第180話 再会と約束の酒


 俺達は着替え終えると、城を出て、婆さんから聞いた酒場に向かう。

 酒場は城からそこまで遠くなく、すぐに到着した。


 俺達は酒場の扉を開き、中に入る。

 酒場は2階建て構造であり、1階にはカウンターとテーブルが並んでいた。

 1階では昼間だというのに数人の客が飲んでおり、ウェイトレスが酒や食事を運んでいる。


 俺達が酒場を見渡しながらジャックを探していると、一人のウェイトレスが俺達のもとにやってきて、俺達をジロジロと見比べてきた。


「なんだ?」


 客に失礼だぞ。


「あ、ごめんなさい。いらっしゃいませー。お連れの方が2階でお待ちですよ」


 ウェイトレスが慌てながら言う。


「連れ?」

「あれ? 冒険者の方がここで待ち合わせをしているって言って、上で待ってますけど……」


 ジャックだな。

 ウェイトレスに俺達の特徴を伝えたんだろう。


「いや、合ってる。案内してくれ」

「はーい、こちらになりまーす。あ、お客さん、謝った方が良いですよ。お連れさん、朝から待ってますんで」


 かっこつけるためとはいえ、そこまでするかね?


 俺達はウェイトレスに案内され、近くの階段を昇る。

 2階はガラガラだったが、一人の男が向こう向きでポツンとテーブルについて、酒を飲んでいた。

 もちろん、ジャックである。


「あちらでーす」

「ああ、わかった。3人分の酒をくれ」

「エールでいいですか?」

「それでいい。あ、それとこの店で一番高い酒を一つ」


 ワインの方が良いが、雰囲気的にはエールだろう。


「了解しましたー」


 注文を受けたウェイトレスは1階に降りていったので、俺達はジャックのテーブルに向かう。


「よう、ジャック。奇遇だな」


 俺はジャックの肩に手を置き、声をかけた。


「待ったわー」


 ジャックが俺を見上げながら文句を言ってくる。


「朝からいたんだって?」

「そうだよ。もっと言うと、昨日もいたわ。素直に城に行けばよかった」


 バカだな。


「何してんだか…………まあいいや。久しぶりだな」

「久しぶりね」

「お久しぶりですー」


 俺が座りながら挨拶をすると、リーシャとマリアも挨拶をして、空いている椅子に座った。


「ああ、殿下も嬢ちゃん達も元気そうで良かったわ」

「なんで俺達がこの国にいると思ったんだ?」

「昨日、ラウラを見たからな。あいつがこの国にいる理由は一つだ」


 ラウラは教国と生まれ故郷のミレーが近いこの国に来たくなさそうだったしな。


「気付いてたんだな? あいつはすぐに帰ったって言ってたけど」

「俺は探知が得意だからな。ラウラの魔力や雰囲気は独特だからすぐにわかる。というか、あれ、何なん? さすがの俺も傷ついたぜ」


 どう見ても嫌っている対応だしな。


「知らん。セクハラでもしたか?」

「昔、風呂を覗いたことを怒っているのかねー? でも、デニスの坊やもだしなー」

「デニスって?」

「エイミル王だ。あいつ、名乗ってないのかよ……」


 なるほど。


「王はあまり名乗らんからな。エイミル王というのがほぼ名前だし」


 伯父上はリーシャとマリアに名乗ったが、あれはリーシャとマリアが親族に当たるからだ。

 まだだけど……


「ふーん、そんなもんか……それにしても本当に久しぶりな気がするなー。それこそラウラなんかは数年も会ってないっていうのにお前らの方が懐かしく思えるわ」

「それはそれでどうなんだ?」


 俺とジャックが再会を懐かしんでいると、ウェイトレスが3人分のエールとワインを持ってきた。


「お待たせしましたー」


 ウェイトレスが酒をテーブルに置く。


「どうも。ほれ、ジャック。遅くなったが、いつぞやに約束した酒だ」


 俺はワインをボトルごとジャックに渡した。


「おー! 覚えてたかー」

「俺は約束を守る男なんだ」

「ふーん、それは立派だなー」


 ジャックがニヤニヤと笑う。


「どうした?」

「いや、まあいい。男女のことは知らんし」


 …………こいつ、ヘレナのことを知ってるな。


「さすがは密偵だな」

「そういうことじゃないんだけどな。それで俺と別れた後はどうだった?」

「お前に言われた通りにアムールで軍船を奪ったぞ。そして、漂流してギリスだ」

「あー、それでギリスにいたわけか……」


 こいつ、絶対にヘレナのことを知ってるわ。


「俺達がギリスにいたことを知っているのか?」

「それな。俺はあの後、色々と回っていたんだが、お前さん達が気になったからギルドに聞いて、探してみたんだ。そしたらお前さん達が何故かギリスでDランクになってたから飛空艇でギリスに行ったんだよ」


 そこで調べたわけか。


「ギルドに聞いてって、そんなことができるのか?」

「普通はできねーけど、弱みを握っている奴がいるんだよ。内緒な、内緒」


 弱みねー。

 こいつは密偵だからそういうこともできるんだな。


「ふーん。ギリスで俺達がエイミルに向かったって聞いたのか?」

「そうそう。それで飛空艇でお先にウォルターに来た」


 当たり前だけど、飛空艇は速いねー。


「空を飛べる奴が羨ましいね」


 俺がそう言うと、マリアがうんうんと頷く。


「まあ、陸路は陸路で面白いこともあるだろ」

「変な事件ばかりに巻き込まれたわ」

「ふーん、最近はどこもきな臭いしなー……」


 どうした、世界?


「ついでにもう一つ、きな臭いことに巻き込んでやろう」

「だろうなー。検問がウザかったし」


 さすがにわかっているか……


「お前はこれから俺達と一緒にミレーな」

「ミレーかー。ラウラの故郷だな。何回か行ったことがあるから任せとけ」


 あれ?

 あっさり頷いたぞ?

 もうちょっと渋るかと思ったんだけど……

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