第151話 必勝法


 俺とリーシャとマリア、そして、ラウラの4人はディーラーが立っている前のテーブルに着く。


「いらっしゃいませ。当店は初めてだと思いますが、他のカジノに行かれた経験はございますか?」


 ディーラーが聞いてくる。


「ないな」

「私もない」

「もちろん、私もないです」

「私は…………いいや、参加しないし」


 このエルフ、トラウマになってないか?


「こちらはエーデルタルトからいらしたお客様だ。説明を頼む」


 俺達の後ろに立っている支配人が説明する。


「さようですか。では、ルールを説明します。このゲームはそれほど難しくなく、初心者の方でも楽しめるものとなっています。実際にやりながら説明しましょう。まずはお客様が賭ける金額を決めます。一応、説明しておきますと、最低は金貨1枚からになります」

「二階は金貨ということか?」

「はい。一階では銅貨からでもやっておりますが、二階は金貨からです」


 まあ、金持ち専用だろうし、銅貨や銀貨はないわな。


「わかった。俺もチマチマと賭ける気はない」

「ありがとうございます。今回はお客様が金貨2枚を賭けたと想定します」


 ディーラーはそう言うと、テーブルの下から金貨2枚を取り出し、テーブルに置く。


「それが増えたり減ったりするわけだな。それくらいは知っている」

「はい。その通りでございます。次にこちらのカードの中からお客様と対戦相手となる私が一枚引きます」


 確かにテーブルの上には何十枚ものカードが重ねておいてある。


「見てもいいか?」

「どうぞ、ご覧ください」


 俺はカードの束を手に取ると、両隣に座っているリーシャとマリアにも見えるように見ていく。


「なんだこれ?」

「数字ね」

「マークもありますね」

「それはトランプです。マークが4種類、数字が1から13まであります。今回はマークは使いませんので数字が1~13あり、それが4枚ずつあることだけを覚えておいてください」


 なお、俺もリーシャもマリアもトランプは知っている。

 東の方で生まれたカードゲームだが、俺達も普通に異国の商人から仕入れてたりするのだ。


「わかった」

「では、そのトランプをお貸しください」


 俺はそう言われたのでトランプをディーラーに渡した。

 すると、ディーラーは器用にカードをシャッフルしていく。


「おー! すごい!」

「上手ね」

「すごいです!」


 なお、そのくらいは俺達も普通にできる。

 在学中は寮とかで普通にカードゲームくらいするし。


「ありがとうございます。では、説明を続けます。まずですが、お客様、そして、私がこのトランプの中から一枚引きます」


 ディーラーは裏向きのカードを広げ、俺に向けてくる。

 俺はその中から一枚引くと、裏のまま、テーブルに置いた。


「はい。では、私も引きます」


 ディーラーも適当に一枚引く。


「では、お客様は自分のカードをご覧ください。ただし、私に見せてはいけませんよ」


 俺はそう言われたのでディーラーに見えないようにゆっくりとカードをめくった。

 俺のカードはハートの8だった。


「確認したぞ。それで?」

「ここからがゲームです。簡単に言いますと、お客様のカードの数字と私のカードの数字で競うんです。もちろん、数字が大きい方が勝ちです」

「1が一番下で13が一番上か……」

「失礼。トランプは1が一番上で2が一番下になります。2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、1の順番です」


 知ってる。


「そういうものなんだな…………わかった」

「では、続けます。まずお客様はご自分のカードを見て、私と勝負するかどうかを決めます。もし、お客様のカードが2ならば勝負をするまでもないでしょう?」

「そうなるな。絶対に負ける」

「はい。その場合は降りてください。ただし、賭け金の半分を支払ってもらいます。この場合は金貨1枚ですね」


 まあ、払わなくていいなら1が出るまで降り続けるわな。


「なるほど、なるほど」

「今回は説明のために受けていただきます」

「わかった」


 まあ、俺の金じゃないしな。


「では、勝負……めくってください」


 俺はそう言われたのでカードをめくる。

 すると、ディーラーも同時にカードをめくった。


 俺の数字は8でディーラーは5だった。


「おめでとうございます。お客様の勝ちです。お客様は金貨2枚の5割である金貨1枚を得られました」


 ディーラーはそう言って、テーブルの下から金貨を1枚取り出し、テーブルに置いてある金貨2枚の上に重ねる。


「これで終わりか?」

「一通りは終わりです。ここからはこの金貨3枚を賭けることができます」

「そりゃそうだろ」

「いえいえ、先程のお客様の勝ちは5割でした。ですが、ここからは10割、つまり2倍になります」


 そうやってお前らが取り戻すわけね。


「金貨3枚が6枚になるわけか?」

「さようです。さらに勝てば12枚、24枚と増えていきます」


 そして、どこかで負けて取り戻す。

 確率は二分の一だし、いつかは負けるもんな。

 しかも、金持ちはちょっとやそっとでは降りない。

 どんどん熱くなっていき、こいつらが儲けるわけだ。


 …………そうやって、博識のエルフ様も大金を失ったんだな。


「ふむふむ。ちなみに、同じ数字が出てきたらどうなる?」


 同じ数字が4枚あるわけだから引き分けも十分にあり得る。


「やり直しですね。もちろんですが、新たに出たカードを見て、再度、勝負するか降りるかを選んでもらって結構です」

「そうか…………大体わかったが、一つ気になることがある」

「何でしょう?」

「単純なゲームゆえにイカサマが怖い」


 簡単にイカサマができそうだ。


「もちろん、そのようなことは致しませんし、お客様もお控えください。魔法は禁止ですし、魔法を感知する特殊な道具もございます」

「うーむ…………しかしなー」

「信用いただけませんか?」


 うん。


「そういうわけではないが…………なあ、カードを引くのをこちらに任せてもらえないだろうか?」

「どういうことでしょう?」

「俺の分は俺が引く。これはそのままだ。だが、お前の分は俺の妻が引くでどうだろうか?」


 俺がそう言うと、ディーラーが支配人を見る。

 すると、支配人が頷いた。


「…………わかりました。では、そのように致しましょう」


 勝った!


「じゃあ、マリア、お前が引け」

「そうね。マリア、よろしく」


 俺とリーシャがほぼ同時にマリアを指名する。


「え? なんで私? リーシャ様でいいじゃないですか」

「リーシャは手癖が悪い。その点、お前は正直者だから大丈夫。庶民の聖女様だろ」

「なるほどー。下水のリーシャ様はマズいですよねー。じゃあ、この聖女と名高い私がやります!」


 絶対に勝ったな。

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