第187話 悲しいね
俺達は無事に関所を抜け、街道を進んでいる。
「いやー、殿下は腐った貴族のバカ息子の演技が上手いなー」
「皆、あんなもんだぞ」
兵士の分際で貴族を止めるとは何事だ……って感じ。
「知ってる。半分嫌味で言った」
「エーデルタルトに行ったことがあるんだっけ?」
前にそう言ってた。
「そうそう。大変だったわー。しかも、あそこはAランク冒険者って名乗れないからな」
「名乗れよ。さすがに歓迎されるぞ」
「されるだろうなー。そして、仕官を強要される。断るのにものすごい苦労する」
うーん、ありえる。
「前に仕えろって言ったけど、別に断ってもいいぞ」
「いや、別にそれはいい」
ならいいや。
「しかし、これでエーデルタルトの評判がまた下がったな」
「だろうな。嫁の顔を見ようとするだけで殺そうとするって何だ? イカレすぎだろ」
「言っておくが、そんな風習はエーデルタルトにもないからな」
あるわけがない。
どうやって顔を見せずに生きていくというのだ。
「あの兵士は普通に信じてたぜ。俺もちょっと信じたし」
「アホか。既婚者なんか町を歩けば普通におるわ。というか、王妃だって国民の前に顔を晒すぞ」
「いやー、よく考えればそうなんだけど、お前さん達はわからん」
まあ、そう思っているだろうからああ言ったのだ。
遠いミレーはエーデルタルトのことを噂程度にしか知らんだろうし。
「リーシャとマリアの顔を見たお前を斬りはせんから安心しろ」
「安心したわ」
ジャックの声色から察するにマジで半分くらいは信じていそうだ。
「しかし、あの兵士は粘ったなー」
「それだけミレーとウォルターの仲が悪いってことだろ。もしくは、何かを掴んでるかもな」
伯父上の容態が悪いことを察知したか…………いや、ウォルター入国時のあの厳重なチェックのせいだな。
「ヒラリーのせいだな」
「なあ、聞いてなかったんだが、なんでケアラルの花が必要なんだ?」
今さらだなー……
「お前のことだから知ってるかと思った」
「いや、何かあるのはわかってたし、探ろうとも思ったんだが、そんな危ないことをしなくてもどうせ聞けると思ったから何もしてない」
俺の口から聞けばいいもんな。
「伯父上……ウォルターの国王な? その王様が病に倒れた」
「病ねー……ミレーか? 教国か?」
ウォルターに何かをするならそのどっちかだ。
「そこはまだわからんらしいが、ラウラの診断では呪いだそうだ」
「なるほど……治すのに必要なのがケアラルの花か?」
「そういうこと。それを持って帰れば、ラウラが治療薬を作ってくれる」
ラウラがいてくれて良かったわ。
「ふむふむ……まあ、だいたいわかったわ。あと2、3日で着く。なるべく急ぐが、慌てるなよ。慌てるとロクなことがない」
「わかってるよ。まずはスミスとかいう町で情報収集だろ?」
「そうだ。エルフはデリケートだからな。ラウラを見てるとそうは思わんだろうが……」
いやー、あいつって、結構デリケートだろ。
すぐ泣くっぽいし。
◆◇◆
俺達はミレーの領地に入ると、その後も馬車で進み続ける。
ミレーに入ると、盗賊には出くわさなかったが、モンスターには何度か出くわした。
だが、モンスターはジャックがすぐに排除するか、リーシャは突っ込んでいき、すぐに一刀両断したため、特別危険なことはなかった。
そして、2日が経ち、目の前には町が見えていた。
「あれがスミスの町か?」
俺は馬車の前に顔を出しながら荷台にいるジャックに聞く。
「そうだ。自由都市スミスだな」
「自由都市? 治安が悪そうだな……」
「殿下ぁー……」
同じく顔を出していたマリアが不安そうに俺の服を掴んだ。
マリアの荒くれ者恐怖症は治っていないのだ。
「俺のそばから絶対に離れるなよ」
「はい……」
マリアは絶対に俺の後ろを歩かせないようにしなければならない。
「そこまで治安が悪いっていうわけじゃないぞ。まあ、良くもないがな。お前さん達が通ってきたエイミル、ジャス、アダムが平和すぎるだけだ」
まあ、そこらへんは温厚で平和な国だもんな。
退屈に感じるくらいだった。
「テールのアムールと比べるとどうだ?」
「アムールよりはいいぞ。港町っていうのは色んな所から人が集まるから特別治安が悪いんだ。でも、世界的に見ればあそこもそこまで悪くはないんだぜ?」
「そうなのか? 冒険者に絡まれたし、ウチのマリアは攫われたぞ」
クソみたいな町だった。
「それでもギルドや領主がちゃんとしている町だからな。お前さん達のエーデルタルトもそうだが、上がしっかりしている町は治安はそこまで悪くならない。でも、世界には色んな国がある。商人が力を持ってたり、軍部が実権を握ってたり色々だな。中にはマフィアの傀儡国家もあるんだぜ?」
絶対に行かないな。
「クソだな、クソ」
「まあ、お前さん達の国は別の意味で大概だけどな。前に見に行った時は賄賂と横領まみれで笑ったわ」
うーん、そこは否定できない。
温厚で聖女を自称するマリアですら賄賂まみれだし。
「そこは見なかったことにしろ」
「忠告してやるが、強力な兵を持ち、世界最高の陸軍、海軍を持つ強国のくせにでかいだけのテールといつまでも泥仕合をしている原因の一つがそれだぞ」
「うっさい。大国には大国の悩みやしがらみがあるんだよ」
「嫌われているもんな。あんな強国なのにウォルターしか同盟国がないってすごいわ」
笑うな!
事実だけども!
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