラインで良くない? 良いよね?


『バイタルチェックスキャン開始……問題ありません』

『東京都の今後の天気は雨が予想されます。窓やドアの閉め忘れ等にご注意下さい』

『閉め忘れに問題がないと回答を頂きました。バーチャルダイブシステムを起動します』

『バーチャルダイブシステム起動……ゆっくりと、目を閉じてください』

『バーチャルシンクロ開始……完了』

『ようこそ、仮想現実空間へ。バビロンオンラインのプレイがリクエストされました』

『バビロンオンラインが見つかりませんでした。メルティスオンラインのプレイがリクエストされました』

『メルティスオンラインへアクセス中……リンク完了』


 ッチ……。いつかメルティスとバビロンちゃんの地位を逆転して、バビロンオンラインにしてやる……!


『おかえり~♡ 愛しのバビロンちゃんから、ア・ド・バ・イ・ス♡』


 う゛ ん゛ っ゛! ! !  聞く聞くぅ~~~!!!


『遠距離で発生したスキルでも、直接攻撃判定を持つスキルがあるのよ~? これは直接攻撃に対する反射の対象になるから、気をつけなさ~い♡ これだけ聞くとデメリットが目立つかもしれないけれど、これはこれでメリットもあるのよ~? 詳しくは自分で確かめてみなさいな~♡』


 はぁ~~~い!!! は~……ログインする度にバビロンちゃんからの豆知識コーナーみたいなのが入るの、やば、脳が溶けてからログインすることになるからログイン直後に隙だらけになっちゃう……。やばいやばい……。バビロンちゃん可愛すぎるよぉ……!




◆ 魔神殿・ギルドルーム ◆




「おやおや、帰ってきたねぇ~」

「おっそ~い」

「あら、おかえりなさい! 皆もう揃って居ますのよ!」

「よう!」

「来よった! 待ってたでぇ!」

「おかえり~~」


 おおう、まだ21時になってないのに全員ギルドルームに居る! リアちゃんを囲んでお勉強会をしてる魔術師チームのお姉さま達と、いつもは見かけない探索チーム? の人たちも居る!!


「おっす、新サブマス! 初めましてッスね、華胥の夢の【不抜之志ふばつのこころざし】のリーダーのあかッス。よろしく!」

「ッッ!! よ、ろしく……おね……しま……すぅ」

「そういえば、結構お話しているのに名乗っていませんでしたね。華胥の夢の【磨穿鉄硯ませんてっけん】のリーダー、ミッチェルです。改めてよろしくお願いします」

「よろしく、おねがいしますっ……!」


 あれ、魔術師チームと探索チームって名前じゃなかったんだ……!? ふばつのこころざし、ませんてっけん……どっちも『絶対に諦めない』『目標達成までやり抜く』みたいな意味の言葉だね。でもどうして同じ華胥の夢に所属している人たちなのにチーム名があるんだろ?


「赫さんとミッチェルさんはね~。元々別のギルドのマスターだったんだよ~? 僕が華胥の夢を設立する時に、合併したんだ~!」

「ローレイの海賊退治の時ッスね。主に食料調達とかアイテム調達の支援面で働いてたッス。あの時はレベル低かったんで! あ、今もまた平均レベル45ぐらいになっちゃったんッスけどね! 全員魔族転生したんで! あははは!!」

「同じくその時に。住民NPCに魔術を教えて、数で押し切る戦いをしていました。こちらのチームは元々レベル40以下どころか30前後が多かったので、レベル40台になれるのはメリットしかありませんでした。この魔神殿出現には感謝しかありませんね」


 なるほど……。それで毛色の異なるチームが3つって感じになってるのね。よくこれでギルド運営が出来てるなぁ……。お昼寝さんが自由な人だから、ギルドの器も大きいのかな? 幅広い層のプレイヤーが居て面白いね!


「まあチーム名はもう殆ど機能してないようなもんなんで! 探索チームでオッケーッス!」

「こちらも魔術師チームで構いませんよ。昔は魔女チームだったのですが、実は男性もおりますので魔術師チームとなりました」

「赫さんと、ミッチェルさんは、サブマスターにならないんですか……?」


 そして疑問! この2人、チームリーダーなのになんでサブマスにならないの!? 私よりサブマスになるべき人たちじゃない!?


「あ~それはッスね、探検に夢中なんでサブマスとかやってても意味ないなーって思ったからッスね!」

「こちらも似たようなものですね。魔術関連の研究に夢中なのと、その実験に夢中ですので」

「…………え? 私も似たような……」

「魔神殿建てた人がサブマスじゃないのはちょっとよくわかんないんで!」

「そうですね。魔神殿を建てたのがリンネさんと聞いて驚きました。色々と聞きたいのですが、ルールはルールですからね」


 なるほど、うーんなるほど……? なんか押し切られちゃったような……!? まあ、皆が良いっていうんだから、良いのかなぁ。サブマスで。


「じゃーじゃー改めて。みなさーん、集まってくれてありがとう! なんと出席率100パーセントで、ギルドオークションを開催いたしま~す!!」

「わー」

「始まりますわ~! 楽しみですわ~~!!!」

「おう。金は、めっちゃあるぜ」

「あれは絶対ワイが貰うで!」

「皆気合入ってるねぇ~……エリスちゃん、お金足りるかな~?」

「いやぁ~楽しみッス! 探索打ち切ってまで来たッスから、もしかしなくても商品はアレだけじゃないんッスよね!?」

「他にもあると聞きました。ちなみに私達からも出品しているものがございますので」


 わーーー開始だーーーー…………? あれ、そういえばどん太達は? なんか違和感があると思ったら、どん太達が居ないねぇ!? どこに――――1階? ああ、マップから見た感じ、これは各々教官NPCのところに遊びにいってる感じかな? どん太はモッチリーヌちゃんのところに行ってる、リアちゃんはエキドナさんのところ、千代ちゃんローラちゃんトルネーダさんは、食堂! あれおにーちゃんは?


『(*´ω`*)』


 お る や ん け 。ギルドルームのインテリアに化けてるじゃん!! なにをさも『私はただの鎧ですよ。インテリアですよ』みたいに立ってんのよ。違和感なさすぎて気が付かなかったわ! こっちが気がついた途端にエモーション出してくるし、なんともお茶目な人だわ、本当……。


「進行はこの僕が~と言いたいんだけどね? 慣れてる人が居るんですねぇ~。ペルちゃん、お願い!」

「わたくしが進行役を致しますわ~! 本日のメインの商品は既に知っての通りだと思いますの、ですが! 本日はメイン以外にもたくさんの商品が用意されていますのよ! その他の商品に関してはリストにしてアイテム名だけ記載しておりますわ!」

 

 わ~。進行ペルちゃんか~! もう皆リストの載ってる名前を見てるだけでそわそわざわざわしてるよ……! いやぁ、名前を見ただけじゃよくわからないのがちらほらあるなぁ~~~…………あれは私が勢いで作った呪物だなぁ……!!


「黒鉄の輪ってなんや……?」

「え、マスターが使ってたファイティングガントレット売るんッスかぁ!?」

「俺これ欲しいかも」

「え、めっちゃある。金そんな持ってきてないんだけど」

「あ……。これ杖っぽい名前……」

「後から出てきた物が欲しかった時に、お金が無くなっていたら困りますね……」

「それではまず、これから! 【スナイピングクロスボウ+12】ですわ!!」

「はぁ!? レーナちゃんの使ってたヤツじゃん!!」

「え、要らないの?!」

「んっ!」


 最初に出品されたのは、レーナちゃん先輩が前に使ってた武器らしい! スナイピングクロスボウ+12……12!? 過剰強化してるのなんてペルちゃんぐらいだと思ってた! レーナちゃん先輩も、結構ガッチガチにやるタイプなんだ……!?


「見ての通りの大型クロスボウ、徘徊型ボスモンスターのリトルレッドドラゴンを撃ち落とした、あのレーナちゃんが使っていた武器ですわよ! 性能は今皆様に共有した通り! まずは500万からスタート希望でしたので、500万からですわ!」

「たっか!?」

「700出すッス!!!」

「いきなり700が出ましたわ!」

「ユニーク装備で+12が700ならちょ~安いよぉ~?」

「800!」

「がぁ~~……850出す!!」

「900ッス!」

「900が出ましたわ! 900以上は居まして!?」


 うわぁ、うわぁ。900って、もう倍近い値段になってるよ、ユニークの+12武器ってそんなに高級なの……!? 処刑斧の+12って、実はこれとんでもないものをペルちゃんに貰っちゃったんじゃぁ……。


「1000!!」

「1150、出すッス!」

「1150かぁ~~……!」

「1150なぁ……!」

「さあ1150! これ以上居まして!?」


 これは、赫さんが1150万シルバーで決まり、かな……?!


「1300で~す!」

「1300!! 一気に1300が魔術師チームのカイナさんから出ましたわよ!? え、使いますの!?」

「カイナちゃんはマジックシューターだっけ~? 属性弾を撃つ魔術職だよ~」


 ひょえ~~~。1300!? もうなんだか、初っ端からぶっ飛んだ数字が飛び交ってるよぉ……!? 私今、70万ぐらいしかないんだけど! それもペルちゃんから貰ったヤツね!?


「1400!! もう無理ッス!!」

「おりますぅ~……勝てると思ったのに~……」

「1400! 他にありませんの! 1400!! 赫さんで決まりですわ!!」

「やったッス~~~!!!! レーナちゃん、大事に使わせて頂きまッス!!」

「んっ、つよいよ。1400、ありがと! もらった~」

「最初から数字が強いですわ!! では次の商品は軽めな物で行きますわよ、次は【ターゲットシールド】ですわ!」


 んっ!? ターゲットシールド……!? 実はおにーちゃんに欲しい装備だったりしない!? あ、ヘイト上昇量+25%にバランスのいいガード耐性の大盾……あれ? ホ・タテの劣化版じゃない? これ!? うーんこれは、良いか……。と言うかお金ないわ! 最終落札まで聞き流しておこう――――


「110!」

「110万! 他に無いですの! 110万で決まり! 探索チームのコナーさんですわ!」

「コナーさん、レイジに110渡しておいて~」

「思いの外高値になりよったなぁ、おおきに!」

「ヘイト率の上がる大盾、少ないんですよ~。希少ですからね~」


 どうしよ、ホ・タテの存在を教えたいけどコナーさんが絶望しそうなんだけど……!? い、言わないでおこう。今は気持ちよく購入したんだから、気分を下げるような情報は――


「ちなみにうみのどーくつでヘイト50%の大盾、出る。レジェだから、結構出ないと思う」

「本当ですかぁ!? いや~あそこはヘイト取りにくいから、これで取りに行きやすくなりそうです! 今度行ってみます!」

「んっ」


 レーナちゃんが、言っちゃったぁ……!? でも、コナーさん凹むどころかメッチャ喜んでる……。上の目標が出来ると喜ぶタイプ? このギルドの人、更に上があるとかわかると喜ぶタイプの人多そうだし、そっか、良いのかぁ言っても……。


「では次は【カルサムの白銀+7】! これはレジェンダリー武器でしてよ! 性能は表示の通りですわ! では100万から!」


 うわ、もう次だ! えっと、カルサムの白銀……? なんだろ、どんな武器……おお~~。



【★カルサムの白銀+7】(最上級・レジェンダリー・蛇腹剣・空きスロット2【○○】)

・ヘイト率-50%

・斬属性攻撃+20%+14%

・斬耐性無視20%+35%

・空き

・空き

 ――この斬撃、見切れるかしら? by魅惑の殺し屋カルサム

 強化可能・重量1.2kg



「はいはいは~い。エリスちゃんが400万だしまーす」

「450! 私も蛇腹剣使うんです~!」

「あーソノスさんがビーストテイマーだっけ~。蛇腹剣、使えるんだよね~」

「500~」

「550!」

「ん~700!」

「え、ぐぅ、ぐ~~~……」

「700! ビーストテイマーで使えるそうですわよ! 他に居ませんの?」

「にっしっし……」

「700でエリスさんに決まりですわ! はい、エリスさん! お金はミッチェルさんに渡して下さいまし」

「ええ、確かに。受け取りました」

「やったった~~~。蛇腹剣出なくて困ってたんだよねぇ~……!」

「うぐ~……欲しかった~……」


 蛇腹剣、エリスさんが落札したか~! 白銀の蛇腹剣、格好良いなぁ~……。金色のと二刀流にしたら面白そうじゃない? あ、金色!! 金色って言えば、金色のアイツの死体! 死体安置所7番に自動納棺されてる! 見落としてた! え~どうしよ、成功したら売り物になりそうだし……。


「あ、ペルちゃん続けてて~。ちょっと離席~……」

「あら? ええ、では次の――――」


 よ~し。やっちゃうか~! いざ、いつもの3号室へレッツゴー!! あ、でもすぐに出てくるのは良くないかな? もし出来上がったなら今作って来ました感が満々だし、ちょっと時間を掛けたフリをして……。どうせ私お金ないし、私の商品後半に固まってるし、それまでには戻ればいいよね。

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