第168話 まーた船
川に近づくと、並んでいる船の全貌が見えてくる。
船は多くの大型船から小型船まであり、その光景は圧巻だ。
「多いわねー。でも、軍船はないわね」
リーシャが船を見渡しながら言う。
「アダムとウォルターは同盟国で交易が盛んなんだよ。だからここにあるほとんどの船が渡船だよ」
「あれに乗って行くの?」
「そうだね。一人当たり金貨1枚だけど、エイミル王から代金はもらっているからタダだよ」
おー!
太っ腹!
ん?
「お前、もしかして、エイミル王から護衛の仕事を受けてないか?」
「受けてるよ。経費別払いで金貨30枚だね」
なんでだろう?
感謝すべきなんだが、納得いかない。
「うーん……モヤモヤする」
「多分、前にお婆さんの護衛の仕事を受けた時とほぼ変わらないのにお婆さんだけがお金をもらっているからじゃない? 私も若干、モヤモヤする」
「それだ」
馬車に乗せてもらっているのだが、何か損をしている気分になるのだ。
「あんたら、本当にケチくさいね」
婆さんが呆れる。
「というより、人間が小さいんですよ。私のようにおおらかなにならないと」
マリアっておおらかかな?
ちょっと違うような……
「まあいいや。ラウラ、どれに乗るんだ?」
「小さいやつだよ」
えー。
「大きいのに乗ろうぜ」
「乗る意味ないだろ」
「大きい方がいいだろ。というか、小さい船に馬車が乗れるのか?」
小さい船ってボートとは言わんが、数人しか乗れそうにない。
「馬車はここに置いていくよ。どうせ数日で帰るし」
可哀想な馬さん。
お留守番だって。
「盗まれないか?」
「そういうサービスもあるんだよ。ほれ」
婆さんが向いた方向を見ると、多くの小屋が並んでおり、いくつかの馬車が収納されていた。
「ふーん」
「そういうわけで降りな。私は馬車を預けてくる」
俺達は婆さんにそう言われたので馬車から降りる。
すると、婆さんは馬車を預けるために小屋に向かった。
「船ですねー」
マリアが船を見る。
「遭難はせんから安心しろ」
「まあ、普通に対岸の陸地が見えてますしね」
この国境となっている川は大きいが、マリアが言うように対岸は見えている。
そして、対岸には高い壁も見えていた。
ウォルターの王都はこの川沿いにあるのだ。
「だな。あれがウォルターだ」
「懐かしい?」
リーシャが聞いてくる。
「まあなー。俺が最後にあそこに行ったのは留学してた時だから7、8年前だな」
「あの時は寂しかったわ」
リーシャが遠い目をする。
「お前が駄々をこねたやつな」
「へー……リーシャ様も駄々をこねるんですね」
マリアが意外そうな顔をする。
「浮気する気でしょって詰められただけだな」
「そっちですか……」
当時10歳やそこらの俺にそんな概念はなかったわ。
「帰った後に追求したのだけど、しらばっくれてたわね。でも、ウォルターに行けば、真相がわかるわ」
しらばっくれるというか、俺、図書館で魔術の本を読んでばっかりで特に友人もいなかったし……
「本当に何もなかったぞ。学校生活もほとんど覚えてないし」
「あっ……で、殿下! 殿下にはこのマリアがついています!」
マリアは何かを察したようだ。
「ありがとよ」
別に気にしていないから気を遣わないでいいのに。
むしろ、その気遣いが人間失格の烙印を押されているようで嫌だわ。
「何を話しているんだい?」
俺達が話をしていると、馬車を預けた婆さんが戻ってきた。
「別に。たいしたことじゃない。それより乗ろうぜ」
「そうだね。こっちだよ」
婆さんがそう言って、小さい船の方に歩いていったので俺達も続く。
「小さくてもいいけど、揺れないのにしろよ」
マリアが落ちるだろ。
「この川は穏やかだから安心しな」
婆さんがそう言うと、マリアがホッと胸を撫で下ろした。
「向こう岸にはどのくらいで着くんだ?」
「すぐだよ。ここにある船はすべて魔導船さ」
婆さんに言われて並んでいる船を見るが、帆には何も描いてない。
それどころか帆がない船すらある。
「魔法陣は?」
魔導船の特徴は帆に魔法陣が描かれていることだ。
「こっちの方の船は海洋船ではなくて、川仕様だから独自の技術を使っているんだよ。詳しくは聞くな。私も専門じゃないから知らない」
ふーん……
「そういえば、ウォルターにあるゴンドラも魔導船だったかもしれないな」
子供の頃だったし、当時は魔導船に興味はなかったが、よく考えると、そうだった気がする。
「あー、そうだね。あれもそうだよ」
やっぱりそうか。
「ゴンドラって何ですか?」
マリアが聞いてくる。
「ゴンドラは小舟のことだ。ウォルターの王都は水路が張り巡らされているんだけど、その水路を小舟を使って移動したり、荷物を運んだりするんだよ」
「へー……ウォルターの人は歩かずに移動できるんですね」
「いや、現地の人はほとんど乗らないはずだ。荷物の運搬以外は観光用だったな」
俺も乗ったことがある。
水路から見る街並みは普段と変わって見えて、感動した。
「乗ってみたいですー」
「いいぞ。着いたら乗ってみよう」
「やったー」
マリアはかわいいわ。
やっぱりカトリナ……じゃないシルヴィよりかわいい。
「ほれ、着いたよ。あの船だ」
婆さんがとある船を指差す。
その船は帆もなく、数人しか乗れそうにない小船だ。
「ケチったなー」
「頼むからそういうことを船乗りに言わないでおくれよ。船乗りっていうのはどこの国でも気性が荒いんだ」
やっぱりそこは世界共通なんだな。
「わかった。川の真ん中で落とされたくない」
「そうしな。私は泳げないんだ」
奇遇だ。
「俺も」
「私も」
「私もですー」
「あんたら、よく漂流して生き残れたね……」
実際、漂流して嵐が来てたら全滅だったな。
助けてくれた叔母上と絶対に選択肢を間違える嫁に感謝だわ。
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