第178話 旅は続くよ、どこまでも


「毒? 誰かが毒を盛っているということか?」

「いや、あんたらが想像するような毒じゃないよ。一種の呪いなんだけど、体内に毒の元を作る魔法なんだ」


 怖い魔法だなー。


「それでどうなる?」

「その毒はそこまで強いものじゃないし、人を死に至らせるような力はない」

「じゃあ、大丈夫なのか? しかし、伯父上の弱り方は異常だぞ」


 デブがガリになってるし。


「人間の身体っていうのは便利なものでそういう異物を体内に出すようにできている。だが、この呪いの恐ろしいところは毒の元を作っているからほぼ永久的に体内で毒が作られるんだ。だからいくら毒を排除しようが、体内では少しずつ蓄積していく。それが最終的には身体を弱らせ、死に至らせるんだよ」


 めんどくせーやり方だな。


「なんでそんな時間のかかる魔法があるんだ?」

「この魔法の便利なところはあんたらが発見できなかったように見つけにくいことだ。陛下はまだ若いそうだけど、これが私みたいな年寄りだったらどう思う? ただの老衰と思うだろ?」


 なるほど……確かに。


「ラウラ殿、毒のことはわかった。問題は治療法だ。知っているのか?」


 話を聞いていたヒラリーが婆さんに聞く。


「もちろん知っている。薬で治るよ」

「どんな薬だ?」

「そこが問題だね。材料さえあれば、私でも作れるんだが、材料がない」

「材料? こちらで用意しよう」


 金の力を見せてやれ!


「大抵の材料はなんとかなると思うけど、一つだけ大事なものがある。ケアラルの花って言うんだけど、これが今の時期は生えていない。冬に咲く花なんだ」


 金の力で……どうにかできそうにないな……


「ラウラ、伯父上は冬まで持つか?」

「ここで言い繕っても意味ないからはっきり言うけど、持たないね。ひと月は大丈夫だろうけど、ふた月持つかは微妙」


 伯父上の痩せ方を見るにそんなもんかもしれんな。


「どうにかならんか? 花を咲かせる魔法とかあるだろ」

「そんなもんないよ。でも、どうにかはできる」

「それを早く言え。どうするんだ?」

「私が生まれたエルフの森の奥には氷の洞窟っていうのがある。そこに生えているよ…………多分ね」


 多分って……


「断言しろよ」

「無理言うじゃないよ。何年前の話だと思っているんだ。私は数十年も森に帰っていないんだよ」


 いや、帰れよ。

 そんなに故郷が嫌か?


「うーん、エルフの森かー……ラウラ殿、一応確認するが、エルフの森ってミレーだよな?」


 ヒラリーが悩みながら確認する。


「そうだね」

「うーん……」


 ヒラリーが悩み続けている。

 ミレーはこのウォルターと仲が悪いのだ。

 絶対に兵を派遣できない。


「ラウラ、採りに行け」

「絶対に嫌だよ。私は二度とあそこの地は踏まないって決めているんだ」


 やっぱりダメか……

 そう言うと思ったよ。


「しゃーない。俺が採りに行くわ」

「お前がか?」


 悩んでいたヒラリーが聞いてくる。


「俺は冒険者だから普通にミレーに行ける。それにもし、身元がバレたところで籍があるのはエーデルタルトだ。ミレーの人間も手は出してこない」


 エーデルタルトとミレーは同盟国ではないが、敵対もしていない。

 ミレーも大国にケンカを売ることはしないだろう。


「うーむ、でもなー……」

「問題ないだろ。エルフの森に行って、ケアラルの花を採りに行くだけだ」


 採取の仕事はしたことがないが、楽なもんだろう。


「エルフがなー……」

「大丈夫だって」

「ラウラ殿、どう思う?」

「間違いなく、森のエルフと敵対すると思うよ。殿下って傲慢だし、エルフとは相性が悪い」


 傲慢じゃねーよ。


「下手に出ればいいんだろ」

「無理無理。あんたはナチュラルに人を見下すし」


 王族なんだからしゃーないじゃん。


「別にエルフと交流しようと思っているわけではないから大丈夫。伯父上が危ないんだから我慢するよ」

「心配だねー……」

「じゃあ、お前がついてこいよ。お前の家族もいるだろうが……」

「だから嫌だって…………んー……」


 婆さんが考え込み始めた。


「どうした?」

「家族か…………うん、いい機会かもしれない」

「何がだよ」


 どうした、ババア?


 俺とヒラリーが考え込み始めた婆さんを見ていると、婆さんが立ち上がる。


「おーい、自分の世界に入るなー。帰ってこーい…………あ、美人」


 婆さんは魔法を解き、いつぞや見た若い美人エルフに姿を変えた。


「誰これ? ラウラ殿か?」


 ヒラリーが聞いてくる。


「らしいぞ。若作りモード」

「若作りじゃないよ! これが本当に姿なの! 私達はあんたらみたいな年の取り方をしないんだよ!」


 元婆さんが怒った。


「わかったから…………微妙に口調も変えるなよ」


 若作りにしか見えん。


「ふんだ!」


 いやー、顔が良いから可愛いわー。

 でも、ババアなんだよな……


「それで急にどうしたんだ?」

「そうだった」


 元婆さんは何かを思い出したかのような表情になると、ソファーに座り、カバンからナイフを取り出す。

 すると、ローブのフードを取り、自分の髪にナイフを当て、切った。


「散髪か?」

「そんなわけないでしょ。はい、これ」


 元婆さんは俺に切った髪を渡してくる。


「何これ? ゴミ箱に捨てればいいのか?」


 自分でやれ。


「ある意味そうだね。エルフにはとある風習があってね。死後は髪を祖霊に奉るんだよ」


 祖霊に奉るのがある意味、ゴミ箱に捨てる?

 こいつ、ひどいな。

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