慎重、かつ大胆に

◆ ギルドハウス【ロビー】 ◆


 不届き者の殲滅を完了して一旦ギルドハウスに戻ってきたら、お昼寝さんが帰ってきてた。でもなんだか雰囲気が違う……。ああ、武器を着けてないからかと気が付いたのは『おかえり~』と手を振ってくれた時だった。お昼寝さんが両手のガントレットを外しているのは珍しい。


「いやぁ~。転生してきちゃったよ~」

「え、転生ってことは、今レベル1なんですか?」

「そーそー。模擬戦システム使って25まで上げようかなーって思ってさー。どんちゃんを待ってたんだ~」


 どうやら武器を着けてない原因は転生してきたかららしい。転生してすぐここに居るのは、ギルドポータルを使ったからみたい。転生前にギルドに所属してたらこういうショートカットも出来るのかーと染み染み……。


「…………君の影を踏んだら、声が聞こえたんだぁ~……」

「え? え?」

「ふふふ……。君たちだけバビロンちゃんの存在を知っててずるいよぉ~……。どうやって転職するのかって思ってたら、そうなんだぁ~……天使、殺せば良いんだねぇ?」

「!!!!!!!!」


 影?! え? 影が何?! お昼寝さんも天使を殺してきたの?! ってことは、バビロンちゃんかわいい教に入教したんですか!!! 信徒が増えたよ、やったーー!!


「その影、特定条件をクリアして踏むとバビロンちゃんに声をかけられるんだねぇ?」

「え、影、私のですか?!」

「そーそー。僕はカルマ値がマイナス300だったのと、戦闘狂のところを買われたみたいだね」


 そういえば昨日、ペルちゃんが私の影に見られてるような気がするとかどうとか……。ログアウトする時もバビロンちゃんに『見てるわよ~♡』って言われてたし、まさか、まさかと思うけど…………居るっ?!


『あ、やっと気がついたのねイカレ女~♡ ここ、借りてるから~♡ 見込みがあるのを引きずり込んじゃうからね~?』

「ア゛ッ゛――――!!!!!」

「え、何今の凄い声。大丈夫? 死んだ? 生きてる?」

「ナンデモナイデスッ……!」

「そ、そう?」


 居るっ……! バビロンちゃん、私の影を通して繋がってる……! おお、おおっ……! 推しに見られてる、快感ッ!!!


「そ、それで! 何の職になったんですか……?」

「ん~? いっか、教えちゃお。破壊する者デストロイヤーだよ」

「で、ですとろ……!」


 デ、デストロイヤー……。お昼寝さんのふわふわっとした雰囲気からは想像もつかないぐらい狂暴そうな名前の職業ですね……。あ~でも、昨日どん太に一回やられてから雰囲気が丸っと変わったし、やっぱり戦うの大好きなのかな。


「でも武器がなぁ~。クローなんて見たことないんだよねぇ」

「……ペルちゃんが、これ使えるギルドメンバーさんが居たら渡して良いって。どうぞ……その代わり、私とペルちゃんの職業、内緒です」

「え~~~交換条件に聞き出してやろう~って思ってたのに~……え? これ、クローなの?」

「かわいいですよね」

「可愛すぎるんだけど」

「どうぞ……」

「ど、どうも……? え、ええええええええええ~~~~~~!!!!!!!!?????? なにこれ強すぎるんだけど~~~~~!!!!! 流石にお金払うこれ~!!!!!」


 居た。【★殺戮者のアギト】こと、シャチのハンドパペットが使える人が。良かった、これでゆるふわですとろいやーだ……。性能が、全然緩くもふわっともしてないけど。ペルちゃんからは存在自体を明らかにしたくない武器だから売りたくないって言われてたし、ギルドメンバー……それもマスターが使えるとなったら、もう渡さざるをえない。


「じゃあ、どん太の餌代とか、ギルドの家具代とか施設代にしてください……」

「い、いいの? いいの?! ペルちゃんにも後でお礼を言っておかないと、本当にありがとう~~~!!!」

「い、いえ。それより、ギルドでレベルを上げられるって、どういう……」

「あれ? あーーー!! そうだ、ギルドの特典とか知らないんだっけ! えっとね――――」


 こうして、さつりくしゃーちのハンドパペットはお昼寝さんに渡った。その代わり、私とペルちゃんの職業は内緒。バビロンちゃん絡みの職業だってのはバレてると思うけど、まさか死霊術師とは思うまい。ダークテイマーとか、そんなのだと思われてそう。動物のみならず、人間もテイム出来る系の職なのかなーとか。オーレリアちゃんがクエストで従者になったって嘘も、薄々勘付いてると思うし……。

 それより、お昼寝さんからギルドの機能を今更だけど教えて貰った。ギルド設立には色々とお金がかかったり名声が必要だったり大変みたいだけど、それに見合った機能は揃ってるみたい。



・その都市を治めている領主に許可を貰うとギルドを設立することが出来る(領主が納得するだけの名声が必要)

・ギルドハウスを購入すると、そのギルドハウスはギルドメンバーのセーフティエリアに指定される。

・ギルドメンバーはギルドハウスに直通で帰還出来る【ギルドポータル】が使用可能になる。部外者はこれに入れない。

・ギルド内で自由に引き出せる倉庫が設置される。取引不可アイテム以外はここに収納できる。

・ギルド内の模擬戦により、合計獲得経験値が30万になるまで経験値を獲得することが出来る(凡そ25レベル前後)

・ギルドハウスの個室はプライベートエリアとしてロックして使うことが出来る。

・ギルドハウスを拡張すると、装備強化機、金属加工機、厨房、機織り機、製薬機、錬金釜などを設置出来て、ギルドメンバーは自由に使用できる(全部設置済み)(起動するのに魔晶石が必要)



「なるほど、これでどん太のレベルがちょっと上がってたんですね」

「そーそー。僕も上げたいな~と思って……。じゃあ、どんちゃん? ちょっとは手加減してね?」


 なるほど、これはギルドを立てるメリットが大きいですわ。どん太が昨日レベルが上がった理由もわかったし、こうやって転生からすぐにレベルを上げるっていう方法もあるんですね。なるほど~~~~。HPとかの状況がわかりやすいようにお昼寝さんとパーティを組んで……。これでよし。じゃあ、先生。お願いします。


「どん太、全力でかかってこいって」

「え゛」

『わうっ!!! (やるぞ~!)』

『お昼寝大好きから模擬戦の申し出がありました。受諾します……模擬戦開始5秒前……』

「冗談だよね? 僕、レベル1なんだけど?」

『わうっ!!!』

『開始します』

「ごっ――――――」

『どん太の勝利です。お疲れ様でした。経験値 0 獲得』

『お昼寝大好きがレベル7に上昇しました。お祝いしましょう!』

 

 うーん。清々しいほど吹っ飛んで行きましたね、お昼寝さん。このペースなら25レベルは近いですよ! 頑張りましょうね!


「お、おに……あくま……」

「あ、正解ですよ。どん太は悪魔系モンスターですよ」

「え~~~~~…………ひとでなしぃぃ……ワンコだったね」

「狼です」

『わんっ!!!』

「…………なんだろう、どうにかして勝ってみたいな、どんちゃんに」

「頑張ってくださいね……。じゃあオーレリアちゃん、あっちの部屋でやろっか」

「は、はいっ!」

「待って待って待って、個室で幼女と二人っきりで何するの、僕はそういうの許しま――――どわぁ!?」

『わんっ! (はやく、遊ぼっ!)』

「ここを通りたかったら倒してみろとでも言いたげだねぇ、君ぃ……」


 じゃあ私達は、呪物作成がありますんで。この辺で~……。ごゆっくり~……。


『お昼寝大好きから模擬戦の申し出がありました。受諾します……模擬戦開始5秒前……』

『開始します』

『どん太の勝利です。お疲れ様でした。経験値 0 獲得』

『お昼寝大好きがレベル11に上昇しました。お祝いしましょう!』




◆ いつもの【3号室】 ◆




 さて、ロビーでどったんばったんしている間に【アニメイト・フェティッシュ】のおさらいをしよう。まずは【素体】、これはベースになる装備のことで、多分これが強化されたりなんだりする、はず。まだほうきしか試したこと無いからね、しょうがないね。

 次に【死体】、死体安置所から直接引き出すことも出来るみたいだから、今回は☆2ヤバイカの死体をダイヤイヤリングに、さつりくしゃーちをサファイアイヤリングに使っていこうと思う。理由? 特に無い、なんとなく。

 最後に【呪いのアイテム】。これはとりあえず何でも良いのかどうなのかわからないけど、大量にあるからいつもの呪いのコインを使っていこうと思います。


「こうして呪いのアイテムを左手に持って……"捧げよ"!」

「わ、ドロドロになりました……。死体に呪いが混ざって、とてつもない呪いの泥ですね……。人が触れたら、気が狂ってしまうかも」

「そうなんだ? じゃあ触れないように気をつけてね? それで、この泥に装備を投入するのよ。えいっ」

『ダイヤイヤリングが呪われました!』

『ダイヤイヤリングが変質しました!』

『ダイヤイカリングが更に変質しました!』

『ダイヤイカピアスが更に変質しました!』

『ダイヤヤバイカピアスが呪物化しました!』

『★ゲソピが完成しました! おめでとうございます!』


 ゲソピってなんだよ。


「ゲソピになったらしいです」

「ゲ、ゲソピって、なんでしょうか……?」

「わからん……!」


 前はこんなに変質しなかったじゃん、何でこんなに……。あ~~~レアモンスターが素材だから? ☆2だったから? もしかしてそういうことなの? で、ゲソピってなによ……。なんでそんなギャル語っぽい名前になってんのよ。どれ、現物はよ出てこ――――。


「「ゲソピ…………」」


 うわぁ……。ああぁぁ……。ゲソピって、こういうこと……。クリスタル製のイカの足が一本、ピアスになってるよ……。近くで見ると『ゲソだわこれ』ってなるけど、遠目に見るとなんか、悔しいけど、お洒落じゃん……。


「次」

「は、はい……」


 待て待て、性能を見るのは後にしよう。とりあえずサファイアイヤリングを呪物化するのが先よ。


「今度は、あのデッカイシャチとこいつを混ぜます」

「今度はその、見た目が良いと、良いですね!」

「ソウデスネー……。捧げよ!」


 さあ、さつりくしゃーちとサファイアイヤリングの相性はどうだ! どうだどうだーー!!


『サファイアイヤリングが呪われました!』

『呪いの支配に失敗しました!!!』

『サファイアイヤリングが呪いに耐えきれません!!!!!』

『サファイアイヤリングが消滅しました』


 え。


「え」

「えっ、あ、消えちゃった……」


 …………呪いも、さつりくしゃーちも、イヤリングも、何もかも、消えちゃったんですけど。


「…………え?」

「あの、失敗、みたいですね……」

「オーレリアちゃん。これ着けようか」

「えっ、は、はい……」

「大丈夫大丈夫、オーレリアちゃんは【月と星のイヤリング】ってアバターで隠れるから……」

『オーレリアに★ゲソピを装備させました』

「あうっ」


 失敗の腹いせじゃないよ? うん、そんなことないよ? 自分で着けたくないからオーレリアちゃんに着けたなんてことは断じて無い。ただほら、オーレリアちゃんのほうがなんかこう、良いかなーと思って。あ、ヤバい性能見てなかった。



【★ゲソピ】(極上・レジェンダリー・空きスロットなし【】)

・【呪】物理攻撃力-50%

・【呪】物理攻撃力-25%

・【呪】物理攻撃力-15%

・【呪】物理攻撃力-5%

・【呪】物理攻撃力-5%

・魔術攻撃力+10%

・魔術攻撃力+10%

・魔術攻撃力+10%

・魔術攻撃力+10%

・魔術攻撃力+10%

 ――――足は2本になったけど、効果は10本分!

 強化不可・重量0.1kg



 あ~~~~~~オーレリアちゃんの物理攻撃性能が、完全に死んだぁ~~~~~~…………!!!!!!!! なんじゃぁ、この馬鹿みたいな呪いの数、物理攻撃デバフ系の呪い全部のせ? 全部のせじゃない?! これ?! 嘘でしょ?!


『お昼寝大好きから模擬戦の申し出がありました。受諾します……模擬戦開始5秒前……』

『開始します』

『どん太の勝利です。お疲れ様でした。経験値 0 獲得』

『お昼寝大好きがレベル25に上昇しました。お祝いしましょう!』


 お昼寝さんも沢山やられた、サファイアイヤリングもやっちゃった、オーレリアちゃんの物理攻撃もやっちまった、あああ~……。いや待てよ? そもそもオーレリアちゃんに物理攻撃を求めるほうが間違ってるんだから、これで良いのでは? いやでも、ん゛っ゛、く……! くぅぅぅぅうう…………!!! いやぶっ壊れてるレベルで強いけど、ぐ、うぅぅうん…………!!!!!




◆ ペルセウス・ギルドハウス【ロビー】 ◆




 満身創痍でズタボロのお昼寝さんが転がっていますわ。

 引き攣った笑顔のハッゲさんが腕組をして仁王立ちをしていますわ。

 オーレリアちゃんは、何か嬉しそうですわね……。ほうきに乗ってふわふわ飛んでいます。

 どんちゃんは、ささみジャーキーぺろぺろですわ。止まりませんわ。もうやめられないって顔をしてますわ……。ダメワンコ……。

 そしてリンネさんは、さつりくしゃーちの特大ぬいぐるみに抱きついてどんよりしていますわね……。何か、やらかした時はいつもこんな感じでしてよ……。


「み、皆様? 御機嫌よう……?」

「おう……。見ろ、30連敗したギルマスがそれで、30連勝したワンコがそれ。新しい装備の性能が気に入ってる魔女っ娘がアレで、何かをぶっ壊したのと性能を確認せずに装備を渡したらしいのが、お前さんの相棒だ……」

「…………ご丁寧に、痛み入りますわ」

「おう……」


 何か、壊してしまいましたのね。強化かしら……。強化保護チケットなしにやってしまったのかしら……?


「あ、ペルちゃん~……。さつりくしゃーちの死体を、無駄にしちゃったんだぁ……」

「こ、こんちゃ……。今、ちょっと、起きたくない……ごめん……」

『わうわう~~っ♡』

「ペルセウスさん、こんばんは! お姉ちゃんから凄く強いアクセサリーを貰ったんです! これですっ!」

「まあ、良かったわねぇ……え゛っ゛、物理…………え゛っ゛」


 物理ダメージ、これ合計マイナス100%……? 魔術は50%上昇で悍ましいぐらい強いですけれど、これわたくしが着けたら完全にゴミカスになりますわね……? こんな装備アリですの? 嘘でしょう?

 というより、さつりくしゃーちの死体を無駄にしたって、ああ~……。装備の呪物化に失敗したのかしら、それで萎えていますのね……。


「リンネさん、また手に入れれば良いのですわ。きっと機会が」

「あっ!!!!!」

「わっとと」


 萎えていたのも一瞬、今度は一転して明るい表情になりましたわね。ころころと表情が変わって可愛いですわ。にへへ~ってちょっとだらしない感じに笑う時のお顔が一番好きなのよね。ちゅーしたい。結婚しましょう。いえそれは心の中にしまっておいて、わたくしは善良な友人をしっかり演じないと。うっかりして、あーちゃん大好き好き好き変態お嬢様の部分が出てしまったら嫌われてしまいますわ。


「試したいことがあるの!」

「ええ、なんでもやりましょう!」

「じゃあ、うみのどーくつダンジョン、いこっ!」


 早速ですのね、うみのどーくつダンジョン! 昨日は4階層まで進みましたから、今日は4階層からスタートですわね。


「気をつけていってらっしゃ~い……。はぁ~今日朝行くんじゃなかったなぁ~」

「あら、一緒に行けなくて残念ですわ」

「おう。行く前にこのタフなサメバーガーを食ってってくれ」

「わたくし、ハンバーガーって食べたことありませんの。これってどう食べますの? 切って食べればよろしくて?」

「そりゃあもう、ガブッと行くんだよ! ガブッと!」

「え、そんな、大きな口を開けるのは恥ずかしいですわ……。ちょっとあちらで食べてまいります」


 人前でガブッとなんて出来ませんわ! あちらの個室で、こっそり食べさせて頂きます……。それにしても、何か違和感……。何かしら、何かおかしいなーって感じましたのに、何が…………。


『タフなサメバーガーを食べました』

『6時間の間、HPが2倍になります』

『6時間の間、HPが0になる攻撃を受けた時、1度だけHPが半分の状態で復活します』


 うわこれ、とてつもないですわね?! HP2倍って、わたくしのHPが12kを超えましてよ?! それに1度だけ食いしばりが効きますの?! 強いですわ~……。ハッゲさんのお料理、レベルが急上昇していますわ~!!!


「よいしょ、ごちそうさまでした。美味しかったですわ!」

「おう! そりゃ良かった」

「じゃ、気をつけていってらっしゃ~い……。さっき、リンネさんが集団PKに狙われてたんだけど、逆に34人もPKしたみたいだから、報復あるかも~」

「あら! 34人もやってしまいましたの?! 凄いですわ! 集団PKはどんどん狩ってよくってよ!」

「えっへへ……。また居たら、一緒に倒そうね……」

「今度は更に強力な魔術で片付けますねっ!」

『わう? わんっ!』

「では行って参りますわ~!!!」

「てら~」

「気をつけてな!」

「いってきまーす。あ、さっきの戦利品大したのがなかったんで、ギルド倉庫に置いていきます~」

「はいよ~。適当に売るなり焼くなりしておくねぇ~」

「行って参ります!」

『わうぅ~~!』


 さあ、今日もやりますわよ! まずはPKに警戒ですわね、よくってよ! 相手になって差し上げますわ!!!


「沈め、ネガティブオーラ」

『闇・不死属性のパーティメンバーは3分間、一部ステータスが上昇します』

「阻め、ボーンシールド」

『パーティメンバーが【ボーンシールド】状態になりました』


 いつの間にか、ボーンシールドがちまちま一人ずつ張るスキルからパーティメンバー全体になりましたわね……。上位職になった影響かしら? これは便利ですわね! 連発は、多分出来ませんわよね? 出来たらぶっ壊れですわ!


「アイギス!」

『【魔盾アイギス】を発動、【ペネトレイト・5】状態になりました』

「さあ、行きますわよ~~!!!」

「行こ~」

「行きましょうっ」

『わうわう~~っ』


 さあ、かかってくるならかかっていらっしゃいな! 無様な敗北をくれてやりますわ~!!! オーーーーッホッホッホッホ!!!!!



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