善も悪も急げ

◆ ギルドハウス【ロビー】 ◆


『わんっっ!! わうっっ!! (おかえり! お腹いっぱいだよ!)』

「どん太、口を拭いてあげるからこっちおいで。くぅ〜んじゃないの、来な」

『くぅ~ん……』

「おやおやっ? こんにちは~、初寝落ちした感想はどうだい~?」

「お昼寝さん! こんにちは……うーん……。今度からはちゃんと現実に戻って寝ようと思いました……。寝顔見られ放題で、恥ずかしい限り……。ほらどん太、動かないの!」

『くぅぅ~~~ん…………』


 10時半よりちょーっと早めに帰ってくるなり、どん太は口の周りがべちょべちょだわ、お昼寝さんには寝落ちのことをニヤニヤと突っ込まれるわ、もう~~~…………!!! ぐぬぬっ!


「そういえば、ギルドハウスの上のアレ……何ッ?!」

「アレはですね、レアボス討伐の報酬です」

『わう~……(硬くて美味しくなさそう!)』

「レアボスゥ?! どどどど、どんな……?! 金のシャチって、こと?!」

「そうです! ☆4のまっさつしゃーちのレアドロップです!」

「ほええええええ~~~~~!!! ボスもレアモンスター化するんだー?!」

「あ、これって教えてよかったのかな。ペルちゃん達に確認取ってない……」

「ダンジョンの情報は基本的に共有方針だよ~。ドロップしたアイテムは内緒でいいけどね~」

「そうなんですね! じゃあ、えっと……ボス、倒してきました!」

「…………まっさつしゃーち?」

「いえ、うみのどーくつダンジョンのボスです。踏破しました!」

「…………え~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」

『わんわんっ!! (倒したー!)』


 お昼寝さんのここまで驚いた表情はなかなかにレア! ダンジョン攻略情報が共有方針なら、ダンジョンボスの情報を教えるのも、やぶさかでない!


「そ、それで?! ボスは、最後のはどんな?! っていうか、何階まであるの?!」

「8階まででした。ボスはですね、聞いてビックリですよ」

『わんっ! (ビックリだよ!)』

「…………(ゴクッ)」

「クジラでした!」

「…………シャチ出たからクジラだろうな~とは思ったけど、本当にクジラか~……な~んだ」

「その名も、暴走したグレートホエール号です!!!」

「グレート、ホエール…………?! 号って何?!」

「巨大潜水艦型のモンスターだったんですよ! 機械系モンスターって情報には出てました!」

「き、機械?! 潜水艦?! ほえ、えええええ…………???!!! 倒したのぉ?!」

「倒しました!」

「どひゃぁ~~~~!!!」

 

 お~……。なんだろうこの、優越感? 先に攻略して、誰かに内容をネタバレしちゃった背徳感? いやでも、情報共有方針だからネタバレオッケーなんだよね。合法ネタバレ! こういう話をしてると、ついつい楽しくなっちゃう。お昼寝さんの反応が良いっていうのもあるけど!


「すっっっごいでっかいってことでしょ? ダメージとか、どうやって与えるの?」

「まだ初回なので、確定なのかわからないんですけど――――」


 それからはもう、お昼寝さんに暴走したグレートホエール号の情報を話しまくった。ペルちゃんが開幕の初見殺しクリムゾンブラスターを食らってもピンピンしてたこと、クリムゾンブラスターの後は熱排気モードになってグロッキーになること、その時に水属性魔術を撃ったら回復された挙げ句冷却が完了してしまったとか、敵の攻撃に対応した行動を取ると逆にダメージを与えられるとかその内容。


「私、全然役に立たなかったんですけどね!」

『わうっ! (居てくれるだけで嬉しい! なでなでして貰える!)』

「どん太のフォローが、なんだろう……。辛い……!」

「どんちゃんと会話出来るの、それ羨ましいなぁ~」

「その内、もっと頭が良くなったら意志を伝えてくるかもしれないですよ? 話してる内容がわかったら後悔するかも」

「う~~ん……。お腹減ったばっかり言ってそうだなぁ……」

「あ、正解です」

「聞こえなくてもそれだけはわかるわぁ~~~……!!」

『わう? (なになに? おやつの話?)』

「さっきお昼寝さんに食べさせて貰ったばっかりでしょアンタ」

「まだ食べる気してるのかぁ」


 私が一番役に立たなかったのもちゃんと言っておいた。バフ係とボーンシールド係みたいなもんだったね、ただし味方に被害を出すっていう。レーナちゃん先輩は状態異常が通るの、気をつけないとなぁ……。


「それにしても、ギミックタイプのボスか~……。ゴリ押しも可能、打が明確に弱点。ハッゲも連れて行ってみるかなぁ?」

「ハッゲさん、あのデッカイフライパンで殴るんですかね……?」

「だろうね! 今日暇そうだったら他のメンバーにも声掛けていってみるよ~」

「いいですね……あっ! 今日ってオークションの日でしたっけ」

「そうだよぉ~! 今日の21時だね、楽しみだなぁ……」

「そうだ、ちょっと待っててくださいっ! どん太行くよっ」

『わうっ? (何するの~?)』


 そうだそうだ、今日がオークションの日ならこれも作って出品しちゃおう。さつりくしゃーち7体と、☆4まっさつしゃーちでアニメイト・フェティッシュだ~! えーっと、ギルド倉庫には~……。指輪とイヤリングしかない。腕輪とネックレスは誰が取り出したんだろう……トルーネさん? あ、リアちゃんといつも魔術のお勉強してるお姉さまか。『初心者へ配布の為取り出し』って書いてあるし、あの人も配ってくれてるんだ。皆凄いなぁ。私はえーっと、え~~~……。『やっぱり使いたくなったので』って書いとこ。それ以外思いつかないし。


「さあ、何個が出来てくれ~っ」

『わんっ! (あれか~! 出来るといいね!)』


 どれ、今回はペルちゃん達が戻ってくる前にちゃきちゃきやっちゃおう。いっくぞ~!


「捧げよ!」

『鉄のイヤリングが呪われました!』

『鉄のイヤリングが変質しました!』

『黒鉄のイヤリングが変質しました!』

『ダークイヤリングが呪物化しました!』

『★ダークイヤリングが完成しました! おめでとうございます!』


 お、出来た。これの効果は…………。斬・打・突耐性10%上昇、HP自然回復量-30%か~。硬くなるけど、長期戦だとジリ貧になりそうだね。空きスロットもあるし、良い感じ! さあサクサク行こう!


「捧げよ!」

『真珠のイヤリングが呪われました!』

『真珠のイヤリングが変質しました!』

『黒真珠のイヤリングが更なる変質に耐えられません!!!』

『黒真珠のイヤリングが消滅しました』


 はい。次!


「捧げよ!」

『アイアンリングが呪われました!』

『アイアンリングが変質しました!』

『黒鉄の輪が更なる変質に耐えられません!!!』

『黒鉄の輪が消滅しました』


 はい……。次!


「捧げよ!!」

『アイアンリングが呪われました!』

『アイアンリングが変質に耐えられません!!!』

『アイアンリングが消滅しました』


 ぐぉぉおお効くなぁ、連続失敗は……! ちょっと悪い流れになってきた!


「さ~さ~げ~よ~!!!!」

『アイアンリングが呪われました!』

『アイアンリングが変質しました!』

『黒鉄の輪が変質しました!』

『黒鉄の輪が呪物化しました!』

『★黒鉄の輪が完成しました! おめでとうございます!』


 おっしゃぁぁ~~!! これはどういう効果?! 斬・打・突耐性が逆に-10%されるけど、物理攻撃力が+15%か! これも空きスロット付き、良いね! 売り物にしようね! じゃあ次々!


「捧げよ!!」

『アイアンリングが呪われました!』

『アイアンリングが変質に耐えられません!!!』

『アイアンリングが消滅しました』


 へっぼ!!! 次次次!!!


「捧げよ!!」

『ゴールドリングが呪われました!』

『ゴールドリングが変質しました!』

『深淵なる黄金の指輪が変質しました!』

『深淵なる黄金の指輪が呪物化しました!』

『★殺戮回転・深淵なる黄金の指輪が完成しました! おめでとうございます!』


 おおおおっっ!!! 素体が良かったからかな? でもユニーク以上の装備は『変質しません』って言われてアニメイトフェティッシュが使えないし、恐らくこれって『上級』とか『最上級』とか書いてあるこの、装備の質の良さが関係してるのかな?



【★殺戮回転・深淵なる黄金の指輪】(最上級・レジェンダリー・指輪・空きスロットなし【●】)

・【呪】自身が状態異常になった時、効果時間が5秒追加される

・状態異常成功時、効果時間を5秒追加する

・【さつりくしゃーちカード】スキル【スクリューアタック】使用可能。全ダメージ5%カット

 ――黄金に魅入られてはならない。欲望の底に沈むぞ

 強化不可・重量0.01kg



 合計、3個も出来たなぁ~…………。☆4まっさつしゃーち、どうしよう? 後はないんだよねぇ、丁度配ってるから……。あ~、あるなぁ。ナマクラブレードかぁ……。

 この前の☆2ヤバイカですら、かなりの回数変質したんだよね。☆4ってことは物凄い回数変質するんじゃないのかな? 余ってる武器はこれしか無いし……これって、一応専用スキルの【刀の心得】が必要なんだ。レイジさん、どうやって入手したんだろう? ああ! 装備できないじゃなくて、真価を発揮しないなんだ。


「どん太~。これ、取っておいたほうが良いと思う?」

『わう~? わんわんっ!!! (何でも鮮度が良いほうが良いんだよ!)』

「死体も鮮度が命か~?」

『わんっ! わうわうっ(このまま悩んで、ずっと使わないでしょ?)』

「一理ある。出来たらレイジさんに渡せば良いか~!」

『わんわんっ!! (陽気なお兄さん!)』


 どん太先生のお言葉を信じて、投入しちゃうか! ナマクラブレード! どうせこのまま『いやこっちのほうが、いやこっちのほうが……』ってずーーーーっと悩むんだろうし。ノリと勢いで生きていこうよ、メルティスオンライン! そりゃぁ!


「捧げよ!!!!!」

『ナマクラブレードが呪われました!』

『ナマクラブレードが変質しました!』

『赤のカタナが変質しました!』

『紅飛沫が変質しました!』

『抹殺・紅蓮が変質しました!』

『赤鯱一文字が変質しました!』

緋影御前ひかげごぜんが呪物化しました!』

『★★首斬緋影御前ひかげごぜんが完成しました! おめでとうございます!!』

『――――あらぁ? 凄いじゃなぁい♡ 大体成功率が~……6パーセントってところね! by愛しのバビロン』


 6……ぱーしぇんと……? はにゃ……?



【★★首斬緋影御前ひかげごぜん】(極上・ミスティック・妖刀・空きスロットなし【●●】)

・【呪】一度抜けば、血を見るまで鞘に収まらない

・【呪】カルマ値が-500以上の場合、装備出来ない

・【呪】獲得経験値50%減少

・【呪】装備にはスキル【妖刀の心得】が最低でも必須

・スキル【無双緋影】使用可能

・絶対に破壊されない

・サイズペナルティを受けない

・反射されない

・【真・殺戮者カード】斬属性攻撃+100%・突属性攻撃+100%

・【真・抹殺者カード】斬耐性完全無視・突耐性完全無視

 ――斬りたい……。妾は今すぐに血が見たい……by緋影御前

 強化可能・装備登録者【――】・重量1.2kg



 ちょっと見なかったことにしてアイテムインベントリの奥深くに沈んでてもらおう。これは世に出しちゃイケナイ奴だ、間違いない


「よし、戻るよどん太……。今のは、見なかったことにしな」

『わ、わうっ! (わかった! わかった!!!)』


 よし、戻ってね、この刀以外の奴をお昼寝さんに渡しておこう。オークションの商品にしてやるのだ……。


「ドーモ、オ昼寝サン、タダイマモドリマシタ」

「う、うん……。どうしたの……」

「ナニモ……! これ、オークションで、一緒に出しといて下さい……。デメリット付きですけど」

「え? え?? え??? はっ……?! 耐性イヤリングに、攻撃力アップの指輪に、状態異常指輪?! しかもカード刺さってるけど?!」

「ア、ドウゾドウゾ……。オークションに……収入の3割ぐらい、ギルド資金にしてください……」

「え、ええ……?! どこで、いや今これ作ってきたね?! だからこんなに挙動不審なんだね?!」

『わうわう~……』


 お昼寝さん、これが原因じゃないんです。これの、これよりもっとヤバいのが私のインベントリの奥深くに眠ってるんです……。これ、逆にどうやってダメージ防ぐんだろう……? 斬耐性突耐性無視だから、もう純粋に避けるしかないよね? それ以外だとバターを切るみたいにスパスパっとやられるよね、これ……。あー一応ペルちゃんのアイギスがあるか~……?


「ただいま」

「お?! レーナちゃんこんちゃー」

「おかえりなさーい!」

「お昼寝、こんちゃ~」

『わんっ! (おかえり!)』

「ただいま戻りましたわ~!」

「おやおや、ペルちゃんもこんちゃ~」

「おかえりー」

「おか~~」

「御機嫌ようお昼寝さん! 今日はこれから廃教会行きですわよ!」

「お~。流石に寄生にしかならないから、僕は遠慮しておくよ。後でメンバー揃ったらうみのどーくつダンジョンに行くかな」

「わかりましたわ! では、準備が良ければ出発でしてよ!」

「お~~~」

「オッケーです! じゃあ、お昼寝さんいってきまーす!!」

「あ、逃げるように……まあ、いいや。行ってらっしゃい~」


 よし、とりあえず呪いのアクセ(外せるぐらいの呪いのやつ)はお昼寝さんに渡した! オークション、幾らになるか楽しみだね~! それじゃあ早速、廃教会とやらを潰しに行ってこよう! ああ、もう潰れてるか。完全破壊に行こう!!


「あ、おかえりなさいっ! 本を読んでました、今行きますっ!」

『わうわうっ! (何読んでたの?)』

「月夜の晩に、という本ですよ~。丁度読み終わりました」

「リアちゃん改めて、さっきはありがとうね~」

「いえ! 役に立ってよかったです!」


 リアちゃんも本を読み終わって、どん太もお腹いっぱい。レーナちゃん先輩もおやつオッケー、ペルちゃんも私も準備オッケー! よし、行こうか! 廃教会を破壊する旅へ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る