第177話 別れられないね


 俺はいつまで待てばいいんだろうと思いながらヒラリーの執務室でひたすら待っている。

 あまりにも暇なので本棚にある本を読んだのだが、つまらない歴史や経済の本ばかりなのですぐに飽きた。

 そのままかなりの時間をこの部屋で待っていると、ノックもなく、扉が開かれる。


「あれ? お前、ここにいたのか?」


 ヒラリーが意外そうな顔で聞いてくる。


「お前が待てって言ったんだろ。部屋に戻るタイミングを逸したんだよ」

「ふーん、暇だろうに…………まあ、どうせ呼ぶつもりだったからいいや。ラウラ殿を捕まえたぞ」


 ヒラリーがそう言いながら入室すると、昨日別れたばかりの婆さんが微妙に嫌そうな顔をしながら一緒に入ってきた。

 

「言い方よ」

「急いでいるんだ。気取る必要もあるまい。ラウラ殿だって気にしてない。な?」


 ヒラリーはそう言いながら婆さんをソファーに座らせる。


「状況がよくわからないんだけど、この人、誰?」


 婆さんがヒラリーを指差しながら俺に聞いてきた。


「ヒラリーって言うこの国の宰相だ。えーっと、お前、俺のなんだっけ?」


 いまいち覚えてないんだよな。


「忘れるなよ。私は陛下の従姉だから…………えーっと?」


 えーっと?

 何って言うんだ?


「よくわからんが親戚だな」

「ふーん、なんとなくだけど、似てるね」


 そうかー?

 俺、こいつみたいにがさつじゃないぞ。


「お前、何をしてたんだ?」


 婆さんに聞く。


「ベンチに座って水路を眺めていたら兵士に囲まれたよ」


 ひで。


「何をしているんだよ……」

「急いでるって言っただろ」


 頼みごとをする態度じゃねーよ。


「それで何? 何も聞いてないんだけどさ」


 説明もなしかい……


「うむ。博識で有名なラウラ殿のお力をぜひお借りしたいのだ」

「ふーん、何かあったのかい? 面倒ごとはごめんだよ」

「実は我が国の王が病に倒れているのだ。だが、医者も原因がわからないときてる。私は外的要因を考えているのだが、さっぱりなのだよ」

「毒は? それが一番怪しい」


 まあ、そう考えるわな。

 権力者が急に体調を壊す原因はそれだ。


「毒の反応はない。もっと言うと、呪い関係の反応もない」

「じゃあ、寿命だよ」


 おい!


「陛下はまだ若い。30代だぞ」

「ふーん…………あんたらが知らない毒か呪いかもね」

「私はそれだと踏んでいる。だが、そういうのが盛んなエーデルタルトのロイドも知らなかった。ラウラ殿なら何かわからないだろうか?」


 エーデルタルトの評判は悪いなー。

 これは認めるけど。


「そりゃ色々あるよ。エルフは薬学に長けているんだけど、逆に言えば、毒も作れる。魔法も得意だし、そういう魔法もいくつかは知っている」


 あぶねー奴だな、こいつ。

 でも、心強いな。


「婆さん、やっぱり俺に仕えろよ」

「暇になったらね」


 今だって、どうせ暇だろ。


「ラウラ殿、陛下を診てくれないだろうか?」

「まあ、いいよ。そんなに手間じゃないしね」


 さすがは婆さん。

 優しい。


「じゃあ、早速だが、来てくれ」


 俺達は伯父上の寝室に行くことにし、部屋を出た。

 だが、部屋の外には誰もいない。


「あれ? シルヴィアは?」


 あいつ、どこ行ったんだ?


「侍女ならえらく悩んでいたようだから部屋に戻したぞ」


 やはりそんなに難しいか……

 まあ、頑張ってもらおう。


「じゃあいいや。行こう」


 俺達は昨日も行った伯父上の寝室に向かう。

 そして、部屋の前まで来ると、ヒラリーが部屋の扉をノックした。


「陛下、Aランク冒険者のラウラ殿をお連れしました。よろしいでしょうか?」


 Bランクだけどな。


『ああ、構わん』


 俺達は伯父上の許可が得られたので部屋に入る。

 部屋に入ると、伯父上はベッドで上半身を起こしていた。


「なんだ、ロイドもいるのか……」

「私が紹介したんですよ。実はエイミルからここまで送ってもらったんです」


 色々とあったが、馬車に乗せてもらったわけだし、間違ってはいない。


「おー! そうであったか。ラウラ殿、我が甥が世話になった」

「いえ、こちらも別件で世話になりましたので……」


 婆さんが頭を下げる。


「ヒラリー、後で褒美を渡してくれ」

「承知いたしました」


 ヒラリーが恭しく頭を下げた。


「ありがとうございます」


 婆さんが断らなかったが、こういう時に遠慮してはいけないのだ。

 やはりAランクともなると、この辺りのことを知っているんだろう。

 でも、お前、エイミル王からももらってるよな?


「用件はそれだけか?」


 伯父上がそう聞くと、婆さんが俺の背中を触った。


「はい。紹介をしておこうと思っただけですので」


 婆さんが俺の背中を触ったのは何かの合図だろうし、とりあえずは下がるか。


「そうか。高名な冒険者に会えて良かった。ラウラ殿、これからも頑張ってくれ」

「はい。努力いたします」

「では、陛下、私達はこれで失礼します。あと、伯母上がうるさいです」

「それは我慢しろ。昨日の夜も愚痴っていたぞ。あのバカは……って」


 鬼ババめ。


「私も愚痴を聞いたが、あれはロイドが悪い。ほら、行くぞ」


 ヒラリーに促されたので伯父上の部屋を退室すると、ヒラリーの執務室に戻った。

 俺達は執務室に戻ると、ソファーに座り、顔を合わせる。


「ラウラ、何かわかったのか?」

「ああ。見てすぐにわかったよ。あれは毒だね」


 毒か……





――――――――――――


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本作品も含め、今後ともよろしくお願い致します。

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