第171話 水の都
婆さんと別れた俺達は再び、街並みを見渡す。
「すごいですね。今まで見た町とは全然違います」
「そうね。ここは独自すぎるわ」
王都だけあって建物が多く、人も大勢いるが、それよりも水路の多さが際立っている。
しかも、水路には人や物を乗せたゴンドラが流れており、エーデルタルトの王都はもちろん、これまで見てきた町とは明らかに文化が異なっていた。
「すごいだろ。きれいだし、水も豊かだ。でも、その一方で大雨が降ると、水かさが増して町一面が水浸しになるぞ」
「それはそれですごいわね。あー……だから建物がどれも高いのね」
リーシャが言うように建物のほとんどが2階建て構造だ。
水没とは言わないけど、普通に浸水するからね。
「水浸しになったらどうするんですか?」
マリアが聞いてくる。
「その時はゴンドラで移動だな。まあ、今は雨期じゃないし、そういうことは起きない。この地域は雨が降る時期がキッチリ決まっているんだ」
「へー……見てみたい気もしますが、外には出たくないですね」
俺も出たくない。
「ロイド、これからどうする? 城に行く?」
「急いだ方が良いって話だしなー。それに検問が気になる」
アダムとこのウォルターは同盟国だからあんな厳重な検問が必要なはずがない。
何かがあったんだと思う。
「それもそうね。ロイドが街を歩いていると、知り合いに会うかもしれないし、さっさと城に行きましょう」
いやー、そう言うけど、あんまり知り合いはいないと思うなー。
ただでさえ、ロクに友人もいなかったし、当時、10歳やそこらだったから見た目も大きく変わっている。
まあ、俺が知らんだけど、俺を知っている奴もいるかもしれないからふらつくのはやめた方が良いか……
「じゃあ、城に行こう。せっかくだし、ゴンドラに乗っていこうぜ」
「それがいいですー」
マリアが喜ぶ。
「私も乗ってみたいけど、どこで乗れるの?」
「その辺で乗れるはずだ」
俺はリーシャとマリアを連れて、水路沿いを歩き出す。
すると、道から水路に降りる階段を見つけた。
覗いてみると、ゴンドラの上で暇そうに座っているおっさんがいた。
「おっさん、暇か?」
俺は階段を降りると、おっさんに声をかける。
「んー? まあな。乗りたいのか?」
「城の前まで乗せてくれ」
「城ねー。銀貨1枚でいいぞ」
これが安いのか高いのかがわからないが、ぼったくりだとしてもたかが銀貨ならどうでもいい。
「はい、銀貨」
俺はカバンから銀貨を一枚取り出し、おっさんに渡す。
「まいど。乗りな」
おっさんが親指でクイッとゴンドラを指したのでゴンドラに乗る。
「おー、揺れますー」
マリアは不安定に揺れながらゴンドラに乗ると、危なっかしく座る。
「ひっくり返らないわよね?」
リーシャはさすがのバランス感覚をしており、危なげなく座った。
俺?
俺はマリアと一緒。
「お前さん方、初めてか?」
ゴンドラに乗る俺達を眺めていたおっさんが聞いてくる。
「俺は小さい頃に乗って以来だ。2人は初めて」
「そうか……安全でゆったりプランとハラハラドキドキの楽しいプランがあるが、どっちがいい?」
なんだそれ?
「ハラハラドキドキの楽しいプラン」
「安全でゆったりプラン!」
リーシャとマリアが同時に言った。
すると、2人が俺を見てくる。
「うーん、マリアが落ちそうだな……安全でゆったりプランで」
多分、落ちる。
そして、リーシャは絶対に落ちない。
「まあ、それでもいいけど、思い出になるわよ?」
リーシャが半笑いでマリアを見る。
「嫌ですよ!」
そりゃそうだ。
「ケンカすんなよ。本当にひっくり返るぞ」
おっさんがそう言うと、マリアが俺の腕を掴んでくる。
掴まれると、俺も一緒に落ちるんだけど……
「おっさん、俺ら、泳げないから安全運転で頼む」
「わかった。まあ、そんなに深くないから溺れるようなことはないんだけどな」
足がついても溺れる奴は溺れるけどな。
おっさんが船を動かし始めると、ゴンドラはゆっくりと進んでいく。
リーシャとマリアは水路から見る街並みをキョロキョロと眺めていた。
「おっさんって魔術師か?」
このゴンドラにはオールがない。
「魔術師を名乗れるほどの魔力はねーよ。小さい舟を動かせる程度だ」
やっぱり魔導船か。
「ゴンドラって売ってる?」
「お前、貴族か? 売ってると言えば売ってるが、この町で乗るには免許と許可がいるぜ。自国に持ち出すのも厳正なチェックが必要だ。本当にめんどくさいから諦めた方が良い」
うーん、ダメか。
船は無理でも小型のゴンドラでも買えば、楽しいかなと思ったんだが……
俺達がその後も街並みを眺めながらゆっくりと進んでいくと、大きな城が見えてきた。
「あれが王城だな。中に入るのは当然ダメだが、外から眺めるのは問題ないぞ」
まあ、中に入るんだけどな……
俺達が城を見上げていると、ゴンドラはゆっくりと船着き場に近づき、停止した。
「着いたぞ。そこの階段を昇れば、王城だよ。それと大人気の水の神殿だ」
「ありがとよ」
俺はおっさんに礼を言うと、先に降り、マリアに手を伸ばす。
マリアは危なっかしく立ち上がると、俺の手を掴み、ゆっくりと降りてきた。
なお、リーシャは普通に降りた。
ゴンドラから降りた俺達はすぐそばにある階段を昇る。
すると、湖の近くに立つ城と湖に浮かんでいる神殿が見えてきた。
「おー! あれが水の神殿ですか! 幻想的です!」
「すごいわね」
子供の頃に見た時は行きにくいだろうと思っていた神殿だが、大人になると、感動的な光景である。
まあ、あそこで式を挙げることになったからなんだけど……
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