第078話 救出
俺が扉を開くと、部屋の中は明るかった。
部屋の中央には奴隷商のブルーノと俺が店に来た時に案内してくれた屈強なハゲがいる。
そして、部屋の隅には鎖で繋がれたキツネ耳の少女とその横で手足を縛られ、口に猿轡をされたマリアが転がっていた。
「よう、ブルーノ」
俺は2人でテーブルの上の書類を読み込んでいるブルーノの後ろ姿の声をかける。
「え? だ、誰だ!?」
「客だよ」
「こんな時間に何を言ってる!? ん? いや、確か獣人族の子供を買った客だったか?」
ブルーノは俺のことを思い出したらしい。
「そうだよ」
「返却か? どちらにせよ、何故、ここにいる!? 警備の者はどうした!?」
「ウチの貴族を返してもらいにきただけだよ」
「貴族…………」
ブルーノがマリアを見る。
「それそれ」
「貴様、エーデルタルトの貴族だったか!?」
「貴族じゃなくて王子様なんだわ」
「は? 何を言っている?」
どうでもいいな。
「まあ、そういうわけだからマリアは返してもらう」
「ふざけるな! これはウチの商品だ! おい!」
ブルーノがハゲを見ると、ハゲがブルーノの前に立った。
この前見た時も思ったが、身体も大きく強そうだ。
「下がれ。死ぬか?」
俺は一応、警告する。
「死ぬのはお前だ」
男は腰から剣を抜く。
「待て、殺すな。エーデルタルトの貴族なら金になる」
俺はなるねー。
めちゃくちゃ高いねー。
「アホが……まずはお前だ。ブラッドドレイン」
俺はハゲに向かって魔法を使った。
「魔術師? ん? グッ! ががっ」
ハゲがその場で苦しみだした。
そして、膝をつくと、全身から血が噴き出し、辺りを血で染める。
真っ赤になった男はその場で倒れ、ピクリとも動かなくなった。
その光景を見ていたブルーノが真っ青になる。
なお、キツネ耳の少女とマリアも真っ青だ。
「く、黒魔術師……バケモノ……!」
ブルーノはその場で腰が砕け、慌てて、後ずさる。
だが、尻もちをついている状態なので上手く下がれていない。
「ただの血抜き魔法だよ。ブルーノ、お前、商人のくせに貴族に弓を引いて生きていられると思ったのか?」
「や、やめろ……」
ブルーノは涙を浮かべながら必死に逃げようとしている。
「マリアをお前に売ったクズ冒険者共はリーシャに譲ったが、肝心のお前は俺が直々に処刑してやろう。光栄に思えよ。エーデルタルト一の魔術師である第一王子に手を下してもらえるんだからな」
「わ、私は何も……!」
していない?
アホか……
「燃え尽きろ……ブラッドヒート」
「え? なんだ……? あ、あ、熱いっ! 身体がー! 身体が熱いぃ!! あ…………」
俺がブルーノに手をかざすと、ブルーノが苦しみだす。
だが、すぐに言葉を発しなくなると、ブルーノの身体が黒くなっていった。
「うーん、ウサギを焼く時短魔法を作ったんだが、失敗だな……」
ブルーノだった物は炭となって、1つの黒い物体になっていた。
「……ごめん、吐いていい?」
「……俺も気持ちが悪い」
後ろの獣人族の2人から嫌そうな言葉が聞こえてきた。
「原型が残ってない方が良いだろ。それより、そこのキツネがお前らの目的だ」
「あ、ジュリー様!」
「不快なものを見せて申し訳ありません!」
ベンとティーナがキツネ少女のもとに向かう。
俺もまた、転がっているマリアのもとに向かった。
俺は涙目で俺を見ているマリアのもとに行くと、腰を下ろし、猿轡を外した。
「ハァ……ハァ……殿下ー! やっぱり黒魔術じゃないですかー!」
しゃべれるようになったマリアは開口一番に俺を批判してくる。
「ただの生活魔法だ」
「どこに生活の要素があるんです! おえ、気持ち悪い……」
俺はカバンからナイフを取り出すと、マリアの手足を縛っている縄を切る。
縛っていた縄をすべて切ると、マリアが上半身を起こした。
俺はそんなマリアの頭を撫でる。
「遅くなって悪かったな」
「…………殿下ー!」
マリアが泣きながら俺に抱きついてくる。
俺はそんなマリアの背中を優しくさすった。
「もう大丈夫だ。こんなことになってすまない」
「殿下ー! うえーん」
マリアには辛かっただろう。
「よしよし」
「マリア」
俺がマリアをなだめていると、リーシャがマリアの肩を叩く。
肩を叩かれたマリアは顔を上げて、リーシャを見上げた。
「リーシャ様……」
「マリア、自害なさい。私は何も知らないことにするから」
リーシャはそう言って、マリアにナイフを渡す。
マリアはナイフを受け取ると、呆然とナイフを見る。
「いや! ヤラれてませんから! 無事ですよ!」
「そうなの?」
「そうですよ! 処女ですよ! 淫乱な下水さんとは違うんです!」
「そう…………は? 淫乱?」
リーシャがマリアを睨む。
「殿下ー! 怖かったですぅー!」
マリアは明らかにやべって顔をすると、俺に抱きついてきた。
「おい、バカぶどう。なんつった?」
「リーシャ、後にしろ。マリア、立て。さっさと逃げるぞ」
「…………はい」
「はい」
俺達は立ち上がると、獣人族の方を見る。
獣人族の方はキツネ少女が四つん這いで苦しんでおり、ティーナがその背中をさすっていた。
「どうした? 薬でも盛られてたか?」
「おぬしの魔法のせいじゃい! おえー……吐きそう……」
「ジュリー様! 気を確かに!」
心の弱い奴だ。
「ティーナ、時間がないからそいつを背負え」
「そうね。ジュリー様、私の背に!」
ティーナはジュリーに背を向ける。
「おのれ、エーデルタルトのイカレ王子め。覚えておれよ……」
ジュリーは呪詛を吐きながらティーナの背に乗った。
「よし、行くぞ!」
俺達は部屋を出ると、通路を走る。
そして、獣人族の女共が捕まっている牢屋まで来ると、立ち止まった。
女共は鉄格子付近に群がっており、非常に邪魔だ。
「金貨20枚共、下がれ!」
俺は鉄格子付近くに群がっている女共を下がらせる。
「私は30枚だよ!」
「10歳好きのくせに!」
「ロリコン野郎が……」
うーん、好感度激下がり。
俺は女共が下がったので鉄格子状の扉についている錠に向かって手をかざす。
「エアカッター!」
俺が魔法を放つと、風の刃が鉄製の錠を切った。
「皆、行きましょう! ついてきて!」
ティーナがそう言って走っていったので俺達も続いた。
もちろん、後ろには金貨20枚共もついてきている。
そして、そのまま走っていくと、今度は男共の牢屋にやってきた。
男共は俺達を見ても何もしゃべらず、鉄格子からも離れている。
俺は鉄格子状の扉の前に来ると、手をかざした。
「エアカッター!」
俺が魔法を放つと、今度もきれいに鉄製の錠が切れる。
すると、男共が牢屋から出てきた。
「もうこれでいいな?」
俺は男共が出てくると、ベンとティーナを見る。
「ああ。感謝する」
「本当にありがとう。この恩は絶対に忘れない」
「妾も絶対に忘れんぞ……!」
ベンとティーナは素直に感謝してきたが、ティーナの背にいるキツネのガキンチョは俺を睨んでくる。
「金貨1000枚は黙ってろ」
「は? 1000枚、だと……? 妾が……? たった?」
ジュリーはガーンという表情で落ち込む。
「じゃあ、ここでお別れだ。10分後に逃げろ。上手く逃げ切れよ」
「お前らもな」
「ああ」
俺達はこの場で獣人族達と別れると、先に店を出た。
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