第077話 汚名


 俺達は町へ侵入した後の動きを確認し終えると、その場で待機となった。

 そして、俺が想定していた時間となる。


「リーシャ、起きろ」


 俺は俺の膝で寝ているリーシャを揺する。


「んー? もう時間? あら? 外套をかけてくれるなんて気が利くわね」


 リーシャは起きると、ティーナがかけてくれた外套に気が付いた。


「まあな。風邪を引くと良くない」

「あら、優しい」


 なお、ティーナが自分の顔を指差しているが、当然のごとく無視だ。

 せっかく良い旦那ポイントが上がったんだから部外者は黙ってろ。


「さて、やるか」


 俺はそう言うと、立ち上がり、リーシャもまた立ち上がった。


「そうね。ぶどうが泣いてそうだし」


 泣いてるだろうなー。


「お前らも準備はいいか?」


 俺はベンとティーナにも確認する。


「ああ。いつでもいい」

「やろう」


 俺は2人が頷いたのを確認すると、町を取り囲んでいる壁に手を置く。


「サンド!」


 俺が魔法を使うと、壁がまるで砂のように崩れ始める。

 そして、人が数人は通れる楕円形の穴が空いた。


「見よ! この素晴らしい魔法を! こんなのができるのは俺だけだぞ!」


 俺はそう言って自慢しているのだが、魔法にこれっぽっちも興味のない3人は俺の脇をすり抜け、走って町に入っていった。

 俺はこの場にぽつんと残される。


「ハァ……やっぱりマリアがいるわ」


 マリアならすごいですーって言ってくれるのに……


 俺はちょっと不満に思いながらも穴を通り、町に入る。

 町と言っても店の裏なため、正面は壁だ。

 俺は店の壁と外壁の間を通り抜けると、店の正面に回った。


 そこには剣を振って、血を払うリーシャとベンがおり、地面には伏した2人の男がいた。


「もう始末したのか?」

「後ろから同時に奇襲をかけたからね」


 早いねー。


「ベン、ティーナ、その死体を店の裏にでも隠しとけ」

「ああ」

「了解」


 2人は男の死体を店の裏まで引きずっていった。


「巡回の兵の気配は?」

「ないわ」


 よし!


「中に入ろう」


 ベンとティーナが戻ってきたため、俺達は店の中に入る。

 店の中は以前に来た時と同じだが、真っ暗だ。

 もちろん、薬を飲んでいる俺とリーシャや夜目が利くベンとティーナは見えている。


「左だ」


 俺が指示を出すと、3人が頷き、左通路に入っていく。

 俺もそれに続くと、通路を少し行ったところでベンが腰を下ろした。


「…………コリン、コリン」


 ベンが牢屋の中に向かって声量を落として声をかける。


「……ん? ベ、ベンか!?」

「しっ! こっちに来い」


 ベンが人差し指を指に当て、声量を落とすように言うと、手招きをして獣人族の男を呼ぶ。

 獣人族の男は中腰でゆっくりとこちらにやってきた。


「…………お前、こんな所で何をしている!?」

「…………もちろん、助けにきた」

「…………マジかよ。そいつらは? 人族だろ」


 コリンとかいう獣人族の男が俺とリーシャを見上げる。


「…………詳しい話は後だ。まずはジュリー様と女性を助ける。その間にお前は他の奴らを起こしておけ。さっさと脱出するぞ」

「…………わかった」


 コリンが頷くと、ベンが立ち上がり、通路の奥の方を指差した。

 俺達はその合図に頷くと、走って、通路の奥に向かう。

 そして、男女を分ける扉の前までやってきた。


「この先が女奴隷だ。獣人族は手前」


 俺がララを買ったところだ。


「ティーナ、任せる」


 ベンがティーナの肩を叩くと、ティーナが頷き、扉を開ける。

 そして、ティーナが先頭で扉の先に行くと、俺達も扉を抜けた。


 扉を抜けると、正面には鉄格子がある部屋があり、前と同じように獣人族の女共は部屋の隅でうずくまっているのが見える。

 ティーナは鉄格子の前まで行くと、ベンと同じように腰を下ろした。


「マーサ」


 ティーナが名を呼ぶと、うずくまっている集団の中の1人が顔を上げる。


「…………ティーナ?」

「ええ、そうよ。静かにこっちに来て」


 ティーナがそう言うと、のそのそとこちらにやってくる。

 そうしていると、周りの女性も次々と起き出し始める。


「え?」

「ティーナ?」

「嘘!」


 チッ!

 騒ぎになる!


「プルーフ!」


 俺は騒ぎになる前に魔法を使った。

 この魔法は俺の周囲を防音にする魔法だ。


「ティーナだよね!?」

「え? ホント!」

「どうしてここに!?」


 女共は一切、声量を落とさずに騒ぎ始める。


「静かにして」


 ティーナが指示をすると、女共が一斉に黙った。


「もう遅い。防音の魔法を使った。余計な魔力を使わせやがって」


 ……ったく。

 少し考えればわかるだろ。


「ご、ごめん。皆、助けに来たよ」

「どうやって来たの?」


 マーサという女が代表して前に出てきた。


「こちらの…………王子様かな? とにかく、この人に協力してもらったの」


 ティーナがそう言うと、マーサが俺を見てきたため、俺と目があった。

 あ、こいつ、最初の列にいた女だ。


「ん? 人族…………あ、ララを買った変態!」

「黙れ、金貨30枚」


 誰が変態だ!


「ごめん。あれは私達が頼んだの。この店の内部情報を知るために買ってもらっただけ」


 ティーナが説明してくれる。


「あー、なるほど……」


 マーサは納得しているようだが、こいつも奥の女共も俺を見る目が若干、冷たい。

 やはり10歳が趣味っていう言葉はそれほど重かったのだろう。


「ティーナ、時間がない」

「あ、そうだね。ごめんけど、私達は先にジュリー様を助けに行く。帰りに寄るから逃げ出せる準備をしておいて」

「ジュリー様を…………わかったわ」


 意外にも素直に頷いたな……

 ごねるかと思ったんだが。 


「行きましょう」


 ティーナが頷きながらそう言ったため、右奥に向かって走っていく。

 この先は俺も知らない場所だ。

 走っていると、左側にチラホラと人族の奴隷が見えている。

 だが、皆、寝ているようで俺達に気付く様子がない。


 俺達はそのまま走っていくと、突き当たりに厳重な鉄の棒の鍵がついた部屋が見えてきた。

 だが、その鍵は開いている。


「ロイド、中に数人に気配がする。捕まっている人達だろうけど…………」


 リーシャは空いている鍵を見る。


「わかっている。お前達は下がってろ」


 俺がそう言うと、リーシャ、ベン、ティーナの3人は俺の後ろに回る。

 俺は扉の取っ手を掴むと、ゆっくりと扉を開けた。

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