第043話 手紙


 俺達が検問を抜け、周囲を見渡す。


「まあ、普通だな」


 街並み自体はリリスとそうは変わらない。


「ロイド、調査や仕事は明日にして、今日は休みましょうよ」


 リーシャが上機嫌な声色で提案してくる。


「まあ、そうだな…………どうした? えらく機嫌が良いな」

「別にぃー」


 なんかうざいな……


「…………殿下が自分以外には見せたくないって言ったからですよー」


 マリアが小声で教えてくれる。


「嬉しいか?」

「そりゃ嬉しいですよ。それだけ愛しているってことですから。羨ましい限りです」


 こいつら、ホント、重いな……

 逆の立場だったら普通に嫌なんだが……


「箱に入れられた生活の何がいいかわからん」

「ロイドさん、だいぶ冒険者生活に毒されてますねー。私達って、普通にそうじゃないですか」


 そういや、王族と貴族は箱入りだったわ。

 とはいえ、俺は魔法で誤魔化して、こっそり街に出まくってたからなー。


「まあいいや。ギルドに行くぞ。移籍の手続きのついでに宿屋の情報でも仕入れよう」

「ギルド、ギルド…………あ、そこにあります」


 マリアがキョロキョロと建物を見渡すと、ギルドを発見したらしく、指を差す。

 マリアが指差した方には確かに剣が交差する看板が立てかけられた建物が見えていた。


「本当に門の近くにあるんだな」

「わかりやすくていいですね」


 ここなら外の依頼から帰ってすぐだし、便利そうだ。


「だな。よし、行ってみよう」


 俺達はすぐそばにあるギルドに向かい、扉を開ける。

 扉を開けると、複数のベンチが並んでおり、その先には受付があった。

 受付には4人の女性が座っており、やっぱり皆美人だった。

 なお、昼間ということもあって、他の客はいない。


「うーん、ベテランがいない……」


 前にジャックからベテランにしろというアドバイスを受けていたが、そういった人物は見当たらない。

 受付に座っているのは皆、妙齢の女性なのだ。


「どうします?」


 マリアが聞いてくる。


「誰でもいいだろ」


 俺はどれも一緒だろうと思い、受付に近づく。

 すると、急に右方向からワッという歓声が沸いた。


 俺は何だろうと思い、右を見ると、どうやらこのギルドは隣接する酒場と繋がっていたようで隣の酒場にいる団体の冒険者が酒を飲んで騒いでいた。


「昼間からうるさいわねー」

「お仕事じゃないんですかね?」

「無視しろ。俺達には縁のない奴らだ」


 これだから荒くれ者は……


 俺達は酒場の方を見ないようにし、受付に向かった。


「移籍の手続きをしたい」


 俺は一番の背の高い受付嬢に声をかけた。

 受付嬢は近くで見ても美人であり、身だしなみもしっかりしている。


「はい。では、冒険者カードの提出をお願いします」


 俺達は受付嬢に冒険者カードを渡す。

 すると、受付嬢が俺達の冒険者カードの裏面を見た。


「ロイド様、リーシャ様、マリア様ですね。もしかして、リリスから来られたんでしょうか?」


 ん?


「そうだが…………」


 なんで知っている?


「やはりそうですか……リリスのブレッドより伺っているのですが、ギルドに不備があり、リリスでは大変失礼を働いたそうで…………ギルドを代表して謝罪致します」


 不備? 失礼?

 そんなことあったか?

 めちゃくちゃ助かったんだが……

 もしかして、領主とグルだったことか?


「そうか。特に気にしていないが、謝罪は受け取ろう」


 領主とグルなことはどうでもいいが、謝罪をしたということはこっちが有利になったということだ。


「はい、大変失礼しました。今後はあのようなことがないように努めたいと思います」


 あのようなことって、この女も事情を知っているんだろうか?

 マズくないか?


「そうしてくれ」

「はい。それと、ジャック・ヤッホイ様からお手紙を預かっております。どうぞ」


 受付嬢が受付に手紙を置く。


「手紙ねー……」


 俺は手紙を手に取ると、封を開け、手紙を読んでみる。

 リーシャとマリアも横から覗いてきた。


【お前さん達がこれを読んでいる頃には俺はもうこの世にいないと思う…………すまん。冗談だ。とはいえ、お前さん達のそばにはいないだろう。そして、お前さん達は無事、アムールに着いたと思う。この手紙を書いているのはリリスの領主との話を終え、お前さん達を門で待たせている間に書いている。俺はこれからこの手紙をブレッドに託すと同時にブレッドに協力を依頼する。要はお前らがアムールで失敗しないようにアムールのギルドに頼むことだ。まず、説明をしていなかったことを書く。ギルドは国とは何の関係もない組織だ。だからお前らがどういう国のどういう立場なのかは一切関与しない。また、それを国や領主に漏らすことはない。ブレッドの場合は特殊だったのだ。説明すると、長くなるから書かないが、ブレッドもお前さん達を害する意思はなかった。実際、お前らは儲かったし良くしてもらっただろう? とにかく、ギルドはお前達の敵ではない。とりあえず、リリスのギルドの不備でお前達に迷惑をかけたということにするからそれを利用して良い仕事や宿を紹介してもらえ。あと、そこのギルドで注意すべきことを書く。背の高い女が受付に座っていると思うが、そいつはそこのギルドのギルドマスターだ。名前はルシル。頼るならそいつだが、鼻の下は伸ばすなよ。絶世の嬢ちゃんが斬りかかるかもしれん。じゃあ、門で待っているお前さん達を待たせたら悪いからこの辺にする。頑張れ。 P.S俺は領主からお前達を殺せと命じられたが、見破れるかな? 答えはこの手紙を読んだ時のお楽しみ。あ、実際に殺す気はないぞ】


 ふーん…………


「長いわね」

「よくあの短時間でこんなに書けましたね。さすがは作家さんです」

「まあ、とりあえず、見破りは成功したな」


 しかし、あいつ、あの時からここまで考えていたのか……

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