第032話 作戦
俺は領主の依頼を受けることにした。
通行書とやらも欲しいし、金も欲しい。
それに何より、この依頼を断ることができないからだ。
この依頼を断れば、こいつらは俺達を殺すか、国に突き出すだろう。
もちろん、俺達も抵抗する。
だが、たとえ、勝ったとしても俺達はお尋ね者となってこの国を抜けないといけない。
それはどう考えても無理だ。
ならば、依頼を受けて、空賊に復讐し、報酬を得た方が良いに決まっている。
「依頼を受けるのは良いが、空賊の根城はわかっていないんだろ? どうするんだ? あの村に突撃するか?」
「いえ、それは良くないです。空賊が逃げる可能性もありますし、事が大きくなって他所の領地に感づかれるかもしれません」
さっき、領主同士で争っている地域もあるって言っていたが、この領地にしてもどこかと争ってるのかもな……
「では、どうする? どっちみち、村を無罪放免にはできないだろ」
賊は問答無用で打ち首だ。
それに加担したもの当然、打ち首となる。
「村人はこちらで対処します。あなた方には空賊の根城に火をつけてほしいのです」
「火?」
「はい。そうすれば、場所がわかりますので私の軍が動けます」
「あんな広い大森林から探せと? いや、そうか…………村と繋がっているならそう遠くないのか」
盗賊だって、飯を食うし、物資だっている。
あの村はそういう村なんだ。
「はい。間違いないでしょう。飛空艇を操れない村人は空賊ではないでしょうし、空賊が村に略奪品を提供し、村が食料などの物資や情報を提供していると思います」
俺もそう思う。
飛空艇を操るには魔力がいる。
あの村程度の規模では魔術師はいない。
いても1人、2人だろう。
「わかった。じゃあ、あの村付近を捜索すればいいんだな?」
「はい。ただし、村には入らないでください。あなた方は目立ちすぎますし、さすがに村人が疑います」
まあ、この前来た見た目麗しい人間がまた来たら変だと思うか……
「村には入らずに森の捜索か……」
「そうなります。ジャック、あなたもロイド様達と一緒に行きなさい」
領主様がジャックに命じる。
「もちろんだぜ。この作戦は夜になる。こいつらだけでは無理だ」
俺達としてもジャックがいた方が良い。
「では、早速ですが、すぐに動いてください。作戦は明日の夜です」
今から行けば、明日の夕方には着くか……
「わかった。だが、報酬は先払いで頼む」
俺は領主に要求することにした。
「何故です? 普通は後払いでしょう。もしくは半分を前金です」
普通はそうだろうな。
報酬の持ち逃げとかあるし。
「俺達はこの依頼を終えたらさっさと次の町に行く。一つの場所に長居したくないんだ。エーデルタルトとテールは敵対しているとはいえ、民や商人の移動を禁じているわけではない。もしかしたら、俺達を知っている者が現れるかもしれない」
「それは…………まあ、ありうるかもしれませんね」
領主はリーシャをチラッと見た。
リーシャは本当に絶世の女だ。
一度見たら忘れないレベル。
それに俺達だって、異国の商人とは普通に会う。
珍しいものを売り込みに来るし、俺達もそれを普通に買うからだ。
「そういうわけで前払いだ」
「逃げる気は?」
「その時は追手を出せ。こっちは徒歩だ。それとも軍を使っても俺達を捕まえられないのか?」
いくら俺達でもさすがに騎兵は無理だ。
「…………わかりました。こちらとしても長居してほしくないのは一緒ですし、そういうことにしましょう。ネイサン」
「はっ!」
領主が執事に声をかけると、執事が部屋を退室していった。
「俺達は依頼を終えたらお互いのことを何もかも忘れる。いいな?」
「はい。もし、どこかで捕まっても私の名前は出さないでください。通行書も盗んだもの」
「わかっている」
俺と領主が頷き合うと、執事が布の袋と書類を持って戻ってくる。
そして、俺の前に来た。
「どうぞ。金貨150枚と通行書になります」
「200枚くらいくれてもいいぞ」
俺は金貨が入っているだろう重たい袋と通行書をカバンに入れる。
「それで十分でしょう。私も危ない橋を渡っていることを理解してください」
「冗談だよ。じゃあ、俺達は出発する。ジャック、行こうぜ」
「おう」
俺達はジャックと共に部屋を出ると、屋敷を出た。
「悪いが、先に門のところで待っててくれや。ちょっと準備がいる」
屋敷を出ると、ジャックが足を止めた。
「準備?」
「夜中の活動になるからな。特殊なアイテムがいるんだ。俺の分だけしか用意してなかったからお前らの分も買ってくる」
「わかった。門で待ってる」
俺達はジャックと別れると、門に向かって歩き出した。
「ロイドさん、本当に依頼を受けるんですか?」
歩いていると、マリアが聞いてくる。
「もちろん。空賊を殺してやるわ」
「それは私もそうしたいです。あんな目に遭わされましたし、賊は容赦なく殺すべきです。ですが、ロイドさんの身に何かあったら……」
マリアは心配してくれてるようだ。
「問題ない。それに…………リーシャ」
俺はリーシャの名を呼んだ。
「3人ね。まあ、どうとでもなるけど」
リーシャは俺の意図を汲んでくれた。
「見張り、ですか?」
「俺達がちゃんとハピ村に向かうかの確認だな」
「ですかー……まあ、そうですよね」
あの領主も危ない橋を渡っているから保険をかけるのは当然だ。
「さっさと終わらせて次の町に行こう。次の町では豪遊させてやる」
金貨150枚もある。
豪遊できる。
「ふふっ。期待してます」
マリアが微笑んだ。
俺達はそのまま歩き、門に着くと、ジャックを待つ。
そして、しばらく待っていると、ジャックがやってきた。
「悪い、悪い。待たせたな」
「たいして待ってない。さっさと行こう」
「おう」
俺達は門を抜けると、以前と同じようにジャックを先頭にハピ村に向けて歩いていった。
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