第021話 順調な旅路


 俺は暑苦しさで目が覚めた。

 テントの入口から光が少し入ってきており、もう日が出ていることがわかる。


 俺はリーシャを引きはがし、上半身を起こすと、マリアを見る。

 マリアは幸せそうにリーシャに抱き着いて寝ていた。


 よし! マリアが泣いてないし、今日の朝は平和だ!


 俺は今日は熊が出なかったなーと思いながら寝ている2人を放っておいて、テントを出た。

 テントを出ると、ジャックが焚火の前に座っていたので俺も焚火のところに行き、腰かける。


「おはよう。よく眠れたか?」

「寝た。昨日よりかは何倍もマシだからな」

「だろうな」


 ジャックがくっくっくと笑う。


「腹が減ってないか?」

「減った。携帯食料って美味いけど、量がないな」

「そうなんだ。だからあれに頼りすぎるな。実は腹持ちする携帯食料もあるんだが、お前さん達には無理だ。俺ですら水で流し込むレベルの不味さだ」


 無理だな。

 マリアですら無理だろう。


「やはり獲物を獲るべきか?」

「ああ、そうだ。見ろ」


 ジャックはそう言うと、うさぎを持って、見せてくる。


「うさぎじゃん。よく獲れたな」

「寝る前に罠を張るんだよ。運が良ければ朝にはかかっている」


 へー。

 冒険者の知恵ってやつかね。


「罠も売ってんの?」

「売ってる。俺は自分で作るが、お前らは買え。絶対に失敗するからな」


 だろうよ。

 いや、そういう魔術を作るか?

 …………まあ、余裕ができてからだな。


「金がかかるなー」

「大した額じゃない。それよりも嵩張るのが問題だ。お前らの最大の弱点はそこになる。荷物持ちがいない」


 マリアもリーシャも無理。

 俺しかいない。


「考えておくわ……」


 やはり空間魔法を覚える必要がある。


「そうしろ。嫁さん達を起こしな。うさぎは美味いぞ」


 それは知ってる。


 俺はジャックが準備を始めたので立ち上がると、テントに戻り、2人を起こした。

 そして、朝食のうさぎ肉を食べ、準備を終えると、リリスの町に向けて出発する。


 この日もトラブルもモンスターに遭遇することもなく、進んでいった。


「…………この辺だな」


 昼を跨ぐくらいでジャックがふいに足を止め、つぶやいた。


「ん-? 昼飯か?」

「違う…………いや、昼飯でもいいか。ほれ、やるよ」


 ジャックはそう言って、携帯食料を配る。


「悪いな」

「ありがと」

「感謝ですー」


 俺らはそれぞれお礼を言う。


「気にするな。儲けが出るって信じているからよ。じゃあ、ここでお別れだ」


 ジャックはそう言うと、カバンを背負った。


「ん? ここでか?」

「ああ、別の仕事だ」

「そうか」


 まあ、仕方がないか。


「よーわからんが、頑張れよ」

「それは絶対に俺のセリフだよ」


 ジャックが苦笑した。


「まあな。ここまで助かった。この恩はいつか報いよう」


 俺は代表して礼を言う。


「その言葉、忘れるなよ…………じゃあな。このまままっすぐ行けば、リリスだ。この辺から他の冒険者や旅人とすれ違うこともあるだろうが、トラブルはやめな。自分達の立場を忘れるな」

「極力、そうする。向こうからのトラブルは消し炭にするが」

「それでいい。冒険者は舐められたらダメだ。まあ、冒険者に限らんがね」


 ジャックはくっくっくと笑うと、来た道を引き返していった。


「ここまでついてきてくれただけですね」


 来た道を引き返すっていうことはそうだろう。


「主とやらに感謝しな」

「いや、普通にジャックさんに感謝ですよ」


 まあな。


 俺達はジャックにもらった携帯食料を食べると、出発し、リリスを目指した。

 ジャックが言うように俺達が歩いていると、人とすれ違うことが多くなってくる。

 冒険者らしき者、商人らしき者といった様々な人が歩いており、中には馬車も見かけるようになった。


「そろそろって感じかしら?」

「だと思う。軽装の冒険者もいたし、近いだろう」


 軽装ということは泊まりではないということだ。


「殿下、リーシャ様。くれぐれもトラブルはやめてくださいね」


 マリアが俺とリーシャに注意する。


「俺らがトラブルを招くのが先か、マリアがトラブルに巻き込まれるのが先か…………」

「うーん…………」

「ひどい!」


 マリアが心外だという顔をする。


「だってねー……」

「昔から貧乏くじを引くのはマリアだろ」

「貧乏くじ……」


 マリアは俺とリーシャを見比べた後、俺をじーっと見る。


「…………何が言いたい?」

「いえ、私は忠実な臣下なので不敬なことは言いません」


 言ってるぞ。

 誰が貧乏くじだ。


「殿下は貧乏くじではございませんわ。わたくしが選んだんです。そして、わたくしという最高の当たりくじを引いたのだから当然です」


 リーシャが手で髪を払いながらお嬢様口調で言う。


「…………こいつ、なんでいつもこんなに自信満々なんだ?」

「…………ご自分で絶世を名乗るくらいですし」


 本当に当たりくじか?

 絶世のリーシャだが、下水のリーシャでもあるだろ。


「何か?」


 リーシャが真顔で俺を見てきた。


「いや、別に。口調を直せ。あと、マリアもここからは呼び方に気を付けろ」

「わかってるわよ」

「大丈夫です」


 少し心配だが、まあ、大丈夫か。


「じゃあ、行こう。久しぶりの都会だぞ」

「そうね。贅沢をする気はないけど、ワインが飲みたいわ」

「地獄からの生還パーティーです!」


 まあ、ワインくらいならいいか。


 俺達はその後も歩き続けると、夕方にはリリスの町に到着したのだった。


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