第065話 利用
俺とティーナが話していると、大きな布袋を持ったベンが戻ってきた。
「これだ」
ベンは俺の前に袋を置く。
俺は腰を下ろし、袋の中身を見てみると、かなりの数の魔石が入っていた。
どう見ても60個以上はある。
「多くないか?」
袋の中身を見た俺はベンを見上げる。
「頼みがある。タイガーキャットの魔石60個は料金だから持っていっていいが、残りを換金してほしい」
「金がいるのか?」
「ああ。この国を脱出した後は普通に町に入れる。その際に金が要るんだ」
なるほどな。
ましてや、合計で100人を超えるとなると苦労するだろう。
「換金するのはいいが、魔石の料金は銀貨2枚だぞ。銀貨5枚は討伐料金だ」
「討伐料金とやらはお前が受け取ればいい。ただ、魔石は換金してくれ」
「まあ、いいぞ。魔石は売ってもいいが、俺が魔術を使うための媒体にもなるからな」
魔法のカバンもあるし、あって困るものではない。
「この袋には115個の魔石が入っている」
つまりタイガーキャットを115匹も倒したらしい。
すげーな。
「じゃあ、金貨11枚な。ほれ」
俺はカバンから金貨11枚を取り出し、ベンに渡すと、袋に入っているタイガーキャットの魔石をカバンに詰め込んでいく。
「明日明後日もタイガーキャットを狩るつもりだが、それも頼んでいいか?」
「別にいいぞ。こっちは労せず討伐料が入るからなー」
実に働き者だ。
獣人族は良い奴らだなー。
「頼む」
「ああ。それとティーナには言ったが、ララは当日までこっちで預かるからな。ララをここに置いておくと罰金なんだ」
「そうか……わかった。ララを頼む。だが、その前にちょっと借りてもいいか? 奴隷商の店の内部構造を聞きたい」
そのために買ったんだもんな。
「どうぞ。俺らはこの辺でダラダラしてるわ」
「悪いな。ララ、ティーナ、ついてきてくれ」
「ええ」
「………………」
ベンが広場の奥に向かって歩き出すと、ティーナも続いた。
だが、ララは俺を見るだけで歩き出さない。
「行ってこい」
「はい」
俺が許可を出すと、ようやくララはベンとティーナのあとを追った。
「姉や同族に会ってもあれではちょっと時間がかかるかもね」
リーシャがララの後ろ姿を眺めながらつぶやく。
「少なくとも、あの首輪がついてるうちは無理だな」
「可哀想ですねー」
俺達はララが戻ってくるのを待つため、その場にシートを敷き、座って待つことにした。
「それにしても誰もいないわね…………ここに何人いるかは知らないけど、静かすぎない?」
リーシャが言うようにあちこちにボロボロのテントが立っているが、人の気配がない。
「タイガーキャットを狩りに出てるんじゃないか?」
「ロイドの話だと、男女比で言えば女性の方が多そうだけど、勇敢なのかしらね?」
奴隷商で売っていた獣人族は女が圧倒的に多かった。
女の方が需要が高いからだろう。
「ティーナの身体能力はすごかったしな。タイガーキャットぐらいなら負けないんだろ」
多分、俺が剣を持っていたとしても、素手のティーナには勝てないと思う。
「上手くいきますかねー……」
マリアがポツリとつぶやく。
「さあなー。ジャックがいればもっと上手くやれるんだろうが、俺達ではこれが精一杯だろ」
あいつはこういうのが得意だと思う。
「ジャックさん……呼べませんかね?」
「まだリリスにいるかどうかはわからんが、どっちみち、間に合わんだろ」
「ですかー……不安だなー。私って不幸な女じゃないですか? いざ、船を奪って乗り込む時に海に落ちそうじゃないです?」
すごくわかるな。
「その時用のためにロープを買ってやるよ」
「そうね。船に乗るんだからマリアの救助用にロープを買っておきましょう」
「…………わかってたけど、誰も否定してくれない」
ごめんなー。
でも、お前の泣き顔は簡単に想像ができるんだよ。
「ハァ……暇ね」
「だなー……」
「いつまで待つんですかねー?」
俺達はやることもなく、ただただ待ち続ける。
そのままずっと待ち続け、昼になり、携帯食料を食べながらも待ち続けた。
ついにはリーシャが寝だし、その後にマリアも寝だした。
俺は2人を膝枕しながら待ち続けると、ベンが1人で戻ってくる。
俺は2人の頭を叩き、起こすと、立ち上がった。
「遅すぎだろ」
俺は近づいてきたベンに文句を言う。
「すまん……ララに奴隷商の店の詳細を聞こうとすると、泣き出してな…………」
完全にトラウマだな。
まあ、わからんでもない。
俺も空を飛んだら泣く自信がある。
「さっさと自国に戻ってゆっくり癒しな」
「ああ……すぐに連れてくるが、良くしてやってくれ」
鎖で繋ぐんだよなー……
その後、ティーナがララを連れてきたので俺達はララを連れて、基地をあとにした。
そして、森を抜けると、町に帰るために平原を歩いていく。
「ララ、これをやるよ」
俺はカバンからドライフルーツを取り出し、ララに渡した。
「……良いんですか?」
「俺らはもう食べたし、余ったやつだ」
まあ、携帯食料だし、日持ちはするから余ったわけではないが、こう言わないと食べそうにない。
「…………ありがとうございます」
ララは礼を言うと、ドライフルーツを食べだす。
「救出作戦は決まったか?」
「はい。奴隷市が開催される日の夜に隠密活動が得意な人が忍び込み、救出するそうです」
やはりその日を選んだか……
バカな奴ら。
「それだけか?」
「…………いえ、住居区に火をつけ、そちらに兵を誘導させるそうです」
ふーん……
「どう思う?」
俺は下水さんを見る。
「火をつけるのは住居区ではなく港ね」
「だろうな」
他にない。
「あ、あの…………」
「お前はしゃべるな。首が締まるぞ」
俺は何かをしゃべろうとしたララを止める。
「私達が囮ですか?」
マリアが聞いてくる。
「あのキツネ女が俺達の思い通りに動くものか。お互いを利用しようってわざわざ教えてやったからな」
あれは絶対に上流階級だ。
そんな奴が考えることはわかりきっている。
俺達が港に向かったタイミングで火をつけるのだろう。
それであわよくば俺達に兵の足止めをさせる。
「どうするんです?」
「どうもせん。俺達が船を奪うタイミングは変わらず、あいつらが門を抜けて、逃げる時だ」
あいつらは奴隷を救出後に門を出ないといけない。
当然、目撃者はいるし、すぐに兵も誘導作戦と気付き、追うだろう。
俺達はその後に船を奪えばいい。
「どちらにせよ、北の港と南の門に兵を分散させることになるからお互いの役目は果たすでしょう。あとはお互いの無事を祈って終わりね」
どちらが上手くいくか、もしくは、どちらも上手くいくか、最悪はどちらも失敗する。
こればっかりは神のみぞ知るだが、1つだけわかっていることがある。
このままだと獣人族の方は失敗する。
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