第188話 スミスの町


 俺達の乗った馬車はスミスの町に近づく。

 すると、町の門の前に兵士がいたのでまたかーっと思った。

 だが、門に近づいてもジャックは馬車を止めない。

 それどころか兵士も何もせずに突っ立っているだけだ。

 そして、馬車は止まらずに門をくぐり、町に入った。


「何もないの?」


 俺は話すらしないことに疑問を持ったため、ジャックに聞く。


「自由だろ?」


 いや、そうだけど……

 自由都市ってそういう意味か?


「自由すぎんか? この町の領主は何をしているんだ?」

「ここは鍛冶と商業の町なんだよ。こうやって流通を良くしている」

「まあ、他所の国のことだからどうでもいいけど、大丈夫か、それ?」

「代わりに昼間だろうが、兵士が町を巡回しているから大丈夫だよ。逆を言うと、揉め事を起こすなよ?」


 起こさんわ。


「ジャックさん、商業の町はわかりますけど、鍛冶って何ですか?」


 マリアがジャックに聞く。


「ここは近くの山が鉱山でな。そこから良い鉱石が採れるんで鍛冶屋が多いんだ。武器や防具も豊富に売ってるぞ」


 へー……


「リーシャ、剣を買ってやろうか?」


 金ならヒラリーにもらった金貨1000枚がある。


「自分の剣を気に入ってるからいいわ」


 あっ……

 もはや自分のって言ってる……

 俺の剣なのに……


「その剣は無骨でお前には似合わんぞ? もっと装飾品とかを付けた煌びやかな方が良いと思うんだ」

「剣にそんなものは不要でしょ。どうせ血で汚れるんだから」


 いや、その通りなんだけど、セリフが戦士なんだよなー……


「でも、お前に合った剣が良いと思うぞ」


 訳:返せ。


「この剣がいいわ。軽いし、切れ味も良い。それにようやく血が滲んでいい感じになってきたし」


 王家の剣を魔剣にしようとしてる……

 ダメだこりゃ。

 王家の剣は下水に捨てたことにしよう。


「フライパンでも買おうかなー……」


 料理人になろうかな?


「いらねーだろ。現実逃避すんな。さっさと情報収集をするぞ」


 だよね。


「どこ行くんだ? ギルドか?」

「そうだなー……じゃあ、お前さん達はギルドに行け。俺は酒場とかで探ってみる」


 二手に分かれる感じか……

 治安の悪い町の酒場なんかにマリアを連れていきたくないし、効率を考えればそれが良いだろうな。


「わかった。じゃあ、俺達はギルドに行ってくるわ」

「頼むわ。ついでにエルフの森での仕事があれば受けてくれ。そうすれば、情報をすんなり得られるし、金も儲かる」

「りょーかい」


 俺達は了承をすると、馬車から降りる。

 すると、リーシャはフードを被り、マリアは俺に身を寄せてきた。


「ギルドはそこの通りをまっすぐ行ったところだ。この時間は冒険者も少ないと思う」

「どこで集合する?」


 そこまで広い町というわけではないが、待ち合わせ場所を決めてないと迷いそうだ。


「ギルドでこの町一番の宿屋を聞け。お前さん達はどうせそこに泊まるわけだしな。俺の方は時間がかかると思うから先に休んでくれ」


 なるほどね。


「じゃあ、それでいこう。そっちは任せるわ」

「あいよ」


 ジャックは頷くと、馬車を走らせ、大通りを進んでいった。


「行くか」

「そうね」

「あっちでしたね」


 俺達はジャックに言われた道を歩いていく。

 道を歩くと、普通の町人に交じってガラの悪そうな男もいるが、槍を持った兵士も普通に歩いており、そこまで危険を感じることはなかった。

 だが、それでもマリアは怖いらしく、俺の袖を掴んで歩いている。

 もちろん、リーシャは堂々としていた。


 俺達がそのまま進んでいくと、突き当たりに剣が交差する看板が見えてくる。

 俺は本当にどこも一緒だなーと思いながらギルドに入った。


 ギルド内はそこまで広くなく、冒険者の姿もない。

 ただ受付には髪の毛が1本もないスキンヘッドの男が一人で座っているだけだった。


 俺達は選択肢がないのでそのハゲの受付に向かう。


「ここはお前だけしかおらんのか?」


 俺はハゲに聞いてみた。


「見りゃわかんだろ。お前らは見たことがねーな。外のモンか?」


 ガラの悪いハゲだな……

 髪の毛と一緒に客に対応する丁寧さを失ったらしい。


「旅をしている冒険者だ。ここはあまり仕事がないのか?」

「冒険者? 貴族様だろ」


 すぐに見破られた……


「ほれ、冒険者だ」


 俺はそう言いながら冒険者カードを受付に置く。

 すると、ハゲがカードを手に取り、まじまじと見始めた。

 そして、受付の下から分厚い本を取り出し、カードと見比べる。


「ふーん、Dランクねー……まあいいか。仕事だったな? どういうのがいいんだ? ピンからキリまであるぜ」

「キリは?」

「水路掃除か鍛冶屋の手伝い」


 水路掃除はどこでもあるなー……


「水路掃除がキリなのはわかるが、鍛冶屋の手伝いもか?」

「安い給料なのに暑い現場でこき使わるからな。しかも、職人は頑固でうるさい」


 キリですわ。


「ピンは?」

「うーん、領主の息子の家庭教師とあるぞ。お前ならできるだろ」


 まあ、その辺のごろつきよりかは教養があるからな。

 でも今は仕事をしに来たわけではない。


「エルフの森に行きたいんだが、そっち関係の仕事はないか?」

「エルフの森? 観光か? あいつら、気性が荒いから危ないぞ」

「せっかく来たし、エルフとか見たことないから見てみたい」

「ふむ……Dランクならぎりぎりか……? 一応聞くが、お前、奴隷狩りじゃないだろうな?」


 奴隷狩りか……

 獣人族を捕まえてたやつだな。


「そんなわけないだろう。女連れだぞ」

「いや、そこはあまり関係ない。あいつら、商売だし」


 まあ、商売に近いか……


「そうなのか……今はいないが、Aランクのジャックと一緒に来ている。俺達を信用しなくても良いが、Aランクは信用しな」

「ん? ジャックが来てんのか?」

「そうそう。パーティーを組んでいるわけではないが、連れてきてもらった」

「なるほどねー……Aランクの護衛で物見遊山ってとこか?」


 そう思うだろうなー……

 俺も逆の立場ならそう思うし。

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