第197話 10歳から4歳へ
俺達は建物から出ると、ヴィリーに案内され、近くの建物に連れてこられた。
建物の中はベッドとテーブルがある程度で豪華とは言えるものではない。
「すまんが、ここにはこれくらいしかない。王族には厳しいかもしれんが、俺達の生活はこれなんだ」
「別になんでもいいぞ。ベッドがあるだけテントよりかはマシだ」
最初から期待してないし。
だって、森の中だもん。
「そうか……食事はどうする? 質素なものになるが、用意できるんだが……」
「くれ。エルフが食べている料理が気になる」
草かな?
あ、でも、婆さんは普通に何でも食ってたな。
「わかった。夕食時に持ってくる。それとすまんが、あまり出歩かないでくれ。中には人族を怖がる者もいる」
「はいはい。了解。酒はないか?」
「果実酒かはちみつ酒でならある」
おー! 良さそう。
「持ってきてくれ。飲んでみたい」
「わかった」
ヴィリーはそう言って出ていくと、すぐに果実酒とはちみつ酒を持ってきてくれた。
「好きなだけ飲んでくれ。数だけはある」
「ありがとよ。代わりにワインをやろう」
俺はカバンからワインを取り出し、ヴィリーに渡す。
「悪いな。森の生活は好きだが、外部の物が手に入りにくいのが難点なんだ」
「商人でも呼べば? 売れそうなもんがいっぱいあるわけだし、金になるなら商人はいくらでも来るぞ」
質の良い薬草にしてもこの酒にしても売れそうだ。
「さあな。外の者を嫌がる者が多いんだ」
多分だが、ラウラはこの排他的というか閉鎖的な世界が嫌で森を出たんだろうな。
「まあ、お前らはお前らの生き方をしろよ」
「そうだな。ワイン、ありがとう。皆で飲むよ」
ヴィリーはそう言って、出ていった。
「なんかただの引きこもりに見えてきたな」
「そんな感じよね。傲慢というより、世界を知らないだけ」
俺とリーシャが頷きあっていると、マリアが部屋に備え付けてあったコップを持ってきて、はちみつ酒を入れてくれる。
「私、はちみつが好きなんですよー」
マリアがそう言って、俺達の分にも注いでくれた。
「ありがとよ。飲んでみるか……」
「そうね」
俺ははちみつ酒を一口飲んでみた。
すると、口の中にはちみつの甘味が広がっていく。
「飲みやすいな、これ」
「うん、そうね」
「美味しいですー」
俺達が酒を飲み始めると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「んー? 誰だー?」
「私、私! 入ってもいい?」
この声はティーナだ。
「勝手に入れー」
俺がそう言うと、ティーナとベンが部屋に入ってくる。
「ほら、部屋の作りは一緒だって」
「そうだな……」
ティーナとベンは部屋を見渡しながら頷き合う。
「なんだよ」
「あ、ごめん。あなた達の部屋は豪華なのかなって思って」
こいつらの部屋もこんな感じなわけね。
「そんなもんがこの森にあるわけないだろ。ヒルダはどうした?」
「ヒルダ様はカサンドラさんと話している」
「あいつに任せて、大丈夫か?」
「この話は事前にある程度進んでいるのよ。今日は最終調整だし、ヒルダ様でも問題ない」
だからメルヴィンがいなかったのか。
あと、ヒルダ様でもって……
「お前らもちゃんと人族への対策を考えているんだなー」
「そりゃそうでしょ。ところで何を飲んでいるの?」
ティーナが俺達が飲んでいるはちみつ酒を指差す。
「ヴィリーからもらったはちみつ酒。飲むか?」
「ちょうだい、ちょうだい」
「勝手に飲め」
ティーナは備え付けのコップを取ると、テーブルについた。
「ベン、お前も座れ」
「ああ。しかし、漂流ってどういうことだ?」
ベンもコップを取ると、座りながら聞いてくる。
「そのまんま。俺達はあの後、軍の魔導船を奪ったんだが、錨を下ろすのを忘れて漂流だ」
「よく生きてたな……」
「死ぬかと思ったが、知り合いに助けられた。おかげでギリスまで行ったわ」
「ギリス…………すごい南方の国だぞ」
遠かったわー。
「まあな。そこからなんとかエイミルに戻って、目的地であるウォルターに着いたわけだ。お前らは? アムールのギルマスから無事に終わったとは聞いているが……」
「俺達の方は問題ない。お前の着火の魔法とやらのせいで追手が来たが、返り討ちにした。夜では俺達が絶対的に有利だからな」
夜目が利いて、身体能力も高いからいくら騎兵でも勝てないか……
「そこから船に乗って、無事に国に帰ったわけだな? ヒスイだっけ?」
「そうだ。ああ、それとヒルダ様はあのように言っていたが、ジュリー様はそんなに気にしておられんぞ。最後の方はざまあみろって言ってたし」
まあ、自分を売ろうとした商人が死んだら嬉しいわな。
「ヒルダが俺を嫌っているのは騙されたからかね?」
「だと思う。悔しかったんだと思うな。あれから必死に勉強をされている」
プライドが高そうだもんなー。
まあ、王族だから当たり前だけど。
「頑張ってくれ」
うんうん。
俺も心を鬼にした甲斐があったわ。
「あ、そうだ。ロイドに悪いんだけどさ、あなた、10歳好きの王子様って定着しちゃった」
ティーナがとんでもないことを言う。
「あの金貨20枚の安物共のせいか?」
「う、うん。30枚だけどね。いや、その、値段で呼ぶのをやめようよ……」
もうやめない。
「あいつらは恩知らずなのか?」
「いやさー、帰りの船の中でねー、半分冗談でロリコンだのなんだの言ってたんだけど、ララが否定したわけよ」
いい子だ。
さすがは金貨30枚。
「本人が否定したならそう思えよ。実際、あんなガキに欲情せんぞ」
「まあ、ララも恩を感じていたんでしょうね。それはそれは必死に否定したのよ」
…………それ、逆効果では?
「えー……」
「そうやってたらガチっぽくなっちゃった。ごめんね」
ヒスイの国に行くのはやめておくか……
「まあいいや」
「おや? さすがは王子様。心がお広い」
ティーナが茶化すように言う。
「俺、今は4歳の子に求婚した男になっているんだ」
「…………はい?」
「…………ん?」
さすがにティーナもベンも目が点になった。
「そのまんま。しかも、従妹だ」
「えーっと……どういうこと?」
ティーナがリーシャとマリアを見る。
「わたくしは知りませんわ。殿下がお決めになることです」
「私はノーコメントです」
「えー……」
さて、飲むか……
頼みはシルヴィアだ。
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