第179話 多分、ずっと待ってる


 婆さんは死んだらしい。


「生きてんじゃん」

「死んだってことにして、私の家族に渡しな。そうしたら森のエルフは髪を家族に届けてくれたことに感謝して、あんたを客とみなす」


 えー、偽装じゃん。


「それ、いいのか?」

「別にいいよ。どうせ、もう戻らないし、生前葬だね」


 ふーん……


「とにかく、これをお前の家族に渡せばいいわけだな?」

「そうだね。適当に言っておいてよ」


 あっけらかんとしてるなー……

 本当に故郷に思うところがないんだな。


「ロイド、本当にお前だけで行くのか?」


 ヒラリーが確認してくる。


「伯父上を放っておくわけにはいかんだろ。あと、俺だけじゃなくて、リーシャとマリアもだな」

「2人も連れていく気か?」

「どっちみち、ついてくると思うぞ。地獄までつきまとう……じゃない、ついてくるって言ってたし」


 むしろ、冒険好きのリーシャは嬉々としてついてくると思う。


「うーん……止めても勝手に行くだろうしなー」


 よくわかってんじゃん。


「そうそう。お前らに俺を止める権利はないのだ」

「まあ、わかった。しかし、お前らだけはなー……ラウラ殿についていってもらえると安心なんだが」

「ラウラがついてきたら話がおかしいだろ」


 婆さんは死にましたって、婆さんと一緒に行って、言うのか?

 ラリッてるわ。


「他の冒険者をつけるか……」

「いらねーよ。リーシャとマリアがいるから男はないし、女はリーシャが嫉妬するからダメ」


 婆さん相手にも嫉妬するような奴だし。


「あー……だったら町の酒場にちょうどいいのがいたよ」


 婆さんが思い出したように提案してくる。


「ちょうどいい? なんだそれ?」


 オカマか?

 それは俺が嫌だぞ。


「あんたらの知り合いの冒険者」

「俺らの? お前とジャックくらいしかいないぞ」

「いや、そのジャック。昨日、なんか酒場で飲んでたよ。声をかけずに店を出たけど……」


 なんで店を出た?


「あいつ、なんでこんなところにいるんだ?」

「あんたらに会いに来たんじゃないの? ジャックだって、あんたらの目的地は知っているだろうし」


 まあ、知ってはいるな……


「あいつに行かせようかな……」


 それが一番な気がする。


「あいつは無理だよ。風貌が怪しすぎて、森のエルフが警戒する」


 まあ、奴隷狩りに見えるかもしれん。


「俺は大丈夫か?」

「あんたはジャックと違って、品があるから大丈夫。それに絶世の嬢ちゃんと小っちゃい嬢ちゃんも行くんだろ? だったら問題ないね。あと、私を看取った相手がジャックは嫌だ。王子様がいい」


 夢見てんな、この元ババア。


「うーん、じゃあ、ジャックに同行を頼むかねー。エルフの森に行くならあいつがいると便利だし」


 パニャの大森林でもあいつの後ろを歩くだけだったから楽だった。


「そうしな」

「ヒラリー、それでいいか?」


 俺は一応、ヒラリーに確認する。


「ジャックって、ジャック・ヤッホイか?」


 さすがに知っているらしい。

 まあ、ラウラを知っているんだから知っているわな。

 あいつは本を出しているくらいだからめっちゃ有名だし。


「そうそう。テールに不時着したって言っただろ? その時に助けてもらったのがジャックなんだ」

「なるほど…………だったら良いんじゃないか? Aランクだし。正式に依頼を出すか……」

「そうしてくれ。俺はジャックと話してみるわ。ラウラ、酒場にいたんだったな? お前も来るか?」


 積もる話もあるだろ。


「行かない。長居になりそうだから馬車を取りに行くよ」


 薬を作ってもらわないといけないからな。


「お前、ジャックと何かあったのか? 実は元カレ?」

「あんたはそういうのが好きだよね……そんなんじゃないよ。単純にめんどくさいだけ。寂しがり屋はウチの王様だけだよ」


 エイミル王はそんな感じだったな。


「ふーん、まあいいや。じゃあ、ちょっと酒場に行ってくるわ」

「まだいるのか? 昨日だろ?」


 ヒラリーが聞いてくる。


「多分、いるな」

「ふーん、まあ、わかった。こちらも依頼の手配や準備をしよう。お前、馬車と海路だとどっちかがいい?」

「馬車。海は好きじゃない」


 漂流はしないだろうが、トラブルの匂いしかしない。


「わかった。準備しておこう」

「よろしく」


 俺は立ち上がると、執務室を出る。

 そして、自分達の客室に戻った。


 客室ではドレス姿のリーシャとマリアが優雅にお茶を飲んでいる。

 どう見ても貴族令嬢だ。

 当たり前だけど。


「あら? 戻ったのね」

「どこに行っていたんですか?」


 部屋に入ると、俺に気付いた2人が聞いてきた。


「ちょっとヒラリーと話をしていた。お前ら、今から出れるか?」


 俺はテーブルに近づきながら確認する。


「出かけるの? 別にいいけど」

「何があったんです?」

「伯父上だがな、ラウラに診せたら体調を崩している原因がわかったんだ」


 俺はテーブルにつき、お茶を飲みながら説明を始めた。


「原因? やっぱり病気じゃなかった?」


 リーシャもある程度は勘付いていたようだ。


「毒というか、そういう呪いみたいだ。俺はその治療薬の材料であるケアラルの花を採りにミレーのエルフの森に行くことになった。お前らはどうする?」

「もちろん、行くわ。絶対に行くわ」

「私も行きます。待っていると、殿下がエルフの4号さんを連れて帰りそうですし」


 連れて帰らんわ!

 ってか、なんで4号?

 3号がいないだろ…………あ、ヘレナ……


「3号も4号もいらねーよ。それでな、ジャックに同行を頼もうかと思っている」

「ジャック? え? ジャックがいるの?」


 リーシャが驚く。


「ああ、ラウラが街の酒場で見かけたんだと。これから酒場に行ってみようと思う。行くか?」

「そういうこと…………そうね。久しぶりに会いたいし、酒場にも行ってみたいわ。よく考えたら私達って、冒険者なのに酒場に行ったことがなかったわね」


 そりゃ、お前がいれば、ほぼ確実に酔っ払いに絡まれるからな。


「私も行きまーす」


 マリアも来るらしい。


「そういうわけで準備しろ。さすがにドレスはない」

「それもそうね。冒険者スタイルに戻りましょう」

「そうですね」


 2人は残っているお茶を飲み干すと、準備を始めたので俺も着替えることにした。

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