第175話 伯母と従弟
伯父上の寝室を出た俺達はヒラリーに客室に案内されていた。
「この部屋はお前達が好きに使え。それとも個室がいいか?」
部屋に着くと、ヒラリーが聞いてくる。
この部屋は客室というか、俺が留学時に使っていた私室だ。
とはいえ、以前とは違い、勉強机はないし、逆にベッドは3つもある。
「ここでいい」
「そうか。城の中は自由に歩いても良いし、町に出たいなら出てもいい。とはいえ、あまり他の人の仕事を邪魔するなよ」
「せんわ。そんなガキじゃねーよ」
いつの話をしているんだ。
「ならいい。詳しい話をしたいが、お前らも疲れただろ。今日は休め。明日、また話をしよう」
ヒラリーはそう言うと、部屋から出ていった。
「なんか、皆さんが殿下を子供扱いしてますね」
お茶を用意し始めたマリアが笑いながら言う。
「俺がここにいたのは10歳か11歳だからな。それ以来だからそういう扱いなんだろうよ」
「その時にあなたがここで何をしていたかがよくわかるわね。さぞ、迷惑をかけたんでしょう」
リーシャも笑う。
「10歳のガキなんてそんなもんだ。お前だって…………いや、お前は特殊だったな。マリアだって、おてんばだったろ?」
「いや、私はおしとやかでしたよ。おてんばは妹です」
そう言われてもお前の妹を知らん。
あ、でも、前に串肉を食べようとしたらタックルされたって言ってたし、おてんばっぽい。
「お前の妹って何歳だったっけ?」
前に聞いたことがあるが、忘れた。
「13歳ですよー。言っておくけど、妾はNGです。姉妹で同じところはダメです」
政治的に意味がないからな。
「そういう意味って言ったんじゃねーよ。俺を年下好きにするのをやめろ」
「殿下って、地味に女好きのような気がするんで……」
いや、そんなに……
もちろん、嫌いではないけど……
「女好きというほどではないな。お前らで十分だし…………そうだ。そこの窓から水の神殿が見えるはずだぞ」
俺はベッドのそばにある窓を指差す。
すると、リーシャとマリアが立ち上がり、窓の方に向かった。
「おー! ホントだ!」
「すごいわね。ここから見てもきれい」
俺は留学中に毎日見てたから飽きた。
「好きなだけ見ろ」
窓から水の神殿を眺める2人を見ながらマリアが淹れてくれたお茶を一口飲むと、カバンから紙を取り出し、テーブルに置いた。
さてと……
リーシャとマリアに文は送り終えた。
これで当分は持つだろう。
次に考えなければならないのはヘレナへの手紙だ。
ヘレナにはヘレナが傷つかないかつ、やんわりと、あれはプロポーズではないんだよと伝えなければならない。
「うーん……」
難易度高い……
俺が腕を組みながら悩んでいると、扉の方からコンコンとノックの音が聞こえてきた。
「誰だ?」
『私です』
この声は……伯母上か。
俺は立ち上がると、扉の方に行き、扉を開ける。
そこには予想通り、この国の王妃がこの国の王太子と共に立っていた。
「伯母上、お久しぶりです。それにマイルズも久しぶりだな」
「お久しぶりです、ロイド。元気そうで何より」
「久しぶりー」
伯母上は険しい顔で挨拶をしたが、マイルズはフランクだ。
まあ、この2人は昔からこんなもんである。
「どうぞ、どうぞ」
俺が2人を招き入れると、リーシャとマリアが窓からテーブルに戻ってくる。
「そちらがあなたの婚約者ですか?」
「そうですね。リーシャとマリアです。リーシャ、マリア。俺の伯母でこの国の王妃様であるリネット様だ」
俺は伯母を紹介する。
「エーデルタルトのスミュール家が長女、リーシャ・スミュールです。お会いできて光栄です」
リーシャが一歩前に出て、頭を下げた。
「同じくエーデルタルトのフランドル家が長女、マリア・フランドルです。お会いできて光栄です」
マリアもリーシャと同じように前に出て、頭を下げる。
伯父上の時と同じだが、これが決まった挨拶なのだ。
「リネットです。よくいらっしゃいました。水の神殿を見ていたのですか?」
「はい。エーデルタルトでも有名ですので」
正室のリーシャが代表して答える。
「結婚すると聞きました。まことですか?」
何を疑ってんだよ。
「はい。ロイド殿下に見初められ、そういうことになりました」
見初めてない。
いや、見初めたでいいのか?
「ふむ……時が経つのは早いですね」
「旦那と同じことを言ってるぞー」
似たもの夫婦め。
「あなたもこの歳になれば似たようなことを言います。時にロイド」
「何ですか?」
「あなた、陛下に指輪を買うためにお金をせびったそうですね?」
情報が早いね。
「着の身着のままで長旅をし、ここまで来たんですよ。だからそんなに金がないんです」
「なるほど…………リーシャ、マリア。あなた達は式で着るドレスがありますか?」
「いえ、ありませんので借りようかと……」
リーシャがそう答えると、伯母上の目が吊り上がり、俺を睨んできた。
「いや、睨まれても……」
「あなたはこのウォルターの王族で栄えあるエーデルタルトの王子でしょう? その妻に着せるドレスすら用意していないんですか?」
相変わらず、嫌味を言うおばさんだわ。
「だから金がないって言ってんじゃん。くれ」
「ハァ……リーシャ、マリア。ついてきなさい。仕立て屋を呼びます。王族の結婚式でレンタルなんかありえません」
まあ、聞いたことないね。
「はい。ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
リーシャとマリアが頭を下げ、礼を言う。
「ロイド、一応、聞きますが、ドレスの希望はありますか?」
「そいつらが似合うなら何でもいいな。あ、でも、白っぽいのがいい」
「式で着るドレスはすべて白です。聞いた私がバカでしたね」
ばーか。
「俺にはそういうセンスがないから伯母上がアドバイスしてあげてください。得意でしょ」
「そうします。2人とも、来なさい」
伯母上はリーシャとマリアを連れて、退室していった。
そして、この場には俺とマイルズだけが残される。
「ドレスなんかどうでもいいよな?」
俺はうるさいのがいなくなると、マイルズに確認する。
「うん、どうでもいい。特にロイドは女の顔しか興味ないだろうからどうでもいいだろうね」
ちゃんと身体も見てるぞ。
「そんなことはない。まあいいや。座れ」
「じゃあ、失礼するよ」
マイルズを座らせると、2人でお茶を飲み始める。
「マリアが淹れてくれたんだから味わって飲めよ」
「あの可愛らしい子? 随分とタイプの違う2人に見えたけど、好みが広がった?」
そういうことを言われると、ヘレナが思い浮かんでしまう。
「男女は色々あるんだ」
色々とねー。
「ふーん、リーシャさんは完全にロイドの好みだなーと思ったけど、マリアさんを見て、あれって思ったんだけど」
「癒し、癒し。お前、13歳になったか?」
「今年で14歳だね」
「相手は?」
王太子ならいるだろう。
「悩み中」
「ふーん……さっさと決めろよ」
「ロイドは顔しか見ないだろうけど、普通は色々と考えるもんだよ」
こいつ、俺を女を顔だけで評価する男と思ってないだろうか?
「あっそ。それで何の用だ?」
「久しぶりに会った従兄に会いに来たんだよ。母上はリーシャさんとマリアさんのドレスを作るために来たけど」
最初からそのつもりだったんだな。
「なんで嫌味を言うかねー?」
「あの鬼ババはそういう人だよ。まだロイドはいいじゃん。僕なんか毎日のように言われるし」
毎日は嫌だなー。
「大変だねー」
「まあね。あ、そうそう、指輪の件だけど、今度、装飾屋を呼ぶから勝手に選べってヒラリーが言ってたよ」
出張してくれるわけか。
「わかった」
リーシャとマリアの意見を聞きながら選ぼう。
「それにしてもロイドが結婚するなんてねー」
「そりゃするだろ。18歳だぞ」
早い奴は15、6歳でする。
「なんかそういうのが嫌そうな気がしたから。ちなみにだけど、今の心境はどう? 嬉しいとかめんどくさいとかさ。参考までに聞かせて」
こいつ、興味津々だな。
思春期め。
「悪いが何もない。今までと何も変わらんし」
「えー、そう?」
「俺達はエーデルタルトを出て、ここまで来るのにそれはそれは苦労したんだ。もはや家族も同然」
一蓮托生!
「そうなんだ……でも、子供とかは?」
「そのうちできるんじゃーねーの?」
できてから考えればいい。
「…………あのさ、ロイド。まさかと思うけど、もう手を出しちゃったの?」
「とっくの前に」
「エーデルタルトがどうかは詳しくは知らないけど、ウチの国だと、それダメだよ」
「エーデルタルトはもっとダメだぞ。何かがあって、婚約が破棄になったら俺は多分、あの2人に殺される」
多分というか、絶対。
「…………尊敬するよ」
したまえ。
俺とマイルズがその後も話をしていると、リーシャとマリアが部屋に戻ってきた。
すると、マイルズが仕事があるからと、部屋を出ていったので3人で話をしながら体を休めた。
そして、夕食の時間になると、伯父上はいなかったが、食堂で伯母上、マイルズ、ヒラリーの6人で夕食を食べた。
夕食後、部屋に戻ると、リーシャとマリアが俺が贈った文を読みふけり始めたので俺はヘレナへの手紙を考え続ける。
だが、やはりそんな都合の良い言葉は浮かんでこなかった……
――――――――――――
書籍を購入してくださった方、ありがとうございます。
これからも変わらずに投稿をしていきますので引き続き、よろしくお願いいたします。
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