第195話 人族✕獣人族✕エルフ
エルフの集落に来てみたらかつて、アムールで共にマリアや奴隷となった獣人族を救ったヒルダとベンとティーナがいた。
「お前ら、知り合いか?」
ヴィリーが意外そうな顔で聞いてくる。
「俺達はこいつらを救った救世主なんだ」
「利用した黒魔術師の間違いじゃろ! 妾の妹にグロテスクなものを見せたらしいな? おかげでジュリーは数日、飯も食えんかったぞ」
俺が奴隷商を黒焦げにしたやつかな?
それで怒ってんのかね?
「あの程度でか? 情けないなガキだな。というか、それ、船酔いのせいだろ」
こいつらも船で逃げたはずだ。
「あー、相変わらず、ムカつく奴じゃ」
図星っぽいな……
「ティーナ、お前らは無事に逃げられたんだな?」
俺はヒステリーを起こすお姫様を放っておき、ティーナに聞く。
「ええ、おかげさまで国に帰れたわ」
ティーナは明るい表情で頷いた。
「ララは元気か?」
「元気よ。なんか剣を振ってる」
冒険者にでもなる気かね?
「それは良かった。まあ、立ち話もなんだから中で話そう」
俺は出入口の前で睨んでいるヒルダをどかすと、中に入った。
すると、リーシャとマリアも続く。
建物の中にはテーブルについているエルフの女がいた。
「ヴィリー、こいつは?」
誰、こいつ?
「カサンドラ。ラウラの母親だ」
え!?
どう見ても俺らと変わらない年齢なんだけど……
「ラウラの変装のせいで脳が混乱するな……」
ラウラの方が年上の感覚になる。
「お前達はラウラを知っているのか?」
カサンドラが聞いてくる。
「カサンドラ、その件で話があるんだ。この者達がラウラの髪を持ってきた」
ヴィリーはカサンドラに近づきながら説明した。
「ラウラの……そんな…………死んだのか?」
カサンドラは悲しそうに俯いたが、すぐに顔を上げ、聞いてくる。
「いつかは死ぬと思う」
「ん?」
カサンドラが首を傾げる。
「生前葬だってさ。もう絶対に帰らないって」
俺はそう言いながらカバンからラウラの髪を取り出し、呆けているカサンドラに渡した。
カサンドラは髪を受け取ると、じーっと見た後に顔を上げ、首を傾げる。
「どういうこと?」
「お前らのことが嫌いだって。そういうわけで用件は済んだ。ケアラルの花を採りに行くから氷の洞窟の場所を教えてくれ」
「いや、すまん。まったく話がわからんのだが?」
いいから教えろや。
「ちょっと待て。そんなもんは後にしろ。妾達が先にカサンドラ殿と話しておったんじゃ! 出てけ」
ヒルダが建物に入ってくると、俺を引っ張ってくる。
「お前らの話は長いだろ。俺達はすぐだ」
「やかましいわ! おぬしは自己中すぎるじゃろ!」
「お互い様だ、バカギツネ」
「なんじゃと!」
ヒルダがキツネ耳を上げ、怒った。
「まあまあ。一回、落ち着こうじゃないか」
ジャックが俺とヒルダの間に入ってくる。
「俺は落ち着いているぞ」
「わかったから。一回、整理しようぜ」
そうするか……
俺はテーブルから椅子を引くと、座る。
すると、リーシャとマリアも座った。
「ほら、キツネの嬢ちゃんも座って」
ジャックがヒルダに座るように促す。
「誰じゃ、おぬし?」
「俺はジャックっていう冒険者だよ」
「ジャック?」
ヒルダが首を傾げた。
「お前、Aランク冒険者のジャック・ヤッホイを知らんのか?」
「え? ジャック・ヤッホイ…………あ、あの、握手してほしいのじゃ!」
知ってたっぽい。
「はいはい」
ジャックが手を伸ばすと、ヒルダは手を取り、ぶんぶんと振る。
「本を読んでます! 頑張ってください!」
「ありがとよ。ほら、座って、座って」
ジャックがそう言うと、ヒルダは大人しく、席についた。
すると、ベンとティーナがヒルダの後ろに控える。
「ジャックじゃぞ、ジャック! ヤッホイ冒険記じゃ!」
「良かったですね」
「あとでサインでももらいましょうか」
ベンとティーナが興奮するヒルダを見て、微笑ましそうに頷いた。
「よくわからんが、話を続けよう。ヒルダ殿、すまんが少し待ってくれ」
いまいち状況を把握していないカサンドラはヒルダを見る。
「……まあ、いいじゃろ」
ヒルダは渋々、頷いた。
「まずは自己紹介をしよう。私はこの集落の代表を務めているカサンドラだ。そして、ラウラの母親でもある」
ラウラって代表の娘だったんか……
「俺はエーデルタルト王国の第一王子であるロイド・ロンズデールだ。そして、俺の妻であるリーシャとマリア。ジャックは先ほども言った通り、Aランク冒険者になる」
「エーデルタルトの王子か……何故、遠方の国の王子がここに?」
カサンドラが頭を押さえながら聞いてくる。
「ケアラルの花を採りにきた」
「先程も聞いたな。ケアラルの花は魔障なんかの治療に使われる。誰かが呪いでももらったか?」
「ウォルターの王が呪いを受けている。俺はエーデルタルトの王子だが、母親は同盟国であるウォルターの王族だ。ウォルター王は俺の伯父に当たる」
「なるほど…………わかってきた。その呪いを診て、治療薬であるケアラルの花がここの氷の洞窟にあるって教えたのがラウラだな?」
さすがにわかるか……
キツネと違って、バカじゃないらしい。
「そういうことだ。ラウラはここに戻る気がないから代わりに髪をもらって、ここに来た。もう帰らないから親に渡してくれってさ」
「あのバカ…………」
カサンドラは頭が痛そうだ。
薬でも飲みな。
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