第174話 伯父


 着替え終えた俺達はヒラリーの案内のもと、伯父上の寝室に向かっている。


「ロイド、余計なことは話すなよ。陛下に心配をさせるな」


 ヒラリーが歩きながら忠告してきた。


「わかっている。実は式を挙げる目的もあって、そのついでに見舞いに来たとでも言うよ」

「まあ、それでいい。ついでという言葉は微妙だが、お前らしくて良いだろう」


 俺らしいってなんだ?


 俺はちょっと首を傾げながらも歩いていると、ヒラリーの足が止まった。


「ここだ。親族だから礼儀は気にしなくていいが、陛下が病なことを忘れるなよ」

「注意ばっかりだな。俺はあの時のような子供ではないぞ」

「そうだな。根本は変わっていないが、お前も嫁を取る歳になったんだったな……」


 一言多いんだよ。


「大丈夫だから」

「わかった…………陛下、ヒラリーです。ロイドとその婚約者2名を連れてまいりました」


 ヒラリーが扉をノックしながら声をかける。


『おー、入ってくれ』


 中から聞き覚えのある男の声で入室の許可が出ると、ヒラリーが扉を開け、部屋に入っていった。

 俺達もまた、ヒラリーに続いて、部屋に入る。


 部屋の中では大きなベッドで横たわる伯父がおり、ベッドのそばには白衣を着た医者らしき爺さんと侍女が2人ほど控えていた。


「伯父上、お久しぶりです」


 俺はベッドで横になっている伯父上に近づくと、頭を下げ、挨拶をする。

 すると、伯父上は侍女に支えられながら上半身を起こした。


「おー! 本当にロイドだ。久しぶりだな。しかも、大きくなったなー」


 伯父上は嬉しそうに笑う。


「私も18歳になりました」

「時が経つのは早いな。こんなに小さかったのに」


 伯父上が手を少し上げる。


「伯父上は歳を取られましたね。白髪が見えますよ」


 というか、かなり痩せているように見える。

 病でやつれたのだろう。


「うるさいわ。それを言うならヒラリーの方だ」


 伯父上が笑ったのでヒラリーの方を見てみる。

 だが、白髪は見えない。


「染めたか……」

「余計なことを言うな、クソガキ」


 ヒラリーが目を吊り上げた。


「ははは。ロイドが変わりなくて良かったわ」

「成長しましたよ」

「そうか、そうか。それは良かったな」


 あれ?

 ……まあいいか。


「伯父上、紹介が遅れましたが、リーシャとマリアです。私の婚約者になります」


 俺は後ろで控えているリーシャとマリアを紹介する。


「エーデルタルトのスミュール家が長女、リーシャ・スミュールです。お会いできて光栄です」


 リーシャが一歩前に出て、頭を下げた。


「同じくエーデルタルトのフランドル家が長女、マリア・フランドルです。お会いできて光栄です」


 マリアもリーシャと同じように前に出て、頭を下げる。


「うむ。ロイドの叔父に当たるウィンストンである。我が国によく来てくれた。歓迎する」

「ありがとうございます」

「感謝致します」


 リーシャとマリアが再び頭を下げた。


「ロイド、よき妻を得たようで良かったな」

「ですね。自分にはもったいない限りです」

「妻を大事にしろよ」

「わかってます。私がどこの国の人間かわかっているでしょうに」


 地獄……じゃないエーデルタルトだぞ。


「ははは、頑張れ。時にロイド、廃嫡になったとはまことか?」


 ヒラリーが知っていれば、当然、伯父上も知っているか……


「ええ。その通りです。我が父から何か聞いていますか?」

「いや、突然、そのような連絡が来ただけだ。当然、抗議をしたが、音沙汰がない」


 音沙汰がない?

 どうした?

 同盟国だろ。


「うーん、何か陛下の気に障ることをしたかなー?」

「お前は多そうだな」


 うっさい。


「理由は武術がうんたらかんたらでしたが、違う理由があるんだと思っています。ですが、私としてもこうなった以上は弟と争う意思はありません」

「テールか?」

「はい。テールは大国であり、強国です。後継者争いを起こせば、必ず介入してくるでしょう」

「まあ、そうだろうな。それでこの国に来たのか?」


 これは放火は聞いていないな……

 ヒラリーも余計なことを言うなって言ってたし、黙っておこう。


「はい。エーデルタルトにいてもどうしようもないですし、伯父上を頼ろうかと思ったのです」

「ふむ……わかった。好きなだけで滞在せよ」


 やったぜ。

 さすがは伯父上。

 優しいわ。


「伯父上、それともう一つ、お願いがあるのですが……」

「なんだ? 金ならヒラリーに言え」


 小遣いをせびっているわけじゃねーよ。


「私はこの度、リーシャとマリアと結婚いたします。つきましては水の神殿を使わせて頂きたいのです」

「それは問題ない。喜ばしいことだし、断る理由もない。とはいえ、しばし待て。神事を取り仕切る巫女が巡礼をしているのだ。ひと月後には戻ってくるだろうからそれまでは待ってろ」


 巫女が留守なのか……

 じゃあ、しゃーない。


「わかりました。そこまで急いでいるわけではないので問題ありません」

「そうか……すまんな」

「いえ。私や2人も準備がいりますし、どちらにせよ、ひと月はいただきたいですから」


 指輪も買ってないし。


「まあ、それもそうか」

「ええ……ヒラリー、リーシャ、マリア。お前らは一度、退室しろ。俺は伯父上に大事な話がある」

「大事って何だ?」


 ヒラリーが怪しんで聞いてくる。


「それは伯父上と俺だけの大事な話だ」

「…………いいから言え」


 こいつ、嫌いだわー。


「伯父上、金くれ。結婚用の指輪を買いたい」


 安物を買うわけにはいかないのだ。


「…………ヒラリー」


 伯父上がこめかみを抑えながらヒラリーを呼ぶ。


「…………わかっています」


 ヒラリーが頷いた。


「では、伯父上、伯父上の体調が優れていないようですので私はここで失礼します」


 長居は良くないな。


「…………頭が痛いのはお前のせいだ」


 病のせいだよ。





――――――――――――


書籍の第2巻が昨日発売となりましたが、購入してくださった方、ありがとうございます。

地方によってはまだかもしれませんが、是非ともご購入頂けると幸いです。


https://kakuyomu.jp/official/info/entry/haityakuouji2


よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る