第004話 出世?
純粋のぶどう令嬢を騙した俺はそのまま馬車に乗り、ゲルクの町を目指した。
そして、夕方にはゲルクの町に到着し、宿屋の前で降りる。
「ありがとうございました。あなたは王都に戻ってください。でも、この事はくれぐれも内密ですよ」
マリアはそう言って、御者の手を握った。
「わかってます。では、私はこれで」
御者は馬車の荷台に乗ると、馬を操って帰っていった。
「あんな純粋な田舎娘も賄賂を使うようになったのねー」
リーシャがマリアと御者のやり取りを見て、感心したように頷く。
マリアが御者の手を握ったのは金貨を握らせるためなのだ。
「田舎の方が賄賂まみれですよ。じゃなきゃ、私みたいなのは王都の貴族学校に通えません」
そういや、男爵令嬢程度のこいつが栄えある王都の貴族学校にいるのは変だな。
「どこも賄賂ねー」
「そういうものですよ。ある種、私が皆さんに配っていたワインだって賄賂です」
そういう意図があったのか……
でも、確かにあれがあったから馴染めたのかもしれない。
マリアはぶどう令嬢とあだ名され、笑われていたが、皆に好かれていたし、身分や地位で差別されることもなかった。
「あなたも大変ねー」
「いえいえ。おかげさまで教会に入れました。良いところには嫁げませんでしたけどね」
まあ、マリアの親父のフランドル男爵的には良いところに嫁いでほしくて王都の貴族学校に入れたんだろうな。
「そういう人生もありよ。私なんて…………いや、夫の前で愚痴はダメね」
もう全部言ってるわ。
「そ、そんなことよりもお疲れでしょう。中へどうぞ。御二人にとっては貧相かもしれせんが、この町で一番良い宿だそうです」
マリアは不穏な空気を察し、俺達を宿に勧めてきた。
俺達はマリアに勧められたまま、宿に入る。
そして、マリアが宿の受付をすると、部屋に案内されたので部屋に入った。
「御二人は外に出ないでください。私は隣の部屋で寝ますが、何かあれば起こしてくれて結構です」
ホント、良い子だわ。
「悪いわね」
「いえいえ、お食事は部屋で食べて構わないそうなので後で持ってきます。私は空港に行ってチケットを買いますので」
「マリア、悪いのだけど……」
リーシャが言いにくそうにマリアを見る。
「わかってます! 私にお任せを! 御二人のチケットも買ってきます!」
ホント、べんり…………良い子だわ。
「お願いねー」
「よろしく」
「はい!」
マリアは元気よく返事をすると、部屋から出ていった。
「さて、ここまでは上手くいったわね」
マリアが部屋から出ると、リーシャが真っ黒な顔で笑う。
「そうだな」
「これからどうするの? このままだと、教国に行っちゃうわよ」
「あそこはマズい。下手をすると、こっちの情報が伝わり、強制送還もありうる」
教会は世界中の国にあるため、ネットワークが強い。
そのため、俺達の放火アンド逃走がバレる可能性が高い。
「じゃあ、当初の予定通りにハイジャックね。飛空艇に乗ったらジャックして、別のところに行きましょう」
「そうだな」
マリアがいてくれて助かったわ。
「しかし、マリアに悪いわね…………せっかく教国で出世だっていうのに」
一応、下水にも友人への罪悪感はあるらしい。
「そうでもない」
「ん? なんで? エリートじゃないの」
リーシャが意外そうな顔をする。
「これは死んだ母上から聞いた話だがな、教国への修行には2種類あるらしい」
母方の実家があるウォルターは教国から割かし近いため、情報が入ってきやすいのだ。
「2種類?」
「一つは本当の意味でのエリート。つまり、幹部候補だな。もう一つは使い捨て」
「つ、使い捨てって?」
「そのまんま。ずっと働かせっぱなし」
修行といえば、喜んで働いてくれる。
特に夢見る人間は……
「本当?」
「らしいぞ。あとは…………まあ、お前は知らなくていい」
女に言うことではない。
「それだけでわかったわ」
まあ、生臭坊主共だもん。
「遠方の国の貧乏男爵の娘はどっちだと思う?」
「使い捨ての奴隷」
奴隷とは言ってないが、まあ、似たようなものだろう。
「お前さ、変だと思わなかったか?」
「あなたにこの話を聞かされて気が付いた。護衛が御者一人っていうのはない」
そう、大出世だというのにマリアには護衛が御者しかいなかった。
確かに王都周辺は野盗もモンスターも少ないが、絶対に出ないというわけではない。
それなのに護衛は1人。
しかも、男。
普通、貴族令嬢には女性をつけるものだ。
「アウトだろ」
どう考えても教会はマリアを重視していない。
「そうね…………なんで教えてあげなかったの?」
「言えるわけないだろ」
「それもそうね…………あのキラキラした目が怖い」
純粋な子は怖いわ。
「マリアは貧乏男爵の子とはいえ、ウチの貴族だ。ゴミとして教会にくれてやるわけにはいかない」
これが本当の出世なら俺も喜んで送ってやるし、祝福もしよう。
だが、奴隷はない。
「じゃあ、マリアも連れていく?」
「そうなるな……ウォルターについたら伯父上に頼めばいい」
この国に帰りたいなら帰してもいいし、マリアが望むならウォルターに仕えてもいい。
あいつの回復魔法の実力ならどうとでもなる。
「わかったわ。マリアには悪いけど、そこまでは付き合ってもらいましょう」
「ああ、それよりもハイジャックの計画を練るぞ」
俺がそう言うと、リーシャが顔を近づけてくる。
「そうね。どうするの?」
「確実なのは船に乗り込んだら俺の睡眠魔法で乗員乗客を眠らせて外に出す。それで俺が運転する」
「魔力は持つ?」
「大丈夫だ」
「じゃあ、それでいきましょう」
俺とリーシャはその後も細かなハイジャック計画を練っていく。
そうしていると、マリアが食事を持って戻ってきた。
俺達はマリアが食事を持ってきたので話をやめ、夕食を食べることにした。
そして、3人で昔話に花を咲かせながら夕食を食べ終えると、早めに休むことにする。
「あ、あの、殿下、リーシャ様、ここは壁が薄いので気を付けてください」
マリアは顔を赤らめてそう言うと、さっさと自室に戻っていった。
「どういう意味?」
リーシャが聞いてくる。
「お前、そこの壁を殴ってみろ」
リーシャが首を傾げながら壁を殴ると、壁の向こうから『痛っ』というマリアの声がした。
「あー……そういう意味。相変わらず、こういう色恋が好きな子ね」
リーシャはようやくわかったようだ。
「魔力を回復させないといけないから寝るぞ」
俺はそう言って、自分のベッドに入る。
「私も足が痛いわ」
リーシャも自分のベッドに入った。
「やっすいベッドだなー」
「ホントよね」
俺達はわがままを言いつつも疲れたので寝ることにした。
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