第034話 どんな理由があれ、裁かれるべき


 日が沈みだすと、辺りはあっという間に暗くなっていく。

 見える明かりは月と村のわずかな明かりだけだ。

 こうやって見ると、マジで田舎そのものである。

 リリスの町は夜でも街灯があり、まだ明るかった。


「あんな所には住みたくねーなー」


 俺は思わず、言葉が出た。

 だって、俺が行くはずだった辺境のミールも似たようなものだもん。


「だろうな。都会の貴族様は絶対に嫌だろう。もっと言えば、あそこに住む連中だって良いとは思っていない」

「そうか? じゃあ、町に行けばいいじゃん」


 リリスの町ってそう遠くはないだろ。


「色々あるんだよ。ほら、これを飲め」


 ジャックはそう言うと、小瓶を3つ渡してくる。


「なんだこれ?」

「夜目が利くようになるマジックアイテムだ」

「へー……そんなんあるんだ。高いだろ」

「予算は全部領主持ちだ」


 じゃあ、遠慮はいらんな。


 俺は小瓶を飲み干すと、リーシャとマリアにも渡す。

 すると、徐々にだが、周りの景色が見え始めた。


「すごっ!」

「本当ねー……これ、ちょっと欲しいわ」

「わー、すごいですー」


 リーシャもマリアも驚いている。


「あまり流通はしないが、魔法屋に売ってる。欲しけれりゃ買いな。もしくは、魔術師の兄ちゃんが作れ」


 うーん、作れるかなー?

 俺、攻撃魔法専門なんだよなー。


「まあ、考えておく」

「そうしな。どうだ? 森を歩けそうか?」

「ああ、行ける」

「よし! ついてこい」


 ジャックはそう言うと、森の奥に進んでいったので、俺達もあとに続いた。

 俺達はジャックの後ろを歩いているが、ジャックは前も持っていた鉈で枝や草を払って進んでいくので楽についていける。


「俺達が歩いていた時はひどかったのになー」

「主にリーシャ様がですけどね。枝に引っかかって、リーシャ様の肌が血でにじんでました。おいたわしいことです」


 ホント、ホント。


「森を進む場合はこういう鉈の方が良い。剣は小回りが利かないからな」


 専門家はすごいねー。


 俺達は感心しながらジャックについていくと、ジャックが足を止めた。


「どうした?」

「そろそろ村の近くだ。気配を消す魔法をかけろ」


 俺はジャックに指示されたので魔法を使う。

 そして、その後も進んでいくと、ちょうど村の後ろに回った。


「こりゃ、当たりだな……」


 ジャックが声を潜めてつぶやく。


「何がだ?」


 俺も声を潜めて聞く。


「あそこを見ろ」


 ジャックが指差した方向はただの森である。


「わからん」

「よく見ろ。木の間隔が周りと違うだろ」


 ジャックにそう言われてよく見ると、確かにジャックが指差した先は木が生えている間隔が他とは違い、開いていた。


「よくわかるな……」


 マジで感心する。


「これが経験だ…………あれは伐採をしたな。あそこを行った先が空賊の根城だろう」

「よし、燃やそうぜ」

「まあ、待て。その前に確認だが、嬢ちゃん達も行かす気か? 相手は賊だし、捕まったらロクな目に遭わんぞ」


 そうなっちゃうか……


 俺はリーシャとマリアを見る。


「わたくしはどこであろうと、殿下についていきます。殿下の行くところがわたくしの行くところです」

「私も殿下と共に参ります…………怖いので殿下のそばも離れません」


 2人はついてくるようだ。


「そういうわけだ」

「ホント、エーデルタルトの令嬢は重いねー。敵に捕まりそうになったら自分の首を掻っ切るってマジか?」

「当たり前よ」

「当然です」


 令嬢も夫人もエーデルタルトの貴族女子は全員が常にナイフを持っている。


「こわー……俺なら何としても生き残るけどな」

「そういう国だ。どっちみち、捕まらん。空賊なんか雑魚の集まりだ」


 あいつらは飛空艇乗りに過ぎない。

 白兵戦なんかしたこともないだろう。


「それもそうだ。お前さんや絶世の嬢ちゃんの敵ではない。だが、油断はするな」

「わかっている。マリア、お前は絶対に俺から離れるな」

「はい。絶対に離れません!」


 そうしな。


「行くか?」

「もう少し待て。村の灯りが完全に消えたらと領主に言われている。それが作戦開始の合図」


 寝静まるを待つわけか……

 夜襲だな。

 わかりやすい……


 俺達はその場でじっと待つことにし、ただただ待ち続けた。

 しばらく待っていると、少しずつ民家の灯りが消えていき、ついにはすべての民家の灯りが消え、真っ暗になる。

 ただし、薬を飲んでいる俺達にはすべてが見えていた。


「よし、作戦開始だ。この先にある空賊の根城についたら火魔法を使え。最大級だ」

「最大級を使うと、俺らも死ぬが?」


 森で使ったら大惨事になる。

 そして、火に巻き込まれて死ぬ。


「適度な火魔法にしろ…………お前さん、バケモノか?」

「エーデルタルト一の魔術師だぞ」

「もっと使える魔法を学べ」


 ごもっとも。

 空間魔法とかの方が使えるわ。


「そうする……」


 俺達は作戦を開始することにし、ゆっくりと進んでいった。

 ジャックが見つけた道は最初こそ険しく見えたが、すぐに人が普通に通れるくらいの道になった。


「見ろ、伐採の跡があるだろ」


 ジャックがそう言って掴んだ枝は確かに刃物で切ったようにきれいな切り口となっている。


「確かに」

「ったく……賊なんかと手を組みやがって……」

「アホだな」

「なんで組んだのかしら?」


 リーシャが首を傾げる。


「お前さん達も言ってただろ。ド田舎。こんなところに住みたくない。それはそうだ。そして、実は村人もそう思っている。ましてや、近くにリリスっていう大きな町があるんだ」

「移住すればいいじゃん」

「できたらしてる。でも、色んなしがらみがあるんだ。お前さん達からしたらくだらないしがらみだ。でも、あいつらには重い。だが、華やかな生活にも憧れる。それで空賊の口車に乗ったんだろ」


 バカじゃん。


「それで何の罪もない人を襲う空賊の仲間入りか? クズだな」

「そうだ。だからそのツケを今から支払わせられる」

「当然ね」

「賊は滅びろです」


 王族はもちろんのこと、貴族は絶対に賊を許さない。


「それは同感だ。今回ばっかりはお前らが王侯貴族で良かったぜ。同情する冒険者もいるからな」

「どっちみち、俺らは撃墜……襲われたんだぜ? 恨みしかねーわ」

「殿下ー、もう認めましょうよー…………」


 認めない。

 俺は着陸に成功した。


「わかった。ためらわないならそれでいい。見えてきたぞ…………」


 ジャックが言うように確かに道の先が開けているように見える。


 俺達はしゃべるのを止め、ゆっくりと近づいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る