第172話 久しぶりの城


 俺達は城の隣にある湖を眺めている。

 正確に言うと、湖に浮かんでいる神殿だが……


「あれが水の神殿よね?」


 リーシャが神殿を見ながら聞いてくる。


「そうだ。あそこは誰かが住んでいるわけではなく、神事か何かのイベント時にのみ解放される」

「でも、結婚式はできるんでしょ?」

「かなりの寄付金がいるって聞いたことがあるな」


 だから庶民にはまず無理なのだ。


「お金あるの?」

「あれの管理は王家だ。伯父が甥の結婚式で金を取らんわ」


 むしろ、祝儀で金貨はないだろうが、贈り物をくれるだろう。


「ふーん……」

「きれいですねー……」


 リーシャとマリアはただただ神殿を眺めている。

 正直、さっさと城に行きたいが、急かすわけにはいかない。

 水の神殿は世界中の女子の憧れの聖地であり、当事者であるこいつらにしたら思うことがたくさんあるのだ。


「殿下……殿下がこの先どの様な道に進むかはわかりませんが、わたくしは一生ついていきますわ」

「そうか……」


 こいつ、文を渡してから完全に出来上がってんな……


「殿下、私はこれまで間違い続きの人生でしたが、これだけは間違えませんでした……」


 こっちも出来上がってたわ。


「マリア、お前は一人だとことごとく間違えるかもしれないが、この旅はどうだった? 俺とリーシャがいれば間違えなかっただろう?」


 森でも海でもカジノでも結果的には良い方向に転がっている。


「確かに!」

「だろ? だから不安はいらない。俺達と共に生きるだけだ」

「はい」


 マリアが頬をほんのり赤らめた。


「わたくしにはそういう良い感じの言葉はないんですか?」


 嫉妬女め……


「お前はそこにいればいい。それだけで上手くいく」


 神に愛された女だし。


「そう……そういえば、お前がそばにいることが最上の幸福だって書いてあったわね」


 ……文の内容を言うんじゃねーよ。


「もういいだろ。行くぞ。伯父上に会う」


 俺はさすがにこれ以上は御免だと思い、この場を離れ、城に向かうことにした。

 そして、城の門を守る門番に近づく。


「申し訳ございませんが、この先は立ち入り禁止となりますので引き返してください」


 俺達が城の門に近づくと、2人いるうちの1人の兵士が前に出て、俺達を止めてきた。


 さすがは観光都市の兵士だわ。

 ウチの国の門番と違い、丁寧だ。


「俺達は観光客じゃない。ウィンストン王にロイドが来たと伝えてほしい」

「は? 国王陛下にですか?」

「そうだ。それで通じる」

「いや、しかし……」


 さすがに門番は渋ってくる。


「なら、マイルズ王子でもリネット妃でもよい」


 マイルズは従弟でリネットは伯母だ。


「あ、あの、失礼ですが、どちら様で?」

「エーデルタルトのロイドだ。そう伝えればよい」

「し、しかし……」


 うーん、さすがに無理か……


「ならば、ヒラリー・ストーニー宰相閣下でよいわ。とにかく、エーデルタルトのロイドが来たと伝えよ」

「わ、わかりました。取り次いでみますので少々、お待ちください」


 兵士は慌てて城の中に入っていく。

 そして、そのまましばらく待っていると、茶色の髪をした女性が兵士と共にやってきた。


「ロイドと聞いたから来てみたのだが……」


 女は呆れた顔をして俺を見ている。


「久しぶりだな、ヒラリー。お前、エルフだったのか? 7、8年前に見た時とまったく変わってないぞ」


 こいつはヒラリーというウォルターの女宰相だ。

 女の身で、しかも、かなりの若さで宰相になったウォルター最高の天才らしい。


「褒め言葉として受け取っておこう」

「お前、いくつになった?」

「40を超えたな」


 そんなに若くなかったわ……

 でも、見えねー。

 20代でも通じる…………いや、それは言いすぎか。


「時が経つのは早いなー」

「それはこちらのセリフだ……来い。こんなところでは話すにも話せん。ちなみに聞くが、後ろの女共は誰だ?」


 ヒラリーがリーシャとマリアを見る。


「俺の……一応、まだ婚約者だ」

「そうか…………まあよい。入れ」


 こいつがこんなに偉そうなのはこいつも王族だからだ。

 確か、伯父の従姉だったかな?

 ……うーん、忘れた。


 俺達はヒラリーと共に城に入ると、ヒラリーに連れられて、すぐそばにある個室に入った。


「他国の王子を出迎える部屋とは思えんぞ」


 狭い。


「それだ。お前、何をしている? 何も聞いてないぞ」

「話せば長くなるんだが……」

「お前が廃嫡になったのは本当のようだな」


 話さずに終わったわ。


「そういうことだ。エーデルタルトにいてもどうしようもないし、伯父上を頼ろうと思った」

「ふむ……なるほどな。しかし、連絡くらい寄こさんか」


 それはそんなことができる状態になかったから仕方がない。


「悪いな。色々と事情があってできなかった」

「事情ねー……」


 こいつ、どこまで知っているんだろう?


「とにかく、伯父上に会いに来た。元気にしておられるだろうか?」

「ハァ……元気じゃない。陛下はひと月前から病で伏しておられる」


 え?


「悪いのか?」

「…………それは後で説明しよう。陛下に会ってくれ。お前が見舞いに来たと言えば、陛下も喜ぶだろう」


 もしかして、ヤバいのか?

 シルヴィが言っていたのはこれか?


「わかった。会わせてくれ」

「ああ。しかし、お前らのその格好はなんだ? お前はもちろんだが、婚約者共だって貴族だろう?」

「これも色々あったんだが、実は冒険者になった」

「何があったんだか…………」


 ヒラリーが呆れながら首を横に振る。


「Dランクだぞ」

「微妙すぎて何の感想もないな。とにかく、着替えろ」


 せめてCランクになってから来れば良かったかな?


「服を貸してくんない?」

「ハァ……」


 ヒラリーが何度目かわからないため息をついた。





――――――――――――


明日、本作の第2巻が発売となります。(地域によってはもう発売されていると思いますが……)

書店に立ち寄った際はお手に取ってもらえると幸いです。

また、電子書籍を購入予定の方は0時から読めます。


https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093078963898189


それと、第2巻の発売を記念しまして本日から6/13まで毎日更新します。


よろしくお願いいたします。

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