第173話 久しぶり
俺はヒラリーに連れられて、とある部屋で着替えている。
リーシャとマリアも侍女に連れられていったため、別室で着替えているのだろう。
「ロイド、お前の婚約者の2人はエーデルタルトの貴族か?」
俺が着替えていると、ヒラリーが聞いてくる。
「そうだぞ。スミュール公爵家とフランドル男爵家の令嬢だ」
どうでもいいけど、着替えているのになんでいるんだ、こいつ?
「ふむ。金髪の方がスミュールだな。噂通りの容姿をしている」
あいつ、本当に有名だな。
「異名がいっぱいあるぞ。今、定着しているのは絶世のリーシャだ」
下水のリーシャでもあるけど……
「なるほどな。黒髪の方は男爵か……随分と身分が低いが、そんなに気にいったのか?」
「同じ学校の同級生だ。それと果てしない旅で苦楽を共にした」
「…………本当に何があったんだ?」
大変だったわー。
「苦労したわ。おかげで良い出会いもあったけどな」
ジャックにラウラという高ランク冒険者に会えたし、死んだと思っていた叔母上にも会えた。
あと、従弟妹のクリフと…………ヘレナ。
あー、どうしようー……
「どうした?」
「いや、何でもない。伯父上が病気ということだが、マイルズと伯母上は?」
「そちらは2人とも元気だ。後で会うといい」
2人とも元気か……
伯母上はともかく、マイルズは大きくなっただろうなー。
俺がここにいた時は6歳だったから今は13歳か14歳か?
「空気を読まずに聞くが、伯父上に何かあれば、マイルズが王位を継ぐのか?」
「本当に空気を読め。お前、そういうところは変わってないなー…………まあ、多分、そうなるだろう。当分は私が摂政となるだろうが……」
13、14歳で政治は任せられないか。
となると、必然的に王族のこいつが摂政として、政治を行う。
というか、伯父上が倒れた今もそんな感じか。
「大変だねー」
「幸い、ウチの国では後継者争いはないな。お前、ウォルターの王になるか? 一応、継承権はあると思うぞ」
まあ、俺の母親はこの国の王族だし、あるとは思うな。
でも、後継者争いを起こそうとするな。
「誰がなるか。自国ならともかく、なんでこんな国を治めなければならんのだ」
「こんな国はひどいな」
「俺、海が嫌いなんだ。漂流したし」
この国は川や水路も多いが、海に面しており、海洋国家でもあるのだ。
「いや、お前、本当に何をしていたんだよ…………」
ヒラリーが心底、呆れた目で俺を見てくる。
「後で話す。俺も聞きたいことがあるしな」
「そうか……着替えは終わったか?」
「終わった……ところで、お前はなんで人の着替えを見ているんだよ。変態か?」
「親戚のガキの着替えなんかどうでもいいわ。準備ができたのなら行くぞ」
まあ、そうだわな。
俺もこいつの着替えはまったく興味がない。
「別に急がんでも女は時間がかかるだろうよ」
「それでもだ。いいから行くぞ」
「はいはい」
俺は着替え終えると、ヒラリーと共に部屋を出る。
そして、ヒラリーに案内され、別室に向かった。
先頭を行くヒラリーがとある扉の前で立ち止まると、扉をノックする。
『はい?』
部屋の中から聞いたことがない女の声が聞こえてきた。
多分、リーシャとマリアを連れていった侍女だろう。
「私だ。ロイドの着替えは終わったが、そっちはどうだ?」
ヒラリーが答える。
『こちらはまだです。申し訳ございませんが、もう少しお待ちください』
もう少し?
しばらくだろ。
「そうか。ゆっくりでいいぞ。エーデルタルトの男はいくらでも待つからな」
恨まれたくないからね。
「ほれ見ろ。俺を急かすなっての」
「うるさい奴だな。黙って待ってろ」
「ここで待つのか?」
「中に入りたいと? スケベめ」
いや、あいつらの着替えなんてこれまでの旅で何回も見たわ。
同衾までしてるんだぞ。
「まあ、せっかく着飾るんだから見るのは着飾った後の方がいいか」
「わかっているならグチグチ言うな」
「はいはい」
俺は暇だなーと思いながら待ち続ける。
そして、そのまましばらく待っていると、扉が開かれ、ドレス姿のリーシャとマリアが部屋から出てきた。
なお、リーシャは何故か剣を握っている。
「お前のドレス姿を見るのは久しぶりな気がするわ」
「私も久しぶりに着た気がするわ。こんなに動きにくかったかしら? これだと敵に襲われた時に斬れないわ」
完全に戦士の血が目覚めてんな……
ここでは敵に襲われることはないし、襲われても対処するのは護衛の兵士だろうに。
「そうか…………マリアは本当に久しぶりにドレス姿を見るな」
再会した時は修道服だったし。
「卒業以来ですからね」
「そうだな。懐かしいわ」
2年前かな?
あの時はこいつを娶るとは思っていなかったわ。
「なあ、皆スルーしているけど、なんでこいつは剣を持っているんだ? 私がおかしいのか?」
ヒラリーがリーシャを指差す。
「それは俺の剣だ。リーシャに持たせているだけ」
けっして奪われたわけではない。
「え? なんで? お前、女に荷物持ちをさせているのか?」
「そうだ。剣は重いからリーシャに持たせている」
貧弱王子。
「…………本当は?」
「そいつ、目にも止まらないスピードで斬りかかれるぞ。多分、この城の兵士が束になっても血の海ができるだけだ」
「…………お前ら、マジでどうした? イカレたか?」
イカレは最初から……いや、なんでもない。
「別にいいだろ。どうせ没収しても、こいつらはナイフを持っているし」
「自害用のやつか……お前の母親から手紙をもらったことがあるな。皆、ナイフを持ってて怖いって」
母上はエーデルタルトの人間ではないからなー。
魔術には長けていたが、ナイフなんか触ったことがない人種だ。
「言っておくが、俺も怖いからな」
そんなもんを持つなと言いたい。
どこの世界にナイフを持った女と一緒のベッドに入りたがる男がいるというのか。
「お前は浮気しなかったらいいだけだろ」
「そうだな…………」
ハァ……
「ん? どうした? 本当にしたのか?」
「参考までに聞くが、4歳の子に求婚する男をどう思う?」
「…………訳がわからなすぎて、もうついていけないわ」
ノーカンにならんかなー。
――――――――――――
本日、書籍の第2巻が発売となりました!
是非とも読んで頂けたら幸いです。
https://kakuyomu.jp/official/info/entry/haityakuouji2
よろしくお願いいたします。
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