第133話 わかりやすい


 その後も平和な旅を続け、特に何もせずに一日を終えた。

 翌日、この日も特に何も起きなかったが、徐々に人や馬車を見かけるようになってきていた。


「ほれ、あそこだよ」


 婆さんがそう言ってきたため、俺達は馬車から前方を覗く。

 すると、町を取り囲んでいるであろう城壁が見えていた。


「あれが王都かー」

「長かったわね」

「でも、平和で良かったです」


 俺達はようやく見えてきた王都に喜び、今か今かと待ち続ける。

 そして、ついに王都の前までやってくると、馬車が門の前で止まった。

 俺達は馬車から降りると、婆さんのもとに行く。


「商人か?」


 門番をしている兵士が荷台に座ったままの婆さんに聞く。


「ああ。ほれ、許可書」


 婆さんは何かの紙を兵士に見せた。


「確かに……この3人は護衛の冒険者か?」


 兵士が俺達を見る。


「そうだよ。これが依頼書」


 婆さんが今度は違う紙を取り出して、兵士に見せた。


「ふむふむ……よし。通ってくれ」


 兵士の許可を得られた婆さんはゆっくりと馬車を動かし、町に入る。

 俺達がそのまま歩いて着いていき、町には入ると、馬車が止まった。


「依頼はこれで終わりだよ。ありがとね」


 婆さんが礼を言ってくる。


「本当に何もしてないような……」

「タダ乗りね」


 マリアのヒールくらいかね?


「話し相手になってくれただけで十分さ。ほれ、これをギルドに持っていきな。それで料金を受け取れる」


 婆さんが紙を渡してきてくれたので受け取った。


「盗賊もモンスターも出なかったからボーナスはなしか」

「何もないことが一番だよ。一応、評価はAランクにしてやったからそれで満足しな」

「ランクって?」

「あんたら、冒険者だろ……いや、こういう仕事をしたことがないんだね。今回みたいな仕事では依頼人が評価をつけることになっているんだよ。依頼人がよくやったなと思えば、高評価だし、こいつはダメだって思えば、低評価さ。まあ、それで料金が変わるわけではないけど、あんたらの冒険者ランクが上がったりするね」


 その中でAランクということは婆さん的には高評価だったらしい。


「何もしてないのに高評価で悪いなー」

「いいよ。世間知らずな貴族様に教えてやるが、エルフは優秀なんだ。だが、優秀がゆえに傲慢だから嫌われていることが多い。もしくは、美形だからって狙われたりね。そんなことを経験していれば、普通に接してもらえただけで高評価だよ」


 テールでの獣人族みたいに下に見られているっていうわけではなさそうだが、種族間の軋轢はあるんだな。


「ウチのリーシャがババア呼ばわりしてたけど?」

「ババアと呼んだのはあんただよ…………」


 俺がババアと呼んだのはお前が正直になる魔法なんかを…………いや、忘れよう。


「気のせいだ。まあ、Aランクもくれてありがとな」

「あんたらはすぐに出ると思うから評価はあまりいらないかもだけどね」


 そうだね。

 すぐに出るね。


「帰りはどうするんだ?」


 一応、聞いてみる。


「適当にやるよ。ほれ、さっさと行きな。ギルドはそこだよ」


 婆さんが指差した先には剣が交差するギルドの看板があった。


「ん。じゃあな。魚の塩漬け、ごちそうさん」

「こっちこそ鳥肉をありがとうよ」


 婆さんも礼を言う。


「またな」

「ああ。またね」


 婆さんはそう言って、馬車を走らせ、町中を進んでいった。


「さて、ギルドに行って依頼報告をしよう」

「そうね」

「変なのがいませんように」


 俺はマリアの祈りを聞いて、マリアをそばに寄せる。

 そして、ギルドに向かった。


 ギルドに着くと、さすがに王都だけあってにぎわっていた。

 俺達はそんな中を進んでいき、例によって一番年配っぽいおっさんのところに向かう。


「こんにちは。見かけない顔ですけど、依頼か何かです?」


 俺達が受付の前に立つと、おっさんが聞いてくる。


「護衛の仕事を終えた報告だ」


 俺はそう言って、婆さんから受け取った紙を提出した。


「少々お待ちを…………確かに。これで依頼達成でございます。料金を支払いますので冒険者カードをお願いします」


 俺達はそう言われたので冒険者カードを受付に置く。

 すると、おっさんは俺達の冒険者カードを手に取り、確認し始めた。


「…………はい、確かに。では、依頼料が金貨5枚となります」


 おっさんが受付に金貨を置いたのでそれを取ると、カバンにしまう。


「それとこれがレイルの町のギルマスからの紹介状」


 俺はカバンからバルバラからもらった封筒を手渡す。


「ほうほう」


 おっさんはその封筒を受け取ると、躊躇せずに封を切り、読みだした。

 これでこいつがここのギルマスなことが確定したことになる。

 だって、他所のギルマスからの手紙を勝手に読むわけないもん。


「ちなみに、世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族っていうのは嘘だからな」

「承知いたしました」


 本当に書いてあったらしい。


 おっさんはその後も紹介状を読み続ける。


「何て書いてあった?」

「はい、とりあえずは宿屋を紹介するように書いてありますね」

「それそれ。良いとこを頼むわ」

「ふむ……でしたら一泊だけですが、ギルドが借りている宿屋はどうでしょう?」


 ん?


「それ、高ランクが無料で泊まれるやつ?」

「そうですね。御三方が満足するかはわかりませんが、従業員の質だけは保証します」


 あー……


「まあ、それでいいわ」

「では、ギルドを出て、大通りをまっすぐ進んでもらい、左に見える王冠の看板がある宿屋になります」

「わかった。お前、名前は?」


 俺は今さらながら名前を聞く。


「私はアヒムです。このギルドの代表でございます」


 バカめ。

 名乗ったことを後悔させてやるわ。


「そうか。よろしく頼む」


 俺はそう言うと、リーシャとマリアを連れて、ギルドをあとにした。


 よし! アヒムのツケで高いワインを飲みまくってやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る