第218話 話し合い
「ロイド、リーシャとマリアには?」
ヒラリーが聞いてくる。
「昨日、説明した」
「そうか……では、聞くが、お前、本当に教国に行く気か?」
「行く。この前も言ったが、俺の命を狙っている時点で明確な敵だ。敵は早急に消す必要がある」
放っておいても事態が良くなることはない。
むしろ、向こうが付け上がるだけだ。
「そうか……すまんが、ウォルターとしては軍はもちろん、援助もできんぞ? まあ、路銀くらいは渡せるが」
「それで十分だ。別に戦争をするわけではない」
「うーむ……リーシャ、マリア、お前らは?」
ヒラリーが俺の両隣に座っている2人を交互に見る。
「もちろんついていきます」
「当然です」
リーシャとマリアは即答し、頷いた。
「まあ、そう言うだろうなー……シルヴィ、教国に行って、具体的にどうするんだ?」
ヒラリーが俺達の後ろで控えているシルヴィを見上げながら聞く。
「まずは協力者に会っていただきます。その後、教国を殿下に見ていただきます。その後は殿下の判断次第でございます」
協力者ねー……
「シルヴィ、後ろを向くのがめんどくさい」
話をする位置じゃないだろ。
「失礼」
シルヴィは俺達とヒラリーの間に立つ。
「それで? 協力者とは?」
シルヴィに聞く。
「以前、旦那様に話したように教国というのは一枚岩ではございません。大きく分けると、自分達だけでも神の教えを守ろうと思っている穏健派と神の教えを広く知らしめようと思っている強硬派です」
そういう対立があるわけね。
要は勢力を広げようとする者達と反対派だ。
「お前は?」
「穏健派と考えてもらって構いません。そして、例のメイドが強硬派です。もちろん、レナルド・アーネットを雇って旦那様達を襲わせたのも強硬派です」
「エイミル、ジャスの離間が穏健か?」
もっと言うと、俺のことをバラしている。
「二重スパイと考えてもらって構いません。いや、三重ですかね? ふふっ」
シルヴィが怪しく笑う。
妖艶さが出ているが、俺は好きじゃない。
宿屋の娘モードに戻ってほしい。
「まあ、お前のことはどうでもいい。その協力者とは穏健派だな?」
「そういうことです。詳しくは本人に聞いてください」
それがいいか……
「ヒラリー、そういうことだ」
「よくわからんが、まあ、わかった。しかし、お前達だけか? ジャック殿は……いないな。ラウラ殿を連れていくわけにはいかんか?」
「エルフのあいつが行くわけないし、連れていくわけにもいかない」
教国は独自の宗教観を持っているエルフや獣人族を嫌っている。
差別したり、明確に敵対しているわけではないが、距離を置いているのは確かだ。
「それもそうか……」
「それにあいつにはここに残ってもらわないといけない。例のメイドが死んだことはいずれ教国もわかる。そうなったら次があるかもしれない。ラウラに残ってもらうべきだろう」
「ウチは鎖国をしたり、これ以上、検問を厳しくするわけにはいかないからなー……」
ウォルターは観光と船による商業国家だから他国の者を取り締まるのが難しいのだ。
「俺達だけで問題ない」
「わかった。お前は言っても聞かんし、好きにすればいい。陛下やリネットには何と言う?」
「今回は事後報告もいらない。もう説教はごめんだからな。結婚の報告をしにエイミルとジャスに行ったと言っておいてくれ。ジャスには俺達と同じ学校だったコンラート王子がいるから挨拶という名の自慢に行ったって」
どうでもいいけど、コンラートとオリヴィアはどうなったのかね?
今度、手紙でも送って聞いてみるか……
「ふむ。実にエーデルタルトらしいな。リネットもため息をつく程度で納得するだろう」
エーデルタルトらしいのか、これ?
「伯父上は?」
「陛下は何も言わんだろ。それにマイルズの嫁を探すと言っていたし、それどころじゃない」
俺達に触発されたか……
頑張れ、マイルズ。
「では、さっさと行くか。シルヴィ、いつ行く?」
「いつでも大丈夫です。旦那様と奥様方のタイミングでお決めになってください」
「教国まではどうやって行くんだ?」
「やはり馬車ですかね? 私が御者を致しましょう。3、4日で着きます」
御者もできるんだ……
便利な奴だわ。
「じゃあ、ラウラに借りるか……どうする? いつ出ようか?」
俺はリーシャとマリアに聞く。
「明日準備をして、明後日でいいんじゃない? 向こうはロイドがここにいるって知っているわけだし、早い方が良いわ」
「私は御二人に従います。いまだに状況がよくわかっていませんし……」
「さっさと動くか……リーシャが言うように明日準備をして、明後日に出よう」
さっさと終わらせて魔法の研究に明け暮れる日々を送ろう。
エーデルタルトのことも追々考えればいい。
「かしこまりました。では、私はラウラ様に馬車を借りてきます。旦那様と奥様方は準備をお願いします」
「お前の分はいるか?」
「大丈夫です。私は私で準備しますので…………では、私はこれで」
シルヴィは頭を下げると、退室していった。
「ロイド、あれは本当に信用できるのか?」
シルヴィがいなくなると。ヒラリーが確認してくる。
「問題ない。それに気になる点が多い。多少のリスクはあっても行くべきだろう」
「エーデルタルトのことか?」
「ああ。俺が廃嫡になった理由というのが気になる。俺だって本当に武術が不得手だから廃嫡になったとは思っていない。心当たりが多すぎてわからなかったが、他に理由があるんだろうと思っている。だが、それに教国が関わっているとは思えん」
エーデルタルトは教国なんか眼中にない。
陛下だってそうだろう。
俺はあの人が教会に行っているのも教会関係者と会っているところも見たことがないのだ。
「うーむ、私もエーデルタルト王には会ったことがあるが、確かに傲慢で自分達こそが絶対というエーデルタルトの人間そのものだった」
もしかしなくても俺もその評価?
「ヒラリー、エーデルタルトを探れないか?」
「そうだな……行ってみるか……」
「お前が行くのか?」
「ああ、お前の廃嫡の件についての説明が欲しいと言って、エーデルタルト王に会ってこよう」
大丈夫かね?
まあ、そういうのが得意な奴か……
「頼むわ」
「ん」
俺達は後のことをヒラリーに任せると、部屋に戻ることにした。
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