第220話 特技
俺達がウォルターの王都を出て、3日が経った。
教国は王都の北門を出て、川沿いをずっと北に進めばいいらしく、俺達は川を眺めながら進んでいた。
「旦那様、もうすぐで国境に着きますが、いかがしましょう?」
シルヴィが聞いてくる。
「ウォルターの関所か?」
「はい。教国は国ではない関係で関所を設置できません。ですので、ウォルターのみです」
「ならばヒラリーが通達しているから問題ない」
何も言っていないが、あいつは優秀さからやってくれるだろう。
「かしこまりました。では、このまま進みます」
「それよりもシルヴィ。俺達は教国で変装とかいるか?」
「それは問題ありません。教国は旦那様がウォルターにいることは知っているでしょうが、旦那様の顔は知らないです。まあ、問題があるとしたら奥様でしょうね。もちろん、リーシャ様です」
リーシャは目立つからなー……
「リーシャ、外套を羽織って、フードな」
「まあ、いいでしょう。美しさが罪なことは初めて鏡を見た時から知っているわ」
その美しさの十分の一でいいから内面にも美しさが欲しかったわ。
「なあ、シルヴィ、マリアは? マリアは教国に行くはずだったんだが……」
俺は絶世な下水を放っておき、気になっていたことを聞く。
「それなんですが、来ないなーって感じで終わってます。実を言うと、修行に来ると言っていたのにやはり行きたくないから行かないっていうのは多いんです」
「悪い噂が広まっているからだろ」
「やりすぎなんですよね…………教国の上層部は神に仕える自分達は偉いって本気で思っています。だからせっかくわざわざ他国から来てくれた者をぞんざいに扱います。ひどいもんです」
あっ……母上に聞いたあの噂はマジっぽい……
「身体を要求するとか、ヒール地獄ってマジなん?」
「本当ですよ。何人かは亡くなっていると思います」
「人を救う話はどうした?」
「救うための自己犠牲は素晴らしいでしょう」
いや、自分が犠牲になれよ。
なんで他国の者を犠牲にするんだよ。
「ほらマリア、お前の選択は間違っていなかった」
「殿下ー」
マリアが抱きついてきた。
リーシャもそんなマリアの背中を撫でる。
「教国が腐ってるのはわかった」
「まあ、そんなもんですよ。それにこれは氷山の一角です」
「他にもあるのか?」
「ええ。ですが、その先はご自分で確かめてください…………旦那様、関所が見えて参りましたよ」
シルヴィが言うように前方に関所が見えてきている。
「シルヴィ、ヒラリーの名前を出せ」
「かしこまりました」
俺達は後のことをシルヴィに任せると、馬車に引っ込んだ。
「媚び女に任せて大丈夫?」
「奥様、ひどーい」
リーシャが聞いてくると、荷台のシルヴィが笑いながら文句を言ってくる。
「大丈夫だろ。それよりも関所を通ったら教国の町はすぐだ。リーシャ、絶対にマリアから目を離すなよ」
「心配性ねー。わかっているわよ。敵が来てもバッサリしてあげるわ」
うーん、こいつも心配だ。
マリアと同様に目を離さないようにしよう。
俺は極端な2人だなーと思いながら馬車の中で待つことにした。
しばらくすると、馬車が止まる。
「失礼。出国ですかな?」
兵士らしき男の声が聞こえてきた。
「そうですー。ご苦労様でーす」
妙に甘いシルヴィの声が聞こえてくる。
「あの媚び女、絶対に足を隠していた毛布を取っているわよ」
「私もそう思います」
俺もそう思う。
「ふむ。ちなみにだが、どこかの侍女か?」
「そうです。ヒラリー様にお仕えしています。この度、ヒラリー様の命で教国に行くことになりました」
「ということは、君がシルヴィアか?」
「はーい」
しかし、イラつくしゃべり方だな……
カトリナってこんなんじゃないだろ。
まあ、本物を知らんけど。
「そうか……頑張ってくれ。通っていいぞ」
「ありがとうございます。ではではー」
馬車が動き出した。
そして、しばらく経ち、関所からある程度離れたら馬車の前方に行き、顔を出す。
「あのしゃべりはなんだ?」
「テーマはバカ女です。兵隊さん達も呆れてたし、大丈夫かこいつって顔をしてました」
そりゃそうだろうよ。
「カトリナがそうなのか?」
「いえいえ。カトリナさんはプロの商売女ですから。あんなヘタクソではありません」
いや、商売女という表現はやめてやれ。
それだと別の意味になる。
「なんであんなことをしたんだ?」
「ああすれば、ただのバカだと思って、馬車の中を見られないんです。ヒラリー様の名を出していますし、あんなバカ女は関わりたくないでしょ」
まあ、出国だし、そんなもんかね?
「別に見られてもいいんだけどな」
「ダメですよ。兵士にも異動があります。もし、さっきの兵士が城勤務になったらどうするんですか。教国に行っていたことがリネット様にバレますよ」
あ、俺らのことを考えてのバカ女だったのか……
「ふーん、それにしてもお前、なんでもできるんだなー」
「誰かに化けるのは得意なんですよ。さっきのはエイミルにある酒場の看板娘のルビーちゃんですね」
誰だよ、そいつ……
「じゃあ、俺とかにも化けられるのか?」
影武者になれるかも。
「うーん。姿を変えると旦那様がメイド服を着た変態王子になっちゃうんで声だけで…………あー、あー。『お前は顔だけは100点だなー』」
シルヴィが声色を変えたが、似ていない気がする。
「似てなくね?」
そんな低くない。
「そっくりでしたよ」
「目をつぶったら完全にロイドだったわ」
マリアとリーシャが感心したように頷く。
「えー、そうかー?」
「あー、旦那様。声って自分が聞くと変に聞こえるもんなんです。では…………『美しさが罪なことは初めて鏡を見た時から知っているわ……ふっ』」
おー! すごい!
リーシャだ!
「似てるなー!」
「すごいです!」
「え? バカにされてない? 『ふっ』って言ってないし」
いや、そっくりだった。
「マリアもやってみろ」
「そういう見世物ではないんですけど……うーん、マリア様は涙を出さないといけないから難しいんですよね」
「なんで泣いてる前提っ!?」
いや、俺もお前のマネをするならそこをチョイスする。
――――――――――――
今週は土曜日も投稿します。
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