第176話 長い旅だったな……


 翌日、俺達が部屋でまったりとしていると、またもや伯母上がやってきて、リーシャとマリアを連れていってしまった。

 仕方がないので俺は一人でヘレナへの手紙の内容を考えていると、ノックの音が聞こえてくる。


「誰だ?」


 マイルズか?


『ロイド様、ヒラリー様がお呼びです』


 あー、そういえば、話をするんだったな。


「すぐに行く」


 俺は白紙の手紙をカバンにしまうと、立ち上がり、扉の方に向かう。

 そして、扉を開け、部屋を出た。


 扉の前には見たことあるスカートの短いメイド服を着た侍女が立っており、俺に向かって、頭を下げてきた。


「ヒラリー様より、ロイド様や奥様方の世話をするように言われましたシルヴィアです。何なりとお申し付けください」

「そうか……」


 少しは隠せ。


「ヒラリー様が執務室でお待ちです」

「わかった。案内しろ」

「こちらになります」


 俺はシルヴィアに案内され、城の中を歩いていく。

 そして、しばらく歩くと、シルヴィアがとある扉の前で立ち止まった。


「こちらがヒラリー様の執務室になります」

「ご苦労。何なりと申し付けろと言ったな? 4歳の子が傷つかないかつ、求婚をなかったことにしたいという感じの手紙の内容を考えろ」

「そんなものはございません」


 知ってる。


「そうか……でも、考えろ」


 俺はそう命令しながら扉をノックする。


『入ってくれ』


 中からヒラリーの声が聞こえたので、その場で考え込み始めたシルヴィアを置いて、部屋に入った。

 部屋は本棚と机、そして、応対用のソファーとテーブルがあるくらいで広くもなく、王族の宰相の部屋とは思えないほどに質素だった。


「呼んだか?」

「ああ、こちらも仕事がひと段落ついてな。まあ、座れ」


 ヒラリーはそう言うと、執務用の机から離れ、応対用のソファーに腰かける。

 俺もまた、ヒラリーの対面に座った。


「質素な部屋だな」

「まあな……あれ? メイドはどうした? お茶を持ってきてくれるはずなんだが……」

「あいつは別の仕事を与えたから忙しい。それに茶はいらん。さっきまで飲んでた」


 マリアが淹れてくれた。


「そうか……では、いいか。まず聞きたいことがある。お前ら、どうやってここまで来た? お前が廃嫡されたと聞いてから随分と時間が経っているが……」


 こいつには正直に話した方が良いか……


「実は廃嫡を言い渡されたその日の夜に腹いせでぼやを起こしたんだ」

「は?」

「ちょっとムカついてな…………そして、同じことを思ったリーシャも俺と同じ着火の魔法陣を同じところに仕掛け、燃え上がった」

「お前ら、バカか?」


 何も言い返せない……


「それで俺とリーシャは逃げたんだ。あ、マリアは道中で拾った」

「何をしているんだよ…………それで?」

「ここに逃げようと思って、飛空艇をハイジャックした」

「バカ…………」


 その通りです。


「だけど、空賊に襲われ、あと一歩のところで墜落しそうになってテールのパニャの大森林に不時着したんだよ」

「空賊…………しかも、よりにもよってテールか。ついてないな」


 ホント、ホント。


「そこから冒険者になって、旅をした。色々あったが、テールのアムールまで行き、船を奪い、敵国から脱出したわけだ」

「なるほど…………そして、漂流か」


 漂流は昨日、言ったもんな。


「そうそう。漂流してたら知り合いに会ってな。ギリスまで行った」

「また遠いところに……」


 ヒラリーが右手を額に持っていく。


「そこからエイミルまで送ってもらった」

「そして、ここまで陸路か?」

「そうそう。墜落……じゃない、不時着した時から飛空艇は嫌いになったから」

「そうか…………そりゃ大変だったな」


 まだ語ってないことがいっぱいあるんだけどな。


「大変だったわ。そういうわけで適当な役職と身分をくれ。魔法の研究でもしながら遊んで暮らすから」


 王都近くの領地をくれてもいいぞ。


「めんどくさいことを言うなー……まあ、その辺は考えてやるが、少し待て」

「伯父上か?」

「そうだ」


 ヒラリーが神妙な顔で頷く。


「昨日、伯父上を見た。随分と痩せられたな」


 伯父上は肥満体系だったはずだ。

 だが、昨日見た時は痩せていた。


「急にな……正直、長くないかもしれん」


 やはりか……


「病因は?」

「不明だ」


 ん?


「どういうことだ? 医者がいただろう」


 昨日、ベッドのそばには医者の爺さんがいた。


「先生もわからないらしい」

「それって……」

「私は外的要因と考えている」


 外的要因……


「毒か?」

「毒物の反応もない」

「なら魔法?」


 魔法には呪いの魔法とかもある。


「それのような気がするが、わからないのが現状だ。お前、魔術師だったな? 昨日の陛下を見て、何か気付かなかったか?」

「いや、魔力は感じたが、伯父上も魔法が使えるしな……」


 そこまでの魔法は使えないが、生活魔法くらいは使えたはずだ。


「お前でもわからんか……」

「昨日、アダムからここに来る時に検問があったが、それのせいか?」

「ああ、そうだ。陛下が死んで喜ぶ者はこの国にはいない。何しろ、後継者争いがないからな。だから外部の者の犯行と考えている」


 一番怪しいのは仲が悪い隣国のミレーか?


「この国には優秀な魔術師はいないのか?」

「普通にいるし、そいつらにも診せたが、まったくわからなかった」

「そうなると、未知の魔法か毒物?」

「かもな。他国のお前ならそういう情報もあるかと思ったんだが……」


 確かにこの国はなくても他国にはあると思うわな。


「悪いな、エーデルタルトにもなさそうだわ…………いや、待てよ」


 もしかしたらあいつなら……


「どうした?」

「知ってるかもしれない奴に心当たりがある」

「ほう! 誰だ?」


 ヒラリーが食いつく。


「ラウラっていう元Aランク冒険者の婆さんだ。あいつは魔術師だし、エルフだから長く生きている。何かを知っているかもしれない」

「ラウラってあの? お前、伝説の冒険者と知り合いなのか?」


 やっぱり有名なんだな。

 というか、伝説なんだ……


「普通にエイミルにいたぞ」

「エイミルに…………少し遠いな」


 確かに微妙に遠い。


「いや、今はこの国にいる。俺達はあいつの馬車で送ってもらったんだ」

「本当か!?」

「ああ。数日程観光してから帰るって言ってたし、まだいると思う」


 着いたのは昨日だし、さすがにまだ帰ってはいないだろう。


「観光…………なら王都にいるな。探すか……」

「ギルドの宿屋を紹介してもらうって言ってたし、ギルドに聞けばわかると思うぞ」

「よし! それだ! ちょっと待ってろ。すぐにラウラを呼ぶ」


 ヒラリーはそう言うと、立ち上がって執務室を出ていってしまった。


 待てって言われたけど、ここでずっと待つの?

 部屋に戻っちゃダメ?





――――――――――――


明日も投稿します。

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