第196話 同盟?


「ラウラから髪を持っていけば、客とみなされる聞いてな。言っておくが、強制的に切ったわけではないぞ。ラウラの提案だ。というか、勝手に切った」

「ああ、わかった…………とりあえずは礼を言おう。しかし、お前達はラウラとどういう関係なんだ?」

「助けてやった恩人だな」

「嘘くさいな……」


 本当なのに。


「じゃあ、エイミルから一緒にウォルターまで行った仲間とでも思ってくれ。あ、でも、ジャックは正真正銘のラウラの仲間だぞ。元だけど……」

「ジャック殿の? あいつ、冒険者になったのか……ジャック殿、娘が世話になった」


 カサンドラがジャックに向かって、頭を下げる。


「いやー、大変だったぜ? でも、それ以上に助けてもらったし、苦楽を共にした仲間さ。だから礼はいらない」

「さそ、迷惑をかけただろうな」

「それ以上に面白かったぜ。あいつ、すぐ泣くし、ドジだからな。自分は森で育ったからこのくらい食べられるって毒キノコを食って、腹を抱えて唸ってた時は本当に笑えたぜ」


 ジャックがそう言って笑うと、カサンドラが天を仰いだ。


 あいつ、昔は本当にアホだったんだな……


「ふぅ……元って言ってたな? もう仲間じゃないのか?」

「あいつは腰をやってしまってな。冒険者を引退した。でも、Aランクだったんだぜ?」


 厳密に言うと、引退はしてないけどな。

 Bランクだし。


「あの子がAランクか…………ジャック殿、すまんが、後で手紙を書くからラウラに渡してほしい」

「それは殿下に頼んでくれ」

「わかった。ロイド殿、頼む」


 カサンドラが俺を見る。


「いいぞ。その代わり、ケアラルの花をくれ」

「勝手に採りに行ってくれ。誰かに案内させよう」


 やったぜ。


「どうも。それでお前らはなんでここにいるんだ? まーた、誰かが奴隷狩りにでも捕まったか?」


 俺はカサンドラへの用件が済んだため、ヒルダ達を見る。


「うるさいのう。別に捕まっておらんわ。協力しないかと提案しに来ただけじゃ」

「良いと思うぞ。お前らは魔法が使えないもんな」

「そういうことじゃ。わかったならさっさとケアラルの花とやらを採りに行け」


 ヒルダがしっしっと手で払ってきた。


「久しぶりに会ったのに冷たいなー。なあ、ベン、ティーナ?」


 俺は立っている2人を見る。


「まあ……」

「一応、恩人? 恩人? 恩人……になるしね」


 あれだけ助けてやったのに恩を感じない奴らだわ。


「お前らって、要は同盟を要請しに来たわけだろ? メルヴィンはどうした?」


 一番話せるのはあいつだろ。


「メルヴィンは留守番じゃ。他にも仕事があるからな」

「ふーん、しかし、同盟ねー…………まあ、ここならお前らの国からも近いし、いいかもなー」

「…………何故、妾達の国がここから近いことを知っておる?」


 相変わらずだなー。


「そういうところだぞ」

「どういうことじゃ?」

「…………ヒルダ様、カマかけです」


 ベンが耳打ちをし、教える。

 すると、ヒルダが悔しそうな顔で睨んできた。


「大丈夫だって。お前らだけでここにいる時点で近いのは最初からわかってたから。ただの確認」

「妾はおぬしのことが大嫌いじゃ」


 よく言われるわ、それ。


「あっそ。ここから近いってことはウォルターからも近いのか…………ララに会いにいってみようかねー」

「不審な船はすぐに沈めてやるわ」


 物騒だなー。


「まあいいや。同盟の理由は奴隷狩りだな? ベン、お前、この森に来るまでに奴隷狩りを斬り殺したか?」

「ああ。襲ってきた奴がいてな」


 あの死体はベンがやったわけだ。


「お前らは奴隷狩りに好かれるなー」

「好かれたくはないがな」

「だろうな。カサンドラ、同盟を結ぶのか?」


 こうなったらもうちょっと聞いてやろう。


「そのつもりだ。獣人族は人族と違って、信用できるからな」


 単純だもんな。


「ふーん……人族の中には誠実な奴もいると思うけどな」

「残念ながらそういう奴らを見たことがないな」


 カサンドラがそう言うと、マリアが自分の顔を指差す。


「マリア、賄賂まみれのお前は誠実じゃない」

「あなたは黒いでしょ」

「どす黒い2人にそう言われると泣きそうです……」


 ほら、黒い。


「詳細はこれからか?」

「そうなる」


 カサンドラが頷く。


「じゃあ、これ以上は邪魔しちゃ悪いな」

「今日は泊まって、氷の洞窟には明日の朝に行くといい。ヴィリー、頼む」

「わかった。こっちに来てくれ」


 ヴィリーは頷くと、建物から出ようとする。


「あ、俺はちょっと森の浅いところを見てくるわ。奴隷狩りが気になる」


 ジャックがそう言いながら手を上げた。


「来ると思うか?」


 ジャックがそう言うってことはそうなんだろうな……


「わからんが、来るとしたらそう時間はかけないと思う。以前に1人、そして、犬族の兄ちゃんが殺して、さらに1人失っている。そもそも奴隷狩りなんて裏商売をする奴らは同じところに長くは留まらない」


 犯罪者だもんな。


「ジャック殿、頼む」


 話を聞いていたカサンドラがジャックにお願いをする。


「あいよ。そういうわけだからお前さん達は先に休んでな」

「無理すんなよー。歳なんだから」

「わかってるよ」


 ジャックは苦笑しながら建物から出ていった。


「うーむ、かっこいい……ベテランの冒険者って感じじゃな。お抱えにしたいから父上に相談してみようかな……」


 ヒルダが悩み始めた。


「悪いが、先に俺がもらった」

「おぬし、ことごとく妾の邪魔をするのう……何か恨みでもあるのか?」

「お前らが素直に船に乗せてくれていたら俺達は漂流しなかったわ」

「…………漂流? バカはおぬしじゃろ」


 ちょっと錨を下ろすのを忘れただけだ。

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