ログイン6日目 ~さも当然のように~
◆ 竜胆天音、私立鹿鳴寺学園【1-1教室】 ◆
――――ちょっと退屈が過ぎて、公式ホームページの情報とか掲示板とかを漁ってました。公式ホームページを見たら『魔神バビロン、降臨』ってバナーがでかでかと増えてた。ものすごく可愛いポーズで、飛び切り写りが良いスクショとかムービーとかでバビロンちゃんがぎっちり紹介されてて……もう、幸せ幸せ。とっても幸せ。
それで、バビロンちゃんについては過去とか由来とか全く不明だったんだけど、バビロンちゃんがメルティスのことが大っ嫌いってのはとにかくわかった。そして私も大嫌いになった。メルティスは苦労せずに先代女神から地位を譲り受け、雑多な仕事は天使たちに任せてのんびり悠々自適に暮らしてるって印象しか残らないメルティスの紹介ムービーに、非常にイライラっと来るものがあった。
もちろんそんな紹介はされてない。ムービーでは『生まれながらにして女神の後釜として期待され、成長した後に二代目女神メルティスとして先代からその座を引き継いだ女神。地上のいざこざと異界人の案内役として天使を遣わせ、今日も天界で善き人間達を見守り暮らしている』って紹介だったよ? でも私には『無努力・怠惰・自堕落』にしか見えなかっただけで。
「譲二~バビロニクス行った~?」
「行ったけど……」
「無一文になったか?」
「なったけど……」
「あら~帰るお金もなくなって無様ですね~~」
「お前が狩り行かないっていうから俺達は野良で行って、61まで上げたんだぞ」
「キモ譲二まだ53だっけ~? 語呂もいい感じにゴミじゃ~ん!」
「いや、アルトラさんがレベル70までは一瞬だからいつでも追いつけるって言ってたし――――」
アルトラ? あ~なんか過去スレでおにーちゃんに攻撃しようとしてえきどにゃちゃんにぶっ殺された奴か~。おにーちゃん恨まれてるな~。それにしても私の名前を検索しても、殆ど『ああ、リンネちゃんの従者の~~』って、私自身が話題になってることがないなぁ。まあそのほうが良いけどね。
あっ! 赫さんが『セット装備について』って情報を発信してくれてる。へぇ~ユニーククラスの装備でも、同じシリーズの装備を集めると真価を発揮する装備とかもあるんだ~。セット効果次第では、バラバラのレジェンダリーよりも強い場合もある? へぇ~凄い。赫さん達色々研究してるんだなぁ~。特に今回ドラゴン討伐戦で手に入った装備とか、ドラゴンレザー・ドラゴンボーン系のどっちかで全部揃えると4部位効果でダメージカット+20%と打突斬ダメージ+20%、強化値次第では合計50%のカット率になってダメージ半減!? 凄いなぁ~これ、ええ~~~……!
あ~。そういう点で言うと、おにーちゃんとかどん太とか、装備が変えられない従者はセット効果の恩恵が受けられないから能力が高めなのかな。ってかどん太達はセット装備で挑む前提のバランスなのかぁ……! 千代ちゃんとか、赤龍巫女姫で全部そろえたらもしかしてセット効果出る? 靴と、下着かぁ~~……下着贈って嫌われたら嫌だなぁ……。
「――――だーかーら!! いつかやるいつかやるでいつまでもやらなそうだから、今日行こうよって言ってんの!!」
「おいおい、そこまで怒鳴らんでも……」
「だって譲二が言ったんじゃん! メルティスやろーって言ったのも、一緒に遊ぼうって言ったのも、魔神殿出た時にバビロン側につこうって言ったのも、ドラゴン緊急のおこぼれ貰いに行こうってのも、全部譲二が言い出しっぺじゃん!! それが何、私達が誘うと『勝手に行ってて~』って、ムカつくんだけど!!」
「じゃあいいよ! 俺はもう一人でやるから、ソロでやるし!」
「あ~~……行っちゃいましたね~……でもご怒りはごもっともですねぇ~」
「怒りすぎだろ。まあそりゃ、譲二が我儘すぎるっていうか、自己中心的なのはあるけどな」
「あっれ~? 譲二クンと喧嘩しちゃったぁ~?」
「ん? ああ、ちょっとな」
「メルティスって言ってたけど、三上さん達もやってるんだ~」
「えぇ!? あ、うん……大きい声だしてごめんなさい、皆さんも、お騒がせしました……」
「レベル61って言ってたけど、強いじゃ~ん! ねーねーあーし達も一緒にダンジョンとかいきたーい。あーし、まだ58ガーディアンのなんだけど~」
「氷の宮殿、うちら昨日ドラゴン定期便で向こうに行ってギルドハウス借りたから、ちょっと背伸びだけど行けるっしょ~! あ、うち60レベのエンチャ! うちらペアだと防御面だけはあるけど火力なさすぎなんだ~~」
「大差ないな、ギルドハウスとか高くなかったか?」
「ルテオラさ~最強可愛いマジ魔神のバビロンちゃん様を崇拝してると、割引効くんだよ~バビロンちゃん最強っしょ~!」
「まあ、そうなんですね! 丁度近いですし、すぐ追いつけるってイキってた譲二にお灸をすえるのに、ちょうどよいのではないですか~?」
「かも……。いい、かもしれない、ね。じゃあ笹川さんと、夏目さん、一緒に行きましょ!」
「おっけー! じゃーローレイの、ケルベロスちゃんの近く! 1チャンで良い~?」
「ええ、行きましょう行きましょう」
「おう。じゃあ~行くか!」
ん…………。別にうちのギルドじゃないから関係ないってば関係ないけど……。譲二さんこれだと、寄生でもしてみんなについて行かないと、適正モンスター倒した時にみんなは下方に11差が出てしまうから、あの掲示板の検証通りなら間違いなくレベル差の経験値減衰に引っかかるようになるし、この人達と狩りに行けなくなるね。多分知らないんだろうけど……ま、いっか。せっかく一緒に遊べるお友達が誘ってくれてるのに、それを無下にして断って置いていかれて拗ねてるのが悪いんだし、仕方ないよそれは。
「……あーちゃん♡」
「あ、真弓。おはよう、はいこれ」
「え? これは? え? え…………?」
真弓が遅めの登校。リアルでも金髪ドリルが眩しいね、食べたい。まあ今日は私が食べさせる側なんですけどね? 真弓は月曜日だけはいつも食堂で昼食を頼んでるから、じゃあ今日も持ってきてないだろうなと思ってお弁当を作ってきました。いや、私料理とかあんまりする方じゃないんだけど、ハッゲさんにこっそり色々と教わったりしてたんですよ? 本当本当。嘘じゃないの。
「お弁当」
「好き」
「え? まだ中身見てないのに好きなの入ってるってわかった?」
「ええ、大好き……今すぐ食べちゃいたいっ」
「…………えっと、もっと食べたいなら、が、学校、終わったらね?」
「まぁ!!!!!!!! よくってよっっ!!!!」
なるほど、流石真弓。私がお弁当の中に激辛ミートボールが入ってるのに気が付いたのね。そんなに食べたいなら、学校が終わった後に帰り道のお肉屋さんで売ってる激辛ミートボールを堪能させてあげよう。前に家政婦さんが興味本位でちょっとつまんで、泣きそうになってた一品だよ。た~んとお食べ…………。
◆ 自宅 ◆
真弓に泣かれました。嬉しさと感動で泣いたそうです。放課後どうするって聞いたけど『遠慮しておきますわ……っ!!!』って言われました。悲しいね。
「クリーニングマシンに制服を入れまぁす! ほら、た~~んとお食べ」
真弓に食べさせられない分、制服用のクリーニングマシンに制服を入れて、残りは洗濯機にぽいぽいぽいぽいっと入れて、あっと着替え着替え~……。お風呂~~~!!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~…………♡」
やはりお風呂。お風呂は良い。魂まで潤う気がする。身体を隅々まで磨いて、ゆっくり温まって、魂と身体がリフレッシュされるこの感覚……。譲二君もね、お風呂を愉しむといいよ……。大抵の悩みや葛藤がゴミのように感じるようになるさ……。
「…………おにーちゃんがお風呂に入ってて、あの時ダンジョン行くのに置いて行かれた時、あれがお風呂に入った後じゃなかったらもしかしたら、心の余裕が無くて去っていってたかもしれないわ」
おにーちゃん、あの時お風呂に入って心に余裕があったからきっと、まだ残っててくれたんだろうなぁ……。きっと。きっとそう。そういえば今思えばおにーちゃんが起きた後、霊体化して崖を登って逆方向に歩いていったの、不自然だったなあ。だってあれだけの戦闘管理能力があるんだもん、周りを見てないってことはないはず。思えば偽バビロンちゃん戦でもそう、最後まで何か出来ることは無いかと虎視眈々と狙ってたのかもしれない。
「部下にもなんだかんだ慕われてるし……。もしかしておにーちゃん、凄い人だったのでは?」
最初の逆方向に歩いていった行動、もしかしてあれって『離脱イベント』だったのでは? あのまま気が付かずに逃してたら離脱してたのかも。そう思うと、色んなタイミングでおにーちゃんの好感度がギリギリだった瞬間があるんじゃないかって思えてきたわ……。ちょっとログインしたら、おにーちゃんに何かプレゼント買ってあげようか。公式オークションとかで何か売ってたらあげようかな? 良いかも。
「…………ん、そうしよ」
とりあえず、まずは何が売ってるかでプレゼントするもの決めようかなーっと。さて、もうちょっとお風呂に入ってから…………。
◆ 自室 ◆
『バイタルチェックスキャン開始……問題ありません』
『東京都の明日の天気は晴れが予想されます。降水確率は午前0%、午後は10%です』
『鍵の閉め忘れ等に問題がないと回答を頂きました。バーチャルダイブシステムを起動します』
『バーチャルダイブシステム起動……ゆっくりと、目を閉じてください』
『バーチャルシンクロ開始……完了』
『ようこそ、仮想現実空間へ。バビロンオンラインのプレイがリクエストされました』
『バビロンオンラインが見つかりませんでした』
『以前に複数回、このリクエストでメルティスオンラインを起動なさいました。メルティスオンラインをバビロンオンラインとリクエストした時に起動するよう修正しますか?』
ほう…………。
『修正すると回答を頂きました。アプリ名変更の個人登録を実行、バビロンオンラインに変更しました。バビロンオンラインのプレイがリクエストされました』
『バビロンオンラインへアクセス中……リンク完了』
ほう…………!!!
『おかえりおかえり~~♡ バビロンちゃんが忙しいから、お姉ちゃんが来たわよ~~♡♡ バビロンちゃんからの毎日プ・レ・ゼ・ン・ト♡ 代理でごめ~んねっ♡』
ティスティスお姉ちゃま!? 特殊演出だぁ……!! か、可愛い……!! バビロンちゃんじゃないのは残念だけど、忙しいならしかたない、是非も無し! 可愛い可愛い……!!
『ティスティスちゃんが持ってきた! バビロンちゃんからの! デイリーログインボーナス5日目【ルビーのネックレス】』
『それじゃ、まった『またね。ばいばい』カレンちゃんは次って言ったでしょぉ~~?! もぅぅ~~お姉ちゃんの番取らないでぇ~~♡』
…………可愛い。あ、そう言えば前回貰った悪夢の絵本使ってないや。嘆きのバンシーの霊体が2体、実はこっそり死体収容所に入ったままなんだよね。これ強敵扱いだったみたいで、死霊爆発で使い損ねて残ってたんだった。とりあえず、まずはこれをアニメイト・フェティッシュして! 公式オークションを見よう!!
◆ バビロニクス・ギルドルーム【スイート】 ◆
「捧げよ!」
『ルビーのネックレスが呪われました!』
『ルビーのネックレスが変質しました!』
『赤い涙のネックレスが変質しました!』
『★麗しのルビーが変質しました!』
『★麗しのルビーが呪物化しました!』
『★麗しのルビーが完成しました! おめでとうございます!』
おー。最初の一体はダメだったけど、こっちは通ったよ。さてさて~? 性能や如何に~~??
【★麗しのルビー】(上級・レジェンダリー・アクセサリー【首】・空きスロットなし【●】)
・【呪】ヘイト率上昇+20%
・【呪】戦闘中、稀に自動的に対象を問わず【チャーム】が発動してしまう
・精神系状態異常耐性+50%
・打撃、斬撃、突撃攻撃力+5%
・【麗しの双子姫シリカ&メリアカード】MPバニッシュ無効
強化不可・重量0.1kg
あ、つよ。ペルちゃんに丁度いいじゃん? 後であげよーっと。チャームも戦闘中だけなら特に問題ないでしょ、精神系・行動阻害系だから結構対策しやすいっぽいし、誘惑までなら弱い状態異常だからポコっと殴れば解除よ。
「ふんふふ~ん♪」
『みゃぁ~お』
「…………リアちゃん、今から全力で吸うよ?」
「あ、それはっ! むぅ~。前は茶トラだったから、黒猫になればバレないと思ったのに~!」
「人間に戻っても吸うけど」
「えっ、あっ!?」
よし、リアちゃんいいところに来たね。このさつりくしゃーちのぬいぐるみに寄りかかりながら、一緒におにーちゃんへのプレゼントを何にするか選ぼうよ。ねっ!
「――――でさ~。おにーちゃんにプレゼントをあげようかなって思ったわけなのよ」
「なるほどですねっ! おにーちゃんは盾は2つ持ってますし~……。あ、そういえばカジノでシュタークさんに10万シルバー借りて、10倍以上にして返すぐらい稼いでましたよ?」
「なにやってんのあの人……」
リアちゃんに事情を説明したら、思わぬ情報が……。おにーちゃん、カジノに入り浸ってるのか~……何やってんのよ~~……。しかも人からお金借りてるし、返せなかったらどうする気だったの全く! 私が払うことになるでしょうがっ!! いや待てよ、あの時騎士の誓いをしたことによって、騎士の行いは主人の責任になるのでは? つまり騎士の借金は私に来るってことだね? なるほど、あんにゃろぉ~~…………いや、今までの恩ッッッッ!!!! ギリギリ、ギリギリ恩が勝ったッッッッ!!!! それに10倍にして返してるからヨシッ!
「これ、面白いの売ってますねっ!」
というかリアちゃん、どうしてプレイヤーが操作してるウィンドウが見えるんですか……? もしかして偽装工作が原因ですか……? にゃ王の偽装工作ってもしかして、とんでもないぶっ壊れオブぶっ壊れスキルだったりしませんか……? いや、細かいことを考えるのはやめよう、見えるだけで操作は出来ないから勝手に買われたりスクロールされたりはないし、良いとしよう……――――で、どれ????
「これ……?」
「それですっ!!」
えーっと……? えーっと??? ピコハン…………????
【★★ピコハン】(最上級・ミスティック・片手斧【主武器限定】・スロットなし)
・【呪】打撃音がピコっと鳴る!
・【呪】ヘイト率+50%
・所有者登録時、ピコハン専用の【異空間収納】習得
・叩いた相手にランダムな状態異常が発生する
――――これ、さっきそこで売ってたんだ! めっちゃいい音するだろ!? by暇過ぎた騎士
強化不可・装備登録者【――】・破壊不可・重量0.4kg
買わないと……。3,000万!? ま、まあ、いいかぁ……。おにーちゃん絶対これ好きでしょ、装備のじゃまにならないし、買ってあげよう……!
「買ったよ~~……!」
「絶対喜びますよ! そうです、どんどんと千代さんなら珍しく運動中ですよ! なんでもちょっと、ぽちゃっとしたとか。ビーチエリアを走ってます」
「…………あ~」
「あ~、ですよねっ。そう反応すると思いました」
「待って、今どん太のことなんて呼んだ?」
「どんどん!」
「どんどん……! い、いつもそう呼ぶようにしたの!?」
「いいえ? 今適当に呼びました。どん太さんって呼んでますよ♪」
「っく……!」
「ふふ~ん♪」
リアちゃん、リアちゃん悪い子に、なったねぇ……!!! 王族の重圧から開放されたリアちゃんって、こんなに悪戯っ子なの……!? やだもう、好きになっちゃう……。こんな妹が欲しかった……。可愛いのう、可愛いのう……。
「それじゃあ……! カジノエリアに、行こうか!」
「はいっ! あ、私あのエリアに入ろうとすると親と一緒に来てって追い返されるんです! 酷いですよねっ!」
「…………まあ、仕方ないかもしれない。今度からはこっそり飛んで入ったら? あ、もしかして飛べなくなった?」
「え? 飛べますよ? 猫ですから飛べます」
…………????????????
「猫は飛べない……」
「飛べますよ? 猫は飛びます」
………………??????????????????????????
「猫は飛べますよ? ね? 猫は飛べるんです」
「猫、飛ぶ、猫、飛ぶ…………」
「はい! 飛びます!」
――――猫って……。飛ぶんだっけ……。飛ぶかも…………。
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