第060話 嫌だわー
俺は受付まで戻り、そこでしばらく待っていると、ブルーノと俺が買った奴隷がやってきた。
奴隷は貫頭衣一枚で裸足だが、一応、きれいにはなっている。
だが、首は首輪がついており、首輪についた鎖をブルーノが持っていた。
どう見ても、犬の散歩だ。
「鎖はいるのか?」
俺はそんなのを持って歩きたくないんだが……
「お客様は初めての様ですのでそのあたりをご説明します。まずですが、この首輪が奴隷の首輪です。主人であるお客様に逆らえば首が締まるようにできております。また、お客様に害をなそうとしても同様です」
「魔道具か?」
「左様です。実を言いますと、この魔道具が金貨10枚します」
まあ、そのくらいはするだろう。
「いらんから安くしろ」
「それはこの国の法律で無理なのです。お客様は魔術師様に見えますので他に手段があるのでしょうが、首輪なしの奴隷の所持は禁じられています」
「法律なら仕方がないか……」
たいした魔道具には見えんがねー。
「あとはこの鎖です。町中では鎖を繋ぐことが義務付けられています。家の中や町の外なら好きにしてもらって構いませんが、町中は必須です」
「他の人を襲うからか?」
「ですね。あとは住民の安心感です。こんな獣が町中を鎖なしで歩いていると怖がる者がいるんです」
「人の奴隷を獣呼ばわりか?」
「そういうクレームが多いんですよ…………ハァ」
ブルーノは辟易しているようだ。
「めんどくさそうだな?」
「実際そうですよ。私は責任を持って、良い商品を提供していますからね」
さすがは商人。
こいつには獣人族への差別意識はない。
ただ、何であろうと誰であろうと、商品は売るだけだ。
「まあ、わかった」
「はい。では、これを」
ブルーノはそう言って、鎖を渡してくる。
俺は嫌々ながらも鎖を手に取り、奴隷を見た。
うわー、可哀想……
そして、俺は鬼畜に見えているだろうな。
「うーん、気分は良くないなー」
「慣れですよ。それにお客様は旅の御方でしょう? この国を出られれば好きにして結構ですよ」
本当に嫌な国だな、ここ。
「わかった。世話になったな」
「またのご来店をお待ちしております」
俺は二度と来るかと思いながら奴隷を連れて、店を出た。
そして、鎖を持ちながら宿屋に向かって歩いていく。
「お前、名は?」
「……………………」
俺は奴隷に名前を尋ねるが、奴隷は何も答えない。
奴隷云々を差し引いても王族である俺に名を名乗らないのは非常に不敬だ。
「ご主人様の言うことを聞けよ。首が締まるぞ」
「…………私に名前はないのでお答えできません。ご主人様が好きに呼んでください」
教育が行き届いてるねー。
「じゃあ、ララな」
「…………え?」
俯いていたララが驚いたように顔を上げた。
この反応からこいつがティーナの妹であるララということがわかる。
「うーん、無駄金にならんかったな」
まあ、あいつらの金だけどな。
「あ、あの、どうしてその名を?」
「めんどいから偶然ということにしておけ。説明は後でしてやる。俺はさっさと宿屋に戻りたい」
「宿屋…………はい」
ララがしゅんとする。
何を想像したんだろうね?
いやー、こんなガキは無理だわー。
「ついてこい」
俺は鎖に繋がれた小さい子を引っ張りながら歩くというとてもエーデルタルトの人には見せられない姿を晒しながら宿屋まで歩いていく。
そして、そのまま道を歩いていくと、クジラ亭の前までやってきた。
「ララ、あの看板は何に見える?」
「……看板ですか? えーっと、イルカ」
やっぱりイルカに見えるか……
「あれはクジラだそうだ」
「そうですか…………え?」
ララが驚いたように看板を二度見する。
「さて、知り合いに見られたくない姿を晒すか……」
俺は宿屋の扉を開き、ララを連れて、宿屋に入る。
宿屋の受付には相変わらず暇そうなニコラが頬杖をつきながら座っていた。
「暇そうだな」
俺が声をかけると、ニコラは目線を俺に向け、固まった。
そして、ゆっくりと俺の後ろにいるララを見る。
「…………お客さん、マジ? あんなクソ美人の奥さんがいるのに奴隷を買ったの?」
クソ言うな。
「まあな」
「お客さん、昨日、俺は奴隷なんかいらんって偉そうに言ってなかった?」
「…………まあな」
実際、いらないし…………
「夫婦喧嘩はやめてくださいね。ウチの宿屋で刀傷沙汰は勘弁です」
「上の2人にはあらかじめ説明してあるからそういうことにはならん」
「こんな旦那は嫌だなー……」
俺もそう思う。
「とにかく、1人増えるから飯を追加な」
「わかりました。その子の食事はどれくらいのものにします? 一応、奴隷用とかもありますけど」
「俺達と一緒でいい」
何でもいいわ。
「結構なお値段がしますけど……」
「ルシルにツケとけ」
「了解です」
俺は料金をルシルに全部払わせることにし、階段を上がる。
そして、部屋の前まで来ると、扉をノックした。
「俺だ。買ってきたぞ」
「どうぞ」
俺は入室の許可を得たので扉を開けようとすると、扉が勝手に開く。
「おかえりなさい、殿下」
どうやらマリアが扉を開けてくれたようだ。
「ただいま、マリア…………マリア、俺がどう見える?」
幼い少女を鎖で繋いでいる王子様。
「鬼畜にしか見えません。早く入ってください。人に見せていいお姿ではありません」
マリアは俺の裾を握ると、部屋に引っ張り込む。
俺はララを連れて部屋に入ると、ようやく鎖から手を離した。
「あー、マジで勘弁だわ」
ホント、罰ゲーム。
「お疲れ様。紅茶はいかが?」
絶世のリーシャはテーブルに座り、優雅に紅茶を飲んでいた。
俺も待機の役目が良かったなー……
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