第033話 ハピ村へ


「いやー、それにしても放火はおもしれーわ」


 ハピ村に向けて出発すると、ジャックが楽しそうに笑う。


「俺は面白くない。おかげで、こんなことに巻き込まれた」

「俺は仕事が楽そうでラッキーだな」


 仕事か……


「お前、こんな仕事も受けるんだな」

「ん? こんな仕事とは?」

「盗賊の盗伐」


 意外だ。

 モンスター専門かと思っていた。


「あー、それか。俺はお前さんみたいな魔術師じゃないし、絶世の嬢ちゃんみたいな剣士でもない。もちろん、ちっちゃい嬢ちゃんみたいなヒーラーでもない。身体も大きくないし、力もそんなにない」


 確かにジャックはそこまで大きくはない。

 むしろ、リーシャと同じくらいで男としては小さい部類に入るだろう。


「まあ、そうだな。お世辞にも強そうには見えない」

「だろ? 俺は知識、経験なんかで生きる冒険者だ。そういう積み重ねでAランクになった。そんな俺が最初にやっていた仕事は調査や採取なんかだ。だからこういう森の中の捜索とかが向いているんだよ。今回は空賊だが、山賊なんかの野盗は隠れ住んでいるからな。そういうのを見つけるのも俺の仕事さ」


 当然、上手くいくだけではない。

 野盗に見つかれば戦闘か。


「苦労したんだなー」

「だから言っただろ。苦労の方が多い。冒険記に書いているのは上澄みもいいところよ」


 ジャックの冒険記は今のところ3冊出ている。

 こいつは30年も冒険をしてきたのにたったの3冊だ。

 本に書かれなかった冒険や仕事の方が圧倒的に多い。


「なるほどねー」

「まあ、そういうこった。だから今回の仕事もそう珍しいことじゃない。だから安心しな。たいした危険はねーよ」


 ジャックがそう言うならそうなんだろう。


 俺は少し安心し、歩き続けた。

 しばらく歩いていると、リリスの町に来た時は逆にどんどんすれ違う人が少なくなってくるのがわかる。

 そして、さらに歩いていくと、ついにはまったく人とすれ違わなくなった。


 俺達はそのまま歩き続けると、次第に空が茜色に変わっていったため、前と同じく、早めの野宿の準備を始める。


「固形燃料は買ったか?」


 ジャックが聞いてくる。


「ああ。でも、もったいないからお前の分を出してくれ」

「けちくせー王子様だな、おい」

「Eランクから物を取るな、Aランク」

「言うねー。お前さん、王様よりも冒険者の方が向いてんじゃねーの?」


 嫌な評価だわ。


「いいから出せ。火はつけてやる」

「はいよ」


 ジャックはカバンから固形燃料を取り出すと、その辺に放り投げる。

 俺は魔法を使い、地面に落ちている固形燃料に火をつけると、テントを設置し、焚火の前に座った。


「今日はどこかに出かけないのか?」


 俺は取り出した携帯食料を食べながら聞く。


「嫌味だねー。まあ、後で朝飯用の罠を仕掛けに行く程度だ。今日は普通に寝る。この前は寝ずにリリスまで走ったんだぜ?」


 まあ、距離的にそうだろうな。

 すごい体力だ。


「お疲れさん。素直に言えば、マリアが回復魔法を使ってくれたのに」

「羨ましいパーティーだぜ。普通はそんなバランスのいいパーティーは組めないんだぜ? お前らの一番の幸運だ」


 リーシャとマリアは幸運だったようだ。


「マリア、貧乏くじじゃなかっただろ?」

「え? いや、そもそも…………あ、でも、うーん、まあ、当たりくじですかね?」


 素直に当たりくじと言えばいいのに。


「当たりくじに決まっているでしょう?」

「はい」


 リーシャがマリアに言うと、マリアは即答で頷いた。


「相変わらず、楽しそうだねー。まあ、お前さん達の冒険がどこまでかは知らんが、楽しくやれ。楽しまないと損をする。人生の先輩からのアドバイス」


 いや、そんなもんは誰でも知っているだろ。


「どうも」

「さっさと寝な。明日の夜は寝れないかもしれないし、早めに寝て体力を温存しとけ」

「お前はどこで寝るんだ?」


 ジャックのテントはない。


「罠を仕掛けたらテントを出して寝るよ」

「気配を消す魔法はいるか?」

「俺も使えるからいい」


 そういや、こいつも魔術が使えたな。


「そうか。じゃあ、俺らは寝るわ」

「ん。いい夢見ろよ」


 そうだといいな。

 地面に落ちる夢は見たくない。


 俺達3人は新調したテントに入ると、微妙に狭い空間でくっつきながら寝た。

 そして、翌朝、ジャックが仕掛けた罠にかかったうさぎを食べると、出発し、ハピ村に向けて、歩き出す。


 この日も話しながら歩き、特にモンスターも出ずに平和な道を進んでいくと、夕方前には村が見えてきた。

 俺達は道を外れ、村近くの大森林の浅いところに潜む。


「日が落ちるまでは待機だ」

「暇だな…………」

「まあ、そうだろうな。ほれ、俺の冒険記と伝記だ」


 ジャックが人数分の本を渡してくる。


「お前、こんなに持ち歩いているのか?」

「いや、出発の前に町の本屋で買ってきた。それはくれてやる。サイン入りだぞ」


 リリスの町を出発する前に言っていた準備って、それじゃないだろうな?


 俺は呆れながらも本を受け取ると、暇なのは確かなので昔読んだことがある冒険記を読み出す。

 昔読んだ時もハラハラドキドキして面白かったものだが、今読んでも面白かった。

 むしろ、冒険者となって、冒険を知り、ジャックという人間を知っていると、より面白かった。

 しかも、著者が目の前にいるため、聞けば詳細の話や裏話を聞けたのが貴重だった。


 おかげで、あっという間に時間が過ぎ、本を読めないくらいまでに暗くなったのだった。

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