第005話 ハイジャーック!


 俺とリーシャは起きると、マリアと共に朝食を食べた。

 そして、朝食を食べ終えると、マリアは部屋に戻り、出発の準備を始めた。


 俺とリーシャは物がなく、準備することがないため、自分達の部屋の窓からそっと外を見る。


「どう? 追手は?」

「ないな……まだ調査は終わっていないのか?」

「どちらにせよ、私とあなたが王都にいないことはバレているでしょ」


 そうなると、少なからず捜索隊は出ているはずだ。


「俺達の格好から宿の人から町の人へ噂になっている可能性が高い。さっさと逃げた方が良いな」

「服や下着を買いたいけど、我慢するわ」


 一応、ヨゴレを除去する魔法は使っているが、毎日、風呂に入り、入念なケアをする貴族令嬢にはきついだろう。


「悪いな」

「いえいえ。お互い様でしょう」


 まあな。

 正直、俺も風呂に入りたい。


「――殿下ー! リーシャ様ー!」


 俺達が窓から外を覗いていると、ノックの音と共にマリアの声がした。


「入っていいぞ」

「はい、失礼します…………何をしてらっしゃるんですか?」


 部屋に入ってきたマリアが聞いてくる。


「追手がいないかの確認だ」


 俺は窓から外を覗きながら答えた。


「あ、そうでしたね。変装でもした方がよろしいのでは?」

「もう遅いな。ところで、マリア、殿下はやめろ。やんごとなき身分なのはバレているだろうが、さすがに殿下はマズい」


 王族はマズすぎる。


「し、しかし、殿下に失礼になります」

「ならんから安心しろ。俺は廃嫡されたし」

「あ、そうでしたね。では、ロイド様と呼びます…………ふふっ、こう呼ぶと、王妃様になった気分になれ――すみません!!」


 マリアは上機嫌に笑っていたのだが、俺と同じく、窓から外を覗いていたリーシャがゆっくりマリアの方を振り向くと、急に謝罪した。


「マリア、出発時刻はいつかしら?」


 リーシャの声が冷たい。


「も、もうすぐです! ごめんなさい、ごめんなさい!」


 マリアが涙声で謝っている。


「よし、計画を実行しよう」


 俺はそう言って、窓から離れる。


「そうね。マリア、空港まで案内しなさい」

「ははっ!」


 マリアはこれでもかと言うくらいに頭を下げた。


 宿を出た俺達はマリアと共に空港を目指す。

 道中、誰ともすれ違うことはなかった。

 だが、家の中からチラチラと視線を感じていた。

 皆、貴族が気になるが、怖いから関わりたくはないのだろう。


「あれが空港になります」


 しばらく歩いていると、町の外の草原に数機の飛空艇が見えてきた。


「あまり大きくないわね」


 確かにサイズ的にはどれも小型船程度であり、乗客は10人程度しか乗れないだろう。

 とはいえ、ハイジャックする俺達には好都合である。


「この町にある飛空艇はそんなものですよ。でも、あのサイズでも教国まで行けるんです」


 というか、小さい方が魔力の消費が小さいから遠くまで飛ばせる。


「俺らの他に客はいないのかね?」

「いないそうですよ。他の便も数人です」


 ますます好都合。


「では、行こうか」


 俺達は草原まで行くと、飛空艇近くにある受付にチケットを提出した。


「はい、3名様ですね。どうぞあちらにお乗りください。もう少しで出発となります」


 俺達は受付の人に言われた飛空艇に乗り込むと、客室に入った。

 なお、客室といっても一つの大部屋でしかなく、床に絨毯が敷いてあるだけだ。


「安っぽいわね」


 リーシャが内装を見て、不満を漏らす。


「平民が乗る船ですからね。こんなものだと思いますよ」


 当たり前だが、俺達のような王侯貴族が乗る飛空艇は豪華だ。

 とはいえ、そんなものに乗る金はないし、警備も厳重だからハイジャックできない。


「まあ、贅沢を言うつもりはないわ。快適な空の旅を楽しみましょう」

「私、実は飛空艇に乗るのが初めてなんですよね」

「そうなの? まあ、特に思うことなんてないわよ。ただ、離陸の時は楽しいわね。そこの窓から外を見てなさいよ」

「そうします」


 リーシャが勧めると、マリアは窓から外を覗き始めた。


「俺はちょっと甲板を見てくるわ」


 俺はリーシャに手を上げる。


「いってらっしゃい」


 リーシャは満面の笑みで手を振ってくれたので俺は客室を出ると、階段を登り、甲板に出る。

 甲板では数人の男が最後のチェックをしていた。


「お客さん、何か?」


 1人の船乗りが俺に近づいてくる。


「チェックしているようだが、飛行に問題はないか?」

「もちろんです。チェックも終わりますので客室にお戻りください。もう間もなく離陸します」


 そうか、そうか。

 問題ないなら良かった。

 では、面倒だから一気に眠らせよう。


 俺は人差し指を上に向けた。


「スリープ!」


 俺が魔法を使うと、目の前の男も何かをチェックしていた男もバタバタと倒れた。

 俺は面倒だが、一人一人を背負うと、飛空艇の外に並べていく。

 そして、操舵室に入り、寝ている3人の魔術師も飛空艇の外に並べた。


「よし、これでオッケー」


 もうこの飛空艇に乗っているのは俺達だけだ。


「さて、では、出航!」


 俺は舵を握ると、魔力を流し、飛空艇を操作し始める。

 すると、飛空艇が宙に浮き出した。

 多分、客室ではマリアがはしゃいでいることだろう。


「さすがに小さい町だと警備もなく、ハイジャックが余裕だなー」


 俺はある程度、飛空艇を浮かすと、操舵室にあった方位磁針や地図を見ながらウォルターを目指し、飛空艇を走らせた。

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