第044話 別れてもさすがはジャック
俺はジャックの手紙を読み終えると、手紙をカバンにしまい、目の前の受付嬢を見た。
ジャックは背の高い受付嬢がギルドマスターと書いていた。
受付には4人の受付嬢がいるが、一番背の高い女は目の前のこいつだ。
「お前、ルシルか?」
俺は目の前に座っている受付嬢を見下ろし、確認する。
「はい。ルシルと申します。ジャックさんの手紙に書いてありましたか?」
まあ、普通に考えればそう思うだろう。
「ジャックからの助言だな。リリスの不備はお前から詫びをしてもらえ、だそうだ」
俺はそんな気はないが、ジャックがそう言っていた。
そういうことにしておこう。
「私ですか? ふふっ。どのようなお詫びをお求めで?」
ルシルの雰囲気が変わった。
先程までは丁寧だったのだが、急に妖艶さを醸し出したのだ。
確かに美人がそんな感じになれば、男としては感じるものがある。
だが、ものすごい殺気を横から感じる。
「やめろ、リーシャ。こんなのに惑わされるほど、女に餓えておらん。ルシルとか言ったな? くだらない冗談はやめろ。世の中には冗談がまったく通じない者もいるんだ」
「さようですか……しかし、こんなのはひどいですね」
「女連れの男をそんな目で見る時点でこんなのだ」
リーシャやマリアほどガチガチになれとは思わんが、節操というものがある。
「さようですか。それで? 侘びとは?」
「別にたいしたことではない。丁寧な仕事をしろということだな。まずは移籍の手続きだ」
丁寧だぞ。
ちゃんと意味わかってるか?
「それはもちろん致しますが、他には?」
「仕事はどんなのがある?」
門番曰く、リリスより少ないらしいが、どんなのがあるのだろうか?
「色々ございます。モンスターの討伐から素材採取など様々です」
「まずは海が見たいと思っているが、いい感じ仕事はないか?」
「海ですか?」
「あまり見る機会がなくてな」
これは本当。
海なんかに用はないし。
「でしたら漁師の手伝いや荷物の運搬などがございます」
「めんどうだ。もっと楽なのがいい」
そんなハードな仕事をしていたら調査ができない。
「そう言われましても……」
ルシルが困った顔をする。
「海を見るついでにやるだけだ」
「でしたら港のゴミ拾いでもなさいますか?」
なんで俺がそんなことをしないといけないのだとも思うが、これはいいかもしれん。
「それでいい」
「え? 本当にですか? 報酬は銀貨1枚ですけど」
安いなー。
はした金もいいところだ。
「別に報酬は期待していない。今日来たばかりだし、いきなりハードな仕事をする気がないだけだ。海を見るのと町の探索ついでだな」
「さようですか……では、お願いします」
「あ、明日からにする。リリスから歩いてきたから疲れた。今日は早めに宿で休むことにする」
「ハ、ハァ? でしたら明日はギルドに寄らずにそのまま港に行って構いません」
そうするか……
朝は冒険者が多いだろうし、隣の感じを見ると、民度はお察しだ。
「なあ、ここは隣が酒場なのか? うるさいぞ」
俺はいまだに隣で騒いでいる連中を見る。
「ですね…………元は別だったんですが、儲かるかなと思って、居抜いたんです。実際、儲かっていますが、失敗でした」
うるさいもんなー。
「まだ昼間なのにどんちゃん騒ぎだな」
「ええ、普段はそこまでうるさくないのですが、今は仕方がないのです」
「今は? 祭りでもあるのか?」
「まあ、お祭りですかね? もうすぐで奴隷市が開かれるんです」
まーた、奴隷か。
「それと冒険者が騒いでいることが関係しているのか?」
「あそこで騒いでいるのはこの町出身の冒険者ではありません。奴隷を買いにきた他所の冒険者です」
なるほどね。
冒険者が奴隷を買うわけだ。
くだらん。
「あっそ。興味ないな」
「さようで? 色んな奴隷が市に出ますよ? 中にはとんでもない絶世の美女までいます」
「聞いたか?」
俺は半笑いでマリアを見る。
「聞きました。鼻で笑いそうです」
この世にウチの絶世を上回る者がいるものか。
「まったくだ。それで? そういうのを買うために冒険者が集まっているのか?」
「えーっと、はい。そうですね」
うーん……ということは宿が空いているかが微妙だな。
「宿って空いているか?」
「宿ですか? この時期は厳しいかと……」
「多少、高くても構わん。お前の力でなんとかできんか?」
俺は汚いカバンから金貨を1枚取り出し、受付に置く。
「そう言われましても…………」
足りないか?
めんどくさいな。
「侘びだよ、侘び」
俺はそう言いながらも金貨4枚を取り出し、受付に置いた。
「う-ん……では、ギルドが借りている部屋を特別にお貸ししましょうか……」
「ギルドが借りている? そんなのがあるのか?」
「こういう時みたいに宿屋が空いていない場合があります。そんな時にAランク冒険者が来たら大変でしょう? 下手をすると、二度とこの町に来てもらえなくなる可能性もあります。そういう時のためにギルドがあらかじめ、一部屋、二部屋は貸し切っているのです」
Aランクって優遇されているんだなー。
「俺達はAランクではないぞ」
Eランクだ。
初心者に毛の生えたクラス。
「ジャックさんの紹介ということで」
なるほどね。
ジャックは紛れもない伝説のAランクだもんな。
「じゃあ、それでいい。その宿はいくらだ?」
「お代は結構です。これは経費ですので」
「そうか…………」
俺はラッキーと思いながら受付に置いた金貨5枚に手を伸ばす。
すると、ルシルは俺が金貨に触れる前にサッと金貨を回収した。
「…………まあ、チップにしとくか」
意地汚いと思わんでもないが、一度出した金を回収するのも俺の品位が問われるというものだ。
「お部屋は3人部屋ですのでちょうど良いかと思います」
「ぼろくないだろうな?」
「Aランク冒険者用ですよ? ありえません」
金貨5枚で良い宿に泊まれると思えば、それでいいな。
「風呂は付いてるか? ウチの者は綺麗好きなんだ」
「もちろん、付いております。というよりも、この町はどうしても海に面しているということがありまして、潮風の問題があります。ですので大抵の宿には付いていますね」
お国柄というか、この地域独特なものか。
「なら、結構。そこに行ってくる。場所はどこだ?」
「ギルドを出て、右にまっすぐ進んでください。そうすると、市場に着きますのでそこを左に曲がったところです。イルカの看板が目印ですね。宿屋に着いたら私の名前を出してくだされば大丈夫です」
イルカねー……
さすがは港町だな。
「わかった。では、今日はそこで休んで明日、ゴミ拾いをする。身体の調子次第では明後日にはちゃんと仕事をすると思うから楽に儲けられる仕事を用意しておけ」
「楽に儲けられる仕事って…………そんな簡単に言われても困ります」
まあ、そうだろうな。
「ブレッドは用意してくれたよな?」
俺はリーシャとマリアに聞く。
「ですね。色々な仕事を見繕ってもらいました」
「使える男だったわね」
「本当にな。さすがはリリスのギルドだ」
うんうん。
「くっ! わかりました。こちらも見繕っておきましょう」
対抗意識が強いね。
「そうしてくれ。では、俺達は行く」
俺達は話を終えると、酔っ払いでうるさいギルドをあとにした。
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