第031話 空賊


 領主が一から説明してくれるらしい。


「まずですが、昨年くらいからこの辺りに空賊が出るようになりました」

「討伐しろ」


 それが領主の仕事だ。


「できたらしています」

「できないのか?」

「はい。空賊はパニャの大森林上空に現れるのですが、討伐の飛空艇を出すと、すぐに消えるのです」


 消える……


「大森林に基地でもあるのかね?」

「そう考えています。ですが、見つからないのです」

「ふーん……」


 巧妙なのかね?


「私はなんとか賊を捕えるために囮を出したり、小型の飛空艇で偵察をしているのですが、上手くいきません」

「具体的には?」

「商船に見せかけたりしても引っかかりませんし、小型の飛空艇はすぐに撃墜されます」


 撃墜……

 俺らが執拗に追いかけ回された理由は……


「お前らのせいかよ……」

「とんだ迷惑ね」

「私の運のせいじゃなかったー……」


 俺とリーシャは墜落の理由を察して、嫌な顔をするが、マリアだけはほっとしている。


「どういうことでしょう?」

「ジャックに言ったが、俺らは小型の飛空艇に乗ってたんだよ。それを空賊に襲われたんだ」

「墜落しましたー」


 不時着な。


「それは本当ですか? ジャックから報告は聞いていますが、あそこを通る定期船はないはずです」

「あれは俺のプライベートな飛空艇だ」


 けっしてハイジャックじゃない。


「そうか? あれは定期船だったぜ?」


 どうやらジャックはそこまで確認していたようだ。


「どういうことでしょう?」


 俺とリーシャは領主にそう聞かれると、知らぬ存ぜぬでそっぽを向いた。


「あの、それが一流の貴族ですか?」


 うるさいなー。


「知らん」

「話してください。報酬に色を付けますから」

「リーシャがエーデルタルトの王宮を放火してな。それで逃げるために飛空艇をハイジャックした」


 さあ、金を寄こせ。


「放火したのは殿下でしょう」

「お前だろ」

「両方ですぅ……」


 俺はちゃんと大事にならないように計算していた。


「え? 放火? あなた、王太子ですよね? あなたは公爵令嬢ですよね?」


 領主が混乱したように俺とリーシャを交互に見てくる。


「その辺は気にするな。他国のお前には関係ない」


 深くは聞くんじゃない。

 ただの腹いせで理由なんてないんだから。


「まあ、落ち着けって。つまりお前さん方は正規の船じゃなくてイレギュラーだったわけだな?」


 いまだに領主の本来の席に座っているジャックが確認してくる。


「そうだ。だからお前らの偵察船と間違えられたんだ。おかしいと思ったんだよなー。あんなロクな積み荷もないだろう小型船を執拗に追いかけ、砲弾をバンバン撃ってくるんだから」


 明らかに過剰だ。


「なるほどねー。お前ら、ツイてないな」


 ジャックがそう言うと、マリアがビクッとした。


「まあ、俺らが撃墜……不時着させられた理由はわかったわ。それでジャックが来たのか?」

「はい。実はこちらも謎の小型飛空艇が現れたことは知っていました。この状況ですので張っていましたからね」


 領主が答える。


「助けろよ」

「いや、空賊の仲間かと思って…………そうしたら撃墜された報告を受けたため、ジャックに調査を命じたわけです」


 不時着な。


「それで俺らに会ったと?」


 俺はジャックを見る。


「そういうわけだな」


 なるほどねー。


「で? 依頼の話に戻るが、空賊は見つかっていないんだろ? どうやって討伐するんだ?」

「そこです。実はあなた方のおかげで事態が急速に進んだのです」


 俺らのおかげ?

 何かしたか?


「なんで?」

「ジャックはあなた方を救助しましたが、あなた方はボロボロだったそうですね?」

「だな」


 ひどいもんだったわ。


「そこでハピ村に寄った」

「ああ。ジャックがジャイアントベアの討伐の依頼報告のついでに案内してくれた」

「ジャイアントベア?」


 領主がジャックを睨む。

 どうやら報告していないらしい。


「そこはいいじゃねーか。ついでだよ、ついで。俺はあんたの雇われじゃないんだぜ? 許される範疇だよ」

「…………まあいいです。そこで服を買ったんですよね?」


 領主はジャックをスルーし、俺達の服を見てくる。


「そうだな。良い買い物だったわ」

「そうね。値段の割には良い感じだし、田舎のくせに良い仕事をするわね」


 ホント、ホント。


「そこです。自分の領地をこう言うのもなんですが、あんな村には不相応の服です」

「そうなのか?」

「この程度はどこにでもあるでしょ」


 俺もそう思う。


「お前さん達は上流階級すぎてその辺がわからないんだよ。別視点から見てみよう。魔術師の兄ちゃん、お前さんが目利きして買った杖は金貨3枚だったな?」


 ジャックが聞いてくる。


「だったな」

「だが、実際はお前さんの目利きの通り、金貨数十枚だった。おかげで儲かったわ」


 ほっ……

 俺の目利きが外れてなくて良かった。

 外れてたら国一番の魔術師の称号を返上だった。


「良かったな。俺に感謝しろ」

「ありがとよ。そこでだ、あの店主はなんであんな良いものを金貨3枚で売ったんだ?」

「わからないからだろ。お前も言っていたが、魔術師じゃないから杖の良し悪しがわからなかったんだ」

「そうだ。その通りだ。では、あの杖はどこから仕入れたものだ?」


 あー……そういうことね。


「商人から仕入れたものじゃないわけか」

「そういうことだ。商人から仕入れたものならば、あの値段では売らん」

「つまり別ルート」

「そうだ。そして、それはお前さん……いや、嬢ちゃん達の服もだ。値段と質がまったく釣り合ってない」


 俺の服は安物だったもんな。


「なるほどねー」

「俺は嬢ちゃん達を待っている間にも他の武器を見ていたが、値段の付け方がひどかった。そこで俺はピンときた」

「奪ったものか……」

「そういうことだ」


 つまり、あそこの村は空賊の仲間。

 もしくは、空賊。


「そりゃ、責任問題だなー」


 俺は笑いながら領主を見る。


「そういうことです。領民が空賊に加担するなどありえません。これは私の責任問題です。これが露呈したら私は街中に首を晒すことになるでしょう」


 でしょうね。


「秘密裏に処理したいと」

「そうです。だからあなた方の国籍や身分などどうでもよいのです。むしろ今は優秀な魔術師が欲しい」


 俺達のことを報告しようがしまいが、このままでは自分の首が飛ぶわけだ。


「仕事が終わった後に俺らを突き出せば?」


 口封じのために殺してもいい。


「この地はエーデルタルトと隣接していませんし、国同士の争いに興味はないです。依頼を受けてくれるのならば、私の名の通行証を渡しましょう。これがあれば、どんな関所も通行できますし、王都だろうが、どこにでも行けます。さっさとこの国から出ていってください」


 通行証なんてあるの?

 というか、関所!?


「関所って?」

「この国の貴族は一枚岩ではありません。むしろ、領地同士で争っているところもあります。そういうところには関所があるんです。ですが、私の通行証があれば、私から依頼を受けた冒険者ということで怪しまれずに通行できます」


 他国には他国の問題があるんだなー。


「なるほど。くれ」

「では、依頼を受けていただけるんですね?」

「ああ……実は空賊が殺したいほど憎いんだ」


 ウチのマリアがトラウマで高所恐怖症になっちゃったんだぞ!

 あと俺も魔法を1つ失ったんだぞ!

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