三度目の正直

◆ リンネ・ペルセウス、ローレイ近郊の岩場地帯 ◆


 もうこうなったら何が何でもオーレリアを喋らせる。ここまで手間の掛かるモンスターの存在が許されるのか? 許されない。絶対に今度こそオーレリアが喋れるクラスに進化させてやる。

 アンデッド強化で『レベルが残り 14 足りません。進化候補の素材は以下の通りです』って表示されたから素材はわかる。どん太の時も必要だった『☆2魔晶石10個』と聞いたことのない素材の『大鴉の羽根50枚』、『おばけかぼちゃ1個』。どれもこれも余っていた素材だったので、持っていって良いと許可も頂いたし貰ってしまった。逆に貰いっぱなしも申し訳なかったので、道中で拾った装備とかをギルド倉庫に入れておいた。後で纏めて競売に流して売り払ってギルド資金にするって。


「穿て、カーススピア」

『カーススピアを発動し、ストーンアーマースライム(Lv,34)に1ダメージを与えました。呪い状態にしました』

「ここで呪いが発生して…………」

『呪い状態のスリップダメージによりストーンアーマースライム(Lv,34)が死亡しました。経験値 3,900 獲得』

「大体5秒で死んでますわね。呪いのダメージは秒間10ぐらいでしたのに、だとすると計算が合いませんわ……なんで500もHPがあったはずなのに倒せるのかしら……」


 今はもう、ほぼ無心でストーンアーマースライムを狩り続けてる。とにかく殲滅。どん太が見つけたら片っ端からカーススピアを当てて殲滅。問答無用で殲滅殲滅。呪い殺していく簡単な作業。

 ちなみに周囲に呪いを振りまくネガティブオーラでも倒せるけど、3体以上密集してないとカーススピアに比べてMPが赤字になるのであんまり使わない。あの時『金色のアイツ』を倒した時は毒スリップダメージと思ってたけど、呪い自体にダメージがあるみたい。状態異常でダメージって毒ってイメージだったから勘違いしてた。


『わうぅ?!』

「何? どん太、何か居た?」

「あれは……あれは! ストンアーマーキングスライムですわ! この辺りのエリアボスでしてよ!」


 どん太が何か発見したと思ったら、ストーンアーマースライムより10倍以上はデカい奴が居た。デカいと動いた時にスライム本体の周りに張り付いている岩も揺れるように動くからわかりやすい。こいつらは本体のスライムの脆さを外部の岩鎧でカバーしてるだけで、内部はぷるんぷるんのスライムのまま。じゃあ岩を取り除けるまで攻撃すればーと思うかもしれないけど、この岩が普通より強化されてるみたいで硬いのなんの……。大型のハンマーみたいな殴打系武器にもガッチガチの耐性があって、1ダメージしか入らずに弾かれる。

 それのエリアボスってことは、それの強化版ってことかな?


「エリアボスって?」

「あ、エリアボスと言うのはね――――」


 一応聞いておこうと思ったら、エリアボスはなかなか面白い仕様のモンスターだった。


・全チャンネルを合計して1体しか存在してない

・倒すと一定期間リポップ(再出現のこと)しない、最長で1週間出て来ない奴もいた

・エリアボスの名の通り、各モンスターが出現するエリアに1体は居る

・倒すとボス撃破報酬の宝箱が出るらしい。これ目当てにエリアボスを探し求めてるプレイヤーも居るとか


「狩られて居ない奴もいるってことね」

「そうですわね。ちなみにこれは狩る方法が無いから放置されているエリアボスですわね……」

「なるほど。穿て、カーススピア!!」

『カーススピアを発動し、ストーンアーマーキングスライム(Lv,??)に1ダメージを与えました。呪い状態にしました』


 とりあえず一発殴っとこ。あ、やば、デカい割に動きが結構速いかも。あ、速いこいつ!!


「ど、どん太! 追いつかれないように逃げ回れ!」

「問答無用で一発殴りましたわね~~?! わたくしもこれがどれぐらいHPがあるか、わかりませんわよ?!」

『わうわうわぅ~~~?! (あれに当たったら 絶対痛いよ~~!!)』

『ァ……(慌)』

『ストーンアーマーキングスライム(Lv,??)の呪い状態が解除されました』

「うっそお、効果時間10秒ぐらいしか続かないじゃん! 短ーーーっ! 穿て、カーススピア!!」

『カーススピアを発動し、ストーンアーマーキングスライム(Lv,??)に1ダメージを与えました。呪い状態にしました』


 どん太に乗って、とりあえず逃げ回りながらカーススピアを定期的に撃つしかないか。こうやって逃げてる内は、大丈夫のはず――――。


「――――アイギス!!!!!」

『ペルセウス(Lv,24)がストーンミサイルを無効化しました』

「ふ、ふぅ~……危なかったですわね!」


 大丈夫じゃないわ。完全に防御面がペルちゃん頼りだこれ。直接攻撃を貰わない担当がどん太、攻撃役が私、魔術攻撃を防ぐのがペルちゃんの担当だわ。崩れたらやられる……オーレリア! 何か出来ないのあんた! 出来ないかーーーー!!!


『ストーンアーマーキングスライム(Lv,??)の呪い状態が解除されました』

「穿て、カーススピア!!」

『カーススピアを発動し、ストーンアーマーキングスライム(Lv,??)に1ダメージを与えました。呪い状態にしました』

「どんちゃん右よ!!」

「どん太、右!」

『わうぅぅー?!』


 あんな、でっかい丸い岩に追いかけられるなんて、人生で絶対経験しないと思ってたわ。でっかい狼に乗って巨大岩から逃げつつ、飛んでくる岩はかわすか無効化で防いで、定期的に魔術で攻撃を撃ち込む……。なんっちゅう情けない絵面よ、これ。


「どんちゃん左!」

『わ、わうぅ?!』

「そっちは右! どん太、逆!!」

「お茶碗を持つ方よ、どんちゃん!」

「こいつ茶碗持たない!! 穿て、カーススピア!!!」

「おかわりをする方よ、どんちゃん!!!」

「こいつお手しか出来ない!!!!!」

「あーーーーーん駄目ワンコーーーー!!!!!」

「こいつ狼!!!!!!」

「ああああああ前ぇえええええ!!!!!」

「飛べどん太ぁあああああ!!!!!!!」


 ――――こんなことになるなら手を出すべきじゃなかったんじゃないですかね、これ……。




◆ ◆ ◆




『ストーンアーマーキングスライム(Lv,55)が死亡しました。経験値 322,000 獲得』

『おめでとうございます! 貴方がMVPです! MVP報酬は【☆3魔晶石の箱】』

『レベルが29に上昇しました! おめでとうございます!』

『ペルセウスがレベル29になりました。お祝いしましょう!』

『どん太がレベル20になりました』

『オーレリアがレベル13になりました』


 倒した……。倒した……。倒した……。やった……。本当に、倒せないかと思った……。


「つ、疲れましたわ……。クタクタですわ……」

「HPのバーが減ってるの見え始めなかったら諦めようかと思ってた……」

『わっふぅぅ……』

『ァ……(衰弱)』


 しかし、倒した価値はある……。雑魚90体分ぐらいの経験値が一気に手に入ったし、このレベルアップ量! それにもう少しで30レベルになるぐらいまで行ったし、倒し甲斐があったし、良かった……。良かった。


「あ……宝箱」

「開け、ましょう!」

『わう……』


 そうだ、エリアボスは倒すと宝箱が出るんだった。どっちかっていうとこっちがメインだったの忘れてた。開けよう開けよう! 楽しみだわ、何が入ってるんだろ!


「よいっしょ。ぱんぱかぱーん」

「ぱんぱか……?! か、可愛、尊――――んんんっ!!! さあ中身は?! なんですの!」

『…………くぅ~ん(食べ物じゃない 残念)』

「本、本ね……」

「スキルの習得書かもしれないですわ! 未鑑定本ですし――――ア!!!!! 装備の鑑定忘れてますわ!!!」

「後で後で。大丈夫大丈夫」

「申し訳ないですわ~……」

「これ、後で使えそうな方が使おうよ」

「まあ! よくってよ!」


 スキルの習得書っぽいもの、か~。【?本】って、未鑑定の本ってこうなってるんだ。一応本自体は開けるけど、中身の文字がさっぱり読めない。鑑定すると読める文字に変換されるってことかな…………って、このためだけのこの造語っぽい字つくったってこと? このゲーム? マジで? 頭いかれてるんじゃないの……。すっごぉい……。熱意の塊だわぁ……。


『ァ……! ァ……(落ち込み)』

「オーレリアが何かを伝えようとしている!」

「しかし喋れなかった!」

『ァ~~~…………(超落ち込み)』

「ごめんって。早く後2レベル上げようね」

「ごめんなさいね、ゾンビなのになんだか可愛らしくって」

『ァァァ~…………』


 この本を見た時にオーレリアが何か反応を示したけど、何かを伝えようとしてきて喋れないのを失念してて落ち込んだ。それもものすごーーーく落ち込んでる。青白い肌のゾンビで、顔の判別はまだ難しいぐらい崩れてるのに、既に愛嬌があるのずるいと思う。なかなか居ないよ、こんな可愛いゾンビ。


「じゃ、乱獲タイムに戻ろうっか」

「そうですわね。暫くアレも湧いてこないでしょうし」

「どん太、狩り続行だよ。オーレリアが15レベルになるまでやるよ」

『わうっ! (わかった! 腹減った!)』

「もうちょっと我慢しなさいね」

「あら、お腹すいたの? じゃあ――――」

「だめ、我慢させるべき。ここまでやったらご飯ってちゃんと覚えさせないと。甘やかしちゃだめ」

「そうなの、ね……?」

「そうなの」

『くぅ~ん…………』

 

 どん太はペルちゃんからご飯やらおやつやら貰いすぎ。ちょっとは我慢すべき。それにこいつ、これ以上大きくなったらどうしよ、街とか入れなくなるかも。今でさえ、あのグレート・ピレニーズとかアイリッシュウルフハウンドの3倍以上はデカいのに。でっかくてもふもふなのは良いけど、デカすぎる。だって立ち上がると私より体高が高いもん。このデカさ、この重さで俊敏に動くもんだから、そりゃあプレイヤーに当たったら交通事故レベルよ。やる気になったら馬車とかなぎ倒せるんじゃない?


『わう(いたよ)』

「なんかやる気ないわねお前……穿て、カーススピア」

『カーススピアを発動し、ストーンアーマースライム(Lv,37)に1ダメージを与えました。呪い状態にしました』

「どんちゃん、帰ったらハッゲが美味しいご飯を作っててくれるそうですわよ!」

「頭ツルツルの人、お前が美味しそうって言ってた人いたでしょ? いっぱい頑張ったら、ご飯を用意しておくってさ」

『わぉぉぉおおおおおおおおおおーーーーーーーーーん!!!!!!!!♡♡♡』


 なんてわかりやすい奴なんだ、どん太。それでも巨大狼族の長に至る種族なのか本当に……。いや、昔話って尾ヒレ背ヒレが付くって言うし、偉大な功績を残した偉人達にも情けない一面とかはあったはず。こいつの祖先もきっと、たぶん、もしかしたら! こんな感じだったのかもしれないし……。うん、きっとそう。どん太が特別お馬鹿っぽいわけじゃない、ハズ……。




◆ ◆ ◆




『――――オーレリアがレベル15に上昇しました。進化条件を満たしています』


 やっと、オーレリアがレベル15まで上がった……。私達のレベルとは経験値テーブルが違うっぽくて、オーレリアのレベル15は遠かった……。後2なのに200kぐらい稼がせられた。お陰でこっちも30と31を通り越してレベル32になったわ。どん太もレベル22になったし。


「長かったですわね~……」

「今度こそ、慎重に……。喋れるやつにしよう」

『ァ……』


 それじゃあオーレリアの進化先を見ていこう。

 まず【メイデン・ウィッチ】闇属性・人間形・中型。処女の魔女って、なんかこう、大胆なネーミング過ぎない? つまるところオーレリアってそういうことらしい。ちなみに得意なのは闇魔術で私と丸かぶり。二人揃って同じ系統でも良いんだけど、完全に通じない相手だと困るし……あ、一応今の私が使役出来る死霊って4体までだから、数を揃えて戦う訳にもいかないんだよね。となると、質が求められてくるわけで……。これは、保留かなと。


 次に【ドラグナー・ウィッチ】不死属性・龍人形・中型。進化にドラゴンの肉使ったせいで候補に追加で上がってきた奴。龍魔術が使えるらしくって、その威力は絶大。全属性が使えるらしいんだけど……ど う 考 え て も 罠 職 業 に し か 見 え な い 。

 考えても見て欲しい。魔術を使うには魔術書を読むか、自力で編み出さなきゃいけない。つまるところ龍言語とかそういうのがわからないとならないんじゃないかなって思うわけ。


「ところで龍言語とか、龍に纏わる何かってわかる?」

『ァ……(否定)』

「でしょうね」

『ァ……(落ち込み)』


 ドラグナー・ウィッチは罠職業。これは絶対やめておいた方がいい。ただでさえツカエネー子なのに、一生ツカエネーになる可能性が非常に高い。そうなったらもうお役御免を言い渡すしかなくなる。それはここまで苦労して育てたのに辛いので、これは、却下!!!


 最後に【リトル・ウィッチ】闇属性・悪魔形・小型。見習い魔女として蘇り、第二の人生をスタートするって説明しかないんだけど……。龍属性もゾンビ特性とかも消えてるし、これ? これが良いんじゃないかなーって思う。メイデン・ウィッチと違うのは、サイズが中型と小型の差かな? 


「処女の魔女でーすって名乗るのと、ちっちゃい魔女でーすって名乗るの、どっちが良い? メイデン・ウィッチが良い?」

「ェ…………(困惑)」

「じゃあリトル・ウィッチ」

「ァ…………(肯定)」


 オーレリアの希望を汲み取り、リトル・ウィッチにしまーす! 全く、余ってるからって龍の肉なんて使うんじゃなかった本当に、もう……。


「じゃあ、行ってみよー! ぽちっとな」

「今度こそ、喋れると良いですわね……」

『オーレリア(Lv.MAX)がゾンビ・ウィッチから【リトル・ウィッチ、オーレリア(Lv,1)】に進化しました』

『龍属性が削除され、【火の息】を失いました』

『ゾンビ特性を失い、オーレリアから弱点【炎】が消滅しました』

『複数のスキルがセットされました』

『一部ステータスが減少しました』

『一部ステータスが大きく上昇しました』


 ん゛っ゛?! 一部ステータスが減少したっ?! またオーレリア不遇伝説が始まるのか?! ちょい、オーレリア! ステータス見せてみい!!




・ステータス

【名前】オーレリア

【レベル】1

【性別】女性

【職業】リトル・ウィッチ

【カルマ値】-66


【HP】90/90

【MP】666/666

【WP】3/3


【STR】4

【AGI】4

【TEC】4+54

【VIT】4

【MAG】108

【MND】54


【スキル】

【魔術】

・ナパーム【MP150】

・ブリザードクラッカー【MP150】

・サイクロンブラスト【MP150】


【魔女】

・魔術書作成【WP3】

・使い魔【黒猫】召喚【発動中・WP2】

・使い魔【コウモリ】召喚【発動中・WP1】

・完全詠唱強化【パッシブ】

・マジカルテクニック【パッシブ】

・ほうきコントロール【パッシブ】


【装備】

右手:魔術師の杖

左手:なし


頭:魔女の帽子

体1:魔女のローブ

体2:アンダーアーマー

足:レザーブーツ


アクセサリー【指】:なし

アクセサリー【腕】:なし

アクセサリー【首】:なし

アクセサリー【他】:なし


・オーレリアは常に闇属性である。

・オーレリアは魔神バビロンに気に入られている。

・オーレリアは魔神バビロンを信仰している。

・オーレリアは聖メルティス教会で異端者に指定されている。

・オーレリアは死亡時に使い魔が生きていればこれを犠牲にして復活出来る。


 嘘でしょこのHPの低さ。嘘でしょ……。使い魔、使い魔出さないと死にまくるよこの子……。というか死に前提みたいなステータスだよ……。


「ぁ……ぁ……あ……!!!」


 あ、オーレリアが喋れる! 喋れる!!! そう、性能よりこれよ、喋れるようにするのが大目標だったのよ!!


「うぁ――――ぁああぁぁぁあああああああああぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああん!!!!!!!!!!」

「あ、ちょ、ちょっと、泣かないの。ほらよしよしよしよし、喋れなくて大変だったね、オーレリア」

「~~~~~~~~っっっっっっっっっ!!!!!!!!」


 ちょい、ペルちゃんも吃驚仰天みたいな表情で固まってないで、泣き止ませるの手伝ってよ?! めっちゃ大泣きしてるじゃん! なんでそんな――――ええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!??????


「ぇええええええええええええぇええええええ~~~~~~~~~~!!!!!!!!???????」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああぁぁん!!!!!!!!!!」

「こ、こ、こ、この子ーーーーー!!!!!!!!??????」


 ちょ、ちょい、オーレリアってば、いやいやいやいや嘘でしょ…………?!!?!??!


「超可愛いじゃ~~~~~~~ん!!!!!!!!」

「このおでこの紋様!!!!! ステラヴェルチェの、王族の物ですわ~~~~~~~~~~~????????????!!!!!!!!!!!!!!!」

「…………は?」


 超可愛いから、吃驚仰天してたわけじゃないの?! 嘘、この子王族?! 王族なの?! まーーーじーーーーでーーーーーーー???!!!!!!




 ――――完全に、爆弾拾っちゃったじゃん!!!!!




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