第042話 検問
俺達は出発の準備を終えると、ティーナとかいう逃亡奴隷と別れ、アムールの町に向けて出発した。
「大丈夫ですかねー?」
歩いていると、マリアが聞いてくる。
もちろん、さっきのティーナのことだろう。
「さあ? 獣人族というか、奴隷が冒険者になれるのかもわからんし、野垂れ死にかねー? といっても、どうしようもないしなー」
「上手く逃げれると良いんですけど」
どうかねー?
逃げるってといってもどこにって感じだし。
「良い人に拾われることを祈るだけだな」
俺らはそんなことしない。
そんな余裕もないし、義理もない。
まあ、そこそこかわいかったし、良いご主人様と出会ってくれ。
「そんなことより、アムールは奴隷売買があるってことよね?」
今度はリーシャが聞いてくる。
「だろうな。リリスの町では奴隷っぽい人間を見当たらなかったし、獣人族も見てない。アムールは港町だし、色んな商品が集まるんだろう」
飛空艇の登場により、輸送技術が格段に上がったが、いまだに海路による輸送は活発だ。
「マリア、気を付けなさいね。そういうところは治安が悪いものだし」
「殿下やリーシャ様から離れませんので大丈夫です」
「まあ、基本は3人で動きましょう」
それがいいな。
俺達はアムールの町では注意することに決め、歩き続ける。
そして、昼すぎには石造りの高い塀に囲まれた町が見えてきた。
「リリスよりかは小さいわね」
「だなー。とはいえ、そこそこの規模はありそうだし、貧乏宿しかないってことはないだろ」
雑魚寝宿なんか絶対に嫌だし、リーシャとマリアが発狂すると思う。
「あの列は何ですかね?」
マリアが町の門の前に並んでいる人達を指差す。
「町に入る前のチェックじゃない? ウチの王都にもあったでしょ」
「確かにありますけど、リリスにはなかったですよね?」
「領主の方針じゃないかしら? あの二流とは別の領地なわけだし」
リリスとアムールでは領主が違う。
「とりあえず、並ぶか。冒険者カードもあるし、大丈夫だろう。あ、リーシャはフードな」
「わかってるわよ」
リーシャはそう言って、めんどくさそうにフードを被った。
「美人も考えものですねー」
本来ならこんなに外には出ることがない人種だからなー。
「じゃあ、たいして目立たない俺らは普通に行こうぜ」
「いや、殿下だって怪しい魔術の研究をやめれば…………ふっ」
マリアが俺の顔を見た後に肩にかけている汚いカバンを見て、鼻で笑った。
やっぱり呪いのカバンだろ、これ……
俺はジェイミーと同じように見られるのは嫌だなーと思いながらも門の前に行き、列に並ぶ。
「毎回これなんですかね?」
「さあ? めんどいな」
モンスター退治の依頼とかあって、外に出た時にも毎回これなんだろうか?
俺は面倒だなと思いながら待っていると、次第に列が進みだし、俺達の番になった。
「ん? 見ない顔だな……」
門番が俺の顔を見て、首を傾げる。
「旅の冒険者だ。リリスから来た」
「リリス? なんでまたリリスからアムールに来たんだ? リリスの方が仕事は多いだろ」
いや、知らん。
「ここには海があるんだろ? それを見にきた」
「は? 海? なんでまた?」
「俺達は内陸の出身で海を知らん。リリスに寄った時にここを聞いたんだ。湖や川より大きいって本当か?」
もちろん、嘘である。
エーデルタルトにだって海はある。
「ハァ? 海を知らんってマジかよ……それでわざわざ見にきたってか?」
「お前は見慣れているからそう思うだけで俺達からしたら観光名所だ」
「ふーん、そんなもんかねー? ということは長居はしないのか?」
「旅の途中だからな。適当に仕事をしたらまた旅を再開する」
嘘は言っていない。
船を奪うが、旅はする。
「まあ、わかった。ここは海産物が名産だからそれも楽しむといい。冒険者カードを見せてくれ」
門番にそう言われたので俺達は冒険者カードを見せる。
「…………はい、確かに。あと、そこのフードを被った女は顔を見せてくれ」
えー、リーシャの顔を見せるの?
「俺の嫁なんだが、他の男に顔を見せたくないな」
「はい? どんだけ独占欲が強いんだよ……そんなに大事なら箱にでも入れておけ」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ…………実はな、今、ちょっとした事件があってこんな検問をしているんだ」
事件?
「普段はしていないのか?」
「ここは交易の町だぜ? 毎日、そんなことをしたら商人連中から大クレームだよ」
まあ、商人は時間を大事にするからな。
「何があったんだ?」
「実はよー、昨日の夜に奴隷の1人が逃げ出したらしいんだわ。しかも、大暴れで何人も負傷者を出した」
あいつじゃん。
「ふーん。だが、町に入る側の検問はいらんだろ」
逃げているのを追うなら出る人間だけを見ればいい。
「そうでもない。そいつは獣人族なんだが、他の獣人族の仲間が奴隷となっているからな。救出しに戻ってくるかもしれない」
「チッ! つまり、そいつのせいで俺達が足止めか?」
「そういうことだ。恨むならその奴隷を恨みな。俺だって、非番だったのに駆り出されたんだ。そういうわけで、一応、調べさせてくれ。顔だけでいい。獣人族じゃないとわかればいいんだ」
まあ、耳を見ればわかるもんな。
「リーシャ」
「仕方がないわね」
リーシャがそう言うと、フードを取り、顔を晒す。
すると、門番が息を呑んだのがわかった。
「ひゅー! これはすげー上玉だな。あんたが見せたくないっていう理由もわかるぜ」
「粉をかけたら殺すからな」
「ははっ! こえー、こえー。安心しろ。俺は既婚者だよ。そんなことをしたらウチの母ちゃんに殺されるわ。もういいぞ。行け」
門番が笑うと、リーシャがフードを被る。
「ギルドはどこだ?」
「入ってすぐだよ」
「わかった」
俺達が無事、検問を抜け、アムールの町に入ったのだった。
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