第181話 懐かしき4人旅
「んー? 行くのか?」
俺はやけにあっさりと承諾したジャックに聞く。
「ん? お前さんがついてこいって言ったんだろ」
まあね。
「ほら、報酬の話とかもしてないし、二つ返事で頷いたからさ」
怪しい……
「お前さん達は慎重で人の嘘を見破るのが上手いが、もう少し、人を信用したらどうだ? お前さんが仕えろって言ったんだろ」
「うーん、でも、まだ仕えないんだろ?」
「そりゃ、まだ仕事があるしな。でも、別に他意はないぞ。エルフの森はそんなに遠くないし、お前さん達と一緒に行けば、ネタができるかなって思ってるくらいだ」
まあ、すんなりとはいかないと思うけども……
「ふーん、まあいいか。一応、依頼になるから後でギルドに行け。多分、依頼主はヒラリーだ」
「宰相様ね。了解、了解」
さすがにこの国の宰相は知ってるわな。
「行く方法は当然、陸路だ。ヒラリーが馬車を用意してくれる」
「あー、まあ、お前さん達はそうだろうな。でも、国が用意する馬車はやめな。豪華すぎる。貴族って丸わかり。特にお前さん達はなー……」
ジャックが俺達を見渡しながら忠告してくる。
「そうか……金だけもらってレンタルするか……」
「国を跨ぐ場合は買取になるぜ? ラウラに借りればいいだろ」
「貸してくれるか?」
「お前さんが頼めば貸してくれる。あいつ、面食いだし、実は権力にむちゃくちゃ弱いから適当に金を積めば貸してくれるぜ。ちなみに、俺が頼むと絶対に貸してくれない」
あいつ、そんなんなんか……
「お前ら、仲悪いの? エイミル王も全然訪ねてくれないって言ってたし」
寂しそうだった。
「別にそういうわけじゃねーぞ。パーティーを解散した時だって喧嘩別れじゃなく、円満だった」
「じゃあ、なんでそんな感じなんだ? ラウラはお前を避けるし、お前はエイミル王を訪ねないし」
ここまで来たならエイミルに行って、昔の仲間に会おうって思わないのかね?
「あー……理由は色々とあるが、まずは小っ恥ずかしいんだわ。円満だったが、やはり別れは悲しかった。ラウラなんか泣いてたしな」
……それ、聞いていいやつか?
でもまあ、婆さんがジャックを避けた理由はわかった。
「まずはって、他にもあるのか?」
「俺がデニスの坊やのところに行かないのは絶対に引き止められるからだな」
あー、それはありそう。
「ちょっと寄って、すぐ出るっていうわけにはいかんか……」
「いくら坊やでも向こうは王様だぜ? もう一緒に悪さをしたあの時とは立場が違う。ラウラは多分、坊やが死ぬまであそこから動けないだろうよ」
なるほどねー。
「だから俺に仕えないわけだ……」
「多分なー。俺だけじゃなく、他の連中もそうだろう。よほど生活に困れば頼るだろうけどな。散々、世話してやった恩があるし」
でも、こいつらの仲間ということは全員が高ランクだろう。
散財しない限り、困ることはない。
「そういうもんか……」
「そうそう。そういうわけだからお前さんからラウラに頼んでくれ。それと、そもそもなんだが、ミレーに何しに行くんだ?」
言ってなかったな……
でも、最初に聞くことだろうに。
「ケアラルの花を採りにラウラの故郷であるエルフの森に行く」
「ふーん、エルフの森ねー」
「場所はわかるか?」
「わかる、わかる。ミレーには何度も行ったことあるし、一度だけだが、森の調査の仕事を受けたことがあるな」
密偵の仕事かな?
「何の調査だ?」
「ラウラを見ればわかると思うが、エルフっていうのは魔法に優れている。だからスカウトできそうかの確認だな」
確かにラウラの魔法の腕は相当だった。
「できそうだったか?」
「無理。あいつら、森から出てこねーし、外部の者を警戒している。排他的なんだわ。まあ、見た目があれだし、奴隷商は喉から手が出るほど欲しいだろうからな。色々と攻防があったんだろ」
婆さんもそんなようなことを言ってたな。
だからあいつは婆さんの姿になっているんだ。
「獣人族や人族の奴隷ならアムールで見たが、エルフは見てないな」
「そりゃな。あいつら、強いもん。しかも、一族意識が強いから群れてる。捕まえるなんて無理だよ」
「なるほどねー」
婆さんのあのあっさり具合からは想像ができんな。
まあ、本人も変わり者って言ってたからなー……
「それより、エルフの森は危険だぜ? エルフは木の上から襲ってくるし」
「ラウラに髪をもらった」
「は? 髪?」
ジャックは知らないらしい。
「エルフの風習で死んだら先祖に髪を奉るんだってさ。だからラウラが死んだことにして、家族に渡せって。そうすれば、客とみなされるらしい」
「へー……生きてんじゃん」
やっぱりそう思うよな。
「もう帰らないから生前葬だと」
「ラウラの家族には何て言うんだ?」
うーん……
「旅をしている途中でラウラに助けてもらったんだが、代わりに命を落としたって言う。死に際に髪を家族に渡してほしいって頼まれたから命の恩人の頼みを聞いて、森に来たって言うかな……」
「まあ、そんなもんか……しかし、すらすらと嘘が出てくるな」
ジャックが感心する。
「慣れてるし」
「王侯貴族は怖いねー……まあ、わかった。その辺はお前さん達に任せるわ。とにかく、森まで案内をすればいいんだな?」
「そうそう。頼むわ。国の金で旅の準備を整えたらすぐに出発する。まあ、ギルドで聞いてくれ」
伯父上のことを考えると、早い方がいいだろう。
「了解。俺もルートなんかを考えておくわ」
「馬小屋には死んでも泊まらんからな」
「わかってるよ」
よしよし。
さすがはジャック。
俺達のことをわかっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます